The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
A case report of home-visit rehabilitation for intractable asthma
Toshihiko WatanabeTetsuro FurutaKoji NebashiDai OkayamaHirokazu TanakaDai Yumino
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 346-349

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要旨

気管支喘息の重症者はリモデリングを来し運動耐容能の低下を招く可能性がある.重症持続型の場合,治療下でも増悪を認め,在宅の現場におけるリハビリテーション(以下,リハ)内容に難渋することが多い.訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の提供において,対応できない疾患の上位に呼吸器疾患(重度)が挙げられており,在宅における呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)を浸透させていく事は急務である.本症例は難治性気管支喘息と診断された50歳代女性で,20年間,喘息発作等により入退院を頻回に繰り返していた.訪問診療が開始された後も頻回な往診が必要であり,訪問リハも導入された.リスク管理,運動負荷量の判断のために,フィジカル・アセスメント,ピークフローメーター,喘息日誌を活用,導入した.その結果,リハ中やリハ後の急性増悪や再入院がなく基本動作・ADL能力の向上や身体活動量の拡大がみられた.

緒言

気管支喘息の重症持続型の場合,運動誘発性喘息(exercise induced asthma: EIA)のリスクもあり1,リハビリテーション(以下,リハ)の内容に難渋し,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)においては医療機関との連携が迅速にとれないこともあり,介入を難しくする.

訪問リハの提供において対応できない疾患の中で,呼吸器疾患(重度)は全体の35.0%で第2位の回答になっている2.そのため,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の浸透は急務である.

今回,頻回に入退院を繰り返す重症持続型の難治性喘息患者に対して,訪問リハにて介入する機会を得たので,ここに報告する.

症例

症例:58歳女性.身長 142 cm.体重 38 kg.BMI 18.8.

診断名:難治性気管支喘息(非アトピー型).

合併症:慢性呼吸不全,ステロイド誘発性骨粗鬆症,骨盤骨折.

喫煙歴:なし.

服薬:メドロール® 4 mg/日,ケナコルト® 20 mg筋注,レルベア®200,スピリーバ®レスピマット1回2吸入1日1回,メプチンエアー® 1回2吸入(発作時)(退院時)※ケナコルトは約20年,ステロイドは約25年服用し病状に合わせて調整を図ってきた(服薬の追加・調整は図1参照).

図1

治療経過

生化学検査:白血球数104×102/μL CRP 0.43 mg/dL アルブミン 3.0 g/dL(※訪問診療開始時,異常値のみ記載).

肺機能:FVC 1.83 L,FEV1 1.68 L,FEV1/FVC 91.8%,%FEV1109.2%(増悪因子である犬と非接触時,長時間作用型気管支吸入薬のみ使用).

現病歴:30歳代で非アトピー型喘息を発症.数十年来,急性増悪(発作)により2-3か月毎に入退院を繰り返していた.転倒による骨盤骨折によりA病院へ入院.Y月に退院し,当院の訪問診療が開始された.入院前は杖歩行監視であった.

理学療法評価:BP 110-120/60-70 mmHg HR 90-110 bpm RR 20-24 bpm SpO2 94-97%(O2 2 L/min).満月様顔貌・中心性肥満体形.ROM(range of motion)足関節背屈両側0度.MMT(manual muscle test)下肢2(右<左)体幹2.握力は右 8 kg左 6 kg.起き上がり動作は中等度介助.立位保持は重度介助.日常生活活動(activities of daily living: ADL)能力はFIM(functional independence measure)で65点(運動32/91点,認知33/35点).起き上がり動作後や筋力トレーニング後にRR 28 bpm,SpO2 94% 修正Borgスケール4となり,wheeze増強する場面あり.

環境因子:夫と2人暮らし.犬を飼っている.

個人因子:温厚な性格.悲観的な発言が多く,笑顔が少ない.

主訴:歩けるようになりたい.

介護度:要介護4.

サービス:訪問診療(隔週),訪問看護(3回/週),訪問リハ(1-3回/週),訪問入浴(2回/週).

【倫理的配慮】

本人・家族には報告の趣旨と内容を十分に説明し同意を得た.

【経過】

夜間の喘息発作等で頻回に緊急往診を要した.Y+1月呼吸器専門医により再入院を予防する事を治療目標に服薬が調整され,訪問リハも週1回で開始した.Y+5月~7月は月2回のペースで緊急往診があり,服薬調整・吸入指導を実施された.Y+9月以降は緊急往診の回数が減少した.Y月+16月の間に再入院はなく経過した.治療経過は図1参照.

【理学療法プログラム】

Peak Expiratory Flow(以下,PEF)モニタリング(喘息日誌で確認,毎回リハ前に測定),コンディショニング(ROMex,胸郭モビライゼーション,呼吸介助,呼気練習:口から約 30-50 cm話したティッシュに対して呼気),運動療法(図2参照),家族指導(介助方法の指導),活動量指導.

図2

運動負荷量・身体活動量の推移

【理学療法経過】

開始時はコンディショニングや低負荷のレジスタンストレーニングを中心に実施.Y月+10月悲観的な発言が増えた.Y月+11月運動負荷量の調整・漸増やメンタル面も含めたサポートを行うために,訪問リハ回数が週3回となった.また,ピークフローメーター,喘息日誌(症状,服薬,PEF値,活動量などを記載)を導入した.天候悪化時や犬と接触時間が普段より長い時はPEF値が 20-30 L/分低下する事もあった.起き上がり動作はY月+12か月からは自立し,活動量が増加し,前向きな発言や笑顔が増えた.立ち上がり動作はリハ開始時,重度介助で,10秒間保持で,下肢の疲労感が修正Borgスケール7(非常に強い)であったが,Y月+12か月以降は中等度介助で,30秒間を修正Borgスケール4(多少強い)で行えた.夫の介助で外出が可能となった.Y年+16か月に歩行器を導入した.握力は右 12 kg左 10 kg.ADL能力はFIMで66点と更衣(上半身)にて1点改善がみられた.この間,訪問リハ後に往診が必要となるイベントはなかった.

運動負荷量を漸増するにあたり,一般的な評価に加えて,以下の①~③を考慮し,該当する場合,負荷量は漸増せずに対応し,医師に報告した.

①安静時からwheezeが増強する場合,または,リハ中にwheezeが増強する場合.

②喘息日誌より,安静時のPEFが通常時の20%以上低下している場合.(安静時のPEFは概ね 200~220 L/分で推移)

③夜間帯に短時間作用型β2刺激薬(Short Acting Beta2 Agonist: SABA)を使用している場合.

訪問リハ実施後の当日・当夜・翌日の【1】緊急往診の有無,【2】SABA使用の有無,【3】PEF推移が20%以上低下,【4】疲労感が修正Borgスケール7以上をMedicalCareSTATION(医療介護専用Social Networking Service: SNS)を活用し,情報共有した.【1】~【4】に該当しない場合は負荷量を漸増し,【1】~【4】に該当する場合は主治医に判断を仰ぎ,運動負荷量の調整やSABAの補助的使用の必要性を検討した(図3).

図3

運動負荷量の調整の流れ

考察

本症例は長期間の経過により,著しいADL能力低下を認めていた.一般的には運動療法にあたり,運動負荷試験の必要性が推奨されている1.しかし,本症例は一般的な運動負荷試験が困難であり,訪問リハにおける運動負荷量の調整が重要な問題であった.

福地・千住らによる運動療法の中止基準3と前述の判断基準を用いて運動療法を実施した.②PEFについては,重症持続型の場合,30%を超える変動があるとされている4.医師と相談し,20%を超える変動がある場合は負荷量を漸増せずに対応し,医療介護専用SNSで迅速に情報共有を図った.薬物療法により症状コントロールが安定してきた経過とともに,病状の変化に合わせて運動負荷量を調整したことにより,安全に訪問リハを行う事が可能であった.また,COPDとの違いとしては,環境因子(犬の接触時間,天候の変化)の変化などの誘引を考慮し,PEFのモニタリングが重要であったと考える.

今後の課題として,在宅での客観的指標や医療との連携方法を構築し,重症呼吸器疾患患者でも安心して訪問リハが受けられる体制を構築していくことである.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告するべきものはない.

文献
  • 1)  福地義之助,千住秀明:その他の疾患における運動療法.日本呼吸ケア・リハビリ学会,日本呼吸器学科器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会編,呼吸リハビリテーションマニュアル—運動療法—改定第2版,照林社,東京,2012,82-83.
  • 2)  日本理学療法士協会編:訪問リハビリテーションと,訪問看護ステーションからの理学療法士等による訪問の提供実態に関する調査研究事業調査報告書,日本理学療法士協会,東京,2014,33.
  • 3)  福地義之助,千住秀明:安定期における運動療法の実際.日本呼吸ケア・リハビリ学会,日本呼吸器学科器学会,日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会編,呼吸リハビリテーションマニュアル—運動療法—改定第2版,照林社,東京,2012,55.
  • 4)  一般社団法人日本アレルギー学会:喘息ガイドライン専門部会監.喘息予防・管理ガイドライン2018,協和管理,東京,2018.
 
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