The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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The role of nurse in advanced care planning
Yukie Takekawa
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2021 Volume 29 Issue 3 Pages 424-429

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要旨

慢性呼吸器疾患患者が,最期まで尊厳を持って自分らしく生き抜くためには,アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)をチームで取り組むことが重要である.ACPにおける看護師の役割は,パートナーシップの関係を構築し,適切なACPのプロセスを丁寧に進め,患者の持てる力を引き出しながら患者が主体的にACPに取り組むことができるよう,そして望む医療・ケアをうけその人らしく生き抜くことができるように支援することである.中でもACPのプロセスにおいて,対話による患者の価値観の明確化および家族・医療者との共有は重要であり,患者・家族の話を傾聴・共感しながら意図的に対話を進める技術を有している看護師のACPにおける役割は大きい.

チームの中で看護師が役割を果たすためには,パートナーシップの関係を早期に構築する能力,意図的に対話し価値観を明確にする能力,患者・家族の考えの共有および合意形成への調整能力などが必要である.

緒言

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning: ACP)は,将来の意思決定の低下に備えて,今後の治療・療養について患者・家族とあらかじめ話し合うプロセスであり1,慢性呼吸器疾患患者が,最期まで尊厳を持って自分らしく生き抜くためには,チームで取り組むことは重要である.また,ACPのプロセスの中で患者の価値観の明確化および価値観に基づいた意思の共有が重要であり,それには対話の技術が不可欠2であり,患者・家族の話を傾聴・共感しながら意図的に対話を進める技術を有している看護師の役割は大きい.

しかし,医師の時間不足や患者が希望を失うのではないかという懸念3,4や,ACPの取り組みへの不安により積極的に実施されていないのが現状である.

当センターでは,「患者は,終末期医療の説明により衝撃を受けても立ち直り自己の人生について考える力を有しており,患者に自分の人生を大切に考え自分らしくて生きてほしい」という信念を持ち,ACPワーキングメンバーが中心となり各部署で積極的にACPを実践している.そこで,当センターにおけるACPワーキングの概要とACPにおける看護師の介入をご紹介しながら,看護師の役割を概説する.

当センターにおけるACPの取り組み

1. ACPワーキングの概要

2017年に呼吸器内科医師,慢性疾患看護専門看護師(CNS),慢性呼吸器疾患看護認定看護師(CN),呼吸ケア指導士,院内呼吸器ケア認定看護師らで終末期医療や望む生き方の意思決定支援に関する検討会を発足し,ACPのシステム構築に向けて活動を開始し,2018年に集中治療科医師も加わりACPワーキングと名称変更をした.

1) 目的

患者が終末期をその人らしく尊厳をもって生き抜くことができるように,適切なACP支援の推進及び実践力の向上を図る.

2) 基盤となる考え

・患者に自分の人生を大切にしてほしいという強い信念を持ち,チームで協働する.

・患者は,今後起こりうる病状や終末期医療の情報提供により衝撃や不安感情を抱いても,自己の人生について考える力を有している.医療者は終末期医療の情報提供により,患者が希望を失うのではないかという懸念を抱きACPに消極的になってはいけない.恐れるのではなく,ACPのスキルアップに努めるべきである.

3) 活動

・定例会を毎月開催し,各病棟におけるACPの実態や困っている点など情報共有及び検討,事例検討を行う.

・病棟においてカンファレンスや事例検討を推進する.

・ACP介入のスキルアップ:看護師にACP介入の実態やACP介入に対して難しいと感じている内容などアンケート調査し5,介入マニュアルを作成する.ACP,臨床倫理について各病棟および院内勉強会を開催する.

・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会で事例研究を中心に複数発表する.

2. ACPのシステム

1) 介入時期と看護師の面談

外来では,医師による初回面談時,さらに看護専門外来で面談直後,1~2か月後,4~6か月後および適宜,入院時は,医師による初回面談時,面談当日,2,3日後および適宜,退院前に行い,看護専門外来へ繋いでいる.ACP介入は,外来では看護専門外来担当のCNS,CN,病棟では,若手看護師が担当の場合,中堅看護師と同席し,介入方法を学ぶようにしている.病棟看護師が同席できない場合は組織横断的に活動しているCNSが同席する.

2) ACP面談の手順

・看護師は,面談予定表に患者氏名,面談日時,家族および看護師の同席者を記載し,面談予定を病棟内に周知する.リーダーは看護師が同席できるようにチームの采配や,必要時CNSに面談同席を依頼する.

・面談は,医師が今後の経過および終末期医療について考える必要性とその詳細についてリーフレットを用いて説明する.看護師は,患者の感情や思いの表出を促しつつ,アドボケータ―(代弁者)の役割を担い,患者の思いの代弁や,患者・家族に不明な点の補足説明を行う.また,ACPの必要性の説明や対話により患者の価値観の明確化と家族・医療者との価値観の共有など行う.

・記録は電子カルテのテンプレートに記載する.テンプレートの工夫点として,A)ケア内容,B)価値観シート,C)調整すべき内容の項目を入れている.

A)ケア内容:①患者の表情,行動の観察,②思いや感情の共有,③事前意思決定の必要性の説明,④理解度の確認と補足説明,⑤患者の質問内容とそれに対する返答,⑥患者の意思決定状況,⑦患者の価値観・希望など患者の情報と,家族などに介入した場合は,同様の内容のチェックを行う.ケア内容の記載は,看護師のケアの意味づけおよびケアの質の維持を目的に明記し,チェックする.ケア内容は,意思決定支援場面で実践しているケアや川崎6の意思決定支援の技法を参考にカテゴリー化している.また,補足説明をはじめ,個々に応じた説明は,自由記載とし情報の共有を図り継続支援に繋げている.

B)価値観シート:広島県地域保健対策協議会「私の心づもり」7を参考に作成した.家族や周囲の人に負担をかけないこと,身の回りのことが自分でできること,職場や家庭内での役割を果たせること,他の人に弱った姿を見せないこと,大切な人と一緒に過ごすこと,大切な人に伝えたいことを伝えること,医療者となんでも言い合える関係を持てること,今後自分に起こる事や余命を詳しく知っておくこと,その他の欄で構成されており,すべてにチェックしてもらい,さらに優先度の高い2つを選んでもらっている.これは患者自身が,何を大切にしているか考えるきっかけや明確化に,また家族が患者の大切にしていることの理解に役立つ.

C)調整すべきこと:具体的に内容を記載する.

このようなテンプレートの使用により,患者・家族の変化のプロセスや倫理調整を行うべき問題などが明確かつ共有でき継続的な支援につながっている.

・ACP介入後,病棟カンファレンスで情報を共有する.また,介入困難事例に関してはカンファレンスで検討することで,看護師の自己効力が高まり積極的にチームで取り組むことに繋がる.

3. ACPの実際

1) ICUにおける意思決定支援(挿管下人工呼吸療法ついての意思決定)

A氏:60歳代,女性.基礎疾患:非定型抗酸菌症.呼吸状態悪化傾向,挿管下人工呼吸療法(intermittent positive pressure ventilation: IPPV)予定で他施設から当センターのICUに入室してきた.A氏の病状は,IPPVにより状態が改善する可能性は極めて低く,抜管が困難で気管切開になる確率が高い状態であった.IPPVは患者が病状を理解したうえで価値観に添った意思決定か?,万が一の時心残りはないのか?など疑問が生じた.患者には終末期医療を検討するにあたり必要な医学的適応の情報提供,すなわち病状や終末期医療と生活の変化などについての情報提供がなされていなかった.そこで,医師,病棟看護師,CNSによる多職種カンファレンスを開催した.

一般的にIPPVすることで換気改善するという「善」と,患者の苦痛や合併症,会話できないというコミュニケーションの障害や苦痛が強い場合に鎮静剤の使用により意思表示ができないなどといった「害」をもたらす.A氏にとっての自律・善行の原則を保障し害を最小限にする支援が不可欠であり,筆者たちは,A氏に心残りなく望む生を生き抜いてほしいと願い,厳しい病状であるが意思決定支援を実施した.その結果,A氏は病状と予後を理解し,「家族としゃべれる時間が大切」と家族と話ができる状態で生きることを選択し,家族に伝えたいことを伝えて永眠された.家族は,「死期を早めたけれど大切な時期を普通にいろいろ話をして過ごすことができた.人工呼吸をしなくてよかった」と治療方針の変更への後悔はなかった.

A氏のようにICU入室が必要な状態の患者にも,チームで意思決定に必要な情報提供を行い支援することで,患者は望む治療を選択しその人らしく生ききることができる.しかし,急性期にACPを行うことは,患者にとってストレスは大きく,冷静な判断を行うことができないこともあるため,一般病棟,あるいは外来・在宅で安定した状態の時にACPを行うことが重要である.

2) ICUから病棟へシームレスな関わり

B氏:60歳代男性.基礎疾患:間質性肺炎.家族:妻と二人暮らし,子供は独立.HOT導入後,入院中にACPを開始したが,終末期医療について明確な意思表示はなく退院し,2か月後に急性増悪で再入院した.B氏・家族の希望によりIPPVを開始し,状態改善により抜管が可能となった.しかし,再挿管が必要となる可能性があり,抜管前に今後の方針をB氏は考える必要があった.

挿管中のB氏は,主治医より今回抜管しても再挿管,さらに気管切開が必要になる可能性があると説明を受けたのち,「まだ死ぬわけにはいかない.人工呼吸をする」と意思表示した.この言葉の意味を理解することでB氏の大切にしていることおよび価値観に基づいた意思決定か否か判断できると考え,B氏にその理由を尋ねた.B氏は「家族をおいてまだ死ぬわけにはいかない.気管切開をして家族の介護を受けても家族との時間のために生きたい.人工呼吸をする」と意思表示があり,看護師は家族に思いを伝えた.家族は,「本人は人工呼吸器をしたい理由を話してくれなかったが,思いを聴けて良かった.本人の意思を尊重したい」と言い,合意のもとで抜管となった.

抜管後,状態は悪化傾向のため,主治医は間質性肺炎の増悪で挿管しても救命できない可能性が高いことと挿管のメリット・デメリットについて再度説明した.B氏は「死刑を宣告されたみたい」と混乱をきたしたが,看護師は,B氏の混乱および意思のゆらぎに理解を示し寄り添った.病状の理解の確認や病いの体験・ライフヒストリーを傾聴しながら,ともに考え意思決定したことを全力でサポートすることを伝えた.家族の病状理解も確認し補足説明を行った後に,B氏と家族が話し合った結果,現状況で大切なことが明確となり「話ができる時間を大切にしたい.たとえ寿命が短くなっても挿管しない」と意思の変化を認めた.

抜管後,一般病棟へ転棟した.ケア継続のため,意思決定に至ったプロセスやB氏の価値観など情報提供した.一般病棟では,B氏が大切にしている「家族と過ごす時間」を少しでも心身ともに安楽に,そして家族との時間の中で生きる意味を感じて生き抜くことができるように支援することを目標にケアを提供した.

呼吸困難の緩和を図りながら,B氏が大切にしている家族・孫の話や生きがいであった仕事の回想を促したり,快・不快を尋ね,快となることは増やし,不快となるものは可能な限り除去しながら心地良い時間を提供した.呼吸困難が増強しているB氏に対して無力感に苛まれている家族には,家族がそばにいることが最高の価値あるケアであると伝え,家族の存在およびケアの意義を承認した.また,B氏が大切にしている家族や孫の話,仕事の回想や相談によりB氏の安寧および自己価値向上につながる心地良い時間の共有を促した.

B氏が永眠後,家族は,「ずっとそばに付き添い,話ができてよかった.先生や看護師さんが,厳しい病状や喉に穴を開けることなどを話してくれたお陰.看護師さんのアドバイスで,仕事の相談など心がけてするようにした.嬉しそうだった.」と話された.「ご家族は,Bさんにとって一番大切なこと,一緒にいたいと言う思いでそばに付き添い,最後までBさんが一家の大黒柱として役割を果たせるようにケアした.ご家族のお陰で,Bさんらしく生き抜くことができた」と家族のケアを称えた.

3) 看護専門外来におけるACP

C氏:70歳代男性.基礎疾患:過敏性肺臓炎.HOT歴2年8か月,鼻カニュラで安静時 3 L/分,労作時 5 L/分使用.妻と二人暮らし,子供は独立.

まず,今後起こり得る状態や終末期医療の説明による衝撃・不安などの軽減とACPの意義やパートナーシップの説明により緊張からの解放および心の安定を図った.そして価値観の明確化や終末期医療の説明による意思決定に必要な情報の獲得,価値観や意思の真の共有や望む生活の実現に向けて方略の模索への支援により尊厳の保障に繋げていた(表1図1).

表1 看護専門外来におけるACP支援内容と患者・家族の反応

事例B氏におけるACP支援内容のカテゴリー化と患者・家族の反応を示した.

図1

看護専門外来におけるACP支援

事例B氏における看護専門外来におけるACP支援内容を図に示した.

ACPにおける看護師の役割

ACPにおける看護師の役割は,パートナーシップの関係を構築し,適切なACPのプロセス8を丁寧に進め,患者の持てる力を引き出しながら患者が主体的にACPに取り組むことができるよう,そして望む医療・ケアをうけその人らしく生き抜くことができるように支援することである.

・主体的にACPに取り組むことができるように準備性を高める:ACPの重要性の理解を促し,“自分の人生”について考えるという認識を高めたり,今後起こり得る状態や終末期医療についての不安の緩和を図る.

・患者が大切にしていること,価値観を明確にする:

保清や散歩など日々のケアの中で快を提供しながら,大切なことや気がかりなことの表出を促す.また,ライフヒストリー,病いの体験の語りを促し傾聴したり,意図的な対話により生きがいや大切にしていることの言語化を促す.

・意思決定に必要な情報の理解を支える:今後起こり得る状態や終末期医療についての捉え方を確認し,補足説明をする.

・患者にとっての最善を患者とともに見出す:患者の意思の揺らぎや不安に寄り添い,対話により患者の最善を共に言語化できるように意思決定プロセスを支援する.揺らぎとは,自分自身の持てる力に自分自身が働きかけ,自分自身の持てる力を最大限に発揮できる可能性を持つ概念で,対話と現状の認知のなかでゆれ動きながら自己の中に潜む力や能力を呼び起こし優先したい価値に気づくことができる9

・価値観・意思の共有,および合意形成を支える:患者の真意が伝わるようにアドボケータ―となる.また,患者が家族や医療者に気遣うことなく真意を述べることができるように自律性を保障する.

意思決定プロセスのリフレクションを助け患者が語った意思決定内容とその根拠(価値観)を繰り返し伝え,真の共有,合意形成を図る.

・望む生活に向けて支援する:専門的知識・技術を持ち,患者個々に応じたケアを熟慮,提案し,提供する.

・ACPに取り組む患者の力を高める:患者に寄り添い,ともに考える存在であることを伝え,パートナーシップの関係の認識を高める.また患者が人生で果たしてきた役割やできごとに耳を傾け称賛し,患者の人生を肯定する.

・ACPをシームレスに継続できるように連携・調整する:

医療機関,在宅医療など継続支援ができるように情報共有やコーディネートする.

以上の役割をはたすために看護師に求められる能力を表2に示す.

表2 ACPに求められる看護師の能力
・パートナーシップの関係を早期に構築する能力
・心理状況をアセスメントし情緒的サポートを行う能力
・患者の病状や治療方法について的確な情報を提供する能力
・意図的に対話を促進し価値観を明確にする能力
・患者・家族の考えの共有および合意形成への調整能力
・倫理的視点で情報の整理・分析し医療者に説明する能力
・望む生活実現に向けた療養法,環境などの調整能力
・患者の希望や揺れる代理意思決定を後押しする実行力
・多職種や家族のチームをコーディネートする能力

おわりに

長江10は「多くの人は人生の危機直面時,自分の生きる土台や人生の目的を求めていく本来の力がある」,竹之内11は,「患者には,適切な援助があれば,自分にとっての最善を見出す力と,表現する力がある」と述べている.

医療者は患者に今後起こりうる状態や終末期医療について説明することにより,患者の希望を失うのではないかというACPの障壁を払拭し,患者は真実を知り衝撃を受けても立ち直り,自己の人生について考える力があることを信じて積極的にチームで取り組むことが課題である.ACPのプロセスにおいて看護師の役割は大きく,必要な能力を理解し自己研鑽が必要である.

また,シームレスな介入により,患者・家族は安定した状態でACPの中に存在することができ,患者主体の意思決定,それを尊重した代理意思決定が可能となる.したがって,医療機関,介護施設,在宅医療との連携システムの構築を早急に行うことも課題である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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