The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
Online ISSN : 2189-4760
Print ISSN : 1881-7319
ISSN-L : 1881-7319
Original Articles
Efficacy of a interval training for inspiratory muscle in healthy young people
Mika KubotaMasahiro SatakeMasaharu IwakuraYutaka FurukawaKeiyu SugawaraHitomi TakahashiTakanobu Shioya
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 29 Issue 2 Pages 292-298

Details
要旨

【目的】吸気筋トレーニングとして,2種類のインターバルトレーニング(IT)と従来法を比較し有用性を明らかにすること.

【方法】健常大学生29名を吸気筋トレーニングの方法によって無作為に3群に分けた.全群とも負荷強度は最大吸気筋力の60%,頻度は2回/日を毎日とし4週間実施した.開始前と4週後に呼吸機能,呼吸筋力・耐久力を測定した.トレーニング(Tr)継続性の指標としてTr実施前後の呼吸困難と,終了時点でのTr継続の可否を調査した.群間差を連続変数では分散分析と多重比較,名義尺度ではカイ二乗検定を用いて検討した.

【結果】呼吸筋力は全群で,筋耐久力はITにおいて有意に向上した.回数群では従来群と比較してTr実施に伴う呼吸困難が有意に低く,継続可能と答えた者が多かった.

【結論】吸気筋ITは従来法と同程度の効果が得られ,特に回数指定のITでは実施者の負担軽減によりアドヒアランス向上に寄与する可能性が示唆された.

緒言

呼吸筋トレーニングにおいて,特に吸気筋トレーニング(inspiratory muscle training: IMT)は,呼吸リハビリテーションのプログラムとして慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)などの呼吸器疾患患者に広く用いられている1.IMTは呼吸リハビリテーションマニュアルにおいて,スレショルド型と呼ばれる機器を用いて,1セット15分のトレーニングを1日2セット行うプロトコルで実施することが明記されている2.しかし近年は1セットを15分ではなく,呼吸回数を30回と設定する方法でCOPD患者に対する効果が報告されている3,4.1セットを15分とした場合と比較して,1セットを30呼吸とした場合の所要時間は約3~5分であり,実施時間を短縮させることで被験者の負担軽減とアドヒアランス向上が期待されている5

同様に被験者への負担軽減やアドヒアランス向上を目的としたトレーニング方法としてインターバルトレーニング(IT)がある.ITとは,2~3分の運動後に同時間定期的な休息を入れ再度運動を行う方法である2.近年,国内ではスポーツ選手を対象にITの効果が検証されている6.国外では呼吸困難などの症状を有する患者や,重症例で一定負荷量の運動が持続できないCOPD患者に対するITの適用効果がみられたとの報告がされている7,8,9,10,11,12,13.しかしそれらは実施時間を指定したITであり,呼吸回数を指定したITを用いた報告や,従来のIMTとITの効果を直接比較した報告は見当たらない.よって本研究では,1セットの時間または回数をそれぞれ指定した吸気筋に対するITと従来の方法を用いた3条件のIMTを実施し,その効果を比較することを目的とした.

対象と方法

1. 対象

秋田大学医学部に所属する若年健常男子大学生29名とした.対象者には研究内容を説明し,理解を得た上で書面にて同意を得た.本研究は文部科学省および厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守し,秋田大学大学院医学系研究科保健学研究審査委員会(番号1581)において承認された.

2. 方法

1) 介入

対象者を以下の3群に無作為に振り分けた.時間群:2分間のIMT後1分間の休憩をとり,これを7セット行う群.回数群:呼吸数10回のIMT後30秒の休憩をとり,これを3セット行う群.従来群:従来通り15分間持続してIMTを実施する群.時間群の設定はGavinらの研究を参考とした7.回数群の設定に関しては,30回を連続で行う場合の実施時間は3~5分であった3という先行研究を参考に,また2分の実施に対して半分の時間である1分の休憩を設けた時間群に対して,回数群は10回の実施に約1~1.5分かかることから,実施に対して半分程度の休憩時間として30秒を設定した.強度は佐々木らの報告14を参考として,高強度かつ15分間継続可能な,最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressue: PImax)の60%とした.頻度は呼吸リハビリテーションマニュアル2に準じて一日2回を1セッションとして毎日1セッション,期間は4週間とした.トレーニング機器はPOWERbreathe classic(Power breathe International社製)を使用した.

対象者には日誌を配布し,毎日のトレーニング実施状況と,トレーニング実施直前と直後の呼吸困難をBorg Category Ratio Scale(Borg CR10 Scale)を用いて記録させた.

2) アウトカム

アウトカムは呼吸機能,呼吸筋力,呼吸筋耐久力とし,トレーニング開始前(以下0週),開始後4週(以下4週)の時点で測定を行なった.加えて,トレーニングの継続性の指標として,トレーニング実施に伴う呼吸困難とトレーニング終了時におけるトレーニング継続の可否を日誌とアンケートより取得した.

2-1) 呼吸機能

呼吸機能の測定には,電子式診断スパイロメーター(オートスパイロAS-507,ミナト医科学,日本)を用いた.測定方法はAmerican Thoracic Society(ATS)とEuropean Respiratory Society(ERS)のガイドライン15に準じ,測定肢位は端坐位とし,ノーズクリップを装着した状態でマウスピースをくわえて3回測定した.3回の測定のうち,努力性肺活量(forced vital capacity: FVC)が最大値を示した測定の肺活量(vital capacity: VC),FVC,一秒量(forced expiratory volume in one second: FEV1),一秒率(FEV1/FVC),ピークフロー(peak expiratory flow: PEF)を呼吸機能の指標として採用した.

2-2) 呼吸筋力

呼吸筋力の指標として,最大吸気口腔内圧(maximum inspiratory mouth pressue: PImax)と最大呼気口腔内圧(maximum expiratory mouth pressue: PEmax)を測定した.測定には電子式診断スパイロメーター(オートスパイロAS-507,ミナト医科学,日本)を用いた.測定はATSとERSのガイドライン15に準じ,測定肢位は端坐位とし,ノーズクリップを装着した状態でマウスピースをくわえて測定した.PEmaxは全肺気量位(total lung capacity: TLC)から最大呼気,PImaxは残気量位から最大吸気とした.いずれもその圧を3秒間以上維持し,その中の最大値を記録した.また,いずれも各3回行い,それぞれの最大値をPImax,PEmaxとして採用した.

2-3) 呼吸筋耐久力

呼吸筋耐久力の指標として最大吸気負荷時の平均ピーク吸気圧(peak mouth pressure: Ppeak)と,この値をPImaxで除した相対値(Ppeak/PImax)を用いた.測定には,データ収録・解析システム(PowerLab/8sp,ADInsturments社製,オーストラリア)と吸気閾値圧力負荷装置(ビーンズクラフト社製,日本)を組み合わせた吸気閾値圧力負荷(inspiratory threshold loading: ITL)装置を使用した16.測定方法として,断続的吸気負荷漸増法(2分間の負荷吸気と次のレベルの2分間の間に1分間の休憩をいれ,断続的に吸気負荷漸増する方法)17を用いた.測定したPImaxの30%の強度から開始し10%ずつ負荷強度を漸増していき,対象者が強い呼吸困難のために吸気負荷状態での2分間の呼吸が続けられなくなった時点で測定終了とした.

2-4) トレーニング実施時の呼吸困難

3群間で,トレーニング実施中の呼吸困難の程度を比較するために,トレーニング期間中を通したトレーニング実施直前と直後のBorg CR10 Scaleの平均値を対象者ごとに算出し,算出した対象者ごとの平均値を基に群ごとの実施直前と直後のBorg CR10 Scaleの平均値を算出した.

2-5) トレーニング継続の可否

4週間のトレーニング終了時に,すべての対象者に対して,「同条件で今後半年ないし一年間トレーニングを継続可能かどうか?」の問いに対して,「継続可能」,「不可能」,「わからない」,の3択で回答してもらった.

2-6) トレーニング実施率

対象者へ配布した日誌から,毎日2回のトレーニングを実施した場合を100%として実施率を算出した.

3) 統計解析

データの正規性をKolmogorov-Smirnov検定を用いて検証し,正規分布に従う場合,平均値±標準偏差(SD)で示した.各群の対象者の0週での特性の比較には,対応のない一元配置分散分析を用いた.

トレーニングによる呼吸機能,呼吸筋力,および呼吸筋耐久力の変化の比較には,被験者間要因を群(時間群,回数群,従来群),被験者内要因を時期(0週,4週)とした分割プロットデザインによる分散分析を用いた.また,0週にて有意な群間差を認めた項目と有意な交互作用を認めた項目に関しては,実施前後の変化率([4週-0週]/0週)を算出し,その変化率の差を対応のない一元配置分散分析を用いて検討した.トレーニング実施時の呼吸困難の比較には,被験者間要因を群(時間群,回数群,従来群),被験者内要因を時期(トレーニング実施直前のBorg CR10 Scale,実施直後のBorg CR10 Scale)とした分割プロットデザインの分散分析を用いた.トレーニング実施率の比較には一元配置分散分析を用いた.

対応のない一元配置分散分析において有意差を認めた場合,もしくは分割プロットデザインによる分散分析にて交互作用がなく,かつ有意な主効果が認められた要因がある場合に,事後検定として多重比較検定を行った.多重比較検定では等分散性が仮定出来る場合はTukeyの方法を,等分散性が仮定できない場合はGames-Howellの方法を用いた.また,分割プロットデザインによる分散分析において有意な交互作用を認めた項目に対しては,各要因の単純主効果を検討し,有意な単純主効果を認めた要因に対してのみBonferroniの方法を用いて多重比較検定を実施した.

トレーニング継続可否のアンケート結果の比較にはカイ2乗検定を用いた.統計処理にはSPSS statictics 24(IBM社)を用い,有意水準はp=0.05とした.

結果

対象者の特性を表1に示した.0週時点でPEFのみ群間に有意差を認めた.

表1 対象者の背景
変数時間群回数群従来群分散分析
F値P値
人数(名)91010N.A.N.A.
年齢(歳)22.3±4.220.4±1.720.4±1.81.5330.235
身長(cm)173.1±9.8172.7±5.6173.1±4.30.0130.987
体重(kg)66.1±11.467±6.266.1±9.90.0300.971
VC(L)4.9±0.84.4±0.64.6±0.41.4180.260
VT(L)0.9±0.30.7±0.21.0±1.10.4530.641
FVC(L)4.9±0.84.5±0.74.7±0.40.5760.569
FEV1(L)4.1±0.64.0±0.63.9±0.20.5820.566
FEV1(% pred)84.9±9.188.5±2.982.0±7.12.0370.151
PEF(L/s)9.1±0.9*7.2±1.57.4±1.45.8120.008
PEmax(cmH2O)132.9±48.1109.8±28.5108.0±28.01.2780.296
PImax(cmH2O)121.2±16.4102.7±21.3101.9±13.73.2740.054
Ppeak(cmH2O)82.1±18.262.2±24.085.3±23.32.8640.076
Ppeak/PImax(%)0.68±0.120.60±0.180.65±0.130.6600.525

データは平均±標準偏差で示した.

*:時間群 vs 回数群 p<0.05,:時間群 vs 従来群,:回数群 vs 従来群,N.A.: not applicable,VC: vital capacity,VT: tidal volume,FVC: forced vital capacity,FEV1: forced expiratory volume in 1 second,PEF: peak expiratory flow,PEmax: maximum expiratory pressure,PImax: maximum inspiratory pressure,Ppeak: peak mouth pressure.

多重比較検定は,等分散性が仮定出来る場合はTukeyの方法を,等分散性が仮定できない場合はGames-Howell方法を用いて行った.

1. 呼吸機能に対する効果(表2

全ての項目で有意な交互作用は認められなかった.PEFのみ,時間群が回数群と従来群と比較して有意に高値を示し(時間群 vs 回数群:p=0.012,時間群 vs 従来群:p=0.036,回数群 vs 従来群:p=1.000),全群で0週から4週にかけて有意に上昇した(0週 vs 4週:p=0.012).VC,VT,FVC,FEV1はトレーニング前後での有意な変化はなく,群間での有意差も認められなかった.

また,PEFの実施前後の変化率は時間群が4.3±11.6%,回数群が11.6±18.5%,従来群が12.4±22.9%であった.分散分析の結果,群間に有意な差は認められなかった(F=0.533,p=0.593).

表2 実施前後の呼吸機能の変化
変数0週4週分散分析
要因F値P値
VC(L)時間4.9±0.84.8±0.90.9350.405
回数4.4±0.64.4±0.5時期2.1300.144
従来4.6±0.44.6±0.4群×時期2.3700.087
VT(L)時間0.9±0.30.7±0.20.1100.896
回数0.7±0.20.7±0.4時期0.7310.417
従来1.0±1.10.7±0.2群×時期1.0880.375
FVC(L)時間4.9±0.84.8±0.80.4450.646
回数4.5±0.74.5±0.6時期2.2240.118
従来4.7±0.44.6±0.3群×時期1.4530.230
FEV1(L)時間4.1±0.64.0±0.50.9690.393
回数4.0±0.64.0±0.5時期0.9210.406
従来3.9±0.23.9±0.3群×時期0.9470.401
FEV1(%)時間84.8±9.185.1±10.01.6770.206
回数88.5±2.988.5±3.9時期0.6860.474
従来82.0±7.183.3±7.0群×時期0.5910.630
PEF(L/s)時間9.1±0.9*9.5±0.8*†§5.7060.009
回数7.2±1.57.9±1.5§時期7.3050.012
従来7.4±1.48.3±1.4§群×時期0.3740.710

データは平均±標準偏差で示した.

*:時間群 vs 回数群 p<0.05,:時間群 vs 従来群,:回数群 vs 従来群,§:0週 vs 4週 p<0.05,N.A.: not applicable,VC: vital capacity,VT: tidal volume,FVC: forced vital capacity,FEV1: forced expiratory volume in 1 second,PEF: peak expiratory flow.

表の右側は被験者間要因を群(時間群,回数群,従来群),被験者内要因を時期(0週,4週)とした分割プロットデザインの分散分析の結果を示している.

有意な交互作用が認められず,有意な主効果が認められた要因に対しては,事後検定として多重比較検定を実施した.多重比較検定は,等分散性が仮定出来る場合はTukeyの方法を,等分散性が仮定できない場合はGames-Howell方法を用いて行った.

2. 呼吸筋力・呼吸筋耐久力に対する効果(表3

PImax,PEmax,Ppeak/PImaxでは有意な交互作用と群間での有意差を認めず,全群においてトレーニング前後で有意な改善が認められた(PImax: p<0.001,PEmax: p<0.001,Ppeak/PImax: p<0.001).

有意な交互作用を認めたPpeakでは各要因の単純主効果を検討した.Ppeakは0週時点では群間に有意な差を認めなかったが,4週時点では従来群が回数群・時間群と比較して有意に低値を示した(時間群 vs 回数群:p=0.752,時間群 vs 従来群:p=0.007,回数群 vs 従来群:p<0.001).また,時間群と回数群においてPpeakはトレーニング前後で有意に改善した(時間群:p=0.006,回数群:p<0.001).一方,従来群におけるPpeakはトレーニング前後で有意に低下した(p=0.017).

Ppeakの実施前後の変化率は時間群が28.4±20.8%,回数群が106.9±77.6%,従来群が-19.1±17.0%であった.分散分析の結果,群間に有意な差を認めた(F=17.446,p<0.001).多重比較検定の結果,回数群,時間群,従来群の順で変化率が有意に高かった(時間群 vs 回数群:p=0.028,時間群 vs 従来群:p<0.001,回数群 vs 従来群:p=0.001).

表3 実施期間中の呼吸筋力・呼吸筋耐久力の変化
変数0週4週分散分析
要因F値P値
PImax(cmH2O)時間121.2±16.4139.8±18.7§1.4170.261
回数102.7±21.3144.4±35.6§時期40.242<0.001
従来101.9±13.7124.1±31.0§群×時期2.7590.082
PEmax(cmH2O)時間132.9±48.1149.7±51.4§0.640.536
回数109.8±28.5149.5±40.2§時期41.341<0.001
従来108.0±28.0133.9±32.6§群×時期2.4150.109
Ppeak(cmH2O)時間82.1±18.2103.5±18.7†§0.4220.660
回数62.2±24.0115.9±26.5‡§時期22.842<0.001
従来85.3±23.367.9±19.0§群×時期27.06<0.001
Ppeak/PImax(%)時間0.7±0.10.7±0.1§0.2140.809
回数0.6±0.20.8±0.1§時期37.105<0.001
従来0.7±0.10.8±0.1§群×時期2.9810.068

データは平均±標準偏差で示した.

*:時間群 vs 回数群 p<0.05,:時間群 vs 従来群,:回数群 vs 従来群,§:0週 vs 4週 p<0.05,N.A.: not applicable,PEmax: maximum expiratory pressure,PImax: maximum inspiratory pressure,Ppeak: peak mouth pressure.

表の右側は被験者間要因を群(時間群,回数群,従来群),被験者内要因を時期(0週,4週)とした分割プロットデザインの分散分析の結果を示している.

有意な交互作用が認められず,有意な主効果が認められた要因に対しては,事後検定として多重比較検定を実施した.多重比較検定は,等分散性が仮定出来る場合はTukeyの方法を,等分散性が仮定できない場合はGames-Howell方法を用いて行った.

有意な交互作用を認めたPpeakでは各要因の単純主効果を検討した.有意な単純主効果を認めた要因に対してのみBonferroniの方法を用いて多重比較検定を実施した.

3. トレーニング実施時の呼吸困難

トレーニング直前と直後のBrog CR10 Scaleを表4に示した.分散分析の結果,有意な交互作用が認められたため,各要因の単純主効果を検討した.いずれのトレーニング条件においても実施直前と比較して実施直後のBorg CR10 Scaleは有意に高値を示した.また,実施直後のみ,従来群と比較して回数群のBorg CR10 Scaleが有意に低値を示した(時間群 vs 回数群:p=0.130,時間群 vs 従来群:p=1.000,回数群 vs 従来群:p=0.009).

表4 トレーニング直前・直後の呼吸困難と変化量
変数IMT直前IMT直後分散分析
要因F値P値
Borg CR10時間0.2±0.24.7±1.2§7.5010.031
回数0.6±0.13.4±0.6‡§時期185.171<0.001
従来0.2±0.14.8±1.3§群×時期14.0070.009

データは平均±標準偏差で示した.

*:時間群 vs 回数群 p<0.05,:時間群 vs 従来群,:回数群 vs 従来群,§:IMT直前 vs IMT直後 p<0.05.

表の右側は被験者間要因を群(時間群,回数群,従来群),被験者内要因を時期(トレーニング実施直前,直後)とした分割プロットデザインの分散分析の結果を示している.

有意な交互作用が認められたため,各要因の単純主効果を検討した.有意な単純主効果を認めた要因に対してのみBonferroniの方法を用いて多重比較検定を実施した.

4. トレーニング継続の可否

4週間のトレーニング終了後,同条件で半年もしくは一年間トレーニングを継続することは可能かアンケートを実施した結果,可能と回答したのは時間群1人,回数群6人,従来群3人,不可能と回答したのは時間群5人,回数群3人,従来群6人,わからないと回答したのは時間群3人,回数群1人,従来群1人であった.カイ2乗検定の結果,有意差は認められなかった(p=0.20).

5. トレーニングの実施率

トレーニングの実施率は,時間群54%,回数群59%,従来群59%であった.一元配置分散分析の結果,群間で有意差は認められなかった(F=2.85,p=0.08).

考察

本研究は若年健常男子大学生を対象とし,吸気筋に対して,呼吸時間と呼吸回数をそれぞれ指定したITの効果と従来法の効果を比較し,ITの有用性を検討することを目的とした.結果,全ての群において実施前後で有意な増加を認めたのはPImax,PEmax,Ppeak/PImax,PEFであった.Ppeakは時間群と回数群のITで有意な増加を認めた.一方,VC,TV,FVC,FEV1といった呼吸機能の指標は3群のいずれにおいても有意な変化が認められなかった.従来から行われている呼吸筋トレーニングでは,安静時の肺機能の指標は変化せずPImaxは増加するとの報告2があるが,本研究の結果もこれに準ずるものであり,妥当なものと考えられた.

回数群に関しては先行研究がなかったものの,吸気筋力,吸気筋耐久力に有意な改善を認めた.COPD患者を対象とした報告ではあるが,持続的な全身持久力運動とITでは,総負荷量が同じであれば運動耐容能改善の効果は同程度であるとした報告18がある.本研究の回数群の総負荷量は,1日30呼吸2セット(計60呼吸/日)を負荷量として行なったLangerらの報告3と同様であり,休憩を挟む条件でも合計の呼吸回数は同じであったため,有意な効果を得ることができたと考える.

3条件間で用量反応関係を考慮したとき,IMTの実施時間や呼吸回数が最も多くなるのはいずれも従来群であり,トレーニングの負荷量が最も多いのも従来群である.このことから,最も効果が得られると予測されたのは従来群であった.しかし本研究では,PEFとPpeakにおいて若干ITが優れている可能性を示唆する結果が得られたものの,全体としてはほぼ同等の効果を有する可能性が示唆された.この理由として,アスリートを対象としたメタ・アナリシスの結果ではあるが,筋力増強運動の用量反応関係は負荷量(頻度やセット数など)がある一定まで上昇すると頭打ちになるということが明らかにされており19,従来法の15分間という負荷量はすでに効果が頭打ちの状態であったこと考えられる.従って,従来群と比較して負荷量が少なかった時間群,回数群でも同程度の効果が得られたと考える.

本研究のトレーニング実施率は時間群54%,回数群59%,従来群59%であり3群間で実施率に有意差を認めなかった.トレーニング頻度の設定は1日2回を1セッションとし,毎日1セッションと設定したため,実際は平均で週3-4セッション行われたことになる.吸気筋に対するITの報告では,トレーニングの頻度は週に3セッションとされているものが多い6,11,12,13.また高良らは,健常者を対象とした高負荷IMTで吸気筋力,吸気筋耐久力の増加を得るには,週3セッション以上の頻度でトレーニングを実施することが望ましい21としている.従って,本研究のトレーニング実施率は,トレーニング頻度としては効果を得るためには十分であったと考えられる.

一方,回数群ではトレーニング直後の呼吸困難が低く,かつトレーニングを継続可能と答える人数が他の2条件よりも多かった.以上のことから3条件の中で最もトレーニングを長期間継続しやすいのは回数を指定したIT(10呼吸のトレーニング後,30秒の休憩を設けこれを3回繰り返す)である可能性が示唆された.高田らは,吸気筋トレーニングの効果はトレーニング終了から12週間後までには消失してしまうこと報告しており20,IMTは長期間継続可能なプロトコルで実施されることが必要である.従って,例えばCOPD患者,特に呼吸困難が強い重症例に対して,呼吸回数を指定したITを適応することで吸気筋トレーニング実施に伴う負担を減らしつつ十分な効果を得ることが可能となり,トレーニングのアドヒアランス向上にも寄与する可能性が考えられた.

本研究の限界点としては,対象が若年健常大学生であったことが挙げられる.よって,本研究の結果がそのままCOPD患者など呼吸器疾患を有する患者に適応できるかどうかは慎重に判断する必要がある.また,今後はCOPD患者を対象とした吸気筋に対するインターバルトレーニングの有用性を検証していく必要性がある.

おわりに,本研究では吸気筋に対するITを,時間を指定する条件と呼吸の回数を指定する条件の2条件で設定し,加えて従来法を追加した3条件でその効果を比較した.結果,①3条件でトレーニング効果は同程度得られること,②トレーニング実施に伴う呼吸困難が軽く,かつ長期間継続可能であると答える対象者が多かったのは回数を指定する条件であることが明らかとなった.これらの結果から,回数を指定する吸気筋に対するITは対象者に対して負担は最小限に抑えつつ有意な効果を得ることが可能な条件である可能性が示唆された.今後は,吸気筋に対するITのCOPD患者など呼吸器疾患を有する患者への適応が可能かどうかの検証が期待される.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2020 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
feedback
Top