2020 Volume 29 Issue 2 Pages 323-326
2017年4月からかかりつけ医機能を実践する内科診療所において,非常勤職員の呼吸ケア指導士/理学療法士が看護師と協働して,診療報酬にとらわれない「呼吸ケア」外来を実践した.呼吸リハビリテーションや運動療法,リハビリテーション栄養に関して担当医師の指示の下,患者の食生活や日常生活などの情報収集と評価および患者指導を行った.医師,看護師,薬剤師を含めた多医療職種間と情報を共有した.非結核性抗酸菌症5名(全員女性,平均年齢72.8歳)では,介入期間(平均5.2ヶ月)前後で比較すると,体重42.1 vs 43.3 kg,握力18.3 vs 18.6 kg,大腿周囲径36.8 vs 38.0 cm,下腿周囲径30.2 vs 30.5 cmと増加傾向を認めた.かかりつけ医機能を実践する内科診療所での呼吸ケア指導士/理学療法士の介入は,呼吸器疾患に続発する二次性サルコペニアの予防を含めた包括的管理に有用であることが示唆された.
呼吸ケアは,呼吸器疾患や心疾患を有する患者に対して,幅広い知識と技術をもって診断と治療を提供する職域横断的な医療専門分野である1).超高齢社会を迎えた我が国において,呼吸関連の疾病・異常に対する治療はもちろんのこと,予防,急性期治療から慢性期治療,さらには在宅医療や社会生活の維持など呼吸に関わるすべての事象に対して包括的な医療・看護・介護・社会的支援を含めた呼吸ケアの実践が求められてきている2).我が国では,診療報酬で定めた呼吸器リハビリテーション料の施設基準を満たす施設が,呼吸ケアやリハビリテーションを提供している.しかし,この施設基準を満たさないため,かかりつけ医機能を実践する内科所診療所での呼吸ケア指導士/理学療法士による呼吸ケア外来の報告は乏しい.
呼吸ケア指導士/理学療法士である筆頭著者は,2017年4月から,かかりつけ医機能を実践する内科診療所にて,診療報酬にとらわれず,非常勤職員として,呼吸リハビリテーションや運動療法,リハビリテーション栄養に関して担当医師の指示の下,情報収集と評価,指導を行う「呼吸ケア」外来を行う機会を得た.これまでの「呼吸ケア」外来の経験について報告する.
呼吸ケア指導士/理学療法士が非常勤職員を加わえた「呼吸ケア」外来が患者に及ぼす効果を検証することを目的とした.
【呼吸ケア外来の運用】薬物療法中である患者から「太れない」「痩せてきている」「息切れを感じる」などの主訴がある患者に対して担当医師が呼吸ケア介入を判断している.担当医師から呼吸ケア指導依頼を受け,呼吸ケア指導士/理学療法士が「呼吸ケア」外来の概要について説明を行い,患者本人から口頭で呼吸器ケア外来受診の了承を得た.初回外来は60分間,再診以降は30分間として予約枠を設定した.「呼吸ケア」外来は,2週に1回午前に空いている診察室で実施した.利用する診察室には,血圧計,経皮的酸素飽和度測定器,聴診器,握力計,メジャー,体重計,診察台,環境再生保全機構発行COPDパンフレット各種,栄養補助食品サンプルなどを常備した.
看護師と協働しながら,病歴聴取などの情報収集と身体測定を含め評価(表1)を行い,運動指導と栄養指導を行った.必要に応じて,その場で担当医師に情報提供した(図1).診療報酬に定める呼吸器リハビリテーション料の施設基準を満たさないため,「呼吸ケア」外来の保険診療の算定はしなかった.
主な情報収集内容 | ||
現病歴 | 既往歴 | 生活歴 |
職業歴 | 家屋環境 | 日常生活活動量 |
服薬状況 | 福祉・行政サービス利用の有無 | |
趣味・嗜好 | 今の悩み | 生活サイクル |
主な評価項目 | ||
mMRC | 呼吸様式 | 聴診 |
咳嗽の有無 | 喀痰の量・性状 | |
食事の内容 | 飲水量 | |
大腿周径 | 下腿周径 | 上腕周径 |
握力 | 時間内歩行試験 | 肺機能検査 |
「呼吸ケア」外来の位置づけ
2017年4月から2018年8月までに「呼吸ケア」外来を31例〈男性:12例,76.3±6.4歳,女性:18例,74.4±4.6歳〉が受診した.主たる呼吸器疾患名は,COPD and/or 喘息14例(45.2%),気管支拡張症5例(16.1%),非結核性抗酸菌症5例(16.1%),陳旧性肺結核とCPFE各2例(各6.5%),睡眠時無呼吸症候群,良性石綿胸水,胃食道逆流が各1例(各3.2%)であった.このうち,「体重が減った」や「太れない」を強く訴えている非結核性抗酸菌症5例を対象に,食事内容を含めて日常生活の活動量を聴取し,「呼吸ケア」外来の介入前後で,体重,握力,大腿周囲径および下腿周囲径の変化について検討した.統計学的検討にはpaired t-test(Microsoft Excel®)を用いた.
個人のデータは匿名化した上で,対象には研究の目的,データ使用する旨を口頭で説明し了解を得た.
非結核性抗酸菌症5例は,平均年齢72.8歳で,全員女性であった.非結核性抗酸菌症に対する標準治療を受けていたが,体重減少などを訴えていた.日常生活活動量として聴取した歩数は,初回評価時には全員2,000歩以下/日であった.食事摂取量は基礎代謝量より低値であった.蛋白質摂取量は適正な摂取量(1 kgあたり 1 g)より低値であった.リハビリテーションに必要な栄養に基づいた情報の提供,運動療法の指導(スクワット20回以上,頻度1/週以上)を行い,定期的に評価した.介入期間(平均5.2ヶ月)前後で比較すると,体重42.1 vs 43.3 kg,握力18.3 vs 18.6 kg,大腿周囲径36.8 vs 38.0 cm,下腿周囲径30.2 vs 30.5 cmといずれも増加傾向を認めた(図2).
「呼吸ケア」外来前後での変化(peard t-test).A:体重,B:握力,C:大腿周囲径,D:下腿周囲径
患者からは「話をよく聞いてくれる」「適切なアドバイスを貰える」「呼吸ケア」外来は良い」などの意見が聞かれた.
今回は「体重が減った」や「太れない」が主訴にある非結核性抗酸菌症5名の検討であったが,他疾患に関して後に検討した結果,疾患の転帰を軽快と悪化群に分け,悪化群でのベースラインの下腿周計が低い傾向を認め,悪化群では下腿周計が継時的に減少していた(第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会にて発表).
かかりつけ医機能を実践する内科診療所において,非常勤職員である呼吸ケア指導士/理学療法士が看護師と協働して,診療報酬にとらわれない「呼吸ケア」外来は,体重減少を訴えている非結核性抗酸菌症患者の体重,握力,大腿周囲径および下腿周囲径を増やす可能性を示した.
今回検討した非定型性抗酸菌症の5例は,全員が体重減少などを強く訴えていた.非結核性抗酸菌症では,疾患の進行によって体重(BMI値)が減少する3)ことが知られており,「呼吸ケア」外来での指導により,体重が増加することは,非結核性抗酸菌患者の病勢進行に良い影響を与えることが期待されうる.
またリハビリテーション病院・施設入院患者では40~50%に低栄養が認められ,リハアウトカムに悪影響を及ぼす5)とされるため,栄養管理・運動療法を指導する「呼吸ケア」外来は病状の悪化を予見し,栄養状態を観察し得る環境と考える.
我が国では,診療報酬で定めた施設基準を満たす施設が,呼吸ケア・リハビリテーションを提供している.そのため施設基準を満たさない医療機関での報告は,著者らが調べる限り見つけられなかった.急激に進む超高齢社会に加え,複数の疾患を併存し,高齢者独居・夫婦世帯など在宅環境が変化し,地域包括ケアシステムが提案され,かかりつけ医機能を実践する内科診療所での患者を中心にした,多職種連携の構築4)が求められている.健康寿命延伸のためにも,包括的呼吸ケアの実践は重要である1,2).呼吸ケア・リハビリテーションの導入により呼吸器症例の日常生活活動動作(ADL)や生活の質(QOL)が向上することが期待される2).2013年4月から日本呼吸ケア・リハビリテーション学会は呼吸ケア指導士を認定している.呼吸ケア指導士は,呼吸障害をもつ人々の継続的ケアをチーム医療の中で実践し,呼吸ケアに関する最新の基礎的知識と臨床的技術を取得して,地域において指導的な役割を担える専門医療職である.今回の検討により,非常勤職員であっても,かかりつけ医機能を実践する内科診療所も呼吸ケア指導士が活躍できる場所である可能性を示した.
呼吸器リハビリテーション料を算定している施設は病院や呼吸器内科を標榜する診療所に多い.しかし,算定が出来ない場合でも「呼吸ケア」外来と同様の内容で呼吸ケア指導士が介入する事により病院前診療が充実されることと思われた.
今回の報告は,検討症例数も少なく,また後ろ向き検討であるため,かかりつけ医機能を実践する内科診療所における呼吸ケア指導士による「呼吸ケア」外来の有用性を明らかにするためには,多数例,可能であれば多施設,前向き検討が必要である.
診療報酬制度の適応がないなど経営面での課題はあるが,かかりつけ医機能を実践する内科診療所での呼吸ケア指導士/理学療法士の介入は,呼吸器疾患に続発する二次性サルコペニアの予防6)を含めた包括的管理に有用であることが示唆された.
本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.
西川正憲;講演料(アストラゼネカ)