2020 Volume 29 Issue 2 Pages 250-255
本邦の訪問看護サービス利用者は年々増加傾向にある.在宅呼吸ケアの必要性は更に高まると予想され,ネットワークおよびフォローアップ体制の構築・充実化が急務である.そこで,兵庫県で実施している呼吸ケアの地域連携実現に向けた取り組みを紹介する.
在宅医療従事者の呼吸ケアの知識・技術の向上およびネットワーク構築を目的に,2012年に“神戸在宅呼吸ケア勉強会”を発足した.定期的な勉強会や研修会の開催に加え,パンフレットや地域連携MAPを作成し,情報を発信している.
さらに,急性期から在宅までのシームレスな呼吸ケアの提供に向けたフォローアップ体制構築および地域ネットワーク充実化を目的に,2017年に“ひょうご呼吸ケアネットワーク”を発足した.フォローアップツールとして呼吸ケア情報提供書を作成し,地域への周知活動を行っている.
このような地域連携実現に向けた活動が,今後日本の呼吸ケアのエビデンス確立の一助となることを期待する.
厚生労働省「身体障害児・者実態調査」種類別障害者数の推移(身体障害児・者・在宅)から,近年,在宅生活を送る内部障害患者の著しい増加が伺える1).地域包括ケアシステムの構築により,医療が病院から地域にシフトされ,実際の在宅での臨床現場においても,循環器疾患や呼吸器疾患など内部障害患者の診療を経験する例が増えている.しかし,在宅医療に関わるスタッフの呼吸ケアに対する苦手意識は非常に強く,我々が過去に実施したアンケート調査においても,回答者全体の90%以上から「知識・技術がないため呼吸ケアに難渋する」との回答を得た2).また,慢性呼吸器疾患は増悪・寛解を繰り返しながら徐々に機能が低下していく疾患が多く3),各ステージでの適切なケアと長期的なフォローアップが必要となる.しかし,現在の医療連携の実態は,情報共有が十分に図られておらず,ステージ毎の短期的な関わりとなってしまっているケースが多い.このような状況に対して,医療ネットワークおよび長期フォローアップ体制の構築・充実化が急務であると考える.そこで,兵庫県で実施している呼吸ケアの地域連携実現に向けた取り組みを紹介する.
2012年12月に,“在宅医療に関わるスタッフの呼吸ケアに関する知識および技術の向上”および“在宅呼吸ケアのネットワーク構築”を目的に「神戸在宅呼吸ケア勉強会」を発足した.主な活動内容は,①毎月の定期勉強会,②外部講師を招いての研修会,③在宅呼吸ケアのネットワーク構築に向けた活動である.運営・告知方法に関して,勉強会ホームページ,Social Networking Service(SNS)を利用している.
①毎月の定期勉強会:通年受講者を募集し,毎月1回の定期勉強会を開催し,呼吸ケア・リハビリテーションに関する基礎知識および実技を含めた技術の向上を目的としている.通年受講者は,毎年50~60名である.
②外部講師を招いての研修会:年4回の外部講師を招いての研修会を開催している.研修会テーマに関しては,研修会受講者アンケート結果を参考に,テーマに偏りがないよう運営世話人会で議論し検討している.
③在宅呼吸ケアのネットワーク構築に向けた活動:兵庫県における在宅呼吸ケアサポート体制の普及に向け,“医療従事者および患者向けの呼吸ケア・リハビリテーションパンフレット”および“兵庫県在宅呼吸ケア地域連携MAP”を作成し,呼吸ケア・リハビリテーションに関する情報を発信している.
兵庫県における呼吸器疾患患者死亡率は,1999年以降増加の一途を辿っており,特に慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD)と肺炎の死亡率増加が著しいのが現状である4).このことからも,包括的呼吸ケア・リハビリテーションの重要性が,今後さらに高まることが予測される.しかし,我々が過去に調査した在宅医療スタッフに対するアンケートでは,知識・技術がなく在宅での呼吸ケアに難渋しているという回答を多数得た2).また,COPD患者を対象に行ったアンケート調査では,在宅療養・指導に対する要望において,セルフマネジメントに必要と考えられる様々な情報が不足しているという結果も報告されている5).この課題を踏まえ,我々は医療従事者および患者向けの呼吸ケア・リハビリテーションパンフレットを作成した(図1).兵庫県訪問看護ステーション連絡協議会に登録されている兵庫県内の訪問看護ステーションおよび在宅COPD患者にアンケートを実施し,パンフレット作成に必要な項目を選定した(図2).この結果から,COPD患者向けパンフレット内容は,①COPDという疾患について,②禁煙,③呼吸法,④栄養,⑤運動療法,⑥薬物療法,⑦息切れを軽くする日常生活の工夫,⑧緊急連絡先の記入欄の項目から構成した.また,医療従事者向けパンフレット内容は,①COPD患者に対する呼吸ケアについて,②禁煙指導,③在宅酸素療法について,④評価および診断,⑤呼吸法指導,⑥運動療法,⑦患者教育,⑧食事・栄養療法,⑨服薬吸入,⑩パニックコントロール・リスク管理の項目から構成した.
COPD患者向けパンフレット内容は,①COPDという疾患について,②禁煙,③呼吸法,④栄養,⑤運動療法,⑥薬物療法,⑦息切れを軽くする日常生活の工夫,⑧緊急連絡先の記入欄の項目から構成した.対象者が高齢者ということを考慮し,A3サイズで,可能な限り文字による情報量を少なくし,文字フォントの拡大やイラストの割合を多くすることで読みやすいように工夫した.
医療従事者向けパンフレット内容は,①COPD 患者に対する呼吸ケアについて,②禁煙指導,③在宅酸素療法について,④評価および診断,⑤呼吸法指導,⑥運動療法,⑦患者教育,⑧食事・栄養療法,⑨服薬・吸入,⑩パニックコントロール・リスク管理の項目から構成した.在宅現場での使用を考慮し,ポケットに入れ持ち運びができるサイズで作成した.
定期勉強会や研修会を開催していく中で,“各訪問看護ステーションで対応可能な呼吸ケアの詳細が分からない”,“ケアマネジャーや医療相談員が,呼吸器疾患患者を近隣のどこの訪問看護ステーションに紹介して良いかのか分からない”という意見が多い現状があった.この解決策として,病院から在宅までのシームレスな関係を築くための手段を検討し,エリア別に各訪問看護ステーションの呼吸ケアに関する情報をデータベース化した「兵庫県在宅呼吸ケア地域連携MAP」を作成した(図3).データベース登録は,同意が得られた施設のみを対象としており,A3サイズの冊子として,兵庫県内の病院および訪問看護ステーション,地域包括支援センターへ配布した.第2版は,Portable Document Format(PDF)で作成し,神戸在宅呼吸ケア勉強会のホームページで公開することで,自由にダウンロードできる形式にし,登録施設の情報更新を随時行えるように変更した.形式を変更したことで,登録施設数は,初版:43施設から第2版:103施設に大幅な増加を認めた.これは,活動の認知度向上と形式変更による利便性向上が要因であることが考えられる.
エリア別に各訪問看護ステーションの呼吸ケアに関する情報をデータベース化した.掲載項目として,3学会呼吸療法認定士および呼吸ケア指導士資格所得者の有無,在宅酸素療法・人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気療法,気管切開下陽圧換気療法)対応の可否,神戸在宅呼吸ケア勉強会通年コース受講者修了人数など呼吸ケアの対応に関する情報を掲載した.
2017年より“急性期から在宅までのシームレスな呼吸ケアを提供するためのフォローアップシステム構築”および“地域ネットワークの充実化”を目的に「ひょうご呼吸ケアネットワーク」を発足した.発足のきっかけとして,神戸在宅呼吸ケア勉強会において,訪問看護や訪問リハビリテーションを中心とした医療従事者の交流や啓蒙活動を実施していたが,急性期病院や回復期病院で勤務する医療従事者との交流の場がなく,“どこの施設がどのような呼吸ケア・リハビリテーションを実施しているのかが分からない”,“病院から退院して在宅サービスに移行する際にも情報提供書が無かったり,どのような点に注意してケアやリハビリテーションを行っていけば良いのか分からない”という意見が多かったことである.このことから,医療機関と在宅医療との交流を推進し,各ステージの職種が交流することによる新たな発見および知識の共有させることが必要であることから発足した.
シームレスな呼吸リハビリテーションの実現に向け,急性期病院,回復期病院,施設・在宅のそれぞれを繋ぐための連携体制構築が必要である.HRCN主催の研修会参加者(61名)を対象に,“地域包括ケアシステムにおける呼吸ケアの現状について”アンケート調査を実施したところ,「あまり問題ない」と回答したのは,わずか2%である一方で,“やや問題がある”“非常に問題がある”と回答したのは63%であった(表1).このことから,多くの地域で地域包括ケアシステムにおける呼吸ケアに対し難渋していることが推察された.また,それぞれのステージにおける課題も明らかになった(図4).このことから,基幹病院から在宅へのフォローアップ体制を確立させるためには,“顔の見える関係を構築”することだけでなく,呼吸リハビリテーションに関する共通認識および統一されたアセスメントの継続が必要であると考え,呼吸リハビリテーション情報提供書を作成した(図5).現在の一般的な情報提供書は,“自由記載であることが多い”,“記載項目は各担当者の判断によるため,着眼点に偏りがある”,“文章が羅列されているため,情報の把握が困難なことが多い”などの短所がある.その一方で,我々が作成した呼吸リハビリテーション情報提供書は,在宅現場でも評価可能で,ガイドラインに沿った呼吸リハビリテーションに必要な評価項目を設定し,入院中に実施していた呼吸リハビリテーションプログラムやリスク管理についても記載する項目を作成した.これにより,評価者による着眼点の偏りを軽減し,呼吸リハビリテーションの経験が浅い医療従事者でも統一した評価が行えることによる内容的妥当性の向上,急性期病院退院後も経時的に評価が行えるという利点がある.評価方法を習得するための研修会を開催したり,ホームページ上から評価項目の説明について記載するなどして,日常診療で呼吸リハビリテーションの評価に不慣れな医療従事者へのサポートも実施している.将来的な展望としては,呼吸リハビリテーション情報提供書をデータベース化し,情報提供書の有用性について検証していく.現在は,本格的な運用に向け,運用方法や評価項目について検討中である.
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“地域包括ケアシステムにおける呼吸ケアの現状について”アンケート調査を実施し,急性期,回復期,生活期における呼吸ケア・リハビリテーションの現状と問題点が明らかになった.地域包括ケアシステムにおける呼吸ケアに対し難渋している要因として,それぞれのステージで課題がある.
呼吸リハビリテーションに関する共通認識および統一されたアセスメントの継続を目的に,呼吸リハビリテーション情報提供書を作成した.ガイドラインに沿った呼吸リハビリテーションに必要な評価項目を設定し,入院中に実施していた呼吸リハビリテーションプログラムやリスク管理の項目を作成した.これにより,評価者による着眼点の偏りを軽減し,呼吸リハビリテーションの経験が浅い医療従事者でも統一した評価が行えることによる内容的妥当性の向上,急性期病院退院後も経時的に評価が行えることを目指している.
在宅における呼吸リハビリテーションの効果に関する報告はされているが,本邦からの報告は乏しいのが現状である.介護保険や地域包括ケアシステムなど,本邦独自の視点からの効果検証を実施していく必要がある.それらの結果を積み重ねていくことで,在宅における呼吸ケア・リハビリテーションの有用性を行政機関に働きかけることができ,将来的にさらに発展させていける可能性が大きくなる.そのためには,単施設のみではなく,多施設での共通データベース作成などの体制を整えていくことが急務である.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.