The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Luncheon Seminar
Key points for the evaluation of physical activity in patients with COPD
Yoshiaki Minakata
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 270-275

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要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)では,労作時呼吸困難,運動耐容能低下,身体活動性低下の悪循環が予後の悪化をもたらすため,それぞれの評価・管理が重要である.なかでも身体活動性は最も重要で,これまで主に中等度以上の活動時間の延長が目標とされ,医療介入による延長効果の可能性も一部報告されている.これに対し近年,座位相当行動(sedentary behavior)の時間が中等度以上の活動時間とは独立したCOPD死亡の危険因子であることが報告され,その重要性が注目されており,気管支拡張薬によるsedentary時間の短縮の可能性も報告されている.したがって,これからのCOPD管理においては,中等後以上の活動時間延長に加え,sedentary時間短縮にも着目し,薬剤,呼吸リハビリテーション,モチベーション向上などを組み合わせた複合的介入により改善を目指すことが重要になると考えられる.

はじめに

慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では,気流閉塞等の生理学的変化による労作時呼吸困難のため,患者の運動耐容能は低下し,身体活動性低下,骨格筋廃用を順次引き起こし,次の活動時には更に強い呼吸困難をきたすという悪循環に陥りやすい(図1).この悪循環の中でも,身体活動性はCOPD死亡の最大の危険因子と報告されており1,その重要性が近年強調されている.

図1

COPDにおける悪循環

身体活動性の向上・維持には,まず身体活動性を正確に評価することが必要であり,さらに様々な医療介入の効果を客観的に評価する必要がある.また,身体活動性の指標として,主に中等度以上の活動時間や身体活動レベルなどが用いられ,それらの増加が目標とされていたが,近年,座位相当行動(sedentary behavior)の時間を短縮させることの重要性も明らかとなってきた.

本セミナーでは,悪循環をもたらす呼吸困難,運動耐容能,身体活動性についてその特徴を解説するとともに,身体活動性改善に対する介入効果,sedentary時間短縮の重要性とそれに対する介入効果等について概説する.

呼吸困難

1) 労作時呼吸困難出現の機序

COPD患者では,末梢気道の粘液分泌貯留,炎症細胞浸潤,気道壁の線維化,平滑筋肥厚などにより気道内腔狭窄が生じる.また,元来末梢気道に付着し気道内腔保持機能を果たしている肺胞が断裂することで,容易に末梢気道の虚脱が生じる状態となっており,特に胸腔内圧が上昇する呼気時には,強い気流閉塞が生じ残気量の増加と肺過膨張が生じる.さらに,呼気時の気流閉塞に伴い呼気時間が延長するため,活動時には増加する吸気量を十分に呼出できないまま次の吸気が開始され,累積的な残気量の増加と最大吸気量の低下を招き,いわゆる動的肺過膨張が生じる.活動を継続するとやがては十分な1回換気量を吸えなくなり,強い呼吸困難が生じそれ以上の活動継続が困難となる.

2) 呼吸困難の評価と特徴

呼吸困難の評価には複数の指標が用いられているが,代表的なものとして,modified Medical Research Council(mMRC)息切れスケールや,Baseline Dyspnea Index(BDI)などがある.COPD患者のBDIは,一秒量(FEV1)や最大吸気量(IC)と相関がみられる.また,mMRCのスコアが上昇(呼吸困難感が増加)するほど年間増悪率は増加し,初回増悪までの期間も短くなる.しかし,mMRCとBDIは緩やかには相関するものの,例えば同じmMRC2の患者でもBDIは2-12点と幅広く分布しており,両者は必ずしも一致した指標ではないことにも注意が必要である2

運動耐容能

運動耐容能の評価には,自転車エルゴメータやトレッドミルなどの心肺運動負荷試験と,6分間歩行試験(6MWT)やシャトルウォーキング試験(SWT)などの平地歩行試験がある.実際の臨床では後者が実用的で頻用されている.6MWTは,6分間に自分のペースでできるだけ距離を長く歩き最長距離を測定する.SWTは,10 mの距離を指定速度で往復歩行し,速度についていけなくなるまでの総歩行距離を測定する.これには,1分ごとに速度を速める漸増負荷試験(ISWT)と,ISWTでの最大速度の85%の速度で一定に保ち総歩行距離を測定する定常負荷試験(ESWT)がある.6MWTとSWTを比較すると,エネルギー消費量はISWTと相関するが6MWTとは相関しないとの報告や3,薬剤投与時の効果がESWTでは有意に認めるが6MWTでは差が検出できないとの報告もあり(図24,6MWTはSWTに比べ感度は低いと考えられる.逆に,6MWTはSWTより簡便であり,一般臨床現場で頻用されている.これらの差異を理解したうえで,臨床で活用することが重要である.なお,各指標の変化が有益であると解釈できる最小の変化量(Minimal Clinically Important Difference: MCID)は,6MWD: 25-33 m, ISWT: 47 m, ESWT 72-81 m, 56-71分と報告されている5

図2

運動耐容能検査の感度の差

気管支拡張薬による歩行距離は,ESWTでは増加が確認できるが6MWTでは確認できない.6MWT:6分間歩行試験,ESWT:定常負荷シャトルウォーキング試験.文献4)より引用.

身体活動性

1) COPD患者における身体活動性の位置づけ

身体活動性とCOPDの予後に関し,これまでいくつかの報告がなされているが,いずれの報告においても身体活動性の低い患者では予後が有意に不良である1,6.前述の呼吸機能,呼吸困難,運動耐容能などはいずれもCOPD死亡の有意な危険因子ではあるものの,身体活動性はこれらの因子をはるかに凌ぐ最大の危険因子と報告されている1.したがって,COPDの予後改善には身体活動性の維持・向上が最も重要で,身体活動性はCOPDの管理において極めて重要な指標であることが示唆される.

2) COPD患者の身体活動性とその評価法

COPD患者では,健常者と比較し,立位や歩行時間は短く7,あらゆる強度の活動時間は有意に短縮しており,3.0 metabolic equivalents(METs)以上の時間では健常者の約50%に低下している(図38

図3

健常者に対するCOPD患者の活動性低下率

COPD患者ではいずれの強度においても活動性は低下しているが,活動強度が高いほど低下率は大きくなる.METs: metabolic equivalents.文献8)より引用.

身体活動性の評価には,近年,歩数計や加速度計等を用いた客観的な測定が主流となっている.しかし,加速度計非装着時間や,天候等の環境の影響,さらには分析に必要な最低測定日数などに対するデータ処理が重要となる.なかでも,加速度計非装着の時間が長い場合,得られたデータはあたかも身体活動性が低いような結果となってしまう.Ryronら9は,加速度計で評価された既報告のうち88%の報告では非装着について考慮されていないと報告している.天候では雨天の日は有意に活動時間が短く,経時的な比較を行う場合は,雨天の日のデータを除くことが望ましい10.また,反復性確保のための必要測定日数に関する我々の検討では,3.0 METs以上の時間の評価に対しては3日以上のデータが必要であった10

3) 医療介入による身体活動性改善効果

気管支拡張薬の身体活動性に対する効果は,報告により様々である.我々は,気管支拡張薬追加投与前後での身体活動性の変化に対し,天候や必要測定日数を固定して評価したところ,比較的高い強度(3.0 METs以上,3.5 METs以上)の活動において改善効果が認められることを確認した(図411.一方,チオトロピウム/オロダテロール配合剤とチオトロピウム単剤各6週間投与を二重盲検クロスオーバー様式の多施設共同研究(VESUTO試験)を実施し,各期間最後の2週間の加速度計による身体活動性の平均値を比較した場合,身体活動性には有意な差はみられなかった.しかし,非装着の多いデータの除去に加え,有効データが2日未満の患者は除外してデータ再現性を高めた場合,2.0 METs以上の活動時間において,配合剤で有意な活動時間の延長が確認された12

図4

気管支拡張薬投与前後での身体活動時間

3.0 METs以上,3.5 METs以上の強度において,気管支拡張薬により身体活動時間は有意な延長を示す.METs: metabolic equivalents.文献11)より引用.

呼吸リハビリテーションの身体活動性に対する効果も報告によりさまざまである.しかし,気管支拡張薬と呼吸リハの併用により身体活動性が向上した報告もみられる.さらに,都市観光マップ13や歩数計14などを提供してモチベーションを向上させる工夫により,歩数が有意に増加した報告もみられている.したがって,身体活動性の向上には,薬剤,呼吸リハビリテーション,モチベーション向上等,複合的な介入が重要であることが示唆される.

sedentary(座位相当)時間

1) Sedentary時間の重要性

身体活動性向上のため,これまでは中等度以上(3.0 METs以上)の活動時間,活動レベル,歩数や歩行時間などの増加が推奨されてきた.これに対し近年,覚醒時のエネルギー消費量が1.5 METs以下の活動時間すなわちsedentary時間の短縮が注目されてきている.年齢,呼吸機能,運動耐容能,中等度以上の強度の活動時間に関わらず,sedentary時間の長い患者では有意に予後が不良であることが報告され(図515,sedentary時間は中等度以上の活動時間とは独立したCOPD死亡の危険因子であることが示唆されている.また,軽症・中等症のCOPD患者では強度に関わらず歩数増加が入院リスクを低減するが,重症・最重症の患者では低強度活動での歩数増加は入院リスクを低減するが,高強度活動での歩数増加はむしろ入院リスクを上昇させることが示されている(図616.すなわち,sedentary時間を短縮させ,立位や緩徐歩行などの低強度活動を積極的に行うことの重要性が示唆されている.この現象は,下肢筋衰弱を有するCOPD患者では衰弱を有しない患者に比べ,運動時に血中IL-6濃度や酸化ストレスレベルが有意に増加するとの報告17からも支持され,重症以上のCOPD患者に対し過度の運動負荷を求めることは不利益の方が大きく,推奨しがたい可能性が考えられる.さらに,COPD以外の疫学調査においても,sedentary時間は短縮すればするほど総死亡のリスクは低下するが,中等度以上の活動時間は延長するといったん総死亡リスクは低下するが,20分間を超えると徐々に増加し始める傾向が示されている18.すなわち,あらゆる対象者に対しsedentary時間の短縮は有用であるが,中等度以上の活動時間に関しては過度な延長を推奨しがたい対象者が存在する可能性が推察される.これらの報告を総合すると,全てのCOPD患者に対しsedentary時間の短縮を推奨し,軽症・中等症の患者には中等度以上の活動時間の延長を推奨することが有用な可能性が考えられる.いずれにしても,sedentary時間を短縮させる指導は,今後重要となっていく可能性が示唆されている.

図5

Sedentary時間と生存率

性別,年齢,BMI,教育レベル,%FEV1,6MWD,3.0 METs以上の活動時間で補正後,sedentary時間の長いCOPD患者では生存率は有意に低値である.文献15)より引用.

図6

身体活動レベル別の歩数と入院ハザード比

赤:高強度の活動群,青:低強度の活動群.A:%FEV1≥50%の患者群.高強度も低強度の活動でも,歩数の増加に伴い入院リスクは低下する.B:%FEV1≥50%の患者群.低強度の活動では歩数の増加に伴い入院リスクは低下するが,高強度では歩数の増加に伴い入院リスクはむしろ増加する.95% CI:95%信頼区間,%FEV1:対標準一秒量.文献16)より引用.

2) sedentary時間に対する薬物治療の効果

Kameiらは,COPD患者に対する2種の抗コリン薬の効果の差を検討し,sedentary時間に対する評価も行なっている.その結果,sedentary時間は両群間で差はみられなかったが,いずれの薬剤においても投与前に比べ投与後8週間ではsedentary時間は有意に短縮することを確認している(アクリジニウム35.2分,チオトロピウム55.5分の短縮)19.しかも,両者とも,sedentary時間の変化量は中等度以上の活動時間の変化量とは相関せず,軽度の活動時間の変化量と負の相関を示した19.この結果からも,sedentary時間は中等度以上の活動時間とは必ずしも対称的に変動するわけではなく,各々が独立した因子であることが示唆される.さらに我々は,前述のVESUTO試験のデータを用い,sedentary時間を厳密に抽出するために,睡眠時間の除外,雨天や装着時間10時間未満の日のデータを除外し,有効データが3日以上確保できるデータのみを抽出することでデータの精度を高めて,チオトロピウム/オロダテロール配合剤とチオトロピウム単剤の効果の差について後解析を行った.その結果,配合剤では単剤に比較し,sedentary時間を8.6分有意に短縮し,同時に≥3.0 METsの活動時間を2.6分有意に延長することが確認できた(図720.この短縮時間が臨床的に重要な差を有するかどうかについては今後の検討は要するものの,薬物投与がsedentary時間を短縮しうる可能性は示唆されたと考えられる.さらに,配合薬によるsedentary時間の改善量は,呼吸機能が比較的良好で,中等度以上の活動時間の長い患者群で有意な改善が確認された20.この傾向はsedentary時間のみではなく,≥3.0 METsの活動時間においても同様に確認された.すなわち,COPDの比較的早期の段階から配合薬を投与することで,より大きな身体活動性改善効果が得られる可能性を示しており,しかもその後の非活動習慣の抑制効果も考慮すると,早期の強力な気管支拡張療法は身体活動性維持・向上にとって重要な治療戦略となるかもしれない.早期介入の効果については,今後の研究の発展に期待したい.

図7

LAMA単剤とLAMA/LABA配合剤のsedentary時間に対する効果

A:sedentary(1.0-1.5 METs)時間.配合剤で8.6分有意に短縮される.B:中等度以上(≥3.0 METs)の活動時間.配合剤で2.6分有意に延長される.Tio:チオトロピウム,Tio/Olo:チオトロピウム/オロダテロール配合剤,METs: metabolic equivalents.文献20)より引用.

おわりに

COPDの身体活動性に対し,加速度計で得られたデータの再現性を高めより正確な評価をおこなうことは重要である.さらに,これまで指標として用いられてきた中等度以上の活動時間のみではなく,独立したCOPD死亡の危険因子であるsedentary時間にも注目が必要である.身体活動時間の延長とsedentary時間の短縮という2次元的な視点に立ち,薬剤,呼吸リハビリテーション,モチベーション向上など組み合わせ身体活動性維持・向上を目指していくことが重要であると考えられる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

南方良章;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム)

文献
 
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