The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Factors affecting the length of hospital stay in patients with aspiration pneumonia
Jun ImadaAkira EguchiMasaki YoshikawaKazuhiko TakamatsuMichiaki AtarashiTakako MoritaniAtsushi SugyoYasuko FuchimotoArihiko Kanehiro
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2021 Volume 29 Issue 3 Pages 460-466

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要旨

【目的】70歳以上の高齢者は低栄養が生じやすく,入院中に日常生活活動(activities of living:以下ADL)がさらに低下する症例が多い.低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者の在院日数に焦点をあて,それぞれの影響について検討した.

【方法】2017年4月から2019年3月までに誤嚥性肺炎と診断され当院入院となった91名を対象とした.入院時の体格指数(body mass index:以下BMI)が18.5未満をU群(42名),BMI 18.5以上をN群(49名)とし,Barthel Index(BI),栄養関連指標,血液データ等について2群間で比較検討した.

【結果】U群においてGeriatric Nutritional Risk Index(以下GNRI)は有意に低値(U群:77.0±7.7点,N群:89.8±11.9点)であり,在院日数では有意な延長(U群:25.5±17.7日,N群:17.2±9.6日)が認められた.両群ともGNRIと在院日数に有意な負の相関関係を認めた(U群:r=-0.465,N群:r=-0.401).在院日数に影響する独立した因子としてGNRIが抽出された.

【結語】在院日数には入院時の栄養状態が影響し,入院時の栄養状態評価は予測因子として有用である可能性が指摘された.

緒言

近年,人口の高齢化に伴い肺炎患者は増加してきている.東京都健康安全研究センターの疾病動向予測システムを用いた研究1では誤嚥性肺炎患者の死亡者数は2016年において男性21,730人,女性16,920人であり,2030年には男性77,000人,女性52,000人程度に増加するとされている.誤嚥性肺炎は嚥下障害を呈した高齢者,脳梗塞後遺症を含む神経疾患,認知症患者などに多く発生する.老人医療介護施設の全国調査データによる観察研究2では嚥下障害,脱水,認知症,経管栄養などが誤嚥性肺炎発症の危険因子であったと報告されている.高齢者では併存疾患が多く,基礎体力も低下しており,在院日数の長期化や日常生活活動(activities of living:以下ADL)能力の低下を引き起こしやすい.

先行研究3,4では内科疾患入院患者の約35%にADL低下を認め,高齢肺炎患者122名のうち約半数にADL低下を認めた.ADL能力低下の要因は廃用症候群,低栄養,薬剤など様々な要因が絡みあって生じるとされている5.低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者でも入院中にADLがさらに低下する症例を経験することがある.瀧澤ら6は入院前の機能的自立度評価法(Functional Independence Measure:以下FIM)を100%として比較すると,開始時では早期群(体温低下,CRP低下などの肺炎の病態が改善に向かうのが総合的に判断された時点で処方が出されたもの)60.4%,従来群(従来どおり内科主治医の判断による処方に従って開始したもの)63.4%までFIMが低下し,開始2週間後では早期群82.6%,従来群78.3%まで両群とも明らかに改善し,終了時には早期群90.0%,従来群84.3%とFIM達成度において早期群で有意に改善し,肺炎治療後のADL獲得に影響があると述べている.また,先行研究7,8では重症度,安静臥床期間,誤嚥の有無,年齢,退院時栄養経路などが肺炎患者のADL低下に影響していることが報告されている.特に予備力の少ない高齢者では容易に廃用症候群を来たし,在院日数の長期化からADL能力の低下を来しやすい.しかし,低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者の在院日数に与える影響についてはこれまで明らかにされていない.

本研究では誤嚥性肺炎患者の体格指数(Body Mass Index:以下BMI)が低値であった対象に焦点をあて,在院日数,栄養関連指標,入退院時のADL等を比較検討し,在院日数に与える影響について明らかにすることとした.本研究の仮説として,低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者は在院日数の長期化が生じている可能性がある.そのため,在院日数に与える影響を明らかにすることで早期介入が可能となり,在院日数の短縮には有用である.

対象と方法

1. 対象

入院時に誤嚥性肺炎と診断され,当院に初回入院となった91名(男性58名,女性33名)を対象とした.誤嚥性肺炎の定義として医療・介護関連肺炎診療ガイドライン9より嚥下障害ならびに誤嚥が証明された症例,もしくは主治医が強く疑われる症例に生じた肺炎を誤嚥性肺炎とした.対象期間は2017年4月から2019年3月とした.静脈経腸栄養学会のガイドライン10では高齢者においてBMI 18.5未満は栄養療法の適応であることから,入院時のBMIが18.5未満をU群(42名:男性23名,女性19名),BMI 18.5以上をN群(49名:男性35名,女性14名)とし2群間で比較検討した.本研究では低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者のADLと在院日数について調査するため,ADLにおいて全介助を要する①要介護5の患者,死亡退院となった②死亡例は除外した.また,肺炎の再発についてはADL低下,嚥下障害,合併症など様々な因子が関連すると報告されている11ことから③再入院患者は除外した.

2. 方法

背景因子は年齢,身長,体重,BMI,肺炎重度分類としてA-DROPスコア(Age, Dehydration, Respiration, Orientation, Pressure score:以下A-DROP),要介護度,使用薬剤,既往歴,入院前の生活場所,退院先,栄養サポートチーム(Nutrition Support Team:以下NST)介入の有無について調査した.使用薬剤はタゾバクタム/ピペラシリン(Tazobactam/Piperacillin:以下TAZ/PIPC),スルバクタム/アンピシリン(Sulbactam/Ampicillin:以下SBT/ABPC),セフトリアキソン(Ceftriaxone:以下CTRX),レボフロキサシン(Levofloxacin:以下LVFX),その他とした.

当院におけるNST介入基準は,①65歳以上,②BMI 18.5未満,③アルブミン値(albumin:以下Alb)2.5 g/dL以下,④摂食率5割以下が7日以上持続,欠食が7日以上持続もしくは経腸栄養管理となっている患者のうち4項目すべてを満たす患者ではNST介入となっている.NST介入症例では必要栄養量の計算から不足分の高カロリー輸液や補助飲料の選択,経腸栄養材の選択,変更を行っている.

ADL評価指標として入院時,退院時のバーセル指数(Barthel Index:以下BI)を使用した.リハビリテーション開始時に理学療法士が測定したBIを入院時BIとし,退院直前に理学療法士が測定したBIを退院時BIとした.入院時BIに関しては入院前のADL状況を把握できる指標として評価した.BI改善度については退院時BI-入院時BIにて算出した.

入院時の栄養状態を評価するため,血液データとして入院時のヘモグロビン値(hemoglobin:以下Hb),総タンパク値(total protein:以下TP),Alb,C反応性蛋白値(C-reactive protein:以下CRP)を調査し,入院時のAlb値,体重,標準体重から栄養関連指標としてGeriatric Nutritional Risk Index(以下GNRI)を算出した.GNRIは高齢者の栄養状態を評価する指標であり,GNRIが低値であれば栄養状態が不良であることを示す12.本研究では標準体重を(身長m)2×22から算出し,GNRIは(14.89×入院時Alb値g/dL)+41.7×(入院時体重kg/標準体重kg)より算出した.さらにリハビリテーション開始日,端座位開始日,立位もしくは車椅子移乗開始日,在院日数について調査した.リハビリテーション開始日とは主治医から依頼があり,入院日から理学療法士または作業療法士が介入までに要した日数とした.全例において理学療法士または作業療法士が介入を行い,介入頻度は患者の状態に応じて1回20~60分,週5日の介入とし,退院日まで継続した.運動療法プログラムは2群とも呼吸リハビリテーションに関するステートメント13に沿ってコンディショニング(リラクセーション,胸郭可動域運動,呼吸練習,排痰練習等を含む),ADL練習,レジスタンストレーニング,全身持久力運動を組み合わせて実施した.患者の状態に応じて座位練習,立位練習,歩行練習と段階的に離床を進め,同時にADL練習も併行して実施した.急性疾患では生体防御反応として異化を亢進する種々のホルモンや炎症性サイトカインが増加し,インスリン抵抗性も増加するため体蛋白分解が亢進し,低栄養が進行する14ことから異化期,同化期に配慮して介入を行った.ADLでは早期から理学療法士,作業療法士による練習後に病棟看護師による確認,再指導を実施し,病棟内ADL獲得に向けてADL練習を実施した.その後は自宅退院に向けて環境を調整した中で理学療法士,作業療法士によるADL練習を実施した.

3. 統計解析

統計学的分析において患者背景では正規性が認められれば対応のないt検定,正規性が認められなければMann-WhitneyのU検定を用い,要介護度,使用薬剤,既往歴,入院前の生活場所,退院先,NST介入の有無についてはχ2検定を用いた.2群間の比較ではMann-WhitneyのU検定を用いた.各群におけるGNRIと入院時BI,退院時BI,リハビリテーション開始日,端座位開始日,立位もしくは車椅子移乗開始日,在院日数の相関関係についてはSpearmanの順位相関係数を用いた.相関関係の強さの程度は川瀬ら15の判定基準よりr:0.0~±0.2をほとんど相関がない,±0.2~±0.4を弱い相関,±0.4~±0.7を中程度の相関,±0.7~±1.0を強い相関があるとした.さらに在院日数を目的変数,年齢,BMI,入院時BI,GNRIを独立変数とした重回帰分析を行い在院日数に影響を及ぼす因子を検討した.高齢者では在院日数が延長しやすいことが推察され,入院前より低栄養状態の患者ではADL低下も引き起こしている可能性が推察されるため,在院日数に影響を与えるであろう年齢,入院前のADL状況を反映する入院時BI,栄養状態指標であるGNRI,BMIを独立変数の項目とした.状況全ての総計解析にはRおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトであるEZR16を使用し,有意水準5%未満にて有意判定を行った.

4. 倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言の倫理的指針に従い実施し,研究内容を口頭と文書にて説明し同意を得た.本研究は労働者健康安全機構岡山労災病院臨床倫理小委員会の承認を得た(承認番号143).

結果

1. 患者背景

患者背景を表1に示す.年齢,身長,要介護度,使用薬剤,既往歴,入院前の生活場所,経口摂取の可否,経管栄養の有無,退院先に2群間で有意な差は認めなかった.体重,BMIにおいてはN群(体重:54.8±9.3 kg,BMI:22.4±3.4)と比較してU群(体重:39.7±7.8 kg,BMI: 16.3±1.4)で有意に低値であった.NST介入の有無ではU群で17名(40.5%),N群で6名(12.2%)とU群で有意にNST介入症例が多かった.肺炎の重症度分類であるA-DROPでは2群間に有意な差は認めなかった.

表1 患者背景
U群(n=42)N群(n=49)p値
年齢(歳)83.4±7.882.9±10.80.787
身長(cm)155.4±12.2156.3±9.00.808
体重(kg)39.7±7.854.8±9.3<0.01
BMI16.3±1.422.4±3.4<0.01
A-DROP(点)2.1±1.02.1±0.70.883
介護度 要介護1(人)4( 9.5%)5(10.2%)1.00
    要介護2(人)2( 4.8%)8(16.3%)0.155
    要介護3(人)12(28.6%)8(16.3%)0.249
    要介護4(人)18(42.9%)21(42.9%)1.00
既往歴 脳梗塞(人)11(26.2%)17(34.7%)0.517
    認知症(人)17(40.5%)25(51.0%)0.427
    COPD(人)5(11.9%)8(16.3%)0.764
    心疾患(人)10(23.8%)11(22.4%)1.00
    胃食道疾患(人)3( 7.1%)5(10.2%)0.886
使用薬剤 TAZ/PIPC(人)10(23.8%)11(22.4%)1.00
     SBT/ABPC(人)24(57.1%)26(53.1%)0.858
     CTRX(人)5(11.9%)2( 4.1%)0.317
     LVFX(人)3( 7.1%)6(12.2%)0.645
     その他(人)0( 0%)4( 8.2%)0.167
経口摂取 可(人)36(85.7%)47(95.9%)0.179
経管栄養 あり(人)6(14.3%)2( 4.1%)0.179
入院前 自宅(人)25(59.5%)29(59.2%)1.00
    施設(人)17(40.5%)20(40.8%)1.00
退院先 自宅(人)9(21.4%)20(40.8%)0.079
NST介入(人)17(40.5%)6(12.2%)<0.01

BMI: body mass index, COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease, TAZ/PIPC: Tazobactam/Piperacillin, SBT/ABPC: Sulbactam/Ampicillin, CTRX: Ceftriaxone, LVFX: Levofloxacin, NST: Nutrition Support Team.

年齢の比較は対応のないt検定を使用.身長,体重,BMI,A-DROPの比較は Mann-WhitneyのU検定を使用.要介護度,既往歴,使用薬剤,経口摂取,経管栄養,入院前の生活場所,退院先,NST介入の有無に対するU群・N群の比較はχ2検定を使用.

年齢,身長,体重,BMI,A-DROPは平均±標準偏差

2. 2群間における比較

2群間の比較を表2に示す.GNRIはN群(89.8±11.9点)と比較してU群(77.0±7.7点)で有意に低値であった.入院時BI,退院時BIともにN群(入院時BI 24.4±22.7点,退院時BI 40.8±28.5点)と比較してU群(入院時BI 14.6±18.2点,退院時BI 26.4±26.8点)で有意な低値を示した.しかし,BI改善度においては2群間で有意な差を認めなかった.在院日数においてはN群(17.2±9.6日)と比較してU群(25.5±17.7日)で有意に延長,リハビリテーション介入期間もN群(14.0±9.3日)と比較してU群(22.7±17.4日)で介入期間の有意な延長を認めた.入院時の血液データ,リハビリテーション開始日,端座位開始日,立位もしくは車椅子移乗開始日においては2群間で有意な差を認めなかった.

表2 U群とN群における各項目の比較
U群(n=42)N群(n=49)p値
GNRI77.0±7.789.8±11.9<0.01
入院時Hb(g/dL)11.5±2.511.5±2.10.729
   TP(g/dL)6.5±0.76.5±0.70.914
   Alb(g/dL)3.1±0.53.2±0.60.500
   CRP(mg/dL)10.1±8.88.2±8.50.370
入院時BI(点)14.6±18.224.4±22.7<0.05
退院時BI(点)26.4±26.840.8±28.5<0.05
BI改善度(点)11.8±22.216.4±20.70.310
リハビリテーション開始日2.9±2.13.2±2.30.462
端座位開始日5.7±5.44.6±3.00.212
立位もしくは車椅子移乗開始日7.2±5.56.7±5.90.669
リハビリテーション介入期間22.7±17.414.0±9.3<0.01
在院日数25.5±17.717.2±9.6<0.05

GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index, Hb: hemoglobin, TP: total protein, Alb: albumin, CRP: C-reactive protein, BI: Barthel Index.

GNRI, Hb, TP, Alb, CRP, BI, BI改善度,リハビリテーション開始日,端座位開始日,立位もしくは車椅子移乗開始日,リハビリテーション介入期間,在院日数の比較では Mann-WhitneyのU検定を使用.

平均±標準偏差

3. GNRIと各項目の相関関係

2群におけるGNRIと各項目の相関関係を表3に示す.U群ではGNRIと在院日数は負の有意な中程度の相関関係を認めた(r=-0.465,p<0.01).N群でもGNRIと在院日数に負の有意な中程度の相関関係を認めた(r=-0.401,p<0.01).リハビリテーション介入期間においてもU群(r=-0.445,p<0.01),N群(r=-0.419,p<0.01)ともに負の有意な中程度の相関関係を認めた.N群では入院時BI(r=0.359,p<0.05)と退院時BI(r=0.318,p<0.05)に正の有意な弱い相関関係,立位もしくは車椅子移乗開始日(r=-0.325,p<0.05)に負の有意な弱い相関関係を認めた.その他の項目については有意な相関を認めなかった.

表3 GNRIと各項目における相関関係
U群(n=42)N群(n=49)
rp値rp値
在院日数-0.465<0.01-0.401<0.01
入院時BI(点)0.2370.1310.359<0.05
退院時BI(点)0.2340.1350.318<0.05
BI改善度(点)0.0520.7430.0750.608
リハビリテーション開始日-0.0510.751-0.0430.769
端座位開始日-0.0320.841-0.2720.058
立位もしくは車椅子移乗開始日-0.0290.858-0.325<0.05
リハビリテーション介入期間-0.445<0.01-0.419<0.01

GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index, BI: Barthel Index.

Spearmanの順位相関係数を使用.

4. 在院日数に影響を及ぼす因子

重回帰分析の結果(R2=0.157,p<0.001),在院日数に影響を及ぼす因子としてGNRI(β=-0.67,t=-3.23,p<0.001)が抽出された(表4).

表4 在院日数を目的変数とした重回帰分析
因子標準化係数(β標準誤差t値p値
年齢-0.050.17-0.280.78
BMI0.610.571.070.29
入院時BI-0.070.08-0.860.39
GNRI-0.670.21-3.23<0.001

BMI: body mass index,GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index, BI: Barthel Index.

在院日数を目的変数,年齢,BMI,入院時BI,GNRIを独立変数として重回帰分析を実施(R2=0.157, p<0.001).

考察

本研究では低栄養を伴う誤嚥性肺炎患者の在院日数に与える影響について検討した.U群ではN群と比較してGNRIは有意に低値であり,在院日数は有意に延長していた.GNRIと在院日数の相関関係では2群とも負の相関関係を認め,在院日数に影響を及ぼす因子としてGNRIが抽出された.本研究の結果から入院時の栄養状態評価は予後予測因子として有用である可能性が示された.

70歳以上の高齢者ではエネルギー摂取量,たんぱく質摂取量が70歳未満の人に比べ大幅に減少し,疾病の罹患率が高く,摂食・嚥下障害やうつ・認知症の合併,消化器機能の低下,さらに悪性疾患や慢性炎症性疾患により低栄養が生じやすい17.また,大荷ら10は高齢者の栄養評価法であるMini Nutritional Assessment(以下MNA)を用いて,外来受診した65歳以上の高齢患者87例対象に栄養評価を行ったところ,比較的ADLが自立した外来通院患者でも約半数に栄養学的問題を認めたと報告している.本研究でもGNRIはU群において有意に低値を示し,高齢者では入院前より低栄養に陥っている可能性がある.

本邦における診療報酬データベースを用いた誤嚥性肺炎に関する研究18,19,20では平均年齢82歳,65歳以上の高齢者は全体の95%を占めていた.また,入院時のBIは15点とADLが低下している患者が多く,平均在院日数32日であった.本研究のU群でも入院時BIは14.6点と同程度の結果であった.加茂ら21は高齢者の低栄養は生理的機能の低下と身体機能の低下を引き起こし,栄養状態がADL能力に直接与える影響よりも身体機能を介して間接的に与える影響が大きいと報告している.U群では入院時よりBIが低値であり,入院前より身体機能が低下していた可能性が考えられる.U群では退院時BIが低値であったが,BI改善度については2群間で有意な差は認められなかった.両群とも介入中のAlb値,CRP値,食事摂取量等の栄養状態を考慮しながらコンディショニングを含む運動療法を実施することでBI改善度については有意な差がみられなかったものと推察される.

先行研究22,23ではBMIと低エネルギー摂取はフレイルとの関連を認めており,低エネルギー摂取例や体重減少例ではフレイル発症のリスクとされている.入院前よりBMIが低値の患者ほど体重減少の影響を受けやすく,活動量低下や筋力低下といったフレイルへとつながり,さらに活動量低下に伴い消費エネルギー量も低下する悪循環のサイクルに陥っている可能性がある.低栄養の原因は飢餓,急性疾患・損傷(急性炎症,侵襲),慢性炎症に分類される24.後期高齢者は,軽度の侵襲でもフレイルや障害が悪化しやすく,侵襲下の代謝変化は障害期,異化期,同化期に分類され,障害期では一時的に代謝が低下し,異化期では筋肉の蛋白質の分解が著名で,高度の侵襲では1日 1 kgの筋肉量が減少する24.誤嚥性肺炎は急性疾患であり,異化期では筋肉量減少が生じることが推察される.後期高齢者では身体要因,精神要因,薬剤要因,社会要因が栄養状態に悪影響を与え,特にフレイルとなりやすく,予備力が少ないため廃用症候群や低栄養に陥りやすい24.そのため,BMI低値の患者ほど運動負荷に耐えられる予備力が乏しく,低負荷の運動療法になるためADL改善には時間を要し,在院日数の延長に繋がっていることが示唆される.

早期離床は機能予後,ADL能力,QOLなど様々な因子を改善させるとの報告25が数多くなされてきた.欧米においてearly mobilizationは2日から5日以内に行われる身体活動とされている26,27.当院においても入院後早期に理学療法士,作業療法士の介入が可能となったことでリハビリテーション開始日には両群間で有意な差が認められなかった.2日から5日以内を早期とするならば,本研究では端坐位開始日,立位もしくは車椅子移乗開始日は遅延していたと考える.離床遅延の要因としては異化期・同化期を踏まえ,栄養状態を考慮し,過負荷とならないよう運動療法プログラムを実施してきたことが考えられる.

大荷ら10は高齢患者67例を対象にGNRIと在院日数の関係を調査し,GNRIは在院日数と有意な負の相関(r=-0.432,p<0.01)を示したと報告している.本研究でもGNRIと在院日数の相関関係では2群ともに負の有意な相関関係を認めた.入院時の栄養状態評価にGNRIを用いることで,予後予測として有用である可能性が示唆された.

70歳以上の入院患者の約70%に栄養障害が認められた報告もある28.また,70~79歳の入院患者でBMI 18未満ではBMI 32~40の患者と比較して3倍近く死亡率が高いとの報告もある29.低栄養の患者に運動療法を行うと栄養状態の悪化や筋力低下を助長する可能性がある.しかし,適切な栄養管理と最適な運動負荷を加えることでADLの改善,QOLの改善に繋がる.本研究でもBMI低値の患者では栄養障害が認められ,入院早期から栄養状態の改善を含めたアプローチが在院日数の短縮につながる可能性がある.

本研究の問題点は定量的な筋力の客観的な評価が行えていないこと,入院前の身体活動量が詳細に把握できていないことが挙げられる.今後の課題として筋力や入院前の身体活動量といった客観的な評価指標の測定が必要である.また,U群におけるNST介入率が約40%であるためNST介入の基準を見直し,妥当性についても検討が必要である.

本研究では誤嚥性肺炎患者の在院日数,栄養関連指標,入退院時のADL等を比較検討し,在院日数に与える因子について調査した.入院時の栄養状態は在院日数の延長に繋がり,在院日数に影響を及ぼす因子としてGNRIが抽出された.入院時の栄養状態評価にGNRIを用いることで予後予測として有用である可能性が示唆され,入院後早期より多職種による栄養状態の改善を含めたアプローチが在院日数の短縮につながる可能性がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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