The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
Instruction method to multiple occupational types of mechanical insufflation-exsufflation at home: as a local base hospital
Nozomu Katayama
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 222-226

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要旨

機械による咳介助(Mechanical Insufflation-Exsufflation; MI-E)は,咳の代償または咳を増強させる気道クリアランス法である.近年,国内外のガイドラインで,神経筋疾患において非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive positive pressure ventilation; NPPV)とMI-Eを併用した肺・胸郭のコンプライアンスや気道クリアランスの維持など肺の状態を良好に保つ為の呼吸リハビリテーションが推奨されている.当院でも,排痰困難のエピソードや咳機能評価における咳嗽力の著明な低下のあった在宅神経筋疾患・重症心身障害児者に対してMI-Eを積極的に導入しており,それぞれのライフステージにおける生活の質を考慮しながら地域の拠点病院として在宅支援を担っている.ケアを要する患者を取り巻く現場は年齢や地域により様々であり,患者本人のコミュニケーション能力やケアを実際に行う家族の状況,関わる多施設・多職種の専門性を念頭に置きながら連携を図れるようネットワークを広げ,生活する地域の実情に合った医療やケアを考慮することが欠かせない.

神経筋疾患の呼吸リハビリテーション

近年,デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy: DMD)をはじめとする神経筋疾患患者の呼吸ケアとして第一選択となっているNPPVと,その効果をより高めるためのMI-Eの必要性が様々なガイドラインで述べられています.神経筋疾患の呼吸ケアの目的は,気管切開や窒息を回避して生活の質(Quality of life: QOL)を維持しやすいNPPVを有効に使用できるように,肺と胸郭の可動性と弾力を維持し,肺の病的状態を予防すること1と言われ,米国胸部医学会によるDMDの呼吸ケアのコンセンサス・ステートメントでは,徒手や機械による咳介助や最大強制吸気量(Maximum insufflation capacity: MIC)の維持といった気道クリアランスと肺や胸郭の可動性を維持するテクニックを積極的に使用し,終日人工呼吸が必要でもNPPVで気管切開を回避することが推奨されています2.2012年の英国胸部疾患学会(British thoracic society: BTS)の「筋力低下のある小児の呼吸管理のためのガイドライン」では,神経筋疾患においては効果的な気道クリアランスとして徒手による咳介助やMI-Eを行い,咳機能を強化することが重要な役割を果たすと記載されています3.本邦でも,2014年に日本リハビリテーション医学会から「神経筋疾患・脊髄損傷の呼吸リハビリテーションガイドライン」4,2015年に日本呼吸器学会から「NPPVガイドライン」5が出され,神経筋疾患患者のNPPVの効果を高めるために気道クリアランスの維持が必要であると述べられています.また,複雑で単一ではない疾患が多い重症心身障害児(者)においても,安全で効果的なケアを選択するよう常に見直すことが必要とされ,患児(者)と家族のQOLを高めるものであるためには,神経筋疾患のエビデンスや経験,エキスパートの意見を参考にすることが推奨されています6

気道クリアランスの推奨

神経筋疾患の気道クリアランスに関する国際ワークショップが,2017年にオランダで開催され,総説が神経筋疾患と呼吸器それぞれの医学専門誌に同時に掲載されました7,8.そこでは,図1のように気道の中枢側の分泌物の喀出と,気道の末梢側の分泌物の移動の促進に分けており,今後の研究を含めて分泌物の喀出にはMI-Eを推奨する一方,気道の末梢側の分泌物の移動を促す徒手による理学療法および機器については,急性期に必要に応じて使う可能性があるかもしれないという弱い推奨でした.気道の中枢側のクリアランスの評価として,咳のピークフロー(Cough peak flow: CPF),MICを定期的(年1回など)かつ必要時に評価します.CPFは12歳以上では,360~960 L/minが正常値ですが,270 L/min未満では,上気道感染時のように痰の量や粘調度が増した際や食事中の誤嚥に対して,適切な徒手による咳介助やMI-Eを実施しなければ喀出できない可能性があります9,10.さらにCPFが 160 L/min未満になると,日常的に分泌物の喀出が困難となり,窒息のリスクが高まります10,11.CPFが測定困難な年齢(概ね6歳以下程度)や理解度の低い例では,咳が弱いという所見や,排痰困難や反復する上気道感染や長期化・悪化などがあれば咳介助を適応します.CPFの強化のための徒手的な介助方法として,吸気・呼気の介助を行います.吸気介助として,救急蘇生バッグや従量式のNPPVの一回換気量を数回溜めることや,舌咽呼吸(glossopharyngeal breathing: GPB)を行います5,12.呼気介助としては,徒手による呼気時の胸腹部圧迫を行います.これらの徒手による咳介助で十分な効果が得られない場合はMI-Eを導入します(図2).本邦では現在,使用可能なMI-E機器は数種類あり,吸気呼気に連動して振動する機能や,吸気をトリガーして作動するモードも備わっています.MI-E使用時のCPFや一回換気量もモニタリングできるようになり,胸郭の動き,咳の音などの確認と併せて,個々に応じて適切な条件調整が可能になりました.MI-Eの陰圧(呼気)に同調させて胸腹部を圧迫する,徒手介助併用の機械による咳介助(Mechanically assisted coughing: MAC)は非侵襲的な最も強い咳介助になります14

図1

神経筋疾患における気道クリアランスの分類7,8

図2

CPFの評価とMI-Eの適応判断13

在宅患者へのMI-E導入事例

高度医療化や入院日数の短縮化に伴い在宅でも医療的ケアの必要な患者が増加していることから,在宅人工呼吸療法を受ける神経筋疾患患者数は年々増加していることが推測されます.平成24年の診療報酬改定から人工呼吸を行っている入院中の患者以外の神経筋疾患等の患者に限ってMI-Eは保険適応になり,当院でも図3のように在宅にて人工呼吸器を使用している神経筋疾患等患者に対するMI-E導入が増え,平成24~30年の間に42名(男性31名,女性11名)に導入しました.対象疾患は,DMD 20名,福山型先天性筋ジストロフィー5名,脊髄性筋萎縮症(Type II)3名,筋強直性ジストロフィー3名,その他(筋萎縮性側索硬化症,脳性麻痺など)11名,導入時の平均年齢は35.4±16.7歳でした.呼吸器の使用状況は,終日NPPV装着者が7名,夜間または夜間+日中装着者が24名,気管切開患者5名,呼吸器未装着が6名でした.MI-E導入後の平均使用期間は25.4±18.2ヶ月,2018年6月の時点で8割の32名が在宅生活を継続,2名(DMD,ALS)が気管切開へ移行,1名(福山型)が亡くなり,7名の方がご家族の継続的なケア困難,遠方により定期的な通院困難などの理由から当院へ長期契約入院(MI-Eは継続)となりました.Mahedeらの,小児から成人に至るまで在宅でのMI-E使用が普及してきおり,使用している患者家族の3分の1が実際に窒息を回避でき,88%の家族がMI-Eにより呼吸に関する健康状態が向上したと実感している15という報告と同様に,当院でMI-Eを導入して在宅生活を継続している32名全例で,急性増悪により救急搬送されるといったエピソードはありませんでした.実際に在宅でMI-Eを使用する介助者は,ご家族30名,訪問スタッフ10名,本人2名で,ここで言う“介助者”は様々で,ご家族,訪問事業所のスタッフ(往診医,訪問看護師,訪問リハビリ,ヘルパーなど),教育機関(学校に常駐する看護師,養護教諭,担当教諭など)を指します.ドイツの「慢性呼吸不全の治療のための非侵襲的かつ侵襲的な機械的換気に関するガイドライン」16に患者および看護師・介護支援要員を教育し,生活環境を統合することが重要と述べられているように,在宅では多くの方々が関わり,疾患やケア方法についても知識が異なる為,指導方法にも工夫が必要になります.ご家族の方には,当院に入院した際に自宅でのケアを想定して可能であれば宿泊していただき,日中のみならず夜間のケアもひと通り行っていただくようにしています.訪問スタッフ・教育機関への指導に関しましては,当院で様々な職種の方を対象に研修会を開催し,神経筋疾患の呼吸リハビリテーションなどについて知っていただく機会をできる限り設けるようにしています(写真1).対象患者が当院に入院した際には,より実践的な内容を指導する為に来院していただくか,それが困難な場合は,こちらから教育機関や事業所を訪問させていただくなどの対応を取っています(写真2).

図3

年度別 在宅MI-E導入患者数

写真1

在宅・教育機関スタッフ対象の呼吸リハビリテーション研修会

写真2

教育機関にて実際の場面を想定して指導を実施

ここで教育機関において問題になるのが医療的ケアの項目の中にMI-Eの項目がないということです.現時点では学校で行える医療的ケアは特定行為と看護師が実施する特定行為以外の医行為と限られていますが,古くから行われてきた気管切開の吸引に比べて,MI-Eは理解や協力が得られにくいことがあります.特定行為以外の医行為については,基本的に個々の学校において,個々の児童生徒等の状態に照らしてその安全性を考慮しながら,主治医又は指導医,学校医や学校配置の看護師等を含む学校関係者において対応の可能性を検討することとなっている為,当院では,主治医から学校医および学校長へMI-Eの安全性と必要性を十分に説明,および担当PTによるMI-Eの使用方法の指導,使用マニュアルの作成を支援することで学校でも使用していただくことが可能になるケースが出てきました.

おわりに

NPPVなどの長期人工呼吸管理を含めた医療機器を必要とする患児(者)が地域で普通に暮らすためには,医療や福祉,教育など様々なサポートが必要です.しかし,呼吸苦や窒息のリスク,急性増悪による入院などは,これらのサポートの機会を奪い,社会性を失わせ孤立させる要因のひとつです.したがって,効果的な気道クリアランス手段は患児(者)の日常活動のすべてのステージで必要とされています.患児(者)やその家族の状況やニーズに応じて,そして居住する地域にかかわらず,保健,医療,福祉,教育,その他の各関連分野の支援が切れ目なく提供されるシステムの充実が期待されます.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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