The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Oral Frail and Sarcopenia of the COPD, association with dysphagia
Yoshiaki OotsukaSatoru IshikawaMasashi SaitouTakao SaitouKeiko OomoriYasuko ShibuyaTakahiro SatoMasayuki Hasegawa
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2020 Volume 29 Issue 1 Pages 69-74

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要旨

呼吸器疾患患者の中でも慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)には嚥下障害が高率に併存し,増悪と嚥下障害との関連が指摘されている.一般的に,呼吸と嚥下は文字通り表裏一体の協調関係にあるとされ,切り離しては考えられない.嚥下筋は呼吸中枢からの制御を受けて呼吸と協調した運動をするが,COPDでは呼吸のサイクルが増し,呼気が短くなることから異常な嚥下反射が起こりやすくなると考えられる.そのため嚥下障害の特徴を踏まえたうえで対応することが望まれる.一方,フレイル・サルコペニアを考えたときにオーラルフレイルから咀嚼障害や嚥下障害に移行しないようにしなければならないし低栄養に陥らないようにもする必要がある.

そこで,本報告はCOPDのオーラルフレイル・サルコペニア,嚥下障害との関連,および包括的な嚥下リハビリテーションの介入でCOPD増悪の頻度を低下できた症例を提示する.

フレイル・サルコペニアとの関係

患者が入院しその経過について,オーラルフレイル概念図1図1)を参考に考えてみる.quality of life(QOL)・生活機能が低下するにしたがって疾患(多病)・多剤の割合が増加する.例えば,病気になることでヒトとのつながりの希薄化,心理面の変化,意欲の低下が始まり,口腔に関する健康リテラシーの欠如が大きくなる.そして低栄養に陥っていく.一方,口腔機能の軽微な衰え,例えば噛めない食品が増え滑舌の低下などから咀嚼機能・咬合力低下,口唇・舌の機能低下などが生じる.これらは検査で可視化でき「オーラルフレイル」と称されようになった.「オーラルフレイル」は,身体的なフレイルを起こす要因と関連づけられサルコペニアのリスク因子ともなっている.

図1

オーラルフレイル概念図

特に,慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)のフレイル・サルコペニアを考えたときにオーラルフレイルから咀嚼障害や摂食嚥下障害に移行しないようにしなければならならず,そのためには医科歯科の連携が重要になってくる.

COPDでは,一般的に糖尿病,心臓病,骨粗鬆症,抑うつ症などの病気を合併すると経過が悪化し,死亡のリスクが高くなる2.歯周病が重度な人はCOPDを5年以内に発症する割合が3.5倍も高く,COPD患者の約4人に1人は中等度以上の歯周病がみられる3.その他には,口腔乾燥により齲蝕が多発し,補綴物が崩壊すると義歯の不具合が起こる.そして咀嚼機能の低下や口腔清掃不良に陥ることで「オーラルフレイル」がより進行していく.このような歯科的問題は治療によって解消することができるが,一度放置されると回復することが難しくなる.また栄養面からみると味覚障害,偏食が進んで,低栄養になることがある.低栄養と咀嚼障害とは関係している.さらに栄養障害は骨粗鬆症や抑うつ症の原因となり,社会への参加意欲の欠乏や運動不足によって全身の筋力低下につながっていく.この段階でもリハビリテーションや栄養指導などで改善することができるが,放置していると嚥下障害によって誤嚥性肺炎を繰り返すことがある.

当院の歯科における調査結果4では,平成26年(2014)度と平成27年(2015)度の2年間に当院の嚥下チームが介入した患者(146名)のうち歯科へ依頼のあった患者の中に呼吸器疾患は54%(12名),COPDはその半数を占めていた.歯科依頼内容は,義歯不具合が最も多く次に口腔清掃ができていない,齲蝕や動揺歯がある,補綴物が壊れたなどであった.治療は,義歯調整・修理,義歯適合処置,歯口清掃,歯石除去を施した.結果は,口腔内状態が改善して食形態の変更に結びつき栄養摂取量が増え,口腔ケアの継続中に発熱することなく経過でき病状は軽快し退院した(表1).このように,歯科的アプローチはオーラルフレイルおよびCOPD増悪の予防に繋がったものと考えられる.

表1 歯科依頼から処置内容とその後経緯
歯科依頼内容歯科処置内容介入の経緯
義歯不具合,動揺歯義歯増歯修理,抜歯食形態の変更,発熱なく経過,退院する
義歯不具合義歯床適合法食形態の変更,嚥下訓練を指導,発熱なく経過,退院する
義歯不具合義歯修理食形態の変更,嚥下訓練を指導,発熱なく経過,退院する
不良補綴物,口腔清掃不良義歯増歯修理,歯周処置,補綴物除去食形態の変更,発熱なく経過,退院する
義歯不具合,口腔清掃不良義歯調整,歯周処置義歯調整後,発熱なく経過,退院する
口腔清掃不良,齲蝕歯周処置,充填処置食形態の変更,嚥下訓練を指導,発熱なく経過,退院する
(COPD患者6名)

嚥下障害との関係について

まず口腔の問題と嚥下障害について,Feinberg5は嚥下障害で誤嚥のあった50例(内訳は認知症,脳卒中,廃用性症候群,パーキンソン病,その他)の口腔のみ,口腔と咽頭,咽頭のみのどこに異常があるかを調べた。これによると,特に脳卒中では咽頭の異常だけよりも口腔ないし口腔と咽頭の両方に異常があるものを加えた方が圧倒的に多かったと報告している.そしてどの症例においても口腔期において異常があるものは,ほぼ全例が誤嚥を生じていた.

COPDと嚥下障害による誤嚥の原因について,COPD患者の78名に嚥下造影検査(以下VF)をおこなった報告では,85%に何らかのレベルの嚥下障害があり56%(44名)に誤嚥を認めた.これには不顕性誤嚥が多い.咳嗽などのCOPDの呼吸器徴候は,VFによって診断された嚥下障害の顕在化した症状と考えるべきだと指摘している6

さらに藤谷は,COPD患者の多くが,指摘されるまで摂食・嚥下機能の低下に気づいておらず,急性増悪で入院するような症例では,座位自体が継続困難となり摂食姿勢自体が不良になっている.そして口腔咽頭での食物の送り込み圧が低く,咽頭においては収縮力の低下もあり,かつ粘膜下組織の体積低下のために咽頭内腔径は広くなる(図2).また,咽頭から食道への絞り込み圧も低く,食道入口部開大時間の短縮なども重なって残留が多くなる.そのために複数回嚥下がみられ,残留に伴って嚥下後誤嚥がみられる.咳反射があっても喀出力があっても喀出圧が低くて喀出しきれないことがある7と述べている.

図2

安静時のVF画像.咽頭内腔径の拡張:側方透視下で椎体前後径(a)より咽頭前後径(b)の方が大きい場合.

次にCOPDでは呼吸のサイクルが増して呼気が短くなることについて寺田ら8は,日本人のデーターで異常な嚥下反射はCOPDでしばしば見られCOPD増悪を起こしやすい傾向があると指摘した.

呼吸と嚥下筋との関係から咽頭筋および内喉頭筋が呼気に連動した活動をする.また多くの舌骨上下筋群および咽喉頭筋が呼吸中枢からの入力刺激を受けて潜在的な横隔膜の収縮・弛緩と同調した周期的筋活動をしている9,10

さらに呼吸と嚥下の協調についてMiller11が調べたものによれば,吸気の終わりころに嚥下反射が起こりその後吸気にならないで即呼気に移っている.一方吸気から呼気に変わって呼気の終わりごろに嚥下反射が起こり,終わった後の呼吸の再開時に呼気の残りが最初に「ホッ」と出てから吸気に変わって呼気になる.いずれも嚥下後に呼気相となっていた(図3).また,小宮山12は,嚥下時の無呼吸後に吸気と呼気でどちらから開始するかを調べたものによると,嚥下後に90%以上が呼気相となり,誤嚥のある症例では嚥下後,吸気になる傾向が高いことを示していた.

図3

嚥下と呼吸との協調関係

上段は舌骨上筋群の嚥下時の筋電図(EMG)波形,

中段(胸部)と下段(腹部)の呼吸波の波形,上昇が吸気,下降が呼気.

実際に肺炎発症したCOPD(鼻カヌラ装着)87歳男性のVF画像でみてみる.患者は口呼吸の習慣があり,咽頭内腔径に拡張の傾向もあった.強く長く吸おうとして吐く力が短く弱くなり呼吸のサイクルが増していた.その時に舌骨上下筋群と咽喉頭筋が緊張・弛緩を繰り返しながら,口腔から咽頭に食塊が早期に流入していた.嚥下時には喉頭挙上が不十分,鼻咽腔閉鎖の不良,食塊移送と咽頭収縮も弱く,内圧が早期に低下,食道入口部の開大時間も短くなって咽頭に残留していた.このように呼吸サイクルが増すことで,嚥下が吸気開始時に重なるようになるため嚥下後に喉頭侵入や誤嚥などを呈する危険性が高くなったものと考えられる.

包括的嚥下リハビリテーション介入例

嚥下障害を含む成人肺炎患者では,口腔ケアによる肺炎発症の予防効果が示されている13が,嚥下訓練の有用性は未だ明らかにされていない.そこで,多職種で摂食機能療法を含む包括的なアプローチに取り組んだ症例を報告する14

1. 対象および方法

68歳男性,非常に強い息切れがあり,起座呼吸,咳嗽,食欲低下を主訴に呼吸器内科に来院.現病歴は,ここ数年間夜間起座呼吸がひどく起座位で寝ていた.入院の4,5日前から咳嗽が出現し,食事が取れなくなっていた.5年前にCOPDのstageIII期と診断され禁煙中.BMI 15.8kg/m2るい痩,呼吸数増加23回/分,SpO2 89%.口腔内状態は,動揺歯,歯口清掃不良,う歯による補綴物崩壊,欠損歯の放置による義歯不適合があり義歯増歯修理が必要な状態であった.

2. 各種検査結果

1)臨床検査結果は,血算値は,好中球中心の白血球増加,血清CRP値の増加.血液ガス分析では,PaCO2は50.6程度のII型呼吸不全.呼吸機能検査では,混合性換気障害で,対基準一秒量は20.7%で病期はCOPD stageIV期であった.

2)入院期間中の血清CRP値と胸部X線写真との関係は,初回の血清CRP値は6.87㎎/dl,胸部X線とCT検査では肺野の透過性が亢進しており,末梢血管影の細小化,横隔膜平低化がみられ,CT像では気腫性の変化がみられた.その後の増悪は第68病日CRP値1.77,第75病日7.54で左下肺野に肺炎像,第103病日2.0で同じく左下肺野に肺炎像がみられたが,後軽快に推移,第145病日0.08となり退院した.

3)嚥下造影検査の結果は,咽頭内腔径の拡張がみられ,食塊移送時の鼻咽腔閉鎖の持続時間が短く又は弱かった.そして咽頭収縮も弱く一気に下咽頭に食塊が送り込まれていた.固形物,液体ともに梨状窩と喉頭蓋谷に残留していた.液体ではわずか喉頭侵入をみとめたが,明らかな誤嚥はなかった.

3. 臨床介入の方法(図4

1)呼吸リハビリテーションは,口すぼめ・腹式呼吸,自力排痰,運動療法等を行い.呼吸管理には,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)と酸素吸入を実施した.

2)栄養管理(食形態の調整)は,当初は常食に全粥であったが,歯科治療開始に伴って食べやすい7分菜へ変更,治療中に常食の1口大,治療を終える頃には全粥から米飯へと変更された.再度増悪がみられ誤嚥の疑いがあり食形態の変更のためにVFを実施した.検査後には,ペースト食,軟飯に変更した.

3)口腔ケアは,歯科によるプロフェショナルケアとセルフケアには電動歯ブラシの使用を指導.

4)歯科治療は,「左下奥歯が痛く噛めない」との訴えがあり,処置内容は歯口清掃,歯石除去,機械的歯面清掃から開始し,不良補綴物除去,動揺歯および残根歯5本の抜歯,補綴物の再作成と上下顎義歯増歯修理を行った.

5)嚥下チームによる介入,直接訓練は,喉頭侵入を防ぐために嚥下後に呼気からスタートできるように意識下嚥下を指導.咽頭残留を少しでも回避するためにうなずき嚥下,交互嚥下を指導.間接訓練には嚥下体操,舌可動域訓練,ブローイングなどを実施した.嚥下チームが介入してからは,栄養状態が安定して,総蛋白,アルブミン値は大幅な変化なく経過できていた(図5).

図4

臨床介入経過

上段は呼吸リハの介入経過,中段は栄養管理についての介入経過,

下段は歯科治療および口腔ケアの介入経過.

図5

臨床経過

右上段はNST・嚥下チームの介入経過,下段には栄養状態の改善の様子.

4. 考察

多職種による包括的な摂食嚥下リハビリテーション活動によって続発性の呼吸器疾患の発症や増悪を予防し,軽快したことで退院を迎えることができた.このように入院直後から歯科による咀嚼機能の回復と口腔ケアを含めた包括的な呼吸リハビリテーションが行われた.しかし,途中でCOPD増悪がみられたものの,その後摂食嚥下リハビリテーションを強化してからは,栄養状態が安定し経過できていた.したがってCOPDのサルコペニアの進行を予防することもできたものと考えられる.

結語

COPDのオーラルフレイル・サルコペニアと嚥下障害との関係については,医科歯科の連携は欠くことができないものと考えられる.また臨床現場では多職種による包括的なアプローチこそが,誤嚥性肺炎のリスクを減らしCOPD増悪の予防に繋がるものと考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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