The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
Usefulness of transcutaneous carbon dioxide monitoring and ventilator log analysis for sleep related alveolar hypoventilation disorders in patients with NPPV therapy
Satoshi Abe
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 212-217

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要旨

神経筋疾患と重症心身障害児(者)においては,睡眠呼吸障害が高率に起こる.特にREM(Rapid eye Movement)期に低換気が顕著に表れる.このCAH(chronic alveolar hypoventilation:慢性肺胞低換気)の診断には,換気の指標であるPtcCO2(Partial pressure of transcutaneous carbon dioxide:経皮二酸化炭素分圧)が必須である.睡眠呼吸障害に対してNPPV(Noninvasive Positive Pressure Ventilation :非侵襲的陽圧換気)のモードや設定条件を適切に調整することは睡眠の質を向上させ,CAH症状を軽減し,生命やQOLの改善につながると考えられる.そのためには睡眠時PtcCO2に加え,ログ解析機能を用いて肺胞低換気の評価を補完する.データの経時的変化を,PtcCO2の変化と関連づけて解析することで原因を特定しNPPVの設定条件変更を行うことが重要である.一方,神経筋疾患では,NPPVにより二酸化炭素が過剰に低下すると,上気道閉塞や無呼吸を惹起し,SpO2低下を認めることがあり注意が必要である.

このように,必要なデータを定期的に評価し,NPPV条件を適正化する人的,物的資源が求められる.

緒言

神経筋疾患患者や重症心身障害児(者)においては,覚醒時に先行し,睡眠時に呼吸不全が出現する1.この睡眠呼吸障害に対して,NPPVを行う際,覚醒時の血液ガス値に基づいてNPPV条件を調整しても,睡眠時にSpO2やCO2が悪化したり,人工呼吸器のアラームが頻回に鳴ることもある.本項では,神経筋疾患や重症心身障害児(者)における睡眠時の低換気の診断と治療の特徴について,睡眠時PtcCO2およびSpO2と人工呼吸器のログデータを用いて考察する.

当院における実際の症例

【症例】21歳男性.先天性ミオパチー.19歳より睡眠時NPPV使用中.夜間の不眠を訴え入院.

調整前NPPV条件:開放型(リーク)換気,モード=S/T,IPAP=18 hPa,EPAP=4 hPa,吸気時間=1.8 s,呼吸回数=13,トリガ=機器による自動検出設定,フルフェイスマスク使用.人工呼吸器のログデータより,睡眠時一回換気量平均(Vte)は約 600 ml.SpO2およびPtcCO2モニターの睡眠時データ(図2)PtcCO2(mmHg): mean=50.3(PtcCO2>55: 13min 23sec),SpO2: mean=96(SpO2<88% 6 sec),PR: mean=82.終夜を通してPtcCO2の値が軽度高値のため,保障一回換気量を設定できる機種に変更を行い,睡眠時PtcCO2およびSpO2を再測定した.

図1

症例の設定調整後のSpO2 およびPtcCO2モニター.PCO2の平均は43.2まで下がり,HRなども低下したが,明け方SpO2の急激な低下がみられる.SpO2が低下する少し前にPCO2が低下していた(破線内).

図2

(a, b)症例の睡眠時における人工呼吸器のログデータとSpO2 およびPtcCO2モニター.図2aの破線は図1破線の時間データで,図2bは破線内の拡大.図2bでSpO2が低下し,PtcCO2が上昇している時間帯に,ログデータで気道内圧の上昇,換気量の低下,呼吸回数の低下が確認された.

調整後NPPV条件:閉鎖型(呼気弁)換気,モード=一回換気量保障付従圧式 圧力 17-25 hPa(目標一回換気量に合わせ可変),PEEP=3 hPa,吸気時間=1.5 s,呼吸回数=13,目標一回換気量=900 ml,トリガ=medium,フルフェイスマスク使用.SpO2 およびPtcCO2モニターの睡眠時データ(図1)PtcCO2(mmHg): mean=43.2(PtcCO2>55: 0 min),SpO2: mean=96(SpO2<88% 4.44 min),PR: mean=74.

患者より「全体的な呼吸は楽になったが,明け方になると必ず目が覚める」と訴えがあった.PtcCO2 の平均値は改善したが,SpO2 の値が明け方にかけて大幅に低下していた(図1).SpO2 が低下する直前にCO2 が下がっていることと,人工呼吸器のログデータ上もSpO2 が低下した時間と同じ時間帯に気道内圧の急激な上昇,一回換気量の低下がみられた(図2).以上より過換気による声帯閉鎖および無呼吸を疑い2,3,NPPV設定を再度調整しなおした.

再調整後NPPV条件:開放型(リーク)換気,モード=S/T,IPAP=18 hPa,EPAP=4 hPa,吸気時間=1.8 s,呼吸回数=13,トリガー=フロートリガー 2.0ℓ/分,フルフェイスマスク使用.SpO2 およびPtcCO2モニターの睡眠時データPtcCO2(mmHg): mean=44.8(PtcCO2>55: 0 min),SpO2: mean=96(SpO2<88% 1.12 min),PR: mean=76.回路を再びリーク換気に戻し,設定はトリガ調整などの細かい調整を行い,マスクのフィッティングや睡眠時の体位など指導を行った.不眠は徐々に改善し,最終的に本人からの訴えはなくなった.

慢性肺胞低換気症状

神経筋疾患においては,呼吸筋力や咽頭,喉頭機能,呼吸中枢の進行性の障害を認め,特にREM睡眠期に,換気量が不十分になる事が知られている4.これに伴うCAH症状は,多彩で気づかれにくい4.重症心身障害児においては,本来肺機能低下を起こす病態ではないが,不動化や筋力低下又は硬直,骨格の変形,呼吸中枢の異常,誤嚥による肺実質へのダメージなどにより,呼吸の問題が起こりやすい5.神経筋疾患と同様,夜間に肺胞低換気を来し易い.睡眠時に肺胞低換気が起きると,昼間にCAH症状が徐々に現れるようになり,介入しなければ患者のQOLや生命予後に影響を及ぼす.このため,睡眠時の肺胞低換気を3つの情報(①生体情報②機器情報③夜間の観察)を用いて早期に発見し,適切な時期にNPPVを導入し,効果的に換気を補うことが重要となる.

生体情報:SpO2およびPtcCO2モニター

睡眠時の肺胞低換気を発見するためには,患者が十分に眠っている状態で,PtcCO2を経時的に測定する必要がある.一般に,睡眠呼吸障害の正確な診断には,終夜睡眠ポリグラフ検査(ポリソムノグラフィー:PSG)が必要とされるが,測定環境が普段の状態とかなり異なるため,検査への理解が難しい小児や重症心身障害児(者)に対して,適切に実施するためには,相当な技術を要する1.このため,比較的簡便に行えるPtcCO2とSpO2の睡眠時の評価でも,日常臨床において十分有用と考えられる6,7.ただし,注意すべき点として,PtcCO2モニターのみでは睡眠のステージまでは判別できないため,浅眠状態と十分に睡眠がとれていると考えられる場合では,データに差が出ることがある(図3).このため,本人,患者家族や看護師に確認し,睡眠時のデータとして評価してよいかを判断する8.さらに,長期間NPPVを施行している患者においては,NPPVで換気を補えているかを確認するために,定期的に睡眠時の評価をする6,7,9

図3

神経筋疾患患者において,別々の日に,同時刻に測定したSpO2 およびPtcCO2モニター.左は浅眠状態で右はそれに比べると深い睡眠が得られていると考えられる状態.

機器情報:人工呼吸器ログ解析

最近の携帯型人工呼吸器には,アラームログ機能だけでなく,専用のソフトウェアを使用した解析が,可能な機種もある(表1).この機能を活用し,SpO2やPtcCO2モニターに問題がある時間帯とログデータを重ね合わせることにより,イベント,起こった事象を推測できる10.例えば,SpO2が低下している時間帯で,圧規定式換気の一回換気量やフローが低下している場合は,換気量不足と推測される.また,リーク量が増加している場合は,気道抵抗の上昇によるインターフェイス周囲のリークや,ネーザルマスク使用例では開口のために圧が低下していることが推察される.一方,基本的にリークの補正がない量規定式換気を使用している場合は,気道内圧の変化により,上気道閉塞や開口を推測できる.また,自発呼吸をトリガしている場合,トリガの割合を確認することにより,夜間の無呼吸をある程度推測できる.同じ時間帯における解析ソフトとSpO2およびPtcCO2モニターのデータを(図4)に示す.

表1 本邦で市販されている携帯型人工呼吸器とログ解析ソフト一覧
機器名称発売元ソフトウェア外部読み出し備 考
TrilogyPHILIPS RESPIRONICSDirect ViewTMSDメモリーカード機器動作中も読み出し可
A40PHILIPS RESPIRONICSDirect ViewTMSDメモリーカード機器動作中も読み出し可
ASTRALRESMEDResScanTMUSB
フラッシュドライブ
機器動作中も読み出し可
VELIA,NIPネーザルVRESMEDResScanTMUSB
フラッシュドライブ
スタンバイ中に読み出し可
PB560CovidienRespiratory
Insight Software
USB
フラッシュドライブ
アラームログ,トレンドはスタンバイ中に読み出し可.動作中にUSBフラッシュドライブを挿入して詳細データ記録可能
VIVO50,60BreasVIVO PC softwareUSB
フラッシュドライブ
機器動作中も読み出し可.詳細波形データ記録可能
Monnal T50,60Air LiquidなしUSB
フラッシュドライブ
専用ソフトなし.本体背部のポートからUSBフラッシュドライブ挿入でデータ(CSV形式)の読み出しは可能
LTV2 2150/2200Care Fusionなし-
VOCSNVENTEC Life SystemMalti ViewUSB
フラッシュドライブ
2018年発売.2020年頃実装予定.日頃の使用状況.波形データ等読み出し可
Newport HT70/HT70PLUSNewport Medicalなし-
図4

(a, b)解析ソフトとPtcCO2モニターの同時間帯の重ね合わせによる原因の検索の一例.解析ソフトでフローの値と一回換気量の値が低下(図4a)しているのと同時刻に,SpO2が低下している(図4b).

注意すべき点は,専用ログ解析機能は,機種によって読み出しが異なることである.例えば人工呼吸器動作中は読み込みができない機種や,フラッシュメモリを挿入して,そこからのデータを書き込んでいく機種もある.また,携帯型人工呼吸器はほとんどシングル回路で,一回換気量表示が画面に1つしか表記されないため,呼気弁を持つ回路(閉鎖型回路)と呼気弁を持たない回路(開放型回路,リーク換気)の回路構成では,一回換気量の表示が異なる.さらに呼気弁を持つ回路においての一回換気量は,吸気一回換気量(Inspiratory Tidal Volume: Vti)表示であるのに対し,呼気弁を持たない回路においては,呼気一回換気量(Expiratory Tidal Volume: Vte)表示である.このため,開口などでリークした場合,Vtiでは増加し,Vteは低下する.これを読み違えると,原因の検索やNPPVの設定変更などに影響が出るため,機種の回路構成,設定条件など,十分な確認を必要とする.

情報の統合

NPPV使用中に胸郭の動き,口からやマスクからのリーク,体位を確認することは重要である.そこで,実際に観察するか,夜間勤務しているスタッフからの報告や,付き添っている家族から情報を得る.実際の観察,生体情報,機器情報の3つを組み合わせることにより,睡眠時に起こっている事象を推察し,NPPVの設定を行うようにする.

NPPV設定調整

睡眠時NPPVの条件設定においては,夜間の低換気に対し,人工呼吸器から送気を行い,良質な睡眠を確保することを目的とする.NPPV条件調整の際,量規定式換気か圧規定式換気の選択は,両方を試し総合的に適切な方とする.Bi-level Positive Airway Pressure(Bilevel PAP)は,呼気弁がなく,現状の携帯型人工呼吸器においては圧の変化がスムーズで,比較的自由に自発呼吸ができるため,小児や理解度が不十分な患者,咽頭や喉頭機能が低下していない患者,肺活量の低下が軽度な患者に好まれやすい11.また,最近,あらかじめ測定した一回換気量に基づき,一定の換気量が得られるように圧を変化させる機能であるDual Control Ventilation(DCV)12が,一部の携帯型人工呼吸器に追加された.夜間の低換気対策として使用している報告もあり1,有用な付加モードと考える.注意点として,在宅用人工呼吸器の機種によってアルゴリズムが異なる13.集中治療用人工呼吸器に搭載されているような高度の制御はできない.Expiratory Positive Airway Pressure(EPAP)やPositive End-Expiratory Pressure(PEEP)など呼気時にかかる陽圧は,最小で良い場合も多い6,7,9,14,15.近年の携帯型人工呼吸器ではより高流量の送気を安定供給することが可能になってきている.このため,下気道へエアが急激に入りCO2が低下した際に,反射的に声帯が閉まり,SpO2低下をきたす事に注意する(図53

図5

睡眠時NPPVにより PtcCO2低下後にSpO2 の急激な低下を認めた例

おわりに

睡眠時NPPVの条件設定調整の実際を,症例を通して概説した.睡眠中の患者の生体情報,機器情報を適切に評価し,NPPVのモードや設定条件の調整を行うことにより,患者の睡眠の質が向上し,CAH症状の軽減につながると考えられた.在宅NPPV患者が増加する中,これらのデータを定期的または必要時に解析し,評価する資源と人材の育成が必要と考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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