The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
Fluctuation of cuff pressure by automatic cuff pressure controller in early mobilization: A case report
Masayoshi KakiuchiHiroshi KatoKazumasa KishimotoToshiaki TanakaToshiyasu Sakurai
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2020 Volume 29 Issue 2 Pages 350-353

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要旨

早期離床に伴う端座位時の挿管・気管チューブのカフ圧変動は明らかでない.離床時における小型かつ軽量の自動カフ圧コントローラの使用有無によるカフ圧変動差を1症例で検討した.症例は肺炎,急性心不全により人工呼吸器管理が必要であった68歳男性.カフ圧測定は同じ換気条件で第2~4病日に行った.測定姿勢はベッドアップ30,45,60度,端座位とした.ベッドアップ中では圧補正ありは25~30cmH2Oで推移,圧補正なしは30cmH2O前後に上昇した.端座位では圧補正ありは圧力最下点の中央値24.8cmH2O,最小値20.3cmH2O,圧補正なしは中央値21.6cmH2O,最小値18.0cmH2Oであった.端座位時のカフ圧は瞬間的に低下する可能性があり,自動カフ圧コントローラの使用はベッドアップや端座位時のカフ圧変動が少なく,小型かつ軽量のため早期離床の妨げにならずにVAPリスクを軽減できる可能性が示唆された.

緒言

気管内チューブのカフ圧はベッド上の体位変換で変動するため1,持続的なカフ圧制御が人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia: VAP)予防に有効である2.また,早期離床は人工呼吸器装着期間の短縮が報告されているものの3,離床に伴うカフ圧変動は明らかでない.今回,端座位時のカフ圧変動を自動カフ圧コントローラ(automatic cuff pressure controller: ACPC)の使用有無により検討した.なお,本報告は神戸市立西神戸医療センター倫理審査委員会の承認(2017-10)後に実施し,対象者には紙面と口頭で研究内容を説明し,本研究への参加について文書同意を得た.

症例

1. 症例

68歳男性,施設入所中に呼吸苦が出現して救急搬送,肺炎,急性心不全(クリニカルシナリオ1)による重症の急性呼吸不全のため人工呼吸器管理目的で集中治療室に入室(図1).体重 48 kg.既往歴は慢性心不全,腎不全,肺気腫,入院時の血液ガスはpH 6.94,PaO2 32.1 Torr,PaCO2 83.8 Torr,HCO3 17.8 mEq/l(リザーバ付酸素マスク 15 L/分下)であった.第2病日,理学療法開始,持続的気道陽圧呼吸 8 cmH2O,pressure support 7 cmH2O,吸入気酸素濃度0.3,Richmond Agitation-Sedation Scale-1~0,フェンタニル,デクスメデトミジン投与,尿量は 60~100 ml/hr,バイタルは安定も気道内分泌物多量,Functional Independence Measure(FIM)21点であった.第3病日,C反応性蛋白は 13.1 mg/dlでピーク値を示した.

図1

入院時の胸部画像(CT: Computed Tomography)

2. 方法

カフ圧測定は同じ換気条件で第2~4病日に行った.ベッドアップ30度への体位変換前はカフ上部,気管内,口腔内の吸引を実施し,その後,カフ圧を 25 cmH2Oに調整した.姿勢はベッドアップ30,45,60度,端座位とし,各姿勢は約3分毎に変化させた.ACPC(村田製作所製SmartCuff,図2)による圧補正有無で圧力センサAP-C35(KEYENCE)とデータロガーZR-RX45(オムロン)を用いて連続的に圧力波形をサンプリング周波数 10 Hzで計測した.端座位では圧力波形の最下点の中央値と最小値を算出,中央値をウィルコクソン検定で圧補正の有無で比較した.

図2

自動カフ圧コントローラ(村田製作所製SmartCuff)

3. 結果(経過)

測定中の呼吸数はベッドアップ10回前後,端座位20回前後,1回換気量は 400~900 mLであった.ベッドアップ中のカフ圧(cmH2O)は,補正ありで25~30で推移し,補正なしは30前後に上昇した.端座位中は,補正ありで最下点の中央値24.8(23.0-28.6),最小値20.3,補正なしは中央値21.6(20.5-23.5),最小値18.0で,補正なしで有意に低かった(p<0.01).また,図3の補正ありでは,端座位直後の 620 sec時点でバッキングが生じ,640~740 secに数回の気管内吸引,770~810 secに口腔内吸引が行われた.また補正ありの端座位時の口腔内吸引後は 30 cmH2O前後で推移した(図3).補正なしでは,ベッドアップ30度の 85 sec時点でバッキング,85~200 secに数回の気管内吸引,60度の 705 sec時点でバッキング,705~738 secに1回の気管内吸引,端座位直後の 990 sec時点で口腔内吸引が行われた.バッキングや気管内吸引時には圧補正の有無に関わらず瞬間的な圧上昇を認めた.入院中の主な経過は図4に示した.第4病日の抜管計画も粘稠痰多量で窒息リスクが高く延期,第7病日に抜管,第10病日にFIM 45点でICU退室,第17病日にFIM 87点で施設転院された.

図3

ベッドアップと端座位中のカフ圧変動

A 圧補正あり(自動カフ圧コントローラ使用)

B 圧補正なし(自動カフ圧コントローラ不使用)

図4

入院中の主な経過

CPAP: continuous positive airway pressure

HFNC: high-flow nasal cannula

MH: manual hyperinflation

IPV: intrapulmonary percussive ventilator

考察

カフ圧の自動圧補正がない状況下ではベッドアップ中に圧変動を認め,端座位では 20 cmH2Oを下回る瞬間があった.

Okgun1や渡邉ら4はカフ圧が時間経過や体位変換で変動することを報告し,本症例もベッドアップ中に補正なしでカフ圧が上昇した.カフ圧が持続的に 30 cmH2Oを超えることで気管粘膜における血流阻害のリスクが発生することがあり5,定期的なカフ圧測定と再調整の必要性が再確認され,ACPCの有用性が示唆された.

また,補正なしで端座位中に 20 cmH2Oを下回る瞬間があった.ベッド上での体位変換の影響は既に検証されているが1,4,端座位でカフ圧が低下する可能性から,離床前の吸引やカフ圧調整だけでなく離床中も VAP予防のためにカフ圧を 20 cmH2O以下にしない管理が求められることが示唆された5.早期離床により人工呼吸器装着中に端座位や立位,歩行が行われる機会が増えており3,小型軽量で離床を妨げずに持続的なカフ圧制御が行えるACPCは離床中のVAPリスクを軽減できるかもしれない.

ただし,補正ありの状態においても,カフ圧は端座位時にバッキングや吸引時には急上昇し,吸引終了後も 30 cmH2O前後で推移していた.これはバッキングや吸引の影響が残存していたのか,気道内分泌物が多い状況下でベッドアップ位よりも頸部の動きが大きくなる端座位では圧補正に時間を要するのかは不明である.さらに疾患や病態等によっては端座位で異なる圧変動をする可能性もあり,今後更なる症例集積による検証が必要である.

端座位時のカフ圧は瞬間的に低下する可能性があり,ACPCはバッキング時を除いてベッドアップや端座位時の圧変動が少なく,小型軽量のため離床の妨げにならずにVAPリスクを軽減する可能性が示唆された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

神戸市立西神戸医療センター呼吸ケアマネージメントチーム;研究費・助成金(村田製作所)

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