The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Clinical investigation of cases using high flow therapy for acute exacerbation of idiopathic pulmonary fibrosis at our hospital
Hirohisa IchikawaKouichi YamamotoJun IshikawaHiroaki KataokaShinjirou MiyazakiEmiko HiroseYumika MatsudaYukako ArakawaYoshihiro Mori
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2020 Volume 28 Issue 3 Pages 401-405

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要旨

【はじめに】特発性肺線維症急性増悪(AE-IPF)を来した患者に対しハイフローセラピー(HFT)は臨床現場で広く使用されるようになったが,その有用性についての知見に乏しい.

【方法】2013年4月から2017年3月までに当院にAE-IPFのため入院しHFTを導入した患者30例について後ろ向きに検討した.

【結果】平均年齢は78歳.男性22例,女性8例.21例(70%)が死亡し,死因は全例呼吸不全死であった.生存例と死亡例について比較検討したが,平均年齢(74.3才,78.9才),HFT導入時PaO2/FiO2比(144,105),入院時KL-6値(2,234,1,952)U/mLでは有意差を認めなかった.死亡例では,15例がHFTから非侵襲的陽圧人工呼吸(NPPV)へ移行後に死亡し,5例がNPPV不耐のためHFTのまま最期を迎え,1例は挿管人工呼吸器管理(IPPV)からHFTに移行後に再挿管となりIPPV下で死亡した.

【結論】本病態においてHFTで酸素化が維持できず人工呼吸器管理となった16例全例が死亡した.HFTからNPPVやIPPVへの移行には慎重に適応を考慮する必要があると考えられた.

緒言

特発性肺線維症(IPF)は慢性かつ進行性の経過をたどり,高度の線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺形成をきたす原因不明で予後不良な肺疾患である1.IPFの急性増悪(AE-IPF)は,IPFの経過中に肺野に新たな浸潤影が出現し呼吸不全が急速に悪化する病態であり,以前から日本で提唱されてきたが2,3,欧米ではIPFの自然経過や肺炎合併と認識されていた.知見の集積と共に,欧米でも本病態への理解が進み,2002年のATS/ERSにおける間質性肺炎のInternational Multidisciplinary Consensus Classificationにおいて,“Acute Exacerbation”という用語が初めて明記され4,国際的にも確立した疾患概念として定着してきた5,6.従来の報告では,AE-IPFの予後は,死亡率が50~80%で3,7,改善例でも平均6か月で死亡するとされており3,極めて予後不良の病態と認識されている.

AE-IPFでの挿管人工呼吸器管理(Invasive positive pressure ventilation: IPPV)移行例の死亡率は90%以上と非常に高率で8,9,本病態への挿管人工呼吸器管理は一部の症例以外には推奨されず10,非侵襲的陽圧人工呼吸器管理(Non invasive positive presser ventilation: NPPV)の有効性が報告されていることから9,11,これまではNPPVを第一選択とする施設が多かった.

ハイフローセラピー(High flow therapy: HFT)は,加温・加湿した高濃度・高流量の酸素を投与可能な呼吸管理手段で,欧米では2000年代より医療現場で使用されてきた.HFTは,これまでの酸素療法にない利点を有しており12,2016年に保険収載されたことや,近年,急性I型呼吸不全へのHFTの有効性を示す大規模なオープンラベル無作為比較試験の結果13が示されたことが追い風となり,臨床現場での使用が急速に増えてきている.

しかし,AE-IPF症例に対するHFT使用に関しては,少数例についての症例報告しかなく14,15,その有用性について知見に乏しい状態であるため,当院において本病態へHFTを用いた症例について検討し報告する.

対象と方法

2013年4月から2017年3月までの4年間に,AE-IPFのため当院に入院し,酸素化の悪化のため通常の酸素療法からHFTを導入した24例とNPPV導入時にNPPVに耐えられずHFTに切り替えた5例,IPPVからのウイーニングでHFTを導入した1例の計30例についてレトロスペクティブに臨床的検討を行った.

AE-IPFの診断基準としては,2004年の谷口らによる「びまん性肺疾患調査研究班」報告書16を参考としたが,6例においては,牽引性気管支拡張を認めるものの,蜂巣肺を欠いていた.全例で血中BNP値の測定や心エコーを施行し,心不全の除外を行った.膠原病や血管炎,ニューモシスチス肺炎等の除外のため,入院時採血にて抗核抗体,リウマチ因子,抗CCP抗体,MPO/PR3-ANCA,IgG4,抗ARS抗体,β-Dグルカン等を検索し,これらが陽性となった症例は除外した.気管支肺胞洗浄施行例では,細菌学的検査を同時に施行し,ニューモシスティス肺炎などの感染症を否定した.

HFTは,Fisher & Paykel社のネーザルハイフローを使用し,混合ガス流量を40 L/分で固定,FiO2は60%で開始し,SpO2を90%以上に保つようFiO2を調節した.酸素化が悪化し,FiO2が80%以上となることが予想された時点で,患者や家族とNPPVを導入するかを相談し,希望例でNPPVを導入した.

生存群(9症例)と死亡群(21症例)について比較検討を行った.年齢やHFT導入時のPaO2/FiO2比(P/F比),入院時LDH値の検討についてはStudent-t検定を,男女比率,HFT導入前のO2投与量・SpO2,入院時KL-6値やCRP値についてはMann-Whitney検定を使用した.

本研究の対象患者の個人情報保護に十分留意した.また,本論文は,KKR高松病院倫理委員会において承認されている.

結果

解析対象は30例で,概要を表1に示す.男性22例,女性8例.年齢は54歳から89歳に分布し,平均年齢,年齢中央値は78歳.生存群9例では,男性8例,女性1例で,年齢は54歳から88歳に分布し,平均年齢は74歳,年齢中央値は76歳であった.死亡群21例では,男性14例,女性7例で,年齢は67歳から89歳に分布し,平均年齢は79歳,年齢中央値は81歳で,死因は全例呼吸不全死であった.年齢については,両群間で有意差は認められなかった(p=0.31).

表1 症例の概要
全症例 (n=30)
平均年齢 77.5歳(中央値 78歳:54~89歳)
男性 22例,女性 8例
生存例(n=9)死亡例(n=21)p値
年齢中央値(歳)76(54~88)81(67~89)0.31
男性比率(%)89670.34
HFT導入前O2 投与量(l)8(2~15)11(7~15)0.47
HFT導入前SpO2(%)87(80~97)88(80~93)0.49
HFT導入後P/F比144(101~208)105(61~182)0.06
HFT施行日数16(1~64)14(1~122)0.38
入院時KL-6(U/ml)2,234(437~4,790)1,952(234~6,280)0.8
入院時CRP(mg/dl)11.5(0.2~30)12.7(3.2~31.6)0.8
入院時LDH(U/ml)384(228~622)467(232~802)0.48

入院時のKL-6・LDH・CRP値は,生存群でそれぞれ平均2,234(437~5,040)U/mL,384(228~622)U/L,11.5(2.4~30)mg/dL,死亡群で平均1,952(234~6,280)U/mL,467(232~802)U/L,12.7(3.2~31.6)mg/dLであり,両群に有意差を認めなかった.

HFT導入直後のP/F比は,生存群で平均144(101~208),死亡群で平均105(61~182)と,有意ではないものの(p=0.06),死亡群で低い傾向にあった.

HFTの装着日数は生存群で平均16日(1~64日,中央値8日),死亡群では平均14日(1~122日,中央値5日)で,両群に有意差を認めなかった(p=0.38).死亡群のうち,IPPVの離脱目的でHFTを使用した1例はHFT導入8日後に再挿管となり,再挿管後13日で死亡した.HFT導入後に酸素化が悪化し,NPPVが導入された15例は全例がNPPV下で死亡していた.この15例におけるNPPV移行までの平均HFT装着日数は6日(1~25日,中央値3日)で,平均NPPV装着期間は8日(1~24日,中央値6日)であった.NPPV不耐でHFTのまま亡くなった5症例の平均HFT装着期間は39日(1~122日,中央値16日)であった.

治療では,全例にステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500~1,000 mg/日を3日間投与)が施行され,0.5~1 mg/kg/日のプレドニゾロンが引き続き投与された.ステロイドパルス療法の試行回数は,生存群では,5例が1コース投与され,3例は2コース,1例は3コース施行された.死亡群では,11例が1コース投与され,5例は2コース,4例は3コース,1例は4コース施行された.生存群の1例(11%),死亡群の10例(48%)にシクロフォスファミドパルス療法(IVCY)(500 mg/日)が行われ,死亡群の5例(24%)にポリミキシンB固定化線維カラムを用いた血液浄化療法(PMX-DHP療法)が施行された(図1).全症例で,治療開始時に抗菌薬が投与されていた.内訳は,βラクタム剤単剤が11例,ミノサイクリン単剤が2例,βラクタム剤+マクロライド系抗菌薬併用が12例,βラクタム剤+ミノサイクリン併用が3例であった.

図1

治療内容

mPSL:メチルプレドニゾロン,HFT:ハイフローセラピー,IPPV:挿管人工呼吸器管理

NPPV:非侵襲的陽圧人工呼吸器管理,IVCY:シクロフォスファミドパルス療法

PMX-DHP:ポリミキシンB固定化線維カラムを用いた直接血液潅流法

考察

本邦からの研究では,IPF患者におけるAE-IPFの発症率は,1年間で8.6%,3年間で23.9%と報告された17.AE-IPFを経験した症例の生命予後は,来さなかった症例に比べ有意に悪いことが示されており18,また,我が国のIPF患者の死因の40%を占め,死亡原因の第一位となっている19

AE-IPFでのIPPV移行例の死亡率は,90%以上と非常に高率であることが報告されており8,9,11,本病態へのIPPVは非常に限られた症例に対してのみ適応となる10.Yokoyamaら9は,AE-IPFにNPPVを導入した11症例について,3か月後の生存率が46%であることや,IPPVに移行した4例が全例死亡したことを報告した.また,Tomiiら11は,AE-IPFに対し,第一選択として導入する人工呼吸器をNPPVとした時期の前後でAE-IPF患者の60日後生存率を比較検討し,IPPV期は0%(5例中0例)であるのに対し,NPPV期では44%(9例中4例)と有意に良好であることを示した.このように本病態においてIPPV移行例の予後が非常に不良で,NPPVの有効性が報告されていることから,通常の酸素療法で酸素化が維持できない症例に対して,従来はNPPVがまず選択されることが多かった.

HFTは,欧米では2000年代より医療現場に導入されてきた呼吸管理手段で,通常の酸素療法に比べ様々な利点を有している.その主な効果として,①高濃度で正確なFiO2設定,②解剖学的死腔のウオッシュアウト,③上気道抵抗の軽減,④PEEP効果と肺胞リクルートメント,⑤気道の粘液線毛クリアランスの維持などがある12.ICUに収容された急性呼吸不全患者を対象とした前向きクロスオーバー無作為比較試験20において,HFTはフェイスマスクによる酸素療法に比べ酸素化を改善し,吸気努力や呼吸仕事量を減少させ,肺容量や肺コンプライアンスを改善することが示された.本邦における臨床的アウトカムについて,急性I型呼吸不全症例に対する酸素療法としてHFT導入前後のhistorical controlを用いた比較研究21により,HFT導入後に死亡率の減少を認めなかったが,人工呼吸器使用率が有意に減少したことが示された.最近,主に市中肺炎やARDSによる急性I型呼吸不全に対する呼吸管理について大規模なオープンラベル無作為比較試験(FLORALI試験)の結果13が報告された.この研究では,フェイスマスクによる酸素投与群とNPPV群,HFT群の3群について比較検討がなされ,主要評価項目である28日時点での気管挿管率に有意差はなかったが,副次的評価項目である28日時点の人工呼吸器非装着日数や90日後の生存率について,HFT群が他の2群より有意に良好な成績であることが示された.しかしNPPV群において,忍容性の悪いICU型ベンチレーターを使用しNPPV専用機を用いていない,Pressure support ventilation(PSV)を用いるなど急性I型呼吸不全に対して必ずしも適切とは言えない呼吸管理が行われており,その結果の解釈には慎重であるべきと思われる.慢性呼吸器疾患の無い急性I型呼吸不全に対するNPPVとHFTの優劣を検証するため,現在,我が国において多施設共同のJa-NP-Hi試験が進行中である(UMIN000028827).

HFTの有用性を示すデータが徐々に蓄積され,2016年に保険収載されたこともあり,最近,臨床現場でのHFTの使用が増えてきている.昨年発表された、本邦におけるHFTの使用実態調査22では,急性呼吸不全での使用が65.4%と最も多く,その中でも,間質性肺炎に対する使用が19.3%で最多であった.間質性肺炎症例に対するHFT使用に関しては,アミオダロンの関与が疑われた肺線維症患者への使用についての報告14や,間質性肺炎急性増悪の患者3例にHFTを用い,酸素マスクに比べ酸素化が改善し3週間以上の長期使用が可能であったという報告15がある.これらは少数例についての症例報告であり,その有用性についての知見は乏しいと言わざるを得ない.

我々は今回,30例と比較的まとまった症例数について報告する機会を得た.全例に抗菌薬投与とステロイドパルス療法を施行し,11例(37%)にIVCYを,5例(17%)にPMX-DHPを使用したが,死亡率は70%と従来の報告6,7と同等であった.本研究からは,有効な治療が確立されていないAE-IPFに対し,呼吸不全が悪化してHFTから人工呼吸器管理に切り替えたとしても,その予後は不良であることが示唆された.本病態において,様々な治療に反応せず進行性に低酸素血症が増悪する経過が予後不良因子と言えるかもしれない.諸治療を施行してもHFTにて低酸素血症が管理困難となった場合,超高齢者や認知症患者,人工呼吸管理に耐えられない症例などでは,侵襲的なNPPVやIPPVを導入せず,装着患者のQOLに優れるHFTにとどめることを検討する必要性があると考えられた.本病態の治療において,通常の酸素投与で管理困難となった症例に対し,投与した薬物が効果を示すまでの時間的猶予を作り,薬物療法の効果の有無を見極める時間を稼ぐために,HFTとNPPVのどちらを第一選択とすべきかはいまだ不明であり,両者を比較検討する前向き試験が望まれる.

本研究の限界点としては,後ろ向きの観察研究であることや症例数が30例と比較的少数であること,単施設の研究であること,一部に明らかな蜂巣肺を欠く症例があることなどが挙げられる.蜂巣肺を欠く6症例は,生存群・死亡群それぞれに3症例認められ,2011年のATS/ERS/JRS/ALATによるIPFガイドライン10におけるHRCT criteriaではpossible UIP patternに該当し,感染症や膠原病,血管炎などの否定や治療経過等より総合的にAE-IPFと診断した.

本研究では,AE-IPFにより呼吸不全状態に陥りHFTを施行した症例について検討した.HFTにて低酸素血症の管理が困難となり人工呼吸器を導入した症例は全例が呼吸不全で死亡した.本疾患に対しHFTを施行しても酸素化の維持が困難となった症例に対し,症例によっては人工呼吸器導入の適応を慎重に考慮すべきと考えられた.

備考

本論文の要旨は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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