The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Workshop
Experience and task of home respiratory care and rehabilitation in Morioka city
Takafumi NakataDaisuke Hirabayashi
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 256-259

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要旨

呼吸ケア・リハは,地域医療連携に基づいた実践が求められている.地域医療連携は地域ごとに特性があるが,盛岡市では2004年から他職種,他事業所間の連携システム,「チームもりおか」を構築し,実践してきた.盛岡市における在宅呼吸ケア・リハの特徴は,重症の慢性呼吸器疾患,在宅呼吸管理を必要とする神経筋疾患と医療的ケア児,呼吸器症状を有する末期がん,NHCAPの在宅での治療,および摂食嚥下リハの適応者である.いずれの疾患においても重症例が多く,在宅看取りまで関わることもある.課題として医療的ケア児と難病患者への支援,COPDの介護予防の取り組み,介護支援専門員の呼吸ケア・リハに関する教育や支援,NHCAPやCOPDの終末期ケアにおける呼吸リハの実践の不足,高齢者の「住まい」による制度上の理由で在宅呼吸ケア・リハの関わりが困難,医療機関における意識と能力の格差,在宅での人材教育に時間がかかること,があげられる.

呼吸ケア・リハビリテーション(以下,呼吸ケア・リハ)の実施状況

呼吸器疾患には非薬物療法として呼吸ケア・リハが実施され,その有用性は多くの疾患で示されているが,特に慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)における呼吸ケア・リハに関する研究が進んでおり,具体的な方法や効果などが示されている1.呼吸リハのプログラムは運動療法,日常生活動作(activity of daily living: ADL)トレーニング,コンディショニングの3つの項目で構成されており,対象者の重症度と症状に応じてプログラムが調整される2).また,患者の長期管理にはセルフマネジメント教育が重要である3).呼吸ケア・リハの命題は身体活動の維持,向上であり,その効果は予後の改善,増悪の予防,生活の質(quality of life: QOL)の改善などが示されている4.また,呼吸ケア・リハの適応はCOPDにとどまらず,慢性呼吸器疾患では肺線維症,間質性肺炎,気管支喘息など,急性呼吸器疾患では肺炎,無気肺,周術期,気管切開患者,人工呼吸管理中の患者など,幅広く適応が認められている.呼吸リハの多くは専門的な医療機関で実施されてきたが,近年,在宅での呼吸ケア・リハに関する研究も進みつつある.在宅における呼吸ケア・リハにおいて,通院や通所が困難な事例には訪問診療,訪問看護,訪問リハが適応となる.当院では訪問診療と訪問リハを実施しているが,当院における訪問呼吸リハの代表疾患を表1に示す.

表1 在宅呼吸ケア・リハの対象
・慢性呼吸器疾患
 (身体活動の維持・増悪発見と予防・終末期医療)
・医療・介護関連肺炎(Nursing and HealthCare Associated Pneumonia: NHCAP)
 (呼吸リハ+摂食嚥下リハ・早期離床・予防・終末期医療)
・重症児
 (増加する対象者・在宅呼吸療法との共存生活の構築)
・末期癌,非癌の終末期
 (緩和医療+呼吸リハ・対象や方法の研究)
・在宅呼吸療法患者(難病)
 (リスク管理・生活の構築・外出・社会参加)

地域医療連携における呼吸ケア・リハ

盛岡市では2004年より独自の在宅医療連携システムを構築し,他職種,他事業所連携を基盤とした地域医療を展開してきた(図1).このコンセプトは地域で求められるニーズに対して,1つの医療機関で対応出来ない場合でも,複数の医療機関の連携によって総合的に対応することであり,かかりつけ医,訪問看護,訪問リハ,訪問調剤薬局,居宅介護支援事業所などが全て異なる事業所で構成されることもある.複数の事業所で連携を組む場合,それぞれの業種がチームの一員としての役割を理解し,情報共有しながら役割を果たすことが地域医療の成功の鍵となる.この場合,事業所の責任のもとにサービスの質や量を担保することとなり,呼吸ケア・リハにおいても個々の業種の専門性が求められる.

図1

盛岡市における地域医療連携(チームもりおか)のモデル図

訪問リハにおける呼吸ケア・リハのミッション

1) 慢性呼吸器疾患

在宅療養中の慢性呼吸器疾患患者に対する白書3)によると,呼吸リハの普及率は低く,介護保険サービスの利用では訪問介護が多く,訪問リハは少ないことが示されている.在宅で長期酸素療法(long term oxygen therapy: LTOT)や人工呼吸療法(home mechamical ventilation: HMV)を受け,また呼吸器症状で活動・参加が制限されている患者であっても,できる活動を介護サービスに置き換えるケアプランには注意が必要であり,患者の利益を考えるならば,できる活動を日常生活に取り入れ,適切な身体活動を担保することが重要である.適切な身体活動を構築した上で必要な介護を受けることは問題ないが,生活介護や身体介護主体のケアプランで過介護となることは避けなければならず,呼吸リハにおいてもリハ前置主義の周知が望まれる.訪問による呼吸リハにおけるリハ前置主義は,適切な身体活動の構築と同時に呼吸不全や増悪イベントに対するリスクマネジメントを並行する必要があり,身体活動の有益性とリスク,対象者の生活機能と背景因子を十分に評価し,判断されるものである.その結果は対象者や家族,介護支援専門員などに説明し,具体的な対策を提案し,納得して頂いた上で計画を策定し,実践される.ケアプラン作成における医師とリハ専門職の責任は大きく,短期的な結果だけではなく,予後を含めた長期的な視点から提案を行う必要がある.

訪問リハの対象者は通院や通所によるリハが困難な対象者とされることから,訪問による呼吸リハの対象者は重症例となることが多い.当院から訪問リハを実施したCOPDの事例では,初回訪問時の重症度は修正息切れスケール(modified Medical Research Council dyspnea scale: mMRC)における重症(mMRC3)と最重症(mMRC4)で約85%を占めており(図2),軽症例は医療機関までの距離が遠い,または交通手段が希薄であり,通院が困難な対象であった.訪問リハが適応となる事例には身体活動の向上が困難な場合も多く経験されるが,特に背景因子に着目した教育により身体活動を維持,向上することは可能である.増悪に関して,当院の1年間の定期的な訪問リハにおいて早期に発見されたエピソード28件に関して,医療連携のもとに治療を開始したことで,22件は入院を回避し,在宅生活を継続できた5.増悪の原因はCOPD単独の増悪,呼吸器感染症,脱水症が多く,重度の反復する心不全,胸部大動脈瘤破裂などの致命的なエピソードもあった.在宅での身体活動の構築における注意点は,入院中または外来でのシミュレーションだけでは在宅生活を完全に再現しにくいことであり,実際の生活の場面を評価し,背景因子を加味した指導やプログラムの調整が重要である.慢性呼吸器疾患患者でも,終末期を在宅で過ごしたいと希望する事例もあり,訪問呼吸リハではADLの維持,介護法の調整,症状緩和を目的に実施され,在宅看取り直前まで実施される場合もある6

図2

在宅呼吸ケア・リハ対象者(COPD)の重症度

2) NHCAP7表2

第3の肺炎として近年,注目されている疾患で,高齢者の死因の上位を占めている.原因の多くは誤嚥性肺炎であることから気道のクリアランスも重要で,呼吸リハは摂食嚥下リハとの協働で実施される.2017年のNHCAP診療ガイドライン第2版では「個人の意思やQOLを考慮した治療やケア」という選択肢が示された.この選択肢に対応する治療やケア・リハの具体的な方法は示されていないが,対象となる患者が在宅を希望された場合,訪問呼吸リハが適用されることもある.呼吸リハとしては気道のクリアランス,および,離床,座位時間の確保,食事の際の座位姿勢の指導などの介護指導が必要となる.医療連携としては医師,歯科医師,訪問看護師,歯科衛生士,管理栄養士,介護支援専門員,リハ職種では主に理学療法士と言語聴覚士が関わり,介護に関わる介護支援専門員,介護職との連携が重要である.誤嚥性肺炎患者を禁食すると,経口摂取を継続した場合と比較し肺炎の治療に時間がかかり,生命予後が悪化するとの報告8もあり,可能な限り口腔機能を維持するためのケア・リハは継続されることが望ましい.しかし,持続する誤嚥性肺炎では経口摂取が中止される.その場合でも口腔マネジメントは重要であり,同時に,気道のクリアランスとADL指導を中心とした訪問呼吸リハの関わりは継続されるべきである.

表2 NHCAPの定義
・市中肺炎と院内肺炎の中間的な存在
・市中肺炎,院内肺炎のいずれにも該当しない
・長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している
・90日以内に病院を退院した
・介護(限られた身の回りのことしかできない,日中の50%以上をベッドで過ごす状態)を必要とする高齢者,身障者
・通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫抑制剤などによる治療)を受けている

3) 重症児(小児疾患)

近年,特に呼吸と栄養に関して医学的管理,医療的なケアが必要である「医療的ケア児」について,地域で支援する必要性が示されている.呼吸リハの立場では,特に気管切開やHMVを受けている重症児が適応となる.当院で訪問リハを実施している重症児における訪問呼吸リハのニーズは高く,対象23例中,気管切開12例,LTOT 11例,HMV 12例であった.支援学校教員との連携も重要で,当院からの訪問リハの導入を提案した職種では医師,看護師,支援学校教員の順に多かった.難病では在宅での経過において終末期を迎えるケースもあり,23例中4例が永眠,うち2例は在宅看取りであった.訪問呼吸リハは,医療的ケア児の在宅看取りにおいてもニーズがあり,特に気道のクリアランスは,症状緩和と家族の不安の解消に意義があると思われた.

4) 末期がん

末期がんにおける訪問リハの最も重要な役割は患者と家族が希望するADLの維持と症状緩和であり,進行する症状に応じた活動方法の調整と指導が行われるが,終末期ではADLは低下し,症状緩和のニーズが高まる.末期がんにおいて,最も出現頻度が多いとされる症状は呼吸器症状で,全てのがん患者において呼吸困難を自覚する頻度は46~59%で,肺癌だけでは75~87%と示されている9.呼吸器症状の緩和にはコンディショニングが実施され,気道のクリアランス,呼吸介助手技,軽い呼吸筋ストレッチ,安楽な体位交換が行われる.看取り直前で意思疎通が困難となっても,家族から,患者が「楽になる」と訴えていた呼吸リハプログラムを続けて欲しい,と希望する場合もある.かかりつけ医の指示を確認し,対象者の意思に寄り添った訪問呼吸リハを実施することが求められる.

5) 在宅人工呼吸療法(神経筋疾患)

筋萎縮性側索硬化症,筋ジストロフィー,高位頸椎損傷患者などで実施される継続的なHMVにおいて,定期的な訪問呼吸リハは,ほとんどの事例で必須と考えられる.人工呼吸管理中に実施される呼吸リハは週に複数回,定期的に実施され,難病では症状の進行に応じてプログラムを調整する必要がある.排痰補助装置は,保険適応が在宅患者であり,近年,積極的に実施されるようになっており,呼吸機能の維持,合併症の予防に効果的である10.HMVを行っていても,旅行など,屋外での活動も可能であり,外出は患者,家族の楽しいイベントであると同時に,災害時の避難訓練にもなる.ADLの拡大と継続において,人工呼吸器,吸引器,予備バッテリー,蘇生バッグ,バイタル測定器具などの保守,衛生用品の補充,外出時の持ち出しは患者本人と家族の役割であり,患者と家族が十分に実施できるように連携し支援を行う.

介護予防・日常生活支援総合事業(以下,総合事業)

今後,地域におけるフレイルの早期発見,早期対応には総合事業を適応することが望まれる.地域の課題を抽出し,解決する手段に地域ケア会議があり,地域住民に潜在するCOPDを発見する手段となることも予想される.COPDはフレイルと考えられることから,喫煙者や,初期の呼吸器症状を見抜き,呼吸器症状から介護を予防するための意識付けが必要と考えられる.今後,保険者の高い意識も求められる.

地域における課題(表3

地域包括ケアシステムにおける呼吸器障害者への取り組みは明確ではない.介護支援専門員の約80%は,基礎となる資格が介護・福祉職であり,HMVに代表される高度在宅医療や終末期医療において作成される介護保険のケアプランに,医療者の視点から支援することは重要である.在宅医療に関わる多くの職種においても呼吸ケア・リハに関する教育は不十分で,終末期における訪問呼吸リハなどの普及には,さらなる研究,人材育成が必要と考えられる.

表3 盛岡市における呼吸ケア・リハにおける地域医療連携の特徴と課題
1)特徴
他職種・他事業所による医療・介護連携で地域呼吸ケア・リハを実践している.
在宅医療は重症例,終末期が対象となっており,患者背景は多彩である.
訪問呼吸リハは増悪の早期発見,在宅生活の安定に意義がある.
2)課題
地域包括ケアシステムは高齢者,がん患者,慢性疾患終末期に対する取り組みが重点的で,呼吸ケア・リハの適応となる小児医療,難病などの取り組みが不明瞭である.
COPDは介護予防が必要であるが,総合事業における取り組みが皆無である.
基礎となる職種が介護・福祉職である介護支援専門員の,呼吸リハに関する教育が不十分である.
高齢者の「住まい」による制度上の差により,「住まい」によっては呼吸ケア・リハが受けられない場合がある.
医療的ケア児,HMV患者に必要な医療的ケアに対する社会資源において,呼吸ケア・リハは,ほぼ対応できていたが,特にヘルパーが不足している.
NHCAPやCOPDの終末期ケアにおける呼吸ケア・リハの実践は不十分である.
訪問呼吸リハなどの在宅医療を担う医療機関の意識と能力に差がある.
在宅では,同行訪問による教育が必須で,人材教育に時間がかかる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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