2021 Volume 29 Issue 3 Pages 402
集中治療室(Intensive Care Unit: ICU)入室患者は様々な疾病を抱え,侵襲的治療を受け,多くは,回復し,地域社会に帰っていく.ICUという人工的な音や光環境に囲まれ,見知らぬ医療者にケアされ,自分自身の体に様々な管類が挿入されている中,多くの患者が,興奮したり,幻覚を見たり,ICU入室中の記憶をなくしたりしている.このような体験をした患者が地域社会に帰った後,どんな困難を抱えているのか?また,どのような看護支援が必要かを考えた.
そこで,ICUから退室し地域で生活している25名に「ICUに入室したことの影響」についてインタビューした.その結果,ICUでの体験は,「現実的な体験」「時空間・出来事・自身の認識があいまい」「非現実的な体験」「記憶の消失」で,幻覚・妄想などの非現実的な体験が現実と区別がつかず,混乱しとらわれてしまったり,記憶消失期間の出来事と現状との因果関係にとまどっていたり,非現実的な映像や音の残存と再現があったりという生活の質(Quality Of Life: QOL)を低下させる影響が残っていた.
次に,ICU退室後訪問による看護師支援方法を開発した.内容は,「ICU体験の語り」「現実か錯覚・幻覚・夢かの整理」「記憶の再構築」「非現実的な体験は自分だけではないことの理解」「体験の意味づけ・理由付け」を支援するものとした.このプログラム適用の結果,非適用群に比べ,不安・うつ,心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder: PTSD)傾向が有意に改善した.また,「ICU体験に触れられてよかった・話したかった」「ICU体験を思い出し,その後家族や友人と話し合い,自分の状況を確認した」「ICUで起こったことを説明されて理解できた」「ICUを再訪室し自分が見たものが錯覚と理解した」「ICU入室のために起こったこととわかり安心した」などの効果が得られた.
今回は,ICU入室患者の退院後の生活を見据え,問題発見から,研究,それを現場に適用させ,患者を支援する過程を述べたいと思う.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.