The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Original Articles
Evaluation of an educational program for certified nurses about breathlessness management support in patients with chronic respiratory disease
Minako ImadoYukie TakekawaAyako HonjoFumi ItoTerue KawadaTakako MouriMari MatsumotoKikuko MoriMichiko Morimoto
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2021 Volume 29 Issue 3 Pages 467-474

Details
要旨

【背景及び目的】慢性呼吸器疾患患者の息切れへの支援の質向上を図るため,認定看護師を対象に息切れマネジメント支援の教育プログラムを行い評価した.

【対象】本研究への参加希望があった慢性呼吸器疾患看護及び訪問看護の認定看護師138名.

【方法】非無作為化2群間事前事後比較試験とした.介入群には1回3時間の講義・演習を2回実施,対照群は介入なしの条件で,事前と事後(介入3か月後)で息切れマネジメント支援の実行頻度と自信の程度を自記式質問紙により調査し,二元配置分散分析を用いて分析した.

【結果】介入群48名,対照群44名を分析対象とし,息切れマネジメント支援の実行頻度と自信はいずれも群と時間(事前,事後)の交互作用を認め,介入群では事後に息切れマネジメント支援の実行頻度及び自信が有意に増加した.

【考察】本プログラムは認定看護師の息切れマネジメント支援の質向上に効果があることが示唆された.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:以下COPD)等の慢性呼吸器疾患患者において,息切れは日常生活活動(Activities of Daily Living:以下ADL)を制限し生活の質を低下させる1.在宅呼吸ケア白書では,患者が療養生活について教えてほしいと望む内容の第1位は,「息切れを軽くする日常生活動作の工夫」であり2,患者が抱く息切れへの支援のニーズは高い.

慢性呼吸器疾患患者は,医療者の支援の有無に関わらず毎日様々な息切れのマネジメント法を実行している3,4.しかし,実行しているマネジメント法が息切れの緩和に役立っていると感じている患者は少ない5.呼吸法や動作法等といった息切れのマネジメント法は,患者が自らの生活でどのように役立つのかを実感し,上手く実行できる自信が高まることで日常生活に取り込まれ,結果として息切れの緩和に寄与するのではないかと推察する.そのためには,個々の患者の息切れの体験や生活に応じたマネジメント法の調整や評価,自信を高めるサポートなどの専門的な看護支援が必要と考える.

Larsonらは,症状緩和は24時間その症状を体験している患者が最も対応に熟練しているエキスパートであるという考え方に基づき,症状マネジメントの統合的アプローチ(An Integrated Approach to Symptom Management:以下IASM)を作成した.IASMは,看護師が患者の体験(症状)や行っている方略を正確に理解し,患者のセルフケア能力に応じた知識,技術,看護サポートを提供することを導くモデルであり,これに沿って看護を行うと必然的に患者を中心とした症状マネジメントが実現される6.息切れに関しても,看護師が患者の体験を十分に理解してセルフケア能力に応じた支援が実践できると,患者自身の息切れマネジメントの力が高まるのではないかと考えた.そこで本研究では,まず病院や在宅で慢性呼吸器疾患患者のケアにおいて指導的役割を持つ,慢性呼吸器疾患看護と訪問看護の認定看護師(Certified Nurse:以下CN)を対象に,息切れマネジメント支援の教育プログラムを行い,その効果を評価することを目的とした.本プログラムにより,CNの息切れマネジメント支援の実行頻度が増加し,支援の自信が高まり,困難感が低減するという仮説を検証した.

対象と方法

1. 研究デザイン

非無作為化2群間事前事後比較試験とした.無作為割付の場合,勤務等の都合で脱落者の増加が予測されたため,対象者の希望による非無作為割付とした.

2. 用語の操作的定義

息切れマネジメント支援は,「息切れの体験の理解,息切れのマネジメント方略へのサポート,息切れがもたらす結果の評価の3つの要素から構成される看護ケアであり,慢性呼吸器疾患患者が自らの息切れをマネジメントするために必要な知識・技術・サポートを提供するもの」とした.

3. 対象

2017年7月に日本看護協会ホームページで氏名と所属を公開していた慢性呼吸器疾患看護と訪問看護のCN 693名に対し,研究参加募集案内と参加希望の返信ハガキを郵送した.参加者の条件として,病院または在宅で週2名以上の慢性呼吸器疾患患者に看護実践を行っている者とした.参加希望の返信者138名(返送率20.2%)に対し,書面にて研究参加の同意を得て,希望に応じて介入群または対照群に割り付けた.その後,事前調査時に26名,事後調査時に20名が質問紙の未返送により脱落した.介入群のうち4名は2回目の介入を欠席したが,うち3名は事後調査の回答があり介入群に含めた.最終的に介入群48名,対照群44名を分析対象とした(図1).

図1

研究のフロー図

研究参加者の募集から最終的な分析対象者の確定に至るまでのフローを示した.

4. 介入内容

教育プログラムは,CNの息切れマネジメント支援の実践力を高めることを目的に作成した(表1).1回3時間のセッションを計2回,1回目の介入後に対象者が学習内容を実践し,その際に感じた困難や疑問を2回目で解決できるよう1カ月の間隔を空けて実施した.教育ツールは,息切れの支援に関する先行研究の知見や呼吸器疾患看護を専門とする慢性疾患看護専門看護師の実践の技を含めたテキストを作成して用いた.介入群には,本プログラムを2018年7-9月に東京と大阪の2会場で各々同じ内容を実施した.対照群には,介入は実施せず調査のみ行い,事後調査の返送を確認後,教育プログラム用のテキストを配布した.

表1 教育プログラムの概要
セッション方法内 容
1回目講義
(2時間)
1.症状マネジメントモデル
2.息切れのメカニズムと出現形態の理解
3.息切れの体験(認知,評価,反応)とその意味の理解
4.息切れのマネジメント方略
演習
(1時間)
【患者の息切れの体験を理解する演習(ロールプレイ)】
・2領域のCNを混合した3-4名のグループを設定しロールプレイ演習を行った.
・息切れのあるCOPD患者の事例を提示し,患者がどのような息切れを体験しているか講義の内容を参考にグループで話し合い,役作りを行ってから実施した.
・グループ内で看護師役,患者役,観察者役を設定し,5分間のロールプレイを2回実施した.2回目は1回目と役割を交代して実施した.
・ロールプレイ終了後に,それぞれの立場で気づいたことをグループ内で意見交換を行い,最後に全体で学んだことの共有を行った.

1か月間
自己学習【2回目の事例検討に関する自己学習】
・1回目のセッション終了時,2回目の事例検討に関する自己学習の課題を提示した.
・課題は,事例検討用のワークシートを用い,ロールプレイと同事例について,患者の息切れのメカニズムや体験,マネジメント方略について情報の整理を行うものとした.
2回目復習
(10分)
・1回目の受講後,実際に息切れの支援を行い上手くいった点や難しかった点,支援による患者の変化,疑問点等を共有し,学習内容の補完や意味づけといったフィードバックを行った.
講義
(1時間)
5.体験と方略の結果に基づくセルフケア能力の診断
6.看護師が提供する知識・技術・サポートの内容
7.介入の効果の測定
演習
(2時間)
【COPD患者の息切れのマネジメント支援の実際(事例検討)】
・2領域のCNを混合した3-6名のグループで,事例を通して息切れの体験やマネジメント方略の理解と分析,セルフケア能力の判断,看護の方向性を導き出す検討をワークシートを用いて行った.
・各グループには研究者がファシリテーターとして参加し,検討が上手く進むよう関連するテキストのページを示したり,必要に応じて発問したりする役割を担った.
・検討内容は全体で解説を行い,終了時に解説を記入したワークシートを配布した.

介入群に実施した教育プログラムの講義及び演習について具体的な内容を示した.

5. 調査方法

調査は,自記式質問紙と返信用封筒を郵送にて配布・回収した.事前調査は2018年4月,事後調査は介入終了3か月後として2018年12月に実施した.回答は,質問紙到着後2週間以内で行い返送するよう依頼した.

6. 評価項目

評価項目は,息切れマネジメント支援の実行頻度と自信,困難感とした.実行頻度と自信は,既存の評価尺度が見当たらないため,操作的定義に基づき文献検討や研究者間での議論により質問項目を作成し,プレテストを経て用いた.息切れの体験の理解(9項目),息切れのマネジメント方略へのサポート(14項目),息切れの結果の評価(4項目)について計27項目とし,過去1カ月間の実行頻度と自信を各4段階(実行頻度:1=全く行わなかった,2=あまり行わなかった,3=時々行っていた,4=必ず行っていた,自信:1=全く自信がない,2=あまり自信がない,3=まあまあ自信がある,4=とても自信がある)で尋ねた.困難感は,主観的な評価ではあるが数量化したものとして 10 cmのVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた.VASは,左端を「全く難しくない」,右端を「非常に難しい」と示し,左端からの距離を用いた.対象特性は,年齢,性別,看護師経験年数,CNの種類,所属機関,慢性呼吸器疾患患者の看護に関わる頻度(人/週)を尋ねた.

7. 解析方法

事前の対象特性,息切れマネジメント支援の実行頻度と自信の各合計点(27~108点),困難感の群間比較にはχ2検定またはt検定を用いた.介入効果は,二元配置分散分析(群×時間(事前,事後))による交互作用及び効果量(d)を示した.また,事前事後の得点差の検討は対応のあるt検定,2群間の変化率の差にはt検定を用いた.有意水準は5%とし,解析はSPSS Ver. 24.0を用いた.

8. 倫理的配慮

本研究の目的,方法,内容,参加の自由意思の尊重と撤回の自由に関する権利,予測される負担や利益,個人情報の保護等について書面で説明し,同意書への署名により同意を得た.本研究は,大阪はびきの医療センター研究倫理委員会の承認を得た(No.871).

結果

1. 対象特性,事前の息切れマネジメント支援に関する得点比較

対象特性は,介入群で慢性呼吸器疾患看護CNの割合が有意に多かったが,性別や年齢,看護師経験年数に差は認めなかった.事前の息切れマネジメント支援の実行頻度と自信の各合計点,困難感は,2群間で有意な差は認めなかった(表2).

表2 対象特性および事前の息切れのマネジメント支援に関する群間比較
対象特性介入群(n=48)対照群(n=44)t値aχ2bp値
性別(男/女)n(%)3(6.3)/45(93.7)5(11.4)/39(88.6)0.7560.473
年齢mean(SD)43.8(7.44)44.4(6.87)-0.3850.701
看護師経験年数(年)mean(SD)21.3(6.65)20.7(6.62)0.4430.659
CNの看護分野
(慢性呼吸器疾患看護/訪問看護)
n(%)36(75.0)/12(25.0)21(47.7)/23(52.3)7.2440.007
所属(病院/訪問看護ステーション)n(%)34(70.8)/14(29.2)23(52.3)/21(47.7)3.3550.067
慢性呼吸器疾患患者の看護実践に関わる頻度(人/週)mean(SD)11.4(14.31)7.3(8.80)1.5990.114
息切れのマネジメント支援の実行頻度(合計得点)mean(SD)79.2(13.59)83.1(12.31)-1.4460.152
息切れのマネジメント支援の自信(合計得点)mean(SD)73.5(11.62)76.7(13.44)-1.2350.22
息切れマネジメント支援の困難感(cm)cmean(SD)7.41(1.66)6.96(1.95)1.1670.246
a:  年齢,看護師経験年数,慢性呼吸器疾患患者の看護実践に関わる頻度,息切れマネジメント支援の実行頻度・自信の程度・困難感の2群間の比較はt検定を用いた.

b:  性別,CNの種類,所属の2群間の関連性の検定はχ2検定を用いた.

c:  息切れマネジメント支援の困難感は事前事後で欠損値があった者を除外したため,介入群n=45,対照群n=43である.

事前の対象特性と息切れマネジメント支援の実行頻度,自信,困難感について2群間の差異を検討して示した.年齢,看護師経験年数,慢性呼吸器疾患患者の看護実践に関わる頻度,息切れマネジメント支援の実行頻度・自信・困難感の比較にはt検定,性別,CNの種類,所属の2群間の関連性の検定はχ2検定を用いた.

2. 教育プログラムの評価

息切れマネジメント支援の実行頻度の合計点は,介入群で事後に有意に増加し,群と時間の交互作用を認めた(表3).質問項目別では,27項目中18項目で交互作用があり,そのうち14項目は効果量が中程度(d=0.5)以上であった.効果量が高かった項目は,<息切れの体験の理解(9項目)>の中では「3.息切れに関する経過を聞く(d=0.62)」,<息切れのマネジメント方略へのサポート(14項目)>の中では「23.息切れのマネジメントとして患者が出来ていない部分はサポートすることを伝える(d=0.74)」,<息切れの結果の評価(4項目)>の中では「26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する(d=0.74)」であった.

表3 息切れマネジメント支援の実行頻度の合計及び各項目得点の事前事後比較
事前事後p値a交互作用b効果量c
n平均SD平均SDF値p値d
実行頻度 合計得点介入群4879.1713.5988.0813.38<0.00124.11<0.0011.02
対照群4483.0912.3181.2514.350.271
質問項目<息切れの体験の理解:9項目>
1.息切れについて体験していることを聴く介入群483.560.503.630.530.4440.590.4440.16
対照群443.570.763.520.630.700
2.どのような息切れの感覚があるかを聴く介入群483.230.813.440.650.1512.590.1110.34
対照群443.300.773.200.800.439
3.息切れに関する経過を聞く介入群483.210.713.460.650.0048.890.0040.62
対照群443.450.663.300.730.164
4.どんな時に息切れが強くなるかを聞く介入群483.790.463.770.470.8301.990.1620.3
対照群443.810.393.600.660.027
5.息切れの原因について説明を受けたか,その説明をどのように理解しているかを聞く介入群482.600.942.900.750.0384.610.0340.45
対照群442.500.792.410.820.420
6.息切れによる生活上の制限について聞く介入群483.460.623.690.470.0155.940.0170.5
対照群443.500.703.390.750.302
7.息切れによる身体的な変化を観察する介入群483.540.583.650.570.2560.290.5910.11
対照群43d3.580.703.600.580.850
8.息切れによる心理的な変化を観察する介入群483.230.663.520.650.0096.480.0130.55
対照群443.410.693.300.670.342
9.息切れによる生活上の変化を観察する介入群483.440.583.730.450.0024.420.0380.44
対照群443.560.633.580.630.800
質問項目<息切れのマネジメント方略へのサポート:14項目>
10.どのような息切れマネジメントを行っているかを観察する介入群483.020.843.310.690.0124.720.0320.45
対照群443.200.633.140.820.583
11.自分なりに工夫している息切れのマネジメント法を聞く介入群483.060.813.400.740.0177.760.0070.58
対照群443.270.693.110.870.164
12.息切れをどの程度にマネジメントしたいと考えているかを聞く介入群482.211.072.750.910.0027.770.0060.58
対照群43d2.530.802.510.740.838
13.どの程度,自分で息切れをマネジメントできると考えているかを聞く介入群482.020.912.670.86<0.0018.770.0040.62
対照群442.480.852.520.880.710
14.息切れマネジメントに関して医療者に助けを求めることがあるかを聞く介入群482.040.902.520.920.0013.640.060.4
対照群442.430.902.520.880.543
15.家族や身近な人々が患者の息切れに対してどう対応しているか観察する介入群482.540.852.790.850.0965.830.0180.51
対照群442.950.782.730.850.086
16.患者が行う息切れマネジメントが理にかなったものであるか分析する介入群482.651.083.020.980.0054.990.0280.48
対照群442.910.962.860.820.743
17.息切れのマネジメントに必要な知識を提供する介入群483.170.813.420.650.0320.750.390.18
対照群443.230.573.340.710.302
18.息切れのマネジメントに必要な技術を明らかにする介入群483.230.693.480.650.0278.100.0050.59
対照群443.410.543.230.680.088
19.息切れのマネジメントに必要な技術の練習を行う介入群482.940.863.310.720.00111.880.0010.72
対照群443.070.792.860.850.118
20.息切れのマネジメントとして行ったことを患者自身が評価する方法を提供する介入群482.350.842.850.80<0.0019.390.0030.64
対照群442.350.722.260.930.553
21.患者の息切れについて理解したことやサポートする意思があることを伝える介入群483.080.873.420.770.0068.160.0050.59
対照群443.200.803.070.900.244
22.息切れのマネジメントとして患者ができていることを伝え続けられるよう励ます介入群483.190.823.600.610.0027.170.0090.57
対照群443.300.633.250.780.688
23.息切れのマネジメントとして患者ができていない部分はサポートすることを伝える介入群482.900.973.400.770.00112.450.0010.74
対照群443.110.722.980.850.225
質問項目<息切れの結果の評価:4項目>
24.息切れのマネジメントの結果をmMRCやborgなどの尺度を使って評価する介入群482.401.112.791.030.0101.620.2060.27
対照群442.141.212.301.110.146
25.息切れのマネジメントによるADLや生活上の変化を評価する介入群482.940.783.290.850.0202.770.10.35
対照群443.110.813.140.800.864
26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する介入群482.560.873.100.86<0.0014.930.0010.74
対照群442.800.902.680.880.404
27.息切れのマネジメントを行う患者のセルフケアの変化を評価する介入群482.810.793.190.760.0053.280.0740.39
対照群443.020.853.050.810.878
a:  事前と事後の対応のあるt検定 b:一要因対応ありの二元配置分散分析

c:  効果量(d)=(介入群の平均変化量-対照群の平均変化量)/√(介入群のn-1)×介入群の標準偏差2+(対照群のn-1)×対照群の標準偏差2/(介入群のn+対照群のn)

d:  1名欠損値あったが,代入等の処理は行っていない

息切れマネジメント支援の実行頻度の合計及び各項目得点の事前事後の平均値とSD,事前と事後の得点についての対応のあるt検定のp値,二元配置分散分析(時間×群)のF値及びp値,効果量(d)を示した.

息切れマネジメント支援の自信の合計点は,介入群で事後に有意に増加し,群と時間の交互作用を認めた(表4).質問項目別では,27項目中15項目で交互作用があり,そのうち10項目は効果量が中程度(d=0.5)以上であった.効果量が高かった項目は,<息切れの体験の理解(9項目)>の中では「2.どのような息切れの感覚があるかを聴く(d=0.54)」,<息切れのマネジメント方略へのサポート(14項目)>の中では「15.家族や身近な人々が患者の息切れに対してどう対応しているか観察する(d=0.66)」,<息切れの結果の評価(4項目)>の中では「26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する(d=0.77)」であった.

表4 息切れマネジメント支援の自信の合計得点と各項目の事前事後比較
n事前事後p値a交互作用b効果量c
平均SD平均SDF値p値d
自信の程度 合計得点介入群4873.5011.6283.5811.66<0.00114.21<0.0010.79
対照群4476.7313.4478.4513.260.299
質問項目<息切れの体験の理解:9項目>
1.息切れについて体験していることを聴く介入群483.150.513.150.551.0000.820.3670.18
対照群443.180.693.070.660.200
2.どのような息切れの感覚があるかを聴く介入群482.920.613.250.480.0016.960.010.54
対照群443.000.752.980.660.822
3.息切れに関する経過を聞く介入群483.060.563.190.570.2040.820.3670.2
対照群443.140.553.140.631.000
4.どんな時に息切れが強くなるかを聞く介入群483.310.513.480.550.0310.420.5190.14
対照群443.360.653.450.500.323
5.息切れの原因について説明を受けたか,その説明をどのように理解しているかを聞く介入群482.730.683.080.680.0025.970.0170.51
対照群442.890.782.820.690.627
6.息切れによる生活上の制限について聞く介入群483.130.493.380.610.0094.410.0390.44
対照群443.340.653.300.550.675
7.息切れによる身体的な変化を観察する介入群483.020.603.290.460.0031.270.2620.23
対照群43d3.050.723.160.570.28
8.息切れによる心理的な変化を観察する介入群482.790.583.100.560.0014.180.0440.42
対照群442.910.682.910.681.000
9.息切れによる生活上の変化を観察する介入群482.940.483.310.51<0.0014.760.0320.47
対照群443.140.633.250.530.200
質問項目<息切れのマネジメント方略へのサポート:14項目>
10.どのような息切れマネジメントを行っているかを観察する介入群482.670.723.020.600.0034.730.0320.45
対照群442.820.722.840.680.822
11.自分なりに工夫している息切れのマネジメント法を聞く介入群482.960.623.170.600.0313.710.0570.41
対照群443.070.733.020.590.623
12.息切れをどの程度にマネジメントしたいと考えているかを聞く介入群482.460.712.630.640.2320.400.5310.13
対照群442.660.782.700.730.736
13.どの程度,自分で息切れをマネジメントできると考えているかを聞く介入群482.310.662.630.670.0152.100.1510.3
対照群442.610.782.660.750.743
14.息切れマネジメントに関して医療者に助けを求めることがあるかを聞く介入群482.480.772.920.68<0.0012.780.0990.35
対照群442.730.692.890.720.227
15.家族や身近な人々が患者の息切れに対してどう対応しているか観察する介入群482.500.743.000.65<0.0019.930.0020.66
対照群442.770.682.770.681.000
16.患者が行う息切れマネジメントが理にかなったものであるか分析する介入群482.250.732.830.72<0.0019.200.0030.62
対照群442.410.732.550.760.204
17.息切れのマネジメントに必要な知識を提供する介入群482.550.723.060.60<0.0017.220.0090.57
対照群442.680.862.800.700.323
18.息切れのマネジメントに必要な技術を明らかにする介入群482.690.753.230.66<0.0019.670.0030.64
対照群442.730.692.860.630.110
19.息切れのマネジメントに必要な技術の練習を行う介入群482.580.773.020.64<0.0015.570.020.49
対照群442.660.712.730.690.57
20.息切れのマネジメントとして行ったことを患者自身が評価する方法を提供する介入群482.290.772.770.69<0.0016.280.0140.52
対照群442.340.812.390.810.719
21.患者の息切れについて理解したことやサポートする意思があることを伝える介入群482.920.713.350.640.0016.050.0160.52
対照群443.090.743.110.780.850
22.息切れのマネジメントとして患者ができていることを伝え続けられるよう励ます介入群483.130.613.330.560.0311.740.190.28
対照群443.160.573.180.690.830
23.息切れのマネジメントとして患者ができていない部分はサポートすることを伝える介入群482.880.733.250.670.0028.860.0040.62
対照群443.140.673.020.700.342
質問項目<息切れの結果の評価:4項目>
24.息切れのマネジメントの結果をmMRCやBorgなどの尺度を使って評価する介入群482.440.922.940.78<0.0012.570.1120.33
対照群442.201.002.451.000.015
25.息切れのマネジメントによるADLや生活上の変化を評価する介入群482.600.573.100.59<0.0012.000.160.29
対照群442.610.812.910.740.018
26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する介入群482.250.602.960.62<0.00113.77<0.0010.77
対照群442.480.822.610.750.262
27.息切れのマネジメントを行う患者のセルフケアの変化を評価する介入群482.560.623.130.57<0.0011.230.2710.22
対照群442.570.872.950.710.004
a:  事前と事後の対応のあるt検定 b:一要因対応ありの二元配置分散分析

c:  効果量(d)=(介入群の平均変化量-対照群の平均変化量)/√(介入群のn-1)×介入群の標準偏差2+(対照群のn-1)×対照群の標準偏差2/(介入群のn+対照群のn)

d:  1名欠損値あったが,代入等の処理は行っていない

息切れマネジメント支援の自信の合計及び各項目得点の事前事後の平均値とSD,事前と事後の得点についての対応のあるt検定のp値,二元配置分散分析(時間×群)のF値及びp値,効果量(d)を示した.

息切れマネジメント支援の困難感は,介入群で事後に有意に低下し,群と時間の交互作用を認めた(表5).

表5 息切れマネジメント支援の困難感(VAS)の事前事後比較
nd事前事後p値a交互作用b効果量c
平均SD平均SDF値p値d
介入群457.411.665.591.86<0.00110.420.0020.7
対照群436.961.956.482.010.076
a:  事前と事後の対応のあるt検定 b:一要因対応ありの二元配置分散分析

c:  効果量(d)=(介入群の平均変化量-対照群の平均変化量)/√(介入群のn-1)×介入群の標準偏差2+(対照群のn-1)×対照群の標準偏差2/(介入群のn+対照群のn)

d:  事前事後のVASが欠損値であった者(介入群3名,対照群1名)を除外した

息切れマネジメント支援の困難感の事前事後の平均値とSD,事前と事後の得点についての対応のあるt検定のp値,二元配置分散分析(時間×群)のF値及びp値,効果量(d)を示した.

各評価項目の事前得点を100とした場合の事後得点の変化率について,2群間で比較した(図2).介入群の変化率の平均は実行頻度12.3%,自信15.1%,困難感-20.5%と,いずれも対照群に比して有意に大きい変化であった.

図2

息切れマネジメント支援の実行頻度,自信,困難感における変化率の群間比較

息切れマネジメント支援の実行頻度と自信の事前の合計得点,困難感のVAS値について,事前の値を100とした場合の事後の変化率を算出し,各群の平均値を棒グラフで示した.また,介入群と対照群の比較はt検定により行い,結果のp値を棒グラフ上部に示した.

考察

本研究では,慢性呼吸器疾患看護と訪問看護のCNを対象に,息切れマネジメント支援の教育プログラムを行い,CNの支援の実行頻度と自信が高まることが示された.支援の困難感も低下し,対象者がより積極的に息切れの支援に取り組むことを促進する介入であったと考える.

息切れマネジメント支援の実行頻度は,介入群で平均12.3%の増加を認めた.本教育プログラムでは,IASMを参考に患者の息切れの体験に焦点を当て,生活やセルフケア能力を見極めて必要な支援を提供する考え方を教授した.対象者は,普段から経験的に様々な支援を実施していたが,息切れのマネジメントに関して系統的なアプローチを学習したことにより,自らの実践に不足する部分やこれまで行っていた支援の意味や重要性を認識した結果,行動が変化し,実践頻度が高まったと推察する.特に,効果量が高かった「23.息切れのマネジメントとして患者が出来ていない部分はサポートすることを伝える」や「26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する」では,介入前後で平均点が2点台から3点台へ上昇しており,対象者が必要な支援内容として理解し,意図的に実践するようになったと考える.

次に,支援の自信は介入群で平均15.1%増加し,困難感は20.5%低下した.本教育プログラムでは,ロールプレイや事例検討の演習を取り入れ,2回の介入の間に1ヶ月の普段の実践期間を設けた.対象者は普段から呼吸器疾患患者の実践を行っているCNであり,演習や普段の実践を通して,学習した内容の実行可能性やその効果の手応えを実感できたことにより,支援に対する困難感が低下し,自信も高まった可能性が考えられる.ただし,「26.息切れのマネジメントによる心理的な変化を評価する」のように,事後の平均点が2点台の項目は,教育プログラムにより自信は高まったとしても,まだ十分に自信がある状態には至っておらず,教育プログラムの改善が必要な部分と考える.

本研究の限界として,非無作為割付で介入群に慢性呼吸器疾患看護CNが多い偏りが生じたこと,息切れに関する学習ニーズが高い対象であったこと,質問紙未返送による脱落が生じたことが結果に影響を与えた可能性がある.今後,CN分野別の効果や,さらに精錬した教育プログラムの無作為割付による介入効果の検討が課題である.

謝辞

共同研究者:池田由紀,上原喜美子

本研究にご参加くださいました多くの認定看護師の皆様に,心より御礼申し上げます.

備考

本研究は,平成29年度公益信託中西睦子看護学先端的研究基金からの助成金によって遂行されたものです.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
© 2021 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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