The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Consideration of readmission factor within 90-day in COPD
Tomoyuki IkeuchiRumi KanedaTomoko KitamuraKahori OkamotoSayaka YamaguchiYuya TanakaKenichiro ObaTohru Tsuda
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2020 Volume 28 Issue 3 Pages 451-455

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要旨

【背景と目的】在宅移行をすすめる地域包括ケア病棟では,退院後90日以内の入院は健康保険上認められていない.しかし,重症COPDでは退院後90日以内の再増悪が多く,どのような因子が再入院の要因になっているか検討し,再増悪予防の呼吸リハ介入のポイントを考察すること.

【対象と方法】H25年4月からH29年2月までに当院に入院し,呼吸リハを行ったCOPD患者120例を対象とした.後方視的に患者特性,身体活動性,NRADL,運動耐容能,QOLと90日以内の再入院との関係を検討した.単変量解析後,有意差の認められた項目でロジスティック回帰分析にて統計解析を行った.

【結果】charlson comorbidity index(OR 0.527,95%CI: 0.243-0.863),歩数(OR 1.246,95%CI: 1.074-1.589),体重減少量(OR 1.618,95%CI: 1.184-1.852)が有意な因子として抽出された.

【考察】呼吸リハを実施するにあたり,併存症の管理,身体活動性の向上,体重の管理を包括的に行う必要があると考えられた.

緒言

厚生労働省は2025年を目途に地域包括ケアシステムの構築を推進している.そこで,2014年の診療報酬改定において地域包括ケア病棟が新設された.地域包括ケアシステムとは,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステムである1.その中において2014年に新設された地域包括ケア病棟の役割は,急性期治療後の患者の受け入れや,在宅介護者の緊急時受け入れなどがあるが,その中でも在宅復帰支援における役割が非常に期待されている2.そのため,在宅復帰率や退院後90日以内の短期再入院に対して健康保険上,厳しく制限されている2

一方,COPD患者を対象の短期再入院の調査では,病院を退院後30日以内に約10~20%3,4,90日以内に約25~35%3,5,1年以内には約50%3の患者が再入院しているという報告もある.COPD患者の短期再入院は諸外国でも健康保険上の重要な問題となっており,30日以内の再入院が多い病院に対してはペナルティーを与えるといった動向もある6.しかし,COPDは増悪の度に重症度が増し,次の入院期間までが短くなるという特徴がある7.また,気流閉塞の病期が進行するに従い増悪の頻度も増えることや,増悪を予測する因子が過去の増悪歴であるとの報告もある8.このように,増悪入院した患者は常に増悪のリスクを伴っており,短期再入院を経験することも少なくはない.

増悪による短期再入院の因子としては,身体活動性,併存症の存在,年齢,うつ,薬物の乱用などが報告されている4,9が,過去の報告において,body mass index(BMI)は短期再入院の因子とはなっていない4.以前はGlobal initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)において体重減少の割合が記載されていたが,2017年のGOLDでは体重減少の割合は記載されておらず,逆に30%以上の患者に肥満が認められた10とされている.一方,わが国ではGOLD分類III期以上(高度の気流閉塞)の患者では約40%のCOPD患者に体重減少が認められ,欧米に比べ栄養障害の頻度が高い11とされている.このように本邦では,海外とは異なり,気腫型のCOPD患者が多いことも予想され,海外で報告された増悪の予測因子を本邦のCOPD患者にそのまま当てはめることはできない.

そこで,本研究の目的はCOPD患者の短期再入院率を明らかにすることと,短期再入院に関わる因子を検討することとした.

対象と方法

1. 対象

日本呼吸器学会COPDガイドライン11に準じて診断されたCOPD患者のうち,当院に入院し,呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行った120名を対象とした.除外基準は,自宅退院せずに転院となったもの,呼吸リハが行えなかったもの,身体機能の評価に影響を及ぼすような脳血管疾患や整形疾患を合併しているもの.評価内容の理解が困難な認知機能障害を有するもの,BMIが 25 kg/m2以上の明らかなダイエットが必要な肥満患者とした.

2. 方法

研究デザインは後方視研究とし,H25年4月からH29年2月の期間で各対象者の退院時記録をカルテより収集した.また,地域包括ケア病棟退院後,90日以内の再入院率と再入院までの期間を調査した.

調査項目は患者特性,年齢,性別,BMI,増悪入院時から退院時の体重変化量,肺機能はforced expiratory volume 1.0(FEV1:一秒量(L)),%FEV1(対標準一秒量(%)),FEV1%(一秒率(%))を調査項目とした.さらに,併存症の存在を点数化したCharlson Comorbidity Index,血液検査からはC-reactive protein(CRP)を採用し,安静時の酸素流量,過去1年間の入院回数,を調査項目とした.運動耐容能の指標は6 Minute Walk Distance(6MWD)12,13,筋力の指標は大腿四頭筋力(ANIMA社 μ-Tas(単位:kgf))と握力(㎏)13を調査し,大腿四頭筋力は体重で除した値を採用した.身体活動性の指標には身体活動量計(SUZUKEN社 Lifecorder® GS/Me)を1週間装着してもらい,算出された平均値の中から歩数の値を採用した.呼吸困難の程度の指標にはmodified medical research council(mMRC: grade 0-4)13,QOLの指標には36-item short form survey instrument(SF-36: 0-100点)14とCOPD assessment test(CAT: 0-40点)15,16,さらに不安・抑うつの指標であるhospital anxiety and depression scale(HADS: 0-42点)13,activities of daily living(ADL)の指標には呼吸器疾患特異的ADL評価表であるNagasaki university respiratory ADL questionnaire(NRADL: 0-100点)17,18を調査項目とした.

また,退院後の在宅生活を支援するものとして,同居家族の有無,介護サービス利用の有無,入院中の家屋調査の有無,呼吸リハ継続の有無を調査した.

3. 統計解析

退院後90日以内に再入院した群と再入院がなかった群の2群に分け,比率もしくは間隔尺度である評価項目においてはShapiro-Wilk検定にて正規性の検定を行い,正規性の認められたものは対応のないt検定,正規性の認められなかったものはMann-WhitneyのU検定にて差の検討を行った.名義もしくは順序尺度の項目においてはχ二乗検定にて差の検定を行った.さらに,上記の検定にて有意差の認められた項目においては年齢と性別で調整し,多重ロジスティック回帰分析にて因子の検討を行った.統計解析には統計解析ソフトSPSS Ver.18を使用し,有意水準は5%未満とした.

4. 倫理的配慮

本研究は後方視的研究となるため,個人情報の取り扱いに十分配慮した.院内倫理委員会にて審査を行い,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.

結果

120名の患者のうち,38名(32%)に90日以内の再入院が認められ,その内訳は30日以内が26名(22%)と多く,60日以内が5名(4%),90日以内が7名(6%)という結果であった(図1).

図1

90日以内の再入院率と再入院までの日数割合

データはn数(%)で示す.

単変量解析において,患者特性では体重変化量,%FEV1.0,Charlson Comorbidity Index,安静時酸素流量,過去1年間の入院回数に有意差が認められた(表1).呼吸リハの評価では6MWD,歩数,mMRC,NRADLの項目で有意差が認められた(表2).その他の項目や,在宅生活の支援といった項目では有意差は認められなかった(表3)が,年齢,握力,SF-36(MCS)の項目を除いては再入院ありの群と比較し,再入院なしの群において平均値では,比較的良好な結果を示していた.

表1 患者特性
Total
(n=120)
再入院≦90日
(n=38)
90日以内
再入院なし
(n=82)
p値
年齢(歳)75.8±8.175.4±8.876.0±7.80.541
male/female79/4127/1152/30
BMI(㎏/m220.4±3.219.4±3.121.0±3.20.073
体重変化量(㎏)-0.4±3.2-1.2±2.20.9±1.3<0.001
FEV1.0(L)0.9±0.50.8±0.51.0±0.50.148
%FEV1.0(%)43.5±25.635.9±22.247.2±26.40.027
FEV1.0%(%)51.7±18.047.4±20.053.8±16.60.343
charlson comorbidity index(点)2.2±1.33.1±1.51.8±1.0<0.001
CRP(mg/dl)0.4±0.50.5±0.60.3±0.40.529
安静時酸素流量(L/min)1.0±0.91.6±0.90.6±0.8<0.001
過去1年間の入院回数(回)0.6±1.01.1±1.10.4±0.7<0.001
mean±SD

データは平均値±標準偏差で示す.

BMI: Body mass index,FEV1.0: forced expiratory volume 1.0,CRP: C-reactive protein

表2 呼吸リハ評価
Total
(n=120)
再入院≦90日
(n=38)
90日以内
再入院なし
(n=82)
p値
6MWD(m)275.4±97.2235.5±98.1294.8±91.40.004
下肢筋力(体重比:%)51.6±16.750.5±14.252.0±17.80.564
握力(kg)28.0±8.128.1±7.527.9±8.40.731
歩数(step)2,629.3±2,040.01,057.1±657.23,388.4±2,049.6<0.001
mMRC2.84±1.03.5±0.82.5±0.9<0.001
SF-36 PCS(点)21.1±16.113.0±16.824.3±14.80.081
SF-36 MCS(点)50.6±10.250.4±8.950.6±10.80.767
CAT(点)19.0±8.721.8±9.017.8±8.40.452
HADS A score(点)5.8±4.47.0±4.85.3±4.10.143
HADS D score(点)6.7±4.27.5±4.16.4±4.20.745
NRADL(点)58.7±27.040.0±24.667.6±23.4<0.001
mean±SD

データは平均値±標準偏差で示す.

6MWD: 6 minute walk distance,mMRC: modified medical research council,SF-36(PCS, MCS): 36-item short form survey instrument(physical component summary, mental component summary),CAT: COPD assessment test,HADS: hospital anxiety and depression scale,NRADL: nagasaki university respiratory ADL questionnaire

表3 社会資源の利用と在宅支援状況
90日以内再入院
Yes(n=38)No(n=82)p値
独居8(21.0)12(14.2)0.374
介護サービス利用12(31.5)23(28.0)0.421
入院中の家屋調査8(21.0)15(18.3)0.317
呼吸リハビリ継続10(26.3)27(32.1)0.251
n数(%)

データはn数(%)で示す.

独居で生活している人数(割合),介護サービスを利用している者の人数(割合),家屋調査を行った者の人数(割合),呼吸リハを継続して行った者の人数(割合).

さらに単変量解析にて有意差の認められた項目で多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,90日以内の再入院因子として,増悪入院時から退院時の体重変化量(Odds Ratio(OR), 1.618; 95% Confidence Interval(CI), 1.184-1.852),Charlson Comorbidity Index(OR, 0.527; 95% CI, 0.243-0.863),歩数(OR, 1.246; 95% CI, 1.074-1.589)の項目が抽出された(表4).

表4 多変量解析による90日以内の再入院因子の検定
OR95%CIp値
体重変化量1.6181.184-1.8520.001
charlson comorbidity index0.5270.243-0.8630.031
歩数1.2461.074-1.5890.034
mMRC0.3930.155-1.1920.078
過去1年間の入院回数0.2780.164-1.0280.057

OR: odds ratio, CI: confidence interval, mMRC: modified medical research council

考察

本研究において,短期再入院率や,再入院までの期間では海外の報告と相違ない結果となっていた3,4,5.この結果より,地域包括ケア病棟の健康保険適応基準をクリアしていくにはCOPD患者の短期再入院は重要な問題点であると考える.

短期再入院の因子の検討からは,入院中の体重変化量,Charlson Comorbidity Index,身体活動性が90日以内の再入院因子として抽出された.過去の報告においてBMIは短期再入院の独立した因子とはなっていない4.しかし,本邦から報告されたCOPDコホート研究では体重減少がCOPD増悪の独立した危険因子であったとされている17.本研究において,BMIに有意差はなかったものの,入院中の体重減少量が短期再入院の独立した因子であった.これまでの報告において,横断的にBMIで群分けを行った予後や急性増悪の報告が散見されるが,特に栄養障害の頻度が多いとされる本邦では患者を縦断的に観察し,体重の減少を予防することも短期再入院の予防には重要であると考える.

次にCharlson Comorbidity Indexが短期再入院の因子であったことに関しては,過去の報告を支持する結果となった4.本研究において,特に多い合併症は心不全であった.Richardsonらは,COPDに心不全を合併していた患者に対してβ-ブロッカーを処方した群と,処方しなかった群を比較し,β-ブロッカーを処方していた群では30日以内の再入院率が有意に低かったと報告している18.このように,併存症の中でも心不全の合併は特に注意が必要である.もちろん,その他の併存症も把握し,併存症に対するリスク管理が重要となってくる.

また,身体活動性に関しても過去の報告を支持する結果となった.筋収縮に伴い,骨格筋よりミオカインが放出される.そのミオカインによる抗炎症作用によりCOPD患者の増悪が予防されると期待されている19.しかし,COPD患者は身体活動性が低下していることも知られており20,活動量計などを活用し,身体活動性を向上していく必要がある.

さらに,今回,有意差の認められなかった項目においても,平均値では再入院なしの群において良好な結果を示していたことから,今回選択した項目においては,より高い水準を保つべきであると考える.退院後の在宅生活を支援するものとして,同居家族,介護サービスの利用,入院中の家屋調査,呼吸リハ継続といった項目においては,元々,身体機能やADL能力の高い患者において,社会保障制度の利用や他者の介助を必要としていなかったという背景があったため,有意差が認められなかったと考える.これは本研究における限界として,今後,患者背景などを統一して因子の検討を行うことも重要である.

本研究の結果を用いて,今後は短期再入院の予防に努めたい.しかし,病院を退院後の患者からは,個人では体重の管理や併存症の管理,運動を継続していくことが困難であるとの声も聞かれる.そのような管理は他者が介入することによって継続できることも多い.そのためには,医療機関だけでなく,介護保険サービス,さらには,地域で呼吸器疾患患者をサポートできる地域包括ケアシステムの体制づくりが望まれる.

備考

本報告は,第27回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2017年11月,宮城)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(Conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して申告すべき事項はない.

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