The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
Mycobacterial infection: current situation and perspectives “Opening remarks”
Shuji Oh-ishiKozo Morimoto
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 227

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本学会の特徴は,多職種が連携して病院,診療所,訪問看護ステーションや通所施設などの施設内から多施設に跨るチーム医療を構築して,呼吸ケア,呼吸リハビリテーションを必要としている多くの患者さんのADL,QOLの改善に貢献できることである.一方,感染症が一旦発生すると多くの患者やスタッフに影響が及びやすい集団であり,スタッフは常に感染防御・制御に留意すべきである.感染症の中でも,結核はいまなお最も警戒すべき感染症の1つであり,さらに結核との鑑別が問題となる非結核性抗酸菌症は人―人感染は無いものの環境からの感染とされ,マスメディアにも取り上げられほどであり,その対策が急務の疾患である.

日本の結核罹患率は,人口10万人あたり10人を切る低蔓延地域も増えてきているが,2015年統計では14.4/10万人といまだ中蔓延国である.社会の高齢化とともに,結核罹患率は高齢層ほど高く,80 歳以上では70.8となっている.さらに,学校や病院,施設での集団感染事例の報告は後を絶たず,多剤耐性結核など多くの課題がある.加えて,関節リウマチに代表される生物学的製剤などの治療薬に関連した結核の管理など新たな問題も生まれている.近年,診断・管理に使用されるインターフェロンγ遊離試験(IGRA)は,潜在性結核感染症(LTBI)の診断に有用ではあるが,理解しておくべき問題点もあり,実地臨床に生かすために総合的な判断力が求められる.

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)では,減少傾向にある結核とは対照的に,2014年の疫学調査で推定罹患率14.7/10万人と結核とほぼ同程度の罹患率が示され,2007年に比べて2倍以上増加している.日本で治療対象となる肺NTM症は,MAC,カンサシ,アブセッサスがほとんどで,MAC症が全体の90%以上を占める.NTMは土壌,水まわりなどの自然・家庭環境に普遍的に存在しているが感染経路には不明な点も多く,治療に関しても標準治療はあるものの効果は一定せず,また無治療でも経過の良い例が見られるなど解明すべき課題が多い疾患であるが,近年その診断や治療に対して新しい動きが出ている.中でも,北田らによって開発された肺MAC症に対する血清診断法は,その優れた感度・特異度により補助診断法としてすでに臨床現場でも活用されはじめている.

抗酸菌症は,長期の治療を必要とする感染症としてだけではなく,社会の高齢化とともにADL,QOLを低下させる全身性疾患としての面も大きく,呼吸ケア・リハビリテーションの必要度が高く,また集団感染やグローバル化による外国人患者の増加などもあり,社会への負担は今後さらに増大することが危惧されている.

本ワークショップでは,はじめに森本耕三先生に「日本の抗酸菌症の現状」について報告していただいた.続いて,抗酸菌診療の各分野で活躍されている4名に講演をお願いした.根本健司先生からは「結核の診断と治療」,そして北田清悟先生からは「肺非結核性抗酸菌症の診断と治療」をお話しいただいた.続いて,髻谷 満先生からは「非結核性抗酸菌症の呼吸リハビリテーション」,最後に佐藤利香先生からは「茨城東病院感染対策チームにおける結核対策の取り組みと課題~感染管理認定看護師の立場から~」をお話いただいた.抗酸菌症診療の現状を共有し,抗酸菌症の課題について理解を深め,向き合う機会になったことを期待する.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

 
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