The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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The effect of comprehensive pulmonary rehabilitation on dyspnea in the terminal patients with COPD
Takanobu ShioyaYoshino TeruiMasahiro SatakeAtsuyoshi KawagoshiKeiyu SugawaraHitomi Takahashi
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2020 Volume 29 Issue 1 Pages 62-68

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要旨

COPDの終末期には,呼吸困難,疲労感,咳嗽,身体疼痛など様々な症状をきたし,この終末期の症状の中では,呼吸困難が最もその頻度が高く辛い症状である.

COPDの終末期の呼吸困難の対策として,Rockerらの三段階の対処法がある.第一段階の呼吸困難に対しては,COPDガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬に運動療法,酸素療法の増加を図る.続いて,第二段階の呼吸困難に対しては,活動ペースに合わせた呼吸リハビリ,口すぼめ呼吸などを行う.第三段階の呼吸困難に対しては,緩和薬物療法として,モルヒネの容量調整と抗不安薬の併用を行うというものである.

呼吸リハビリは,多次元的医療サービスを多くの職域にわたる専門家チームの協力によって提供する医療介入システムであり,プログラムとしては,運動療法,呼吸筋トレーニング,栄養療法などを提供する.現在のところ,COPDの終末期の呼吸困難の対策としての確立した包括呼吸リハビリ・プログラムはないが,最近,我々が経験した重度COPD事例を対策の一助として紹介する.

終末期COPDにおける呼吸困難の対策として呼吸筋トレーニングを含んだ包括的呼吸リハビリが有用であると考えられるが,今後,多施設多数例における臨床研究によるエビデンスの構築が必要と考えられる.

はじめに

COPDでは,増悪による入院が繰り返されるようになると,著しい呼吸困難ととともにQOLが低下していき,骨格筋の廃用性萎縮と低栄養が進行する1,2,3,4.終末期には呼吸器症状に加えて,疲労感,睡眠障害,るい痩,うつ状態,せん妄状態が生じてくる.実際,COPDの終末期には,呼吸困難,疲労感,咳嗽,身体疼痛など様々な症状をきたし,終末期の症状の中では呼吸困難が最もその頻度が高く辛い症状であることが報告されている2,3.こうしたことから,COPDの終末期においては呼吸困難の対策が中心的な課題であるにもかかわらず,その対策は十分でないのが現状である5,6,7

呼吸困難の発生メカニズム

呼吸に際して生じた刺激は,気道や肺,胸壁の受容器や呼吸化学受容器などを活性化し,迷走神経,横隔神経,肋間神経などを介して脊髄,延髄,高次脳に感覚のフィードバックを行う8.また,胸郭の筋肉や腱にある機械刺激受容器(mechano-receptor)も,呼吸困難に係わる感覚受容器として存在し,そのシグナルは脳へ投射される.殆どすべての肺の受容器からの出力は迷走神経を介して中枢神経系に伝達される8,9.こうした肺や胸郭などからの感覚情報に対して,中枢神経系から呼吸筋へ運動の出力情報が送られ,呼吸筋へ出力された運動指令(motor command)と受容器から入ってくる求心情報との不均衡差が呼吸困難という感覚として生じる(図19.近年,こうした不均衡を感知する大脳活性化部位についてのfunctional MRI(fMRI)を用いた研究が多く行われてきており,呼吸困難を感じている時には,前帯状回皮質,後帯状回皮質,島皮質(前および後方),縁上回,一次運動野,運動前野,角回など,多くの部位が,活性化あるいは不活化のネットワークで繋がっていることが報告されている10,11.さらに,最近,呼吸リハビリ後には,呼吸困難の軽減と共に,これらの部位のネットワークの繋がりが改善することが確認されている(図212

図1

呼吸困難に関与する遠心性シグナルと求心性シグナル(文献9)より引用)

図2

呼吸困難時の大脳の活性化部位(fMRI) リハビリテーション前後の変化(文献12)より引用) a)呼吸困難に対する反応(wB) b)不安感に対する反応(wA)

M1: primary motor cortex, OFC: orbitofrontal cortex, ant-In: anterior insula, V: visual cortex, M1: primary motor cortex, PC: precuneus cortex, LOC: lateral occipital cortex, ACC: anterior cingulate cortex, vmPFC: ventromedial prefrontal cortex

終末期呼吸困難の種類と対処方法

COPDにおいては終末期に至ると呼吸困難,疲労感,咳嗽,身体疼痛など様々な症状をきたすが,その中でも呼吸困難が最も頻度が高くまた辛い症状であり,また対応が困難であると報告されている4,5

呼吸困難のメカニズムに関するATSの方針(position paper)においては,COPDにおける呼吸困難は,「呼吸に伴う主観的な経験であり,その生理学機序は複雑である」と定義されている13.呼吸困難は多くの経路を介し大脳の多くの部位をネットワークで活性化することから,呼吸困難の症状は様々に表現され,その症状により様々なサブタイプに分類される(表114表1には,呼吸困難感の種類(type of dyspneic sensation),起源(origin of dyspneic sensation),典型的な呼吸器疾患(example of disease),治療法(possible treatment)についてまとめて示されている14.それぞれの対処法のなかでは,気管支拡張薬をはじめとして,CPAP,NIV,IMV,HFNTなどの呼吸補助機器を用いたセッティング方法やオピオイドを用いた方法などが,それぞれの呼吸困難感のサブタイプ別に紹介されている14.呼吸困難の対処法として非薬物療法も取り上げられており,その中で,歩行補助具の使用,胸郭の振動法,気晴らしのための音楽療法,扇風機などが紹介されているが,呼吸リハビリ・アプローチについての詳細な記述はない14

表1 呼吸困難のサブタイプ(文献14)より引用)

一方,終末期COPDの緩和ケアの中で,呼吸困難に対する三段階の対応が提言されている(図33.この中において,まず,第一段階の呼吸困難の持続あるいは悪化に対しては,COPDガイドラインに基づいた最適な気管支拡張薬に運動療法,酸素療法の追加が行われる.続いて,第二段階の呼吸困難の持続あるいは悪化に対しては,活動ペースに合わせた呼吸リハビリ,口すぼめ呼吸,ファン,リラクセーション手技などが行われる.最後に第三段階の許容できるレベルの呼吸困難に対しては,緩和薬物的手段として,モルヒネの容量調整と抗不安薬の併用を行うことが記述されている4

図3

終末期COPD呼吸困難のマネージメント(文献3)より引用)

呼吸リハビリテーション

日本における最新の呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)・ステーテメントでは,「呼吸リハビリとは,呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自分自身で管理して,自立できるよう障害にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入」と定義されている15.呼吸リハビリは,患者評価にはじまり,患者・家族教育,薬物療法,酸素療法,理学療法,作業療法,運動療法,身体活動などの種目をすべて含んだ包括的な医療プログラムによって行われる(図416.さらに,包括的呼吸リハビリは,患者およびその家族に対して,多次元的医療サービスを多くの職域にわたる専門家チームの協力すなわち学際的医療チームによって提供する医療介入システムである.呼吸リハの実践プログラムとしては,患者教育,呼吸理学療法,運動療法,呼吸筋トレーニング,栄養療法などが提供される17,18.呼吸リハビリの効果のエビデンスとしては,呼吸困難の軽減と運動耐容能の向上,健康関連QOL,ADL,抑うつ・不安の改善,身体活動性の向上が明らかになっている19,20.現在のところ,終末期COPDにおける呼吸リハビリのエビデンスは示されていないが,呼吸リハビリは呼吸困難の改善や抑うつ・不安に対する効果が明らかであることから,終末期COPDの患者にも是非提供されるべきであると考えられる.

図4

包括的呼吸リハビリテーションの構築(文献16)より引用改変)

以下に,我々が経験した終末期COPD患者に,入院呼吸リハビリを実施しその効果が著明であった最近の事例を提示する.

事例紹介

症例:68歳,男性.

現病歴:20XX年○月△日呼吸リハ外来受診時に体動困難な状態であったために,呼吸リハ目的で入院となった.併存症;高血圧(3年前),慢性心不全(3年前),左膝OA(2年前),慢性胃炎(1年前).患者背景;外来呼吸リハ通院1回/4週,HOT導入中(1 L/m),自宅ではトイレ以外は殆どベッドで臥床生活.これまで,3度増悪で入院の既往がある.

身体所見:血圧130/80,脈拍 102 bpm,やせが目立ち,吸気時にフーバー兆候が認められる(図5A).心雑音,肺ラ音は聴取しない.神経学的な異常は認められない.

検査成績:Alb 3.2 g/dlと低下している以外,血液・生化学検査に大きな異常値は認められない.

呼吸機能検査(12/16/18):VC 2.45 L(%VC 64.66%),FVC 2.22 L(%FVC 58.6%),FEV1 0.61 L(%FEV1 20.7%),FEV1/FVC 16.0%,動脈血ガス;PaO2: 87.8 mmHg,PaCO2: 39.8 mmHg,pH 7.38,HCO3: 23 mEq/L(O2 1 L/min 吸入中).

栄養評価:身長:160.3 cm,体重:43.5 Kg,IBW: 56.3 kg,%IBW: 77.0%,BMI: 17.1 kg/m2,FFMI: 14.3 kg/m2,AC: 2 1.2 cm,TSF: 4 mm,AMC: 19.8%,Harris-Benedict; BEE: 1,239 kcal,TEE: 1,933 kcal,実測REE: 1,368 kcal(簡易熱量型による測定),SGA:中等度不良,食事内容; 常食:2,200 kcal(蛋白 90.5 g,脂質 60.1 g,糖質 32.4 g).

呼吸リハビリ介入:栄養評価としてかなりの低体重でやせが目立ち,TEEよりも多いエネルギー量を摂取していたが,食事だけからでは必要エネルギーが摂取しにくくなっていたため,1日の食事に補助栄養食品(メイバランスTM 100 Kcal 3回/日)を追加した(図5B).

まず,電気制御式呼吸筋トレーニング機器POWERbreathe KH2PTM(パワーブリース社製,英国)を用いて,負荷圧 15 cmH2Oで頻度10回×1日2回の低強度低頻度から始め,少しずつ強度および実施回数を増加して実施した(図5C21.呼吸理学療法としては,ベッドサイドにて呼吸介助を実施した.運動療法としては,ベッド上あるいは車椅子座位にて両下肢に重錘をまき下肢筋力トレーニングを1日2回実施した(図5D).自力歩行は強度の呼吸困難で不可能であったため,歩行前にメプチンエアTMのアシストユースを行い,酸素流量 3 L/分吸入下に歩行器を用いて歩行訓練を開始し,次に,自立歩行訓練を実施した(図5E).その結果,入院時にはまったく歩行ができなかったが,呼吸困難の改善とともに入院第28病日には2分間歩行距離が 55 mまで延長した(図6).さらに,身体組成では大きな改善は認められなかったが(図7),理学療法評価では,WBI,10 m歩行速度,2分間歩行距離,最大吸気圧,TUG,CATに明らかな改善が認められたために自宅退院となった(図8).

図5

終末期COPD患者に対する呼吸リハビリテーションの処方内容(自験例)

A:胸壁にみられたフーバー兆候

B:通常の食事に栄養補助食品の追加

C:POWERbreathe KH2PTMを用いた呼吸筋トレーニング

D:重錘を用いての下肢筋トレーニング E: 酸素吸入下の歩行訓練

図6

呼吸リハビリの継時的効果(自験例)

図7

身体組成の変化(自験例)

BMI: Body Mass Index;体格指数

図8

理学療法評価の変化(自験例)

WBI: Weight Bearing Index;体重支持指数 下肢筋力/体重

10 m gait speed: 10 m歩行速度

2MWD: 2 minute walking distance;2分間歩行距離

PImax: Maximal inspiratory mouse pressure;最大吸気圧

TUG: Timed up and go test:

CAT: COPD assessment test

本事例は,重度COPDで終末期にある患者に対して,入院にて包括的呼吸リハビリとして栄養療法,歩行訓練,呼吸筋トレーニング,下肢筋トレーニングなどの種目を実施した結果,労作時の呼吸困難の軽減により自力歩行が可能になり,自宅へ戻ることができた症例である.本症例は,終末期COPDにおける呼吸困難の対策として呼吸筋トレーニングを含んだ包括的呼吸リハビリの有用性を示唆しているが,今後,多施設多数例における臨床研究によるエビデンスが必要と考えられる.

まとめ

COPDの終末期には,呼吸困難,疲労感,咳嗽,身体疼痛など様々な症状をきたし,終末期の症状の中では呼吸困難が最もその頻度が高く辛い症状である.終末期COPDにおける呼吸困難の対策として呼吸筋トレーニングを含んだ包括的呼吸リハビリの有用性が示唆されているが,今後,多施設多数例における臨床研究によるエビデンスの構築が必要と考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文の発表内容に関して特に深刻すべきものはない.

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