2020 Volume 29 Issue 2 Pages 239-244
住まい,医療,介護,予防,生活支援を一体的に提供できる支援体制の構築が目指されているが,呼吸ケアの地域における連携は地域によってキーパーソンが異なり多様である.また,COPDの地域連携においては診断や治療方針の決定を行う医療機関や急性増悪時入院対応ができる医療機関が多くを占めており,呼吸リハビリテーションを継続して行うことのできる医療機関や通所・入所施設が少ないことがうかがえる.そこで当院では地域包括ケアチームを組み,多職種で急性期から在宅までを支えているが,当院のみの完結だけではなく,地域における呼吸ケアの啓蒙と質の向上を目指し,医師,看護師,理学療法士,事務職,医療ソーシャルワーカー,ケアマネジャー,訪問看護師などの多職種がそれぞれの役割を発揮し,地域に向け実践している.地域包括ケアにおける呼吸ケアでは,医師主導ではなく呼吸ケアチームが主導となることが重要と考える.
国はどこに住んでいてもその人にとって適切な医療や介護のサービスが受けられる社会を目指して,2025年を目処に地域包括ケアシステムの構築を実現していく1)ことを目指している.
人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部,75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等,高齢化の進展状況には大きな地域差が生じているので,地域の自主性や主体性に基づいた地域の特性に応じて作り上げてゆくことが必要になってくる1).
呼吸ケアにおいても地域によって連携の形は様々である.
筆者が勤務している北九州6区とその近隣は,全国的にも基幹病院,高機能病院が多い地域として知られているが,呼吸器学会認定施設を含むCOPDに対応できる呼吸器内科のある病院のほとんどが基幹病院,高機能病院である.
これらの病院へ「COPDの地域連携における病院の役割」についてアンケート調査を行った結果,診断・治療方針の決定を行いプライマリドクターへ逆紹介を行う医療機関,またプライマリドクターから急性増悪に対する入院対応ができる医療機関であるという答えが多くを占めた(図1).
実際,当院へ入院の紹介元も基幹病院が多い.そしてその紹介の目的は,呼吸リハビリテーションや長期療養が主な目的である.
表1は,当院の患者の平均年齢と医療依存度を示した表である.2年間で「COPD」と「増悪」で検索した患者222名のエピソードの数は,377回と再入院が非常に多く,平均年齢は76.6±8.6歳,平均在院日数は48.6±26.8日であった.このうち在宅酸素療法(home oxygen therapy: HOT)中の方は95名,非侵襲的陽圧換気(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)は30名である.当院は10:1の一般病床と地域包括ケア病床があり,地域包括ケア病床の入院期間が60日であるため平均在院日数が長くなっている.
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当院の池内らが本学会で報告した「COPD患者における90日以内の再入院因子の検討」では,入院呼吸リハビリテーションを実施したCOPD120例についての後方視研究を行った結果,体重変化量,併存症,身体活動性が再入院の因子であるという結果であった.これらのことから,身体活動性の管理,早期栄養介入,併存症に対するリスク管理が必要であり,在宅生活を継続するためには医療スタッフの介入が必要であるという結果を導いている(図2).
当院では,これまでもチーム医療に力を入れ,多くの職種で構成された呼吸ケアチームで患者や家族を支援してきたが,引き続き地域包括ケアチームとして呼吸ケアを提供できるよう努力することとした.
チームの構成メンバーは医師,看護師,理学療法士,検査技師,薬剤師,管理栄養士,医療ソーシャルワー(medical social worker: MSW)をはじめ在宅のスタッフや事務職員に至るまで多くの職種で構成されているが,まず院内のチームケア実現こそが地域包括ケアシステム実現への近道だと考えている.
そして,病院内スタッフチームと在宅スタッフチームが随時情報交換を図り,在宅においても切れ間なく継続して呼吸ケアを受けることができるように支援を行っている.
同法人のケアマネジャーは,地域住民が安心して暮らし続けるために,必要な一連のサービスを地域の実情に合わせてコーディネートしてゆくことが求められる重要なライフラインであり要である.しかし,医療連携に対する現状では,ケアマネジャーの8割の基本職種が介護職や福祉職で,医療機関に対する苦手意識がある2).また,慢性呼吸不全など医療必要度が高い場合には,患者のニーズがうまく把握できないため,訪問看護の導入や導入のタイミングがわからないこと,訪問看護の単価が高いため訪問介護を優先してしまうといった問題点が課題となっている2).
課題はそれだけではない.病院から在宅へ切れ間ない呼吸ケアを継続するプランをもってしても,どうしても慢性呼吸不全患者が在宅生活を送ることが困難な場合の受け皿が少ないという現状もある.
そこで当院では,HOT利用者の長期療養施設として,また地域住民の健康づくりや交流の場を目指して,2015年に介護付き有料老人ホーム「あべやま」を立ち上げ,呼吸ケアを継続している.
しかし,地域包括ケアシステムの目指すところ,これからは自己完結型から地域完結型へと進めてゆかなければならない.そこで地域における呼吸ケアの連携を図るために①地域における呼吸器疾患の啓発,②地域における呼吸ケアの啓発に取り組むべきと考えた.
最初に,地域における呼吸器疾患の啓発について当院が行っている取り組みについて紹介をする.
地域においてチェーン店のドラッグストアの主催で,北九州市共催の健康フェスタを定期的に開催している(図3).COPDの疾患の理解を目的に講演を行い,肺年齢の測定や解釈・説明を行っているが,参加人数は地域住民のみならず2,000人以上にのぼる.
また,行政と協同し健康づくり推進員のスキルアップに向け,COPDや禁煙などについての研修会を行っている(図3).健康づくり推進員の年齢層は高いが,今後は地域のヤングシニア,65歳以上の元気な高齢者の協力を求めることはとても大事ではないかと思っている.このような方々へ最初に理解してもらい,地域へと発信してもらうことも必要だと考えている.
各小学校区の人たちを集め,医師によるCOPDの講演後に各校区でできることをワールドカフェ方式で話し合うという取り組みも行っている(図3)が,第76回日本公衆衛生学会総会において保健福祉課の職員が「COPD予防啓発活動の地域展開を目指した取組み」としてもポスター報告を行い,住民のCOPD予防啓発意識が向上し活動が始まったことを示唆している.
これらの呼吸器疾患の啓発の取り組みは,住民のみならず行政関係者のCOPD予防啓発に繋がったのではないかと思っている.
その後,「肺年齢を測定したい」との希望が多く寄せられ,各校区に肺チェッカーを配備していただくよう北九州市議会議員に働きかけ,市議会に提案していただいている.
地域における呼吸ケアの啓発についての取り組みについて紹介する.
慢性呼吸器疾患認定看護師が,地域の医療機関や在宅の介護事業所の担当者に呼吸ケアに関わる看護の指導や教育を行っている(図4).
呼吸器疾患の患者はどの病院にもどの在宅事業所にもいるが,その呼吸ケアに苦慮している病院看護師や訪問看護師に呼吸ケアのノウハウを伝授し,各施設,訪問先で患者へ提供してもらうことを狙いとしている.
次に,当院の大場らが本学会で報告した「地域包括ケアシステムにむけた当院の取り組みについて」でも紹介している「ほっと呼吸ケア@北九州」の取り組みであるが,理学療法士が中心となって,北九州市介護保険課と地域医療や介護に関わる職員を対象に研究会を開催している(図4).
その目的は,HOT患者の医療や介護のインフラが不足していることに鑑みて,介護施設との連携強化とHOT患者の受け入れ先を拡大することである.
事前のアンケートをもとにテーマを決定し,講師は医師,看護師,理学療法士,ケアマネジャー,デイサービス責任者などの多職種が務める.100名前後の参加者職種の内訳は看護師,ケアマネジャーが多くを占め,ついで理学療法士,介護士,管理職,薬剤師などである.
まもなく4回目の開催となるが,2回目の研究会を終えた時点で新たに9施設においてHOT患者受け入れが可能となった(図5).
研究会を通じて呼吸ケアを継続して受けることが可能になる施設が増える結果となった.
続いて「北九州呼吸リハビリテーション研究会」の取り組みである(図4).
地域包括ケアシステムという言葉すら存在しなかった平成17年から開催され,12年を迎えた.この研究会は,前述の「ほっと呼吸ケア@北九州」とは違い,実際に呼吸リハビリテーションに関わる職員を対象に専門的に行っている研究会である.特別講演と定例勉強会の企画としており,実技実習の場合のみ20~30名程度の少人数で進めている.特別講演では,全国でもご高名な先生方に講演をお願いし,スキルアップ,レベルアップを図っている.
理学療法士と筆者が共にはじめた取り組みもある.
社会福祉協議会の地域支援コーディネーター,自治会長の協力を得て,地域住民が主体となって行っているサロン活動に参加協力している(図4).
地域で行われているサロン活動は様々であるが,当院は地域の病院としての役割を担うこと,地域住民の健康づくり,そして禁煙の推進を目的とし,肺年齢の測定やその解説,禁煙の話,個別医療相談を行っている.
地域に出向き直接地域住民に接すると,呼吸器疾患や喫煙のリスクなど認知度がまだまだ低いことがわかる.そのためにも定期的にサロン活動への参画は継続してゆくべきと考える.
我々の呼吸ケアチームには事務職員も加わっている.
社会福祉士資格を有している総務課職員は,コミュニティ・ヘルスケア・リーダーシップ(community healthcare leadership: CHL)養成学科を半年間受講,卒業している.
このCHL養成学科は医療が地域に溶け込み,新たなコミュニティ活動を行うためのリーダーを育てる研修であるが,そこで学んだことに加え当院の特徴や使命から,地域(校区)をスモークフリーの環境にしてゆくプロジェクトに取り組み始めている.
そしてMSWはもともと入院から在宅生活に至るまで,その人らしい生活を考えながら支援を行う職種である3).入院当初から関わり,できる限り住み慣れた地域でその人らしい暮らしをおくることができるよう退院支援を行っている.
図6に示すとおり各機関それぞれにMSWやソーシャルワーカー(social worker: SW),コミュニティ・ソーシャルワーカー(community social worker: CSW)がいるが,機関は違っても同じ価値観とスキルを持ち,支援を繋いでゆくこと,また個人,行政,各種サービス提供者などのあらゆる機関と連携を図り,「希望の生活」「自分らしい暮らし」ができるよう支援することが責務である3).これはまさに地域包括ケアの姿といえるだろう.
それゆえMSWは地域においてもケアマネジャーやCSWなどと共に重要なキーになる.
MSWはMSWならではの専門性を生かし戦略的脇役,黒子役として,また介護サービスが苦手とする医療サービスの地域の窓口として,情報と情報,情報と人をつなぐハブの役割を果たし,病院完結型医療から地域完結型医療への架け橋になるべきと思われる.
地域包括ケアシステムの主役は地域住民である.
その主役を置き去りにすることがないように,住まい,医療,介護,予防,生活支援のあらゆる側面から,それぞれの専門的な視点と専門的な介入が必要になる.現在,地域で安心して生活するために,各サービス事業者や保健医療関係者にとどまらず,警察や消防をはじめとする行政機関,住民組織の代表者などが協力,連携して「SOSネットワーク」の構築も進みつつある.しかし,予防も含めまだまだ認知度の低い呼吸ケアを地域包括ケアシステムの中で進めてゆくには,呼吸器疾患の専門的な視点と呼吸ケアの介入スキルを持った多職種による呼吸ケアチームが主導となって支援してゆくことが重要だと言える.
これからもわれわれの病院のチームが核となって,その人にとって適切な呼吸ケアの医療・介護サービスが受けられる地域を目指してゆきたいと思っている.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.