The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
Palliative care for interstitial pneumonia
Keisuke Tomii
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2020 Volume 29 Issue 1 Pages 50-54

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要旨

間質性肺炎の緩和ケアはがん患者と同様に疾患進行を抑制する治療と並行して,早期からQOLの維持を目的に開始されるべきである.しかし現在薬物療法については呼吸困難緩和を目的とするモルヒネの有効性と安全性がわずかに示されたのみで,その他の薬剤や症状についてのデータはほぼ皆無である.リハビリテーションと労作時低酸素血症に対する酸素吸入については最近ようやくランダム化比較試験における有効性が示され,また海外の成績では多職種の専門家による支援チームが有効に働くことも示されている.エンドオブライフケアに関する事前意思確認は主として呼吸管理法選択すなわちコードステータスの合意形成という緩和ケアの重要なプロセスであるが,予測の難しい経過の中で多職種の関わりによる十分な病状理解の上タイミングを選んで繰り返し行う必要がある.挿管回避となる場合も多いが,NPPVやHFNCの限界を考慮してきめ細かく設定する.

はじめに

間質性肺炎の中でも特発性間質性肺炎(IIPs)は原因を回避する治療ができないため,慢性進行性の特発性肺線維症(IPF)や線維化性非特異性間質性肺炎(Fibrotic NSIPの一部)における治療目標は進行を遅らせることであり,長期間観察しながら移植あるいは緩和の要否を評価していくこととなる1,2.中でもIPFは悪性腫瘍に匹敵する程度に予後不良であり,抗線維化薬が上梓される前の疫学調査(北海道スタディ)では,生存中央値は%VC>80%で57ヶ月,60-80%で29ヶ月,40-60%で19ヶ月,<40%で9ヶ月であった3.このように避けて通れない間質性肺炎の終末期ないし緩和ケアであるが,これまでガイドラインや治療の手引き等において多くを触れられることはなく,患者の病状や患者および家族の意向のもとに,個々の臨床医が手探りで判断,対処せざるを得なかったのが現状である.今回間質性肺炎の終末期ならびに緩和ケアに関する現時点での問題点と今後の方向性について文献的検索の下にまとめてみた.

1. 緩和ケアの開始

非がん性呼吸器疾患の経過は,図14の臓器不全モデルのように慢性持続性に進行する機能低下と,急性増悪による著しい機能低下の繰り返しが重複して進行する.呼吸器疾患の緩和ケアは症状を防止もしくは軽減させて患者および介助者のQOLを維持ないしは改善させるもので,終末期かどうかに関わらず疾患のすべての病期に適応されてよい5,6.最近の前向き研究ではIPFの死亡患者はすでに2年前から息切れを始めとする精神的,肉体的に明らかなQOL低下が認められており7,悪性疾患同様に抗線維化薬など疾患進行を遅らせる積極的治療と並行して患者のQOLを改善させる緩和ケアも早い段階から始められなければならない.したがって常に疾患進行の方向性(疾患挙動)について注視しながら,全経過を通じて緩和ケアの必要性を繰り返し動的に評価する必要がある(図28.一方積極的な治療やリハビリがすでに意味をなさない生命の最終段階の身体的精神的苦痛を緩和するエンドオブライフケアとは明瞭に区別しなければならない.

図1

臓器不全モデルにおける緩和ケア4

津田 徹,平原佐斗司.非がん性呼吸器疾患の緩和ケア

2017年 南山堂より

図2

疾患挙動に基づく緩和ケア開始のアルゴリズム8

2. 緩和ケアの実際

IPFのQOLを決定する要因としてオーストラリアのレジストリーから息切れとせき,うつの3つの独立因子が抽出されたが9,わが国のデータではこれらに加えて6分間歩行距離も示されている10.したがって緩和ケアの目標はこれらの改善を図ることとなる.

a) 薬物療法

2012年Reyersonらによる総説11では根拠となる論文数が少なく,シルデナフィル,オピオイドと酸素吸入が一部の特定患者の息切れ改善について弱い推奨となったのみであった.2016年デンマークのKohbergらはIPF患者に対するオピオイド使用についてレビューを試みた12が,IPFのみを対象としたものが1論文,IPFとCOPDを含むものが1論文のみであった.前者においてモルヒネ皮下注 2.5-5 mgによって呼吸困難は 100 mm VAS(MCID 9 mm)で 50 mm減少した.後者では開始時 10 mg,最大 30 mgのモルヒネ内服によって呼吸困難は 100 mmVASで 17.5 mm減少し3ヶ月維持された.2017年Matsudaらは後向き研究で25名の特発性間質性肺炎患者に対してモルヒネ開始前,2時間後,4時間後で評価したところ,呼吸困難は4時間後で有意に低下したが呼吸数は変化しなかったと報告した13. 2018年BajwahらはスウェーデンでHOTを開始された線維化性間質性肺炎患者のベンゾジアゼピンとオピオイド使用に伴う安全性についてのコホート研究を報告した.1603名のうちベンゾジアゼピンは12%,オピオイドは15%に使用されたが,これらと入院増加との関連は全体では認めなかったが,高用量と低用量のベンゾジアゼピン間では差が認められた.一方高用量オピオイド(モルヒネ換算 30 mg/日以上)と低用量の間では差を認めなかった14

以上のように間質性肺炎におけるモルヒネの全身投与は息切れ軽減の緩和ケアとして有効かつ安全である可能性が示唆されるが,現時点では前向きのランダム化試験がなく推奨できるレベルではない.ただし「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン」15では1Bの強い推奨であることを考慮すると,非がん患者でも個々の症例で注意深く観察しながら試みて良いと考えられる.その他の薬剤やその他の間質性肺炎に関連する咳嗽,うつ,倦怠などの症状緩和に関する薬物療法の成績は今のところほとんど報告されていない.

b) リハビリテーション

2013年英国Bajwahらのメタアナリシスでは,線維化性間質性肺炎の症状とQOL改善に関して呼吸リハビリテーションのみが呼吸困難の改善について強く推奨された16.また2014年のコクランレビュー17では,それまでのランダム化比較試験のメタアナリシスとしてリハビリテーションがIPFの呼吸困難と6分間歩行距離の改善に有効とされた.2014年Ryersonらは前向きコホート試験でリハビリテーションプログラムが6分間歩行距離,QOL,呼吸困難,うつなどを改善し,6ヶ月の長期に渡ってそれらが維持されることを示した18.また2017年Dowmanらも大規模ランダム化比較試験において,8週間のリハビリテーションが6分間歩行距離,QOLを改善し,前者は6ヶ月後も効果が維持されたことを報告した19.したがってリハビリテーションは現時点でもっとも有効性のエビデンスのある間質性肺炎の緩和ケアと考えられ,広く推奨されるべきである.

c) 酸素療法

IPFに対する酸素療法のエビデンスは乏しく,安静時,労作時,睡眠中の低酸素を回避することが死亡リスクの低下に繋がるかは今のところ明確にされておらず,現状ではCOPDのデータを外挿して推奨されているに過ぎない20.ただし間質性肺炎は労作時に著明な低酸素血症をきたすことが特徴の一つであり,これを回避することが運動耐容能の改善につながる可能性が考慮される.2016年のコクランレビューでは間質性肺疾患の労作中の酸素吸入に関するランダム化比較試験は3つしかなく,そのうち一つのみが有効性として運動持続時間の延長を示したが,6分間歩行距離やQOLなど他のアウトカムでの有効性は示されていない21.ただしいずれの試験も労作中に完全に低酸素血症を防ぐことのできた介入はない.2018年Viscaらは6分間歩行中にSpO2<88%となるが安静時低酸素血症はない線維化性間質性肺炎患者に,2週間ずつ6分間歩行中のSpO2>90%を確保できる酸素流量(max 6 L/min)の酸素と同流量の空気によるクロスオーバー試験を行い,呼吸困難やQOLの有意な改善を示した22.近年使用されるようになった高流量鼻カニュラ(HFNC)酸素療法は,FiO2 100%までの高濃度酸素を十分な加湿下で非侵襲的に投与できる呼吸管理法であり,解剖学的ウオッシュアウト効果によってIPF患者でも呼吸数や分時換気量低下をもたらす23.したがって間質性肺炎患者の労作に十分な酸素供給に加えて更なる呼吸困難軽減が期待でき,労作やリハビリテーションを進める際に役立つ可能性がある.

d) チーム医療

英国Higginsonらは多職種の専門家が呼吸ケア,理学療法,作業療法,および緩和ケアの評価と実施を統合して行う「息切れ支援サービス」(breathlessness support service)は,間質性肺炎を含む治療抵抗性の進行期患者の呼吸困難克服(mastery)に有効であることをランダム化比較試験で示した24.また同時にCOPDと間質性肺疾患患者では生命予後の延長が認められた(図3).Bajwahらは専門看護師による地域の緩和ケア症例検討会が,進行期肺線維症患者の症状緩和とQOL改善に役立つことを1施設のランダム化比較試験で示した25

図3

「息切れ支援サービス」24による予後の改善

間質性肺炎は疾患進行や症状,予後の予測困難で,患者および家族の理解や受容が困難であり,これらの結果から多職種の専門家からなるチームが患者および介助者とともに検討しながら関わることが緩和ケアにとっては重要である.

3. 事前意思決定のタイミング

前述の北海道スタディでは日本人のIPF死因の40%は急性増悪である.急性増悪は疾患進行のあらゆる過程で発症する可能性があり,しかもその予測は困難である.そのため十分な説明や事前意思決定支援のないまま病院での急性期治療が開始され,そのまま呼吸困難緩和や鎮静を求められる状況に進展しやすい.間質性肺炎患者がそのエンドオブライフをどこで過ごしたかについて,フィンランドのコホート研究では病院80%,自宅13%,ナーシングホーム5%,ホスピス2%であり,最終末1週間の処置として全体の29%にNIV,49%に輸液,66%に抗生剤投与がなされていた26.日本のデータで明らかなものはないが,それ以上の急性期治療の中で死亡している可能性は十分にあると考えられる.しかし悪性疾患同様に進行が明らかあるいは十分に予測される全ての間質性肺疾患患者について,治療の限界や終末期の呼吸管理,死を迎える場などエンドオブライフも含めた事前意志確認(ACP)の場が提供されるべきであり8,比較的病状の安定したどこかの時点で考慮しなければならない.そのための理想的なタイミングは画一的に決められず,絶えず病状や疾患進行を評価しながら多職種での患者および家族との関わりの中から検討していかなければならない.間質性肺炎において想定されるタイミングは,治療にも関わらず肺機能や運動耐容能の低下が明らかとなった時,在宅酸素療法が導入された時,急性増悪を来したあと回復した時などである.

4. エンドオブライフケア

エンドオブライフケアが必要となる最終末時点がいつであるかの判断は必ずしも容易ではない.るいそうやADL低下が進んだPS不良の明らかな状態での悪化ならば容易かもしれないが,PS良好のまま急性増悪をきたしたような場合は回復の可能性も有していて判断は困難である.後者の際は仮に事前意志確認ができていても改めて患者および家族への確認が必要である.その際も事前に内容説明ができておれば再確認も進めやすい.IPFの急性増悪は挿管人工呼吸を行なっても予後不良であることが知られており,一度挿管したのちの抜管は意思疎通や手技の面で容易でなく,NPPVもしくはHFNCまでの管理となることが多い.一方NPPVは使用目的を熟慮して用いる必要がある.Curtisらの示したカテゴリー27に従って,例えば挿管しない範囲で生存期間を延ばす目的で使用するカテゴリー2であれば,さらなる悪化を認めた場合は症状緩和目的のカテゴリー3へ変更する.NPPVによる苦痛が強い,もしくはコミュニケーションが取れないような時はNPPVを中止すべきである.NPPVは非侵襲的とはいえ,長時間マスク装着による苦痛や,意思疎通,経口摂取や口腔ケアの困難さが持続する点は注意すべきで,これらNPPV継続に伴う苦痛緩和のために鎮静剤を使用するのはカテゴリー3として適切でない.HFNCはIPFを含むDNI症例の呼吸管理の選択肢の一つとして以前より報告28されていたが,Koyauchiらは間質性肺疾患の呼吸不全でDNIとなった患者において,HFNCは有害事象が少なく死亡までの食事摂取と会話が長く維持できたことを単施設後ろ向き研究で示した29.いずれの呼吸管理法であれ呼吸困難が持続するのであれば緩和目的でオピオイドや鎮痛剤の全身投与が考慮されるが,ItoらはHFNCの導入により間質性肺炎急性増悪時にNIVの選択が減少し,それとともに院内死亡率の減少と鎮痛鎮静剤使用の減少を認めたと報告した30

わが国において間質性肺炎のエンドオブライフを自宅やホスピスで行う環境整備は未だ手つかずの状態である.患者の意思を尊重して個別の看取りを可能にするには今後患者のサポート体制や診療報酬を始めさまざまな体制整備が必要である.

結語

間質性肺炎の緩和ケア,終末期ケアに関する諸問題をレビューした.疾患進行を抑制する薬物療法とともに緩和ケアは早期から患者のQOL維持のために必要であるが,その内容に関するエビデンスは薬物療法,非薬物支持療法のいずれもが不足しており,今後の研究による進展を待たねばならない.しかしながらリハビリテーションおよび多職種の専門家による包括的支援チームの介入はすでに有効性が示されつつあり,わが国でも積極的な取り組みが求められる.エンドオブライフについての事前意思確認は必要との一般的認識であるが,その実施のタイミングについては慎重な判断が必要であり,多職種の専門家による関わりの中で患者および家族との良好な信頼関係と対話の中で形成可能である.最終末期のケアについては,エンドオブライフであることの判断とコードステータスの合意形成が重要である.呼吸管理法の選択においては酸素化などのバイタル維持ではなく,症状緩和とコミュニケーションの維持であることを優先しなくてはならない.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

富井啓介;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム),研究費・助成金(帝人ファーマ,フィリップス)

文献
 
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