The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Seeking the respiratory pattern to improve the dyspnea in COPD
Keisuke Miki
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 282-286

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要旨

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,病期が進行するにつれ増強する息切れのため運動耐容能は低下し,身体活動性は制限され予後悪化に至る疾患である.息切れを良くするには,COPDが種々の併存症を伴う全身性疾患であることを踏まえ,多様性ある息切れのメカニズムを把握した上で,病態に適した対策を講じることが必要である.1回換気量の吸気と呼気との差や吸気と呼気との時間比(Ti/Ttot)などの動的呼吸パターンに着目した治療は,肺過膨張,呼吸性・代謝性アシドーシス,延いては息切れの改善に繋がる可能性がある.心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test: CPX)は,呼吸-循環さらには筋肉とのクロストークにおける,時に難解な病態生理の把握を可能とし,COPD治療戦略に関わる情報を提供してくれる.呼吸器科スタッフにとってCPXの果たす役割は大きい.

はじめに

慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease: COPD)患者の訴えで最も頻度が多く,重要なものが息切れである.患者にとって,つらい息切れの軽減なくして,運動耐容能や身体活動性の改善はあり得ない.息切れを良くするには,COPDが併存症を伴う全身性疾患である観点からその原因がどこにあるか探索し,多様性をもつ息切れのメカニズムを把握した上で,その病態に適した対策をテーラーメイド的に講じることが大切である.

今回,筆者は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(ワークショップ:呼吸リハビリテーションに必要な呼吸運動生理学)において,COPDの運動生理学に関する発表機会を頂いた.これを機に,心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test: CPX)が息切れを改善させる治療戦略にどのように関わっているか等,当院からの研究成果を交えながら呼吸リハビリテーションを含む治療に役立つCOPDの運動病態生理について述べたい.

運動耐容能と運動制限因子

呼吸-循環さらには筋肉とのクロストークにおける,時に難解な病態生理の把握を短時間で可能にするのがCPXである.呼吸器科スタッフになじみ深いFEV1は,分時換気量( V ˙ E)とは良く相関する重要な指標であるが,運動耐容能との関係は薄い1.その理由として,酸素摂取量( V ˙ O2)が V ˙ Eと吸気-呼気酸素濃度較差(吸気平均酸素濃度と呼気平均酸素濃度との差)との積を含む項から算出され,呼気平均酸素濃度が心臓・肺・筋肉の総合的な代謝結果に依存していることを踏まえると,換気量だけではなく吸気-呼気酸素濃度較差も運動耐容能に関わっていることが挙げられる.多くの要因で決定される日常活動レベルは,安静時の肺機能のみでは予測しがたい.CPXによる運動耐容能評価はより直接的に日常活動レベルを予測し,それのみならず,予後推定にも有用である2.特に,3METs(最高酸素摂取量が10.5 ml/min/kg)程度しか動けない患者には十分な対策が必要である3.さらに,息切れの治療に関わる運動制限因子を含めた病態生理も自ずと把握できる.

息切れ精査のため当院でCPXを症候限界まで行った294名のCOPD患者(病期分類III: n=135, 45.9%; IV: n=64, 21.8%) では(図1),運動中止理由が主に息切れであった群が73%,下肢疲労であった群が20%,その他の群が7%であった1.さらに,息切れ群(n=215)を,運動耐容能およびFEV1に基づきA 群(<11 ml/min/kg); B群(11 to<15 ml/min/kg); C群(15 to<21 ml/min/kg)D群(≥21 ml/min/kg)の4群に分けた1表1は最大運動時の諸指標を群間比較したものである.運動耐容能が低下する群ほど換気量[ V ˙ Eおよび呼気1回換気量(VTex)]は低下し,換気効率を表すVD/VTは悪化した.運動中の血液ガス検査では,運動耐容能が低下する群ほど動脈血酸素分圧(PaO2)および血漿乳酸濃度は低下し,動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)は上昇した.しかしながら,息切れの程度,呼吸数,動脈血pHに群間での有意差は認められなかった.

図1

CPXによる息切れパターンの評価結果と個別の介入法

息切れパターンを運動制限因子別にグループ化し(文献1),それに基づく介入法(著者案)を提示した.

ICS:吸入ステロイド薬,LABA:長時間作用性β2刺激薬,LAMA:長時間作用性抗コリン薬,

表1 息切れ群(n=215)の病態生理学的特徴 (文献1)より引用改変)
A 群(n=28)B群(n=64)C群(n=77)D群(n=46)
年齢, 歳71.6(6.7)‡‡71.4(7.6)¶¶¶70.7(7.1)##66.2(6.1)
BMI, kg・m-219.6(2.9)20.6(3.1)20.6(2.8)20.8(3.5)
肺機能検査
FEV1, L0.69(0.21)††††‡‡‡‡0.91(0.34)§¶¶¶¶1.13(0.40)####1.57(0.59)
% predicted FEV1, %29.1(9.3)††††‡‡‡‡36.1(11.6)§¶¶¶¶43.6(14.7)####57.0(18.3)
運動負荷心肺機能検査(CPET)
最大運動時
息切れ, Borg scale7.7(2.3)6.8(2.6)7.5(2.4)8.0(1.7)
V ˙ E, L・min-123.6(6.4)**††††‡‡‡‡31.2(7.6)§§§§¶¶¶¶40.0(8.7)####54.3(15.9)
VTex, mL780(245)*††††‡‡‡‡981(253)§§§§¶¶¶¶1,245(295)####1,561(372)
呼吸数, min-132(8)33(6)34(7)36(6)
VD/VT0.39(0.05)††††‡‡‡‡0.35(0.06)§§§§¶¶¶¶0.30(0.06)####0.22(0.07)
PaO2, mmHg53.5(11.4)†‡‡59.1(10.6)61.2(12.2)63.6(11.2)
PaCO2, mmHg44.2(7.9)42.9(6.9)41.9(6.7)39.7(5.6)
血漿乳酸, mg・dL-118.2(4.9)††‡‡‡‡20.8(7.4)§§¶¶¶¶27.6(9.0)####40.0(17.4)
HCO3, mEq・L-125.2(4.0)†‡‡‡‡24.4(2.7)¶¶¶¶23.3(2.6)#21.7(3.0)
pH7.370(0.029)7.371(0.043)7.359(0.039)7.355(0.035)

平均(SD). Tukey–Kramer honestly significant difference testにより解析.BMI: body mass index; FEV1: 1秒量;HCO3: 重炭酸イオン; PaO2: 動脈血酸素分圧;PaCO2: 動脈血二酸化炭素分圧; VC: 肺活量;VD/VT; 死腔換気率; V ˙ E: 分時換気量;VTex; 呼気1回換気量.

A vs B; * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001, **** p<0.0001

A vs C: p<0.05, †† p<0.01, ††† p<0.001, †††† p<0.0001

A vs D: p<0.05, ‡‡ p<0.01, ‡‡‡ p<0.001, ‡‡‡‡ p<0.0001

B vs C: § p<0.05, §§ p<0.01, §§§ p<0.001, §§§§ p<0.0001

B vs D: p<0.05, ¶¶ p<0.01, ¶¶¶ p<0.001, ¶¶¶¶ p<0.0001

C vs D: # p<0.05, ## p<0.01, ### p<0.001, #### p<0.0001

1. 循環器疾患への対策

その他の群では心電図異常が多く見られた.虚血性心疾患,心室性期外収縮,非持続性心室頻拍への精査・加療が必要とされた.欧米のCOPDでは,虚血性心疾患や心不全の合併率が高い4,5.本邦の循環器施設からの報告によると,循環器疾患のCOPD合併率は27%と高く6,息切れの原因として循環器疾患を想起することは呼吸器科スタッフとして重要である.

2. 下肢疲労への対策

息切れを主訴とした患者の20%において,評価の時点では,息切れではなく下肢疲労が運動制限因子であり,安静時の肺機能は比較的保たれていた.まず,下肢を中心とした運動療法をより早期から優先させるべきである.呼吸器科スタッフもしくは循環器科スタッフにとって其々の専門分野への対策に比し,下肢運動療法は軽視されがちである.より早期から身体活動を高めることは予後改善に繋がるとされており7,当院では,このような患者には,より早期から趣味を生かした運動習慣の定着を図り,行動変容を促している.今後,高齢化が進むと下肢疲労で動けない患者が増え,下肢運動療法の必要性がより一層高まると予想され,下肢運動療法の適応患者の選り分けにCPXは有用である.

3. 換気制限による息切れへの対策

換気制限を主体とする「息切れ群」においては通常,吸入療法の調整,理学療法および作業療法を含む呼吸リハビリテーションンなどが行われる. 今回は,さらに215名の息切れ群(病期分類III+IVが159名(74%)を占めた)を対象とし,呼吸パターンに注目しながら 息切れの改善策を考えてみることにした(図1).頻呼吸は息切れの原因とされ治療対象とされがちだが,最大運動時,D群を含むどの群においても著明な頻呼吸は認められた.むしろ,運動耐容能の保たれたD群に呼吸数を上げられなかった患者は認められなかった(図2-1).一方,A群には,頻呼吸で呼気1回換気量(VTex)の伸びが制限された rapid shallowパターンだけでなく,呼吸数を上げずVTexが比較的保たれているような,一見,口すぼめ呼吸が実践できているようにみえるslow shallowパターンも認められた(図2-1).動的な血液ガスの検討を行うと,健常人や換気能力の保たれたD群では,乳酸上昇による代謝性アシドーシスが運動中進行し,それに対する換気代償が重炭酸イオインの低下に表れてくるが(表1図2-2),代謝性アシドーシスが代償されなくなると運動が終了する1,8.この群では,運動制限因子として息切れに加えて下肢疲労の占める割合が高く,下肢運動療法は過剰な乳酸産生を抑え,換気需要の抑制に繋がると期待できる.一方,換気代償能力の劣ったA群では,乳酸上昇には至らず,動脈血二酸化炭素分圧および重炭酸イオンが上昇する呼吸性アシドーシス(表1図2-3)に陥り運動が終了する1,9.これが,なぜ動的過膨張になると息苦しくなるかのひとつの理由である.この群では,運動制限因子として息切れの占める割合が高く,その治療として,理想としてはVTex増加による換気能力の向上もしくは換気効率を高める治療が奏功すると期待できる.息切れは中枢神経ネットワーク,末梢筋肉などを含め複合的な要因で生じるとされている.安静時肺機能,換気制限,運動耐容能が明らかに異なる4群において,最大運動時の運動誘発性アシドーシス(pH)と息切れがほぼ同じレベルで運動が終了したことは(表1),息切れに共通する機序の一つとして血液中における酸・塩基の恒常性を保つ代償機構が関与していることを示唆している.さらに,COPDのみならず特発性肺線維症における運動制限因子を検討した研究において1,8,9,10,投与酸素濃度に関わらず運動誘発性アシドーシスが運動制限因子であった.即ち,息切れは低酸素よりむしろ運動誘発性アシドーシスに関連しており,換気は酸・塩基の恒常性を保つ重要な代償機構を担っていると考えられた.従って,十分な換気,特に呼息を得ることはCOPD治療の根幹となる.VTex,呼吸数,吸気時間比(Ti/Ttot)の内,どれを調節すれば進行したCOPDの息切れ改善に繋がるのかを推定するために,前述の研究とは別に,枝廣らは58例のCOPD(病期分類III+IVが39名(67.2%)を占めた)において呼吸パターンを検討した.病期分類IとIIは運動すると,VTex,呼吸数,Ti/Ttotの全てを伸ばすことができ,病期分類IIIは運動すると,VTexの伸びが制限されるも呼吸数とTi/Ttotを伸ばすことができ,病期分類IVは運動すると,VTex,呼吸数,Ti/Ttot全ての伸びが制限される結果が得られた(米国胸部学会2018年,サンディエゴ).呼気が延長するslow shallowパターンは酸素摂取量を上げられず,患者にとってつらい呼吸である可能性がある.そこで,前述の二つの研究とは別に,三木らは,45例のCOPD患者群(病期分類III+IVが36名(80%)を占めた)で,運動耐容能が運動中の呼吸数の増加比(最大運動時/安静時)とTi/Ttot増加比(最大運動時/安静時)に関連するか検討した11.Ti/Ttot増加比のみ正の相関が得られた(r=0.41 p=0.005).即ち,換気量増加がすでに見込めない進行したCOPD患者において,呼吸数よりはむしろTi/Ttotの調節が残された治療選択になると考えられた.呼息が不十分になり呼気が延長すると,吸気の1回換気量(VTin)とVTexの差で表せる呼気のはき残し(VTin-VTex)が多くなる.1回1回の呼気のはき残しを軽減させることは動的過膨張,呼吸性アシドーシス,延いては息切れの改善に直結する.

図2

息切れ群(n=215)における呼吸パターン,呼吸性アシドーシスおよび代謝性アシドーシス(文献1より引用改変)

1)最大運動時の呼吸数と呼気1回換気量,2)最大運動時の血漿乳酸と重炭酸イオン,3)最大運動時の動脈血二酸化炭素分圧と重炭酸イオン.peak ex.:最大運動時.

現在,呼気圧負荷トレーニング(呼気筋トレーニング)により前述の呼吸パターンが改善するかどうかを検討する臨床研究が進行中である.COPDの進行に伴い,末梢の気道閉塞に加え12縦隔外-中枢気道(声門)の閉塞が呼気延長と関連していることが報告されている13.呼気圧負荷トレーニングの効果として,運動中,声帯が閉塞しないよう保持できるようになると,呼気のはき残しが少なくなり,その結果,静的・動的過膨張が改善することを期待している.

おわりに

COPD治療において,多様性のある息切れに関わる呼吸パターンを探り,個々の運動生理学的病態に応じたテーラーメイド治療は,COPD患者が最も望んでいることであり,息切れを呈するCOPD患者の治療に直結する.CPXは,「少し楽に歩けるようになった」と話かける患者の笑顔を実現させるにかなめとなる情報提供に有用である.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,幕張)ワークショップ2 「呼吸リハビリテーションに必要な呼吸運動生理学」で発表致しました.

著者のCOI(conflict of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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