2021 Volume 29 Issue 3 Pages 446-452
【目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)の呼吸管理の状況別における,患者教育を実施している看護師の割合の違いを明らかにする.
【方法】呼吸器科に勤務する看護師にCOPD患者教育の各項目について,在宅酸素療法(HOT)を実施してない,HOTを実施している,在宅人工呼吸器を実施している患者への実施の有無を尋ねた.
【結果】治療における自己管理の重要性,患者の自己管理でおきうる問題点,セルフモニタリングの3項目については,3つの患者群間で看護師による患者教育実施率に差があった.HOTを実施していない患者ではそれぞれ62%,59%,41%であり,HOTを実施している患者の85%,82%,67%および在宅人工呼吸を実施している患者の79%,76%,65%と低値であった.
【結論】COPD軽症者に対する疾患の自己管理の患者教育実施率は重症者に比べて低く,看護師が中心にCOPD患者教育が行える仕組みが課題である.
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下,COPD)の発症予防には禁煙啓発が,重症化予防には症状の改善や増悪を予防する支援が重要であり,軽症時からのセルフマネジメントとして患者教育が必要とされている1,2).しかし,日本呼吸管理学会呼吸リハビリテーションガイドライン作成委員会は,日本における呼吸リハビリテーションの問題として,欧米に比べ呼吸リハビリテーションの普及率が低いことを挙げ,また,呼吸リハビリテーションに対する患者の意欲の低さも指摘している3).そして,その原因としてプログラムの内容および効果に関する説明が不足している可能性が高いと述べている.呼吸リハビリテーションの指導を受けた人の割合は,2005年にはCOPD患者全体の60%であり,5年後の2010年でも63%にとどまっていた4).在宅酸素・人工呼吸器非実施群においても,2005年では48%,2010年では51%と,呼吸リハビリテーションを受けている人は呼吸リハビリテーションを必要としている人の約半数であり,5年間が経過しても顕著な増加はみられなかった4).さらに,COPD患者は療養生活についての情報提供を希望しており,その内訳は,「息切れを軽くする日常生活動作の工夫(54%)」が最も多く,その他「急な息切れの対応方法(42%)」,「呼吸訓練(41%)」が多く挙げられ,これらの結果は5年前の2005年に行われた調査と同様であった4).このように,COPD患者教育に対する要望は,時間を経ても充分に満たされる兆しはない.これらの調査の後,COPD患者教育の実施体制について広く調査した報告はみられない.また,COPD患者の支援には多職種のかかわりが必要であり,その中でも看護師は日常生活援助に携わることからCOPD患者の生活全般を見渡して患者自身が自律して継続的な自己管理を行うための教育を行う役割がある.COPDは緩徐進行性で不可逆的な病態であることから,治療管理の指針として患者教育は軽症のうちから行うことが求められている5,6).しかし,看護師がCOPD患者教育に関わることが在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:以下HOT)など,何らかの医療器具使用が必要になった段階以降で多くの場合行われている可能性が指摘されているものの7),その現状は広く調査が行われていないことから明らかでない.医療器具使用が必要になった段階以降でCOPD患者教育に看護師が関わることが多いとされる理由の1つとして,2007年の第5次医療法改正により,医療機器安全確保についての指針の作成と実施が医療機関に義務づけられたことが挙げられる8).この改正によりCOPDの患者教育の内容が機器管理に重きを置くようになった一方で,医療機器を使用しない軽症者に対する日常生活における自己管理の指導がなおざりになっているのではないかと思われる.いずれの理由にしろ,COPD患者教育が軽症のうちから十分に行われていない可能性を看過することはできない.
そこで,COPDの呼吸管理の状況の異なる患者間における看護師によるCOPD患者教育の実施率の違いを明らかにすることを目的として本研究を行った.
病院の呼吸器外来または,呼吸器病棟(混合病棟に呼吸器内科がある場合,混合病棟も含む)に勤務する看護管理者を含む看護師とした.中部地方および近隣に所在する愛知県,岐阜県,三重県,静岡県,長野県,福井県,富山県が提示している病院一覧のうち,呼吸器内科の診療科目を有する病院を対象病院とした.これら対象病院へ研究協力依頼を行い,研究協力の承諾を得られた病院の呼吸器科の外来または,病棟に勤務する看護管理者を含む看護師を調査対象者とした.
2. 調査の実施方法調査は,研究協力の承諾が得られた病院の看護部長へ調査票を郵送し,対象者への配布を依頼した.調査の実施は2017年7月から9月に無記名自記式質問紙で行い,調査対象者により記入された調査票は,回答を行った調査対象者本人が投函するように依頼し郵送で回収した.
3. 調査内容 1) 看護師の属性および勤務する病院の状況や環境看護師の属性として,年齢,呼吸器科勤務の経験年数,性別,勤務場所(外来,病棟,外来兼病棟),職位(師長,係長(副師長・主任),なし),雇用形態(正社員,契約社員,派遣労働者,パートタイム労働者),保有する資格(専門看護師,認定看護師,3学会合同呼吸療法認定士(以下,呼吸療法認定士),なし)について尋ねた.
勤務する病院の状況として呼吸器教室の実施の有無,禁煙外来の設置の有無,包括的呼吸リハビリテーションの実施の有無を尋ねた.また,多職種との連携の状況がよいと思うかどうかを「大変良い」「よい」「どちらでもない」「やや悪い」「悪い」の5段階評価で尋ねた.COPD患者教育に関する状況については,職場でCOPD患者教育についてサポートをしてくれる人が「いる」「いない」で尋ねた.過去一年間のCOPDや呼吸に関連した院内外の勉強会・研修への参加の有無,COPD患者教育についての自己学習の有無を尋ねた.
2) COPD患者教育の実施調査内容COPD患者教育の実施調査票は,呼吸リハビリテーションマニュアルにある自己管理のための学習内容と達成目標のうち「疾患の自己管理」「増悪予防・早期対応」「日常生活の工夫と息切れの管理」の達成目標13項目を引用改変し15の質問項目を作成した6).この達成目標15項目は,在宅呼吸ケア白書2010で行われた療養生活,指導に対する要望の調査で,COPD患者において指導を受けることの要望が多かった「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」「急な息切れの対応方法」,「呼吸訓練」の3項目と合致するものを選択した4).達成目標15項目は,それぞれ「疾患の自己管理」4項目,「増悪予防・早期対応」5項目,「日常生活の工夫と息切れの管理」6項目で構成されている.回答者である看護師に対して,HOTを実施してない患者,HOTを実施している患者,在宅人工呼吸器を実施している患者のそれぞれについて,過去6か月間に関わる機会の有無およびCOPD患者教育の15項目について「行っている」「行っていない」の二者択一で尋ねた.
4. 倫理的配慮調査は,無記名自記式質問紙による郵送法質問紙調査により個人が特定されないよう配慮し,本調査への研究協力の同意は,調査票の返送をもって得られたものとすることを文書で説明した.本研究は,研究者が所属する日本赤十字豊田看護大学研究倫理委員会の承認(承認番号:2901)を得て実施した.
5. データ分析方法HOTを実施してない患者,HOTを実施している患者,在宅人工呼吸器を実施している患者のCOPDの呼吸管理の状況別に,COPD患者教育を行っている看護師の割合を求めた.割合の差はカイ2乗検定を用いて分析を行った.3群間の多重比較となるため有意水準についてはボンフェローニの補正を用い1.7%を有意水準とした.分析はSPSS Statistics 24を用いた.
研究協力の承諾が得られた病院は65施設であった.配布依頼のため1032部の調査票を送付し,538名の回答を得た.回収率は52.1%であった.そのうち,調査票のすべての項目に回答がされていた272名を本研究の分析対象者とした.有効回答率は26.4%であった.
2. 看護師の属性,勤務する病院およびCOPD患者教育に関する状況対象者は女性が256人(94.1%)と多く,年齢は,20歳代が103人(37.9%)と最も多かった(表1).呼吸器科での経験年数(通算)は,1年以上3年未満が116人(42.6%)と最も多く,次いで3年以上10年未満が98人(36.0%)であった.勤務場所は,病棟勤務者が244人(89.7%)と最も多かった.
人数 | % | ||
---|---|---|---|
性別 | 女性 | 256 | 94.1 |
男性 | 16 | 5.9 | |
年齢 | 20歳代 | 103 | 37.9 |
30歳代 | 67 | 24.6 | |
40歳代 | 75 | 27.6 | |
50歳代 | 23 | 8.5 | |
60歳代 | 4 | 1.5 | |
呼吸器科の経験年数 | 1年未満 | 27 | 0.0 |
(通算) | 1年以上3年未満 | 116 | 0.0 |
3年以上10年未満 | 98 | 0.0 | |
10年以上 | 31 | 0.0 | |
勤務場所 | 外来 | 23 | 8.5 |
病棟 | 244 | 89.7 | |
外来および病棟 | 5 | 1.8 | |
職位 | 師長 | 9 | 3.3 |
係長(副師長・主任) | 44 | 16.2 | |
なし | 219 | 80.5 | |
雇用形態 | 正社員 | 258 | 94.9 |
契約社員 | 7 | 2.6 | |
派遣労働者 | 0 | 0.0 | |
パートタイム労働者 | 7 | 2.6 | |
保有する資格 | 専門看護師 | 2 | 0.7 |
(複数回答あり) | 認定看護師 | 12 | 4.4 |
呼吸療法認定士 | 17 | 6.3 | |
認定看護師および呼吸療法認定士 | 4 | 1.5 | |
なし | 237 | 87.1 |
n=272
勤務する病院に禁煙外来があると回答した者は191人(70.1%)であった(表2).勤務する病院で包括的呼吸リハビリテーションを行っていると回答した者は169人(62.1%)であった.
人数 | % | ||
---|---|---|---|
呼吸器外来 | あり | 36 | 13.2 |
なし | 236 | 86.8 | |
禁煙外来 | あり | 191 | 70.2 |
なし | 81 | 29.8 | |
包括的呼吸リハビリテーションの実施 | あり | 169 | 62.1 |
なし | 103 | 37.9 | |
多職種との連携 | 大変よい | 9 | 3.3 |
よい | 142 | 52.2 | |
どちらでもない | 97 | 35.7 | |
やや悪い | 21 | 7.7 | |
悪い | 3 | 1.1 | |
院内外の勉強会・研修への参加 | 参加した | 139 | 51.1 |
参加していない | 133 | 48.9 | |
自己学習 | 行っている | 134 | 49.3 |
行っていない | 138 | 50.7 | |
COPD患者教育について職場でサポートしてくれる人 | いる | 197 | 72.4 |
いない | 75 | 27.6 |
n=272
COPD患者教育の実施は,それぞれの呼吸管理の状況にあるCOPD患者と関わる機会が過去6ヵ月の間にあった者を対象に分析を行った.過去6ヵ月の間にHOTを実施してない患者と関わることがあった者は253人,HOTを実施している患者と関わることがあった者は259人,在宅人工呼吸器を実施している患者と関わることがあった者は118人であった.
COPD患者の呼吸管理の状況別で実施の割合に差がみられたCOPD患者教育項目は,疾患の自己管理の下位項目,治療における自己管理の重要性,患者の自己管理でおきうる問題点,セルフモニタリング,患者の治療のゴール設定の4つであった(図1).疾患の自己管理の下位項目の1つである治療における自己管理の重要性については,HOTを実施している患者(84.9%)および在宅人工呼吸器を実施している患者(78.8%)に対して患者教育を行っている者の割合に比べ,HOTを実施してない患者(61.7%)に対して患者教育を行っている者の割合が有意(p<.001,p<.01)に少なかった.患者の自己管理でおきうる問題点については,HOTを実施している患者(81.5%)および在宅人工呼吸器を実施している患者(76.3%)に対して患者教育を行っている者の割合に比べ,HOTを実施してない患者(59.3%)に対して患者教育を行っている者の割合が有意(p<.001,p<.01)に少なかった.セルフモニタリングについては,HOTを実施している患者(66.8%)および在宅人工呼吸器を実施している患者(65.3%)に対して患者教育を行っている者の割合に比べ,HOTを実施してない患者(41.1%)に対して患者教育を行っている者の割合が有意(p<.001,p<.001)に少なかった.患者の治療のゴール設定について,HOTを実施してない患者に対してCOPD患者教育を行っている者の割合は28.5%であり,HOTを実施している患者に対してCOPD患者教育を行っている者の割合は42.5%,在宅人工呼吸器を実施している患者に対してCOPD患者教育を行っている者の割合は39.8%であった.HOTを実施している患者に対して患者教育を行っている者の割合に比べ,HOTを実施してない患者に対して患者教育を行っている者の割合が有意(p<.001)に少なかった.
COPDの呼吸管理の状況別にみた看護師の患者教育実施状況
在宅酸素を実施してない患者に対して(n=253),在宅酸素を実施している患者に対して(n=259),在宅人工呼吸器を実施している患者に対して(n=118),*p<.017(ボンフェローニの補正後)
その他の項目についてはCOPDの呼吸管理の状況間で患者教育の実施状況に差は見られなかった.
疾患の自己管理についての教育項目である「治療における自己管理の重要性」,「患者の自己管理でおきうる問題点」,「セルフモニタリング」の3項目は,HOTを実施していない患者に比べ,HOTを実施している患者および在宅人工呼吸器を実施している患者に対して,患者教育の実施率が高かった.これらの結果は上木らのCOPDの自己管理情報ニーズ調査で受けた印象を支持するものであり7),看護師によるCOPD患者の自己管理についての教育は,患者がHOTなどの医療器具を使用する段階で実施されることが,広く,そして多くの臨床現場で行われていることを示した.HOTや在宅人工呼吸器は,COPD患者自身が望む自宅での生活を送ることを目指すものであり,療養生活を支援する看護師は,これらの機器を使用する患者への教育に積極的にかかわる役割がある.さらに,医療機器を使用している患者の病状段階は医療機器を使用していない患者に比べ重度の場合が多く1),医療機器管理の必要性に加え,増悪を起こすことで生命危機へのリスクが高くなるため,医療機器を使用していない患者に比べ,医療機器を使用している患者へ看護師が積極的に教育を行う傾向が示されることは必然的といえる.また,HOTを実施していない患者とHOTを実施している患者へのこれら3項目の教育の実施率の違いは,HOTを実施している患者は在宅で医療機器を自己管理ができることが必須であり,これらの患者に対しては必ず酸素供給装置の取扱いの説明が行われることから,HOTを実施している患者への教育を行う看護師の割合が高くなったと考える.
「患者の治療のゴール設定」における患者教育の実施率は,いずれの呼吸管理の状況においても50%を下回り,特にHOTを実施していない患者への実施率が29%であったことは,HOTを実施している患者への実施率が43%であったことと比較してさらに低かった.HOTを実施している患者は,在宅で医療機器の自己管理ができることが必要であり,これについては必ず目標設定がされることからHOTを実施している患者に比べて「患者の治療のゴール設定」について指導がされている可能性が高いことは先に述べたとおりである.しかし,呼吸管理のいずれの状況においても看護師による患者教育の実施率が低い理由は,医師または理学療法士など治療計画にかかわりの大きい職種により「患者の治療のゴール設定」が行われていることの影響によるものと考える.そのような視点から考えると,COPD患者教育において,看護師が積極的に取り組む部分と,他職種に任せる部分があるものと思われる.看護師が積極的に取り組むことが望ましいCOPD患者教育の部分についての議論は今後の課題と考える.
また,患者教育における医療供給体制の問題として,患者教育の必要性を認識し行おうとしても,人員の不足により実行を困難にさせている現状がある8).このことは,臨床的に患者教育の優先度が高いと考えられるHOTを実施しているまたは在宅人工呼吸器を実施している病状が重い傾向にある患者に比べ,HOTを実施していない病状が軽度の患者への実施割合が低くなる要因になりうると考える.
一方で,患者側の要因として,病状が安定していることにより増悪に対する危機感の薄れ・欠如があり9),HOTを実施していない軽症な患者は,自己管理を軽視している可能性が推察される.軽症な患者は中等症の患者に比べて運動療法へのモチベーションが低いことが報告されており10),看護師による教育・指導への理解や承諾が得られず,患者教育の遂行が困難となることで実施率が低下している可能性が考えられる.
COPDによる健康問題は世界的な課題であり,2015年の全世界のCOPDによる死亡者は300万人と推定され,その数は四半世紀の間に12%増加している11).さらにCODPは全世界の障害調整生存年数(DALY)の2.6%を占める要因であり11),多くの人々に人生の質の低下をもたらしている.人生の質にかかわることからも,看護師はCOPDの管理において主導的な役割を果たすための重要な立場にある.スウェーデンでは看護師を主体とした喘息・COPD診療所が一般的であり12),専門看護師のいる診療所で管理されているCOPD患者の急性増悪の頻度が低いことが報告されている13).また,COPD患者に対する看護師主導の自己管理の臨床的効果をレビューした研究では,予定外の医師の訪問を減らし,患者の不安を軽減し,自己効力感を高めることが報告されている14).さらに,プライマリケアにおけるナース・プラクティショナーは高い患者満足度とケアをもたらす可能性も報告されている15).
緩徐進行性で不可逆的な病態であるCOPDへの対応は,治療的というよりも管理・指導による日常生活支援であり,多専門職による医療チームにより行われるべきではあるが,日常生活支援の主軸をになう役割である看護師の更なる積極的なかかわりが望まれる.一方で,COPD患者へ看護師が関わることが高い患者満足度をもたらし15),患者の不安を軽減し,自己効力感を高めることを示唆した諸外国の報告は14),看護師が患者教育にかかわることで,軽症な患者が自己管理に関する教育を受けることへのモチベーションが向上する可能性を示している.このように,看護師,COPD患者双方からの患者教育実施への歩み寄りがなされれば,看護師による軽度患者への教育実施率の向上につながることが期待される.そのためにも,COPD患者に対する看護師が中心となりコーディネートを行う患者教育の仕組みがわが国でも進むことを期待したい.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.