The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Relation between handgrip strength and each index, hospitalization for exacerbation in male patients with COPD
Shinjiro MiyazakiNaomi KitayamaSyusei HayashinoShion NagaiHirohisa IchikawaYukako ArakawaYoshihiro Mori
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2020 Volume 29 Issue 1 Pages 125-130

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要旨

【目的】男性COPD患者における,握力と各指標およびCOPD増悪入院との関連を明らかにすることを目的に検討を行った.

【対象・方法】安定期男性COPD患者43例を対象とした.握力と年齢,BMI,%1秒量,CAT,膝伸展筋力,6MWDそれぞれの相関関係を求めた.また,増悪入院までの期間を従属変数,年齢,BMI,%1秒量,CAT,握力を独立変数としてCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を行った.

【結果】握力は年齢(r=-0.323),膝伸展筋力(r=0.773),6MWD(r=0.687)と有意な相関関係を認めた.2年間の観察期間中16例が増悪入院し,握力が独立した関連因子として抽出された(HR: 0.859,95%CI: 0.770-0.961,p=0.007).

【結論】男性COPD患者において握力は膝伸展筋力および運動耐容能と相関し,COPD増悪入院に関連する独立した因子であった.

緒言

握力は,日常診療においても簡便に実施できる測定方法であり,欧州およびアジアのサルコペニアの診断基準では,筋力の指標として採用されている1,2.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)患者における握力については,調整された非COPD群と比較し,COPD患者では握力が有意に低下していること,また努力性肺活量や1秒量と正の相関関係にあることなどが報告されている3,4.呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法-5やCOPD診断と治療のためのガイドライン6においても,握力は運動療法のための必須の評価項目および行うことが望ましい栄養評価の項目として推奨されており,筋力の指標として用いられる.COPD患者における握力と臨床指標や増悪入院との関連などについて,欧米からの報告が散見されるが,握力が一定水準(予測値の70%以下)を下回っている者の増悪リスクを示した報告7や,入院を必要としない増悪を含めた報告8であり,握力が他の因子とは独立して入院を要する増悪リスクとなるかは明らかではない.また,これらについて本邦からの報告はなく,日本人のCOPD患者における握力の有用性は十分に検討されていない.

今回,COPD患者における握力と各指標および増悪入院との関連を明らかにすることを目的に検討を行った.

対象と方法

1. 対象

2014年4月から2016年4月の期間中にKKR高松病院呼吸器科外来通院中の安定期男性COPD患者のうち,握力測定および6分間歩行試験(six-minute walk test; 6MWT)を実施し,2年間の経過を観察できた連続43例を対象とした.本研究における安定期の定義は,過去60日以内に,風邪症状などを含めた症状の悪化がなく,薬物療法の変更や追加がない状態とした.脳神経疾患,整形外科疾患,その他認知・身体的理由により,6MWTにて十分な歩行が困難と判断された例,全ての測定が30日以内に行えていない例,本研究に必要なデータの欠損例は除外した(図1).

図1

研究対象フローチャート

2. 方法

握力と年齢,体格指数(body mass index; BMI),%1秒量,COPD assessment test(CAT),膝伸展筋力,6分間歩行距離(six-minute walk distance; 6MWD)を測定した.

握力の測定には,スメドレー式握力計(グリップ-D TKK5401,竹井機器工業)を用いた.自然立位にて握力計を持った上肢を体側に下垂し,肘を曲げる,上肢を身体に近づける,上体を曲げるなどを行わないよう注意した.左右交互に2回ずつ測定し,それぞれ高い値の平均値を測定値として採用した.

膝伸展筋力の測定には,ハンドヘルドダイナモメーター(μTasMF-01,アニマ社)を用いた.端座位で,下腿遠位部の前面にセンサーパッドを当て,下腿の後方に位置するプラットホームの支柱と固定用ベルトを膝関節が90度屈曲位となるように長さを調節し連結した.測定では等尺性膝伸展運動を最大努力にて行わせた.左右交互に2回測定し,それぞれの高い値の平均値を測定値として採用した.

6MWTは,呼吸リハビリテーションマニュアル-運動療法-第2版5に記載されている方法に従って実施した.対象者には,出来るだけ多く歩くことも含め十分な説明を行った.在宅酸素療法患者の場合は,医師より指示されている労作時酸素流量を設定して実施した.

呼吸機能検査は,スパイロメトリー(ローリングシール型診断用スパイロメータCHESTAC-8800,チェスト株式会社)を用いて,肺活量,努力性肺活量,1秒量,1秒率を測定した.%肺活量および%1秒量は,日本人のスパイロメトリー正常予測値9に対する実測値の比率を算出した.測定は,呼吸機能検査の十分な経験を有する当院の臨床検査技師が行った.

CATは日本語版10を用い,対象者による自己記入式にて回答を得た.

観察は握力測定日より開始し,2年間の経過を追跡した.増悪により入院した例はその時点で観察を終了した.増悪による入院の定義は,COPD診断と治療のためのガイドライン6に沿って医師により重症のCOPD増悪と診断され,入院を要した場合とした.

3. 統計解析

握力と年齢,BMI,%1秒量,CAT,膝伸展筋力,6MWDの相関関係を求めた.次いで,COPD増悪による入院の有無によりROC曲線を用いて握力のカットオフ値を算出し2群に分類し,COPD増悪による入院をend pointとした2年間の予後を比較した.さらに,2年間の観察期間において,COPD増悪による入院までの期間を従属変数,年齢,BMI,%1秒量,CAT,握力を独立変数とした多変量解析を行った.

各変数の正規性の検討にはShapiro-Wilk検定を用いた.握力と各指標の相関関係はPearson積率相関係数またはSpearman順位相関係数にて求めた.また,予後比較はKaplan-Meire法およびLog-rank検定を用い,多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いた.いずれの統計解析においても,有意水準5%未満を有意差ありとした.統計解析には,R(2.13.1)を用いた.

4. 倫理的配慮

本研究は,KKR高松病院倫理審査委員会の承認(承認番号E-150)を得て実施した後方視的観察研究である.データ抽出に際しては,患者個人が特定できないように留意して実施した.

結果

1. 対象者の基本特性

対象者の年齢中央値は74歳,BMI中央値20.7kg/m2,%1秒量中央値46.3%であった.対象者の基本特性を表1に示す.

表1 対象者の基本特性
全例(n=43)増悪入院例(n=16)非増悪入院例(n=27)
年齢(歳)74(68-81)75(70-81)73(67-81)
BMI(kg/m220.7(18.6-23.2)18.3(16.8-21.9)21(19.4-24.2)
喫煙歴(現在有/過去有/無)8/32/33/13/05/19/3
在宅酸素療法導入12(27.9)7(43.8)5(18.5)
1秒率(%)52.4(35.3-66.4)53.1(34.6-60.2)51.7(36.2-66.6)
%1秒量(%)46.3(32.9-71.8)42.4(31.5-55.5)46.3(33.1-79.9)
%肺活量(%)74.4(69.2-85.6)70.2(64.2-75.1)82.7(72.9-86.9)
COPD病期分類*
I期7(16.3)0(0.0)7(25.9)
II期13(30.2)7(43.8)6(22.2)
III期13(30.2)4(25.0)9(33.3)
IV期10(23.3)5(31.2)5(18.5)
薬剤使用状況
LAMA4(9.3)3(18.8)1(3.7)
LABA1(2.3)1(6.3)0(0.0)
LAMA+LABA21(48.8)5(31.3)16(59.3)
LABA+ICS1(2.3)0(0.0)1(3.7)
LAMA+LABA+ICS16(37.2)7(43.8)9(33.3)
テオフィリン10(23.3)6(37.5)4(14.8)
喀痰調整薬24(55.8)15(93.8)9(33.3)
マクロライド8(18.6)4(25.0)4(14.8)
β遮断薬7(16.3)2(12.5)5(18.5)
ワクチン接種状況
肺炎球菌ワクチン32(74.4)15(93.8)17(63.0)
インフルエンザワクチン38(88.4)16(100.0)22(81.5)
握力(kgf)31(26-37)27(23-30)35(30-39)
膝伸展筋力(kgf)26(21-32)23(18-25)29(23-33)
6分間歩行距離(m)321(234-369)225(186-321)360(306-390)
CAT(点)16(10-21)16(10-26)15(11-20)

中央値(第1四分位数-第3四分位数)または症例数(割合)で表記

*  日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版

BMI: body mass index,LAMA: long acting muscarinic antagonist, LABA: long acting β2 agonists,ICS: inhaled corticosteroid,CAT: COPD assessment test

2. 握力と各指標の相関関係

握力は年齢(r=-0.323,p=0.034),膝伸展筋力(r=0.773,p<0.001),6MWD(r=0.687,p<0.001)と有意な相関関係を認めた.BMI,%1秒量,CATとは有意な関係を認めなかった(図2).

図2

握力と各指標の相関関係

3. 握力の強弱によるCOPD増悪入院の比較

増悪入院の有無によりROC曲線から算出された握力のカットオフ値は 31 kgfであった(感度:0.77,特異度:0.82,Area under the curve: 0.82).2年間の観察中にCOPD増悪により入院を要したのは,31kgf以上群で23例中3例(13%),30kgf以下群で20例中13例(65%)であり,30kgf以下群で有意に多かった(図3).

図3

COPD増悪入院をend pointとした予後の比較

4. COPD増悪入院に関する多変量解析

2年間の観察中に43例中16例がCOPD増悪により入院し,握力が有意な関連因子として抽出された(HR: 0.859,95%CI: 0.770-0.961,p=0.007)(表2).

表2 COPD増悪入院に関する多変量解析
Hazard ratio95%CIP value
年齢0.9770.900-1.0600.577
BMI0.8570.701-1.0480.133
%1秒量0.9980.979-1.0260.854
CAT0.9880.916-1.0670.764
握力0.8590.770-0.9610.007
(増悪入院 無:0,有:1)

BMI: body mass index,CAT: COPD assessment test

考察

握力は簡便に測定可能な筋力の指標として用いられているが,日本人COPD患者における各指標との関連や入院を要するCOPD増悪予測因子としての有用性は明確にはなっていない.COPD患者における握力と各指標および増悪による入院との関連を明らかにすることを目的に検討を行った.握力は,一般的に女性に比べ男性で高い測定項目であるため11,性差による結果の差異が生じる可能性を考慮し,今回の検討では男性のみを対象とした.

握力と各指標の関連を調査した結果,年齢,膝伸展筋力,6MWDと有意な相関関係を示した.20歳から85歳以上の地域住民において,握力は加齢に伴い低下すること,膝伸展筋力と相関しており,握力の低下が歩行速度の低下および連続歩行の困難さと関連していることが報告されている12.本研究の年齢層と近似した高齢者を対象とした二つのコホート研究(年齢平均76.6歳,78.4歳)においても,握力と膝伸展筋力は相関関係にあり,年齢,BMIとは独立して歩行速度に関連する因子であった13.また,握力と運動耐容能については,COPD患者を対象とした先行研究がいくつか存在し,心肺運動負荷試験にて測定した最高酸素摂取量14,6MWD15,Incremental Shuttle Walking Testでの歩行距離16,17と正の相関関係にあることが報告されている.本研究においても,握力は膝伸展筋力および6MWDと相関関係を示しており,COPD患者において握力は,下肢筋力や歩行能力,運動耐容能の有用な指標になると考えられた.

今回の対象者の握力を31kgfで2群に分類し,COPD増悪による入院をend pointとした2年間の追跡調査の結果,握力低下(30kgf以下)群では非低下(31kgf以上)群に比べ有意に増悪入院率が高く,年齢,BMI,%1秒量,CATで調整しても,握力が独立して増悪入院に関連する因子であった.COPD患者では,増悪の頻度が高いほど握力が低下していたといわれている18.また,GOLD stageで調整後も握力の低下は増悪による入院リスクの増加と関連していること7や,握力が年齢,BMI,%1秒量とは独立して,病院受診を要するCOPDの増悪リスク因子であり,握力が1kg減少するごとにリスクが5%増加すること8が報告されている.我々の検討においても,握力はCOPD患者の臨床指標とは独立してCOPD増悪による入院を予測する重要な因子であることが示唆された.

握力は,高齢者における栄養状態や筋肉量と関連しており19,COPD患者においても,筋肉量の指標である除脂肪指数や上腕および下腿周囲長と正の相関関係にあることが示されている20.また握力は,身体的な機能低下や筋肉量低下が関連するフレイル21やサルコペニア1,2の診断基準の一つとして用いられている.COPD増悪入院患者を対象とした検討では,重症フレイル患者は,退院後90日以内の再入院を予測する独立した因子であることが報告されている22.本研究における,握力がCOPD増悪による入院に関連する独立した因子であった結果は,筋肉量の低下やフレイルなどの身体的な虚弱状態と増悪入院との関係を反映している可能性があるとも考えられた.

本研究の限界として,握力測定および6MWTは同日に実施しているが,実施機会は当院での初回外来受診時や定期受診時など統一は出来ていない.そのため,COPDと診断されてからの期間や患者教育の有無などは調整できておらず,これらの影響は排除できていない.また,今回の対象症例における喘息合併の有無は完全に調査できていない.全ての症例が呼吸器内科医による治療を受けているが,吸入薬を含めた薬剤使用,ワクチン接種,在宅酸素療法などの治療内容については患者背景調査にとどまり,これらを含めた解析には至っていない.さらに,β遮断薬の服薬の有無は確認したが,全例の心臓超音波検査やBNPについてはデータが収集できておらず,心不全など循環器疾患の併存は把握が困難であった.本研究は,外来などでの継続的な呼吸リハビリテーションを受けていない患者での検討であり,呼吸リハビリテーションが今回の結果に影響するかは不明である.これらについては,前向き研究により今後さらなる検討が必要であると考える.

結論

安定期男性COPD患者において,握力は膝伸展筋力および運動耐容能と相関し,COPD増悪による入院に関連する独立した因子であった.簡便に実施可能であり,COPD患者の日常診療において,積極的に測定すべき有用な評価項目であると考える.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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