2020 Volume 28 Issue 3 Pages 417-423
【背景と目的】閉塞性睡眠時無呼吸症のCPAP治療において,当院の検査技師は導入1週間後に電話連絡を行うなどしてアドヒアランス向上に努めてきた.CPAP継続群と脱落群の電話介入時に得られた訴えと,脱落群の脱落理由を比較検討したので報告する.
【方法】対象はCPAP加療中の232例.導入1週間後の訴えを調査し,1年継続群と脱落群の中止理由,性別,年齢,BMI,ESS,AHI,各種睡眠変数,SpO2,3%ODI,周期性四肢運動障害指数(PLMI),体位およびREM依存性の有無,CPAP圧等を比較した.
【結果】治療早期に多い訴えはマスクと鼻口症状で,治療中止は半年までに多く,脱落群の中止理由は入眠障害や鼻症状,違和感が多かった.また脱落群では有意にBMIとAHI,3%ODIが低く,平均SpO2,PLMIが高かった.
【考察】治療後半年間は,入眠障害や鼻症状,違和感などに注意し,導入早期の訴えが中止理由に繋がる可能性も考慮して,電話などで早期に問題を抱える患者に介入していく必要がある.
閉塞性睡眠時無呼吸症(obstructive sleep apnea: OSA)は繰り返し発生する呼吸停止とそれに伴う低酸素血症および覚醒反応により,日中傾眠や種々の合併症を引き起こす可能性があると報告されている1).OSAに対する治療法としては,持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure: CPAP)が有用であり2,3),その有効性は確立されているが,そのアドヒアランス向上は,未だ解決に至らない課題である.CPAPアドヒアランスの評価は,Centers for Medicare & Medicade Serviceによると,一夜あたり4時間以上の使用と定義されているが,毎晩4時間以上の使用をアドヒアランスとするならば,46-83%の患者はアドヒアランス不良になると報告されている4).CPAPアドヒアランスと生命予後の関係性については,使用時間が1時間に満たない場合,それ以上使用した場合に比べて有意に予後が悪いとの報告もある5).またCPAP導入後1週間のうちに5-50%の患者が治療継続を断念するとの報告もあり6),早期の脱落をいかにして防ぐかが重要となる.このような背景から過去には治療後早期の電話介入がアドヒアランスの向上に繋がるとの報告がなされ7,8,9),当院でも検査技師がCPAP療法の早期脱落を防ぐために,導入1週間後に電話連絡を行うなど,積極的にアドヒアランス向上に努めてきた.過去の報告における早期脱落理由は,治療器関連4)や有害事象に対する対処不足10,11)など多岐にわたるが,治療後早期(1週間後)の訴えと,その後の治療中止時の訴えを比較検討した報告は少ない.
そこで今回,CPAP療法導入から1週間後における患者の訴えを電話介入により調査し,その後CPAP療法を1年間使用継続できた「継続群」と,1年以内に治療を中止した「脱落群」の背景因子を解析し,脱落時における訴えと導入1週間後における訴えを比較検討したので報告する.
対象は,平成26年1月~平成27年12月にOSAを疑われて当院を受診した20歳以上で,終夜睡眠ポリグラフ(polysomnography: PSG)検査を施行した結果,本邦におけるCPAP保険適応基準である無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index: AHI)≧20(232例)のうち,CPAP療法の同意を得た者(206例,導入率88.8%)とした.なお,中枢性睡眠時無呼吸症や神経筋疾患を伴う呼吸障害については除外した.
2. 方法PSG装置は,Respironics社製Alice 5および6を使用した.脳波,眼球運動,頤筋筋電図,心電図,前脛骨筋筋電図,鼾音,温度および圧センサーによる呼吸,呼吸インダクタンスプレチスモグラフによる胸腹部呼吸運動,SpO2,体動を終夜監視下で測定した.
解析方法は,全例を日本睡眠学会認定検査技師によるマニュアル解析とし,PSGにおける睡眠段階の判定および呼吸イベントの判定はAmerican Academy of Sleep Medicine(AASM)Manual for the Scoring of Sleep and Associated Events ver. 2.1に従った.
なおCPAP導入時の初期設定は 4-15 cmH2Oを基本として,導入1週間後に検査技師から電話にて問題がないかどうかを調査し,訴えがあった場合にはCPAP療法士から外来受診を勧奨するなどし,医師の指示のもと適宜圧変更にも対応した.なお,表1に当院での問題発生時の対応策を示す.その後1年間の使用継続率を調査し,さらに継続群と脱落群の特徴を解析し,脱落群での導入1週間後の訴えと治療中止時の訴えとを比較した.
<マスク関連> | |
---|---|
訴え | 対応策 |
リーク | マスクベルト再調整・再指導,マスク変更,CPAP専用枕,マウステープ |
無意識に外す | マスク変更,設定圧変更,呼気時の圧リリーフ機能 |
慣れない | 無理を強いない,不安軽減のための声掛け |
違和感 | マスク変更,マスクベルト再調整・再指導 |
ベルトが気になる, 調整困難,ベルト痕 | マスクベルト再調整・再指導,マスク変更 |
痛みや痒み | マスクベルト再調整・再指導,マスク変更 |
結露 | ホースを温める(ホースカバー,布団の中に入れる),室温調整,加温加湿器(熱線チューブ) |
<鼻口症状> | |
---|---|
訴え | 対応策 |
鼻閉 | 点鼻薬処方,加温加湿器,耳鼻科受診,フルフェイスマスク提案 |
鼻咽頭乾燥,炎症 | 室内温度・加湿調整,加温加湿器,マウステープ |
鼻汁 | 点鼻薬処方,加温加湿器,耳鼻科受診,フルフェイスマスク提案 |
口渇 | マウステープ,(チンストラップ) |
鼻血 | 室内温度・加湿調整,加温加湿器,耳鼻科受診,設定圧変更 |
鼻冷え | 室内温度・加湿調整,加温加湿器 |
<その他> | |
---|---|
訴え | 対応策 |
息苦しさ(鼻閉除く) | 呼気時の圧リリーフ機能,ランプ機能,加湿器,設定圧変更,CPAP機種変更 |
中途覚醒 | 設定圧変更,マウステープ |
入眠障害 | 睡眠衛生指導,睡眠導入剤 |
呑気 | 設定圧変更,呼気時の圧リリーフ機能 |
なお倫理的配慮として,検査結果を含む患者の臨床データを研究目的に限って解析に用い,その結果を学会などで発表すること,またその際には個人情報が特定されないように十分に配慮すること,について説明し同意を得た.
3. 統計解析導入1週間後の訴えの有無に関して,Kaplan-Meier法を用いて脱落までの経過を調査し,比較検討にはLog-rank testを用いた.継続群と脱落群との性別,年齢,肥満度(body mass index: BMI),Epworth sleepiness scale(ESS),AHI,無呼吸指数(apnea index: AI),低呼吸指数(hypopnea index: HI),睡眠stageを含む各種睡眠変数,覚醒反応指数(arousal index),SpO2と3% Oxygen desaturation index(ODI),周期性四肢運動障害指数(PLMI),体位依存(AHI of lateral position ≦ 1/2 AHI of supine position)およびREM依存(REM-AHI/NREM-AHI>2)の有無,median CPAP pressureについて,Mann-Whitney U testで比較検討した.
有意水準は両側5%とし,データの入力と解析には,BellCurve for Excel(株式会社 社会情報サービス)を用いた.
CPAP導入となった206例(男:女=171:35)は,年齢53.8±12.6歳,BMI 28.7±5.6,ESS 6.9±4.4点,AHI 53.9±24.6であった.ここから1年以上継続して使用できた181人のうち1週間後に何らかの訴えが生じたのは113人(62.4%)であり,1年以上使用できなかった25人のうち訴えが生じたのは23人(92.0%)であった.脱落群はもとより,継続群においても半数以上が導入1週間後に何らかの問題を訴えた.
図1にCPAP導入1週間後の問題点を示す.訴えの多い順に「マスク」,「鼻口症状」,「その他」の3つに分類した.マスクに関しては「リーク」,「無意識に外す」,「違和感」,「慣れない」などが多く,鼻口症状に関する訴えでは「鼻閉」,「口渇」や「乾燥」が多かった.その他の訴えにおける「息苦しさ」は,鼻閉とは異なる吸気または呼気時の訴えであり,「中途覚醒」や「入眠障害」も認められた.
導入1週間後の問題点
CPAP療法の1年継続率は92.7%で,脱落群におけるCPAP療法脱落までの経過は1~3ヶ月が24.0%,4~6ヶ月が44.0%と,半年までに68.0%が脱落した.脱落群における1週間後の訴えと脱落の理由を図2に示す.脱落理由には「入眠障害」,「鼻咽頭乾燥・炎症」,マスクに関する「違和感」を訴えることが多かった.「鼻咽頭乾燥・炎症」と「鼻閉」とを併せた鼻症状は,最多の訴えとなった.さらに1週間後の訴えと治療中止時の理由とが一致した割合を調査すると,脱落群の約3割は1週間後の訴えと中止理由とが一致しており,その内訳は入眠障害16%,鼻咽頭乾燥・炎症4%,鼻閉4%,違和感4%であった.継続群におけるその後の中止例については,全例が1週間後の訴えとは異なる新たな訴えによる中止であった.
脱落群における1週間後の訴えと脱落の理由
また1週間後に問題を訴えた群と訴えなかった群との経過を図3に示す.問題を訴えた群は,訴えなかった群と比較して有意に継続率が低かった(p<0.05).
導入1週間後に問題を訴えた群と訴えなかった群における脱落の経過
また継続群と脱落群との各種項目について比較検討した結果を表2に示す.脱落群では継続群に比べてBMI,AHI,全睡眠時間(TST),3%ODIが有意に低かった(p<0.05).また脱落群では平均SpO2とPLMIが高く,体位依存を認める例が多かった(p<0.05).なお年齢とESS,各種睡眠変数,REM依存性,CPAP圧に有意差を認めなかった.
1年継続群 | 脱落群 | p-value | ||
---|---|---|---|---|
患者数 | 181 | 25 | - | |
男/女 | 151/30 | 20/5 | NS | |
年齢 | 53.9±12.8 | 53.6±11.4 | NS | |
BMI | 29.0±5.7 | 26.6±5.1 | 0.01 | * |
ESS | 7.0±4.5 | 5.8±3.7 | NS | |
AHI | 55.0±24.3 | 45.9±25.6 | 0.03 | * |
AI | 32.6±26.7 | 25.5±5.4 | NS | |
HI | 22.3±13.6 | 20.5±13.3 | NS | |
TST(hrs) | 6.4±1.1 | 5.8±1.0 | 0.02 | * |
Stage N1(%) | 37.1±17.1 | 37.7±15.3 | NS | |
Stage N2(%) | 41.7±13.9 | 41.9±12.3 | NS | |
Stage N3(%) | 6.2±8.6 | 5.4±5.5 | NS | |
Stage REM(%) | 14.9±5.8 | 15.0±4.8 | NS | |
Sleep latency(min) | 12.3±16.6 | 14.2±21.0 | NS | |
REM latency(min) | 123.2±71.8 | 117.7±74.1 | NS | |
Sleep Efficiency(%) | 77.0±11.7 | 75.4±13.6 | NS | |
Arousal index | 54.0±23.5 | 49.4±22.5 | NS | |
SpO2 average | 94.7±3.1 | 96.0±1.6 | 0.02 | * |
Min SpO2 | 69.0±15.4 | 74.1±9.5 | NS | |
3%ODI | 47.1±26.0 | 37.0±25.7 | 0.02 | * |
PLM index | 4.5±13.2 | 9.8±16.8 | 0.03 | * |
Effect of sleep position | 0.67±0.47 | 0.88±0.33 | 0.04 | * |
REM reliance event | 0.14±0.35 | 0.20±0.41 | NS | |
Median CPAP pressure(cmH2O) | 7.7±2.0 | 7.2±2.0 | NS |
TST(total sleep time):全睡眠時間, PLM(periodic limb movement): 周期性四肢運動障害, effect of sleep position:体位依存(AHI of lateral position ≦ 1/2 AHI of supine position), REM reliance event:REM依存(REM-AHI/NREM-AHI>2)
平均値±標準偏差, NS: Not Significant, *:p<0.05
当院ではCPAP導入時に,検査技師から使用方法等について詳細に説明を行っている.しかし,患者は導入1週間後に何らかの問題を訴えることが多かった.脱落群の約30%が1週間後の訴えと中止理由が一致しており,継続群におけるその後の中止例では全例が1週間後の訴えとは異なる新たな理由での中止であった.このため,早期に問題を解決できなかった場合には,その訴えはそのまま中止理由になり得ると考えられ,特に入眠障害,鼻症状,マスクの違和感には注意を要すると考える.またCPAP導入後1週間のうちに5~50%の患者が治療継続を断念するとの報告6)や,本邦における1年程度の短期間での継続率は50~80%であることが多いと報告され12),本研究においても1週間後に問題を訴えた群は,訴えなかった群に比べて有意にアドヒアランスが低いことからも,治療後早期に問題を訴えた場合は,その後の治療継続が困難となる可能性がある.
また1週間後の訴えでは,「マスク」や「鼻口症状」などが多く,早期脱落の理由には「入眠障害」,鼻閉や鼻咽頭乾燥などの「鼻咽頭症状」が多かったことから,マスクの問題は比較的解消されやすいのに対して,入眠障害や鼻および口腔咽頭症状のコントロール不良が治療継続に大きく影響していることも考えられる.ただし,マスクの違和感については解消されにくい可能性もあるので,注意を要すると考える.過去には186名のCPAP患者を対象に,最も共通して認められた副作用は「口渇」,「中途覚醒の増加」,「鼻閉」,「圧とリーク」であったとの報告もあり13),一般的にはマスクやCPAPなどのインターフェイス,鼻口症状,睡眠の質に関する訴えなどが多いと予想される.本研究で訴えの多かった入眠障害については,早期にこの感覚を体験してしまうと,加療により睡眠の質の改善が得られると期待したにも関わらず,眠れなくなって期待を裏切られたと感じてしまうと同時に不眠によるストレスも感じ,その後の治療継続が困難になってしまうと考える.ただし,入眠障害は他の脱落因子に関連することも多く,睡眠導入剤の処方も対応の一つではあるが,入眠困難となる背景に他の要因が存在していないかも注意する必要があると考える.また本研究においてCPAP圧は脱落に関与する因子にはなり得なかったが,昨今,CPAP設定圧に関しては,固定モードかAutoモードかではどちらの設定でもアドヒアランスに差がないとの報告が散見される14).この要因の一つとして,機器が上気道の抵抗やリーク量を認識したうえで,圧をコントロールする機能が向上していることが考えられるが,重要なのは治療後早期の段階でいかに早く訴えを聴取し,そこから圧を下げたり,呼気リリーフ機能を追加したりするなど早期の対応を取れるかであると考える.ただし,加療途中での圧変更はCPAPデータから推測することは勿論のこと,Titrationを事前に行っておくことで至適圧の検討がより確かなものになることに相違ない.
早期脱落者の背景因子の解析結果からは,OSA重症度と肥満度の低い患者では早期脱落に繋がる可能性が示唆された.CPAPアドヒアランスは重症度が高く,眠気の強い患者では比較的良好とされている15).これは重症度が高い患者は日中傾眠を訴えることが多く,眠気の強い患者はCPAPによる眠気の改善効果を実感しやすいためと考えられる.また非肥満患者では肥満患者に比べてアドヒアランスが不良なことも報告されている16)が,一般的に非肥満患者は肥満患者に比べてOSA重症度が低いこともあり,眠気を感じにくく,眠気の改善効果を実感しにくいためと考える.しかし,本研究においては眠気の指標であるESSに有意差を認めなかった.ESSは眠気の主観的評価であり,過去にもOSA患者は自己の眠気を過小評価する傾向があるとの報告があり17),当院睡眠呼吸障害外来における主訴は「眠気」でなく,「いびき」や「睡眠中の無呼吸」で受診していることも少なからず影響していると考える.また脱落群では有意にTSTが低いため,覚醒しやすい特徴があったなどの可能性も考えられるが,arousal indexには有意差を認めなかったことから,確実な脱落理由とは考えにくい.PLMについては,脱落群で認めやすく,PLMが存在する患者では体動などによりマスクがずれて覚醒しやすくなったり,CPAP加療後にPLMがさらに顕在化したりする可能性もあることから中途覚醒を助長するなどして,睡眠の質の改善を感じにくくさせることも考えられる.
また体位依存性が多く認められた点については,体位依存性を認める症例ではその解剖学的特徴として,咽頭側壁軟部組織量が少なく,下顎が後退して下方顔面高が短いなどと報告されているが18),そもそも上気道の物理的閉塞度合いが軽度であることからして,CPAP圧が強く感じられて違和感や息苦しさを感じ,入眠障害が生じたり中途覚醒を誘発させたりしやすい可能性も考えられる.
ただし,CPAP治療そのものに適応できない患者が一定割合存在することも想定される.
このような様々な問題に早期に対処すべく,当院では検査技師が毎月,患者にCPAPデータの説明を行っており,使用上に関する問題の聴取と対策を指導している.治療後早期にマスクフィッティングの再指導やマスクの変更,耳鼻科的治療やCPAP加温加湿器の併用などを提案することも求められると考える.
最近では,AASMからOSAのPAP療法に関する新たなガイドラインが発表され19),治療早期における問題解決のための介入を推奨している.また旧ガイドラインでも推奨されていたが,治療開始後の客観的な有効性および使用状況についてのデータのモニタリング,問題解決のためのフォローアップを行う旨も継続して明記されている.さらに遠隔モニタリングを利用した介入についても記され,今後,新しいデバイスを適切に早期に有効活用していくことで,更なるアドヒアランス向上に繋がることが期待される.
本研究から,引き続き治療早期の段階で治療の必要性を説くことは勿論のこと,CPAP導入1週間後の電話対応など,早期の積極的な介入が求められることを再認識した.CPAP脱落の予測は困難であるが,AHIやBMIが低い症例,PLMや体位依存性を認める症例には注意を払う必要がある.またCPAP開始後,入眠障害や鼻咽頭症状,マスクに関する違和感が生じた場合には早期脱落の可能性があり,治療開始後半年までの脱落が多く,早期脱落の理由が治療開始1週間後の訴えと一致する可能性を考慮して,早期の積極的な介入がアドヒアランス向上に求められると考える.
本論文は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)にて発表し,座長推薦を受けた.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.