The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Dyspnea and muscular strength of quadriceps are predictors of incremental shuttle walk test in patients with nontuberculous mycobacterial pulmonary disease
Kazuki OnoMitsuru TabusadaniKazumasa YamaneSatoshi TakaoShunya OmatsuKazuma KawaharaYuki KuroyamaKousuke MoriYuki ToyodaNaoyuki YoshidaHideaki Senjyu
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2021 Volume 29 Issue 3 Pages 475-479

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要旨

肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)患者において,運動耐容能の低下を臨床上多く経験するが,その実際は明らかでない.本研究の目的は,肺NTM症患者の運動耐容能の特徴を明らかにすること,また運動耐容能と身体機能,自覚症状との関連を調査することである.複十字病院入院中の女性肺NTM症患者68名を対象とし,漸増シャトルウォーキング試験(ISWT)にて運動耐容能を評価した.身体機能として,下肢筋力,握力,呼吸機能,息切れ(mMRC)の評価を行った.また,ISWTと身体機能の関連を調査し,重回帰分析にてISWTの予測因子を抽出した.ISWT歩行距離は 401±123 m,対標準値は81.4±21.0%であった.また,運動耐容能と%VC,下肢筋力,%FEV1,握力は正の相関,mMRCと年齢は負の相関を示した.重回帰分析の結果,mMRC,下肢筋力がISWTの独立した予測因子として抽出された.肺NTM症は他の呼吸器疾患と同様に運動耐容能が低下しており,筋力や呼吸機能,息切れと関連していることが明らかとなった.

緒言

近年,肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria: NTM)症が世界的に増加している.2014年に我が国で行われた全国アンケート調査によると,肺NTM症罹患率は14.7/10万人と,2007年の調査報告より約2.6倍へと急増しており,国際的に最も高い罹患率を示している1.現在,NTMの種類は170種類以上も存在しているが,我が国の内訳はMycobacterium avium complex(MAC)が88.8%を占め,次いでMycobacterium kansasiiM. kansasii)が4.3%,Mycobacterium abscessusM. abscessus)が3.3%となっている2.肺NTM症では化学療法が治療の中心となるが,排菌停止率は70%前後で再排菌や再燃が多く,M. kansasiiの治癒率は唯一高いものの,それ以外の肺NTM症の治療成績は概して低い3.また,病巣部が限局しており耐術能を有する症例では外科治療が行われることがあるが4,明確な外科治療適応基準や十分なエビデンスはなく,手術技術が高く経験豊富な施設のみで行われるべきとされている5.肺NTM症における呼吸リハビリテーションに関しては,振動型・呼気陽圧療法器具(Acapella®)を用いた気道クリアランスにより咳症状が改善したという報告6のみであり,エビデンスの蓄積が急務である.

当院では肺NTM症患者に対し積極的に呼吸リハビリテーションを実施しているが,運動耐容能の低下を認める症例を多く経験する.慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)や気管支拡張症など他の慢性呼吸器疾患において,運動耐容能が低下していることは先行研究で報告されている7,8.運動耐容能は6分間歩行試験(six-minute walk test: 6MWT)や漸増シャトルウォーキング試験(incremental shuttle walking test: ISWT)により簡便に評価が可能であり,慢性呼吸器疾患において生命予後や健康関連QOL(quality of life)に関連している6ことが明らかとなっており,臨床上重要な評価として認識されている.

一方で,肺MAC症において6MWTと健康関連QOLの関連について先行研究9で示されており,歩行距離と健康関連QOLが正の相関を示していたと報告されている.しかし,この報告では運動耐容能の低下の有無については明らかにされていない.そこで本研究では,ISWTにより運動耐容能を評価し,本邦健常成人の標準値10と比較した対標準値を算出することでその特徴を明らかにすること,また身体機能や自覚症状との関連を明らかにすることを目的とした.

対象と方法

対象は2016年12月から2018年10月までに,化学療法の調整や強化治療,減感作療法を目的に複十字病院へ入院し,ADLが自立している肺NTM症患者で理学療法の処方があった80名のうち,日常生活動作や歩行に影響を及ぼす中枢疾患や整形外科疾患,認知症を有する者,各評価が実施できなかった者を除外した68名とした.全症例に対し,呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―第2版11に従って,リラクセーション,呼吸練習,排痰,筋力トレーニング,持久力トレーニング,ADLトレーニングを病態や症状に応じて負荷量を調整しながら実施した.

調査項目は,年齢,性別,BMI(body mass index),mMRC(modified Medical Research Council),呼吸機能,胸部画像所見,菌種,握力,下肢筋力,ISWTとし,入院から1週間以内にすべての評価を実施した.

呼吸機能検査には,チェスト社製 CHEST AC-8800を使用し,日本呼吸器学会の呼吸機能検査ガイドラインに準じ12スパイロメトリーにて肺活量(vital capacity: VC),対標準肺活量(%predicted VC: %VC),努力性肺活量(forced vital capacity: FVC),対標準努力性肺活量(%predicted FVC: %FVC),1秒量(forced expiratory volume in one second: FEV1),対標準 1秒量(%predicted FEV1: %FEV1)1秒率(FEV1/FVC),を測定した.胸部画像所見,菌種は診療録を参照した.胸部画像所見は,結節気管支拡張型(nodular bronchiectatic type: NB),線維空洞型(fibrocavitary type: FC),両者を伴う混合型(NB+FC)に分類した.握力測定はMIS TOKYO社製スメドレー式握力計を,下肢筋力測定はアニマ社製徒手筋力測定器μTasF-1を使用し,いずれも先行研究13に準じた方法で実施した.握力は各年代における対標準値14,下肢筋力は体重で除した値の対標準値を採用した15.握力と下肢筋力は,左右いずれかの最大値を採用した.ISWT は先行研究10,16に準じて実施した.

統計解析は,IBM SPSS Statistics 25.0 for Windows(IBM SSPS)を使用した.各調査項目の関連をpearsonの積率相関係数もしくはspearmanの順位相関係数を用いた.さらに,ISWT歩行距離(ISWT distance: ISWD)を従属変数,単変量解析にて有意な相関を認めた項目を独立変数として,stepwise法による重回帰分析を行った.いずれも統計学的有意水準は危険率5%とした.

本研究は,複十字病院倫理審査委員会(承認番号19020)の承認を得て実施した.

結果

表1に患者の基本情報を示した.

表1 肺NTM症患者68名の背景
年齢(歳)66.4±8
BMI(kg/m217.7±2.5
VC(L)1.9±0.5
%VC(%)71.4±15.7
FVC(L)1.9±0.5
%FVC(%)75.4±16.8
FEV1(L)1.5±0.4
%FEV1(%)75.4±16.8
FEV1/FVC(%)80.3±9.2
mMRC 0/1/2/3/4 n(%)28(41.2)/28(41.2)/
11(16.2)/0(0)/1(1.5)
胸部画像所見 n(%)
 NB31(45.6)
 FC11(16.2)
 NB+FC24(35.3)
 不明2( 2.9)
菌種 n(%)
M. avium complex40(58.8)
M. abscessus14(20.6)
M. massiliense10(14.7)
Other4( 5.9)
平均±標準偏差

BMI; body mass index

VC; vital capacity

FVC; forced vital capacity

FEV1; forced expiratory volume in one second

mMRC; modified Medical Research Council

NB; nodular bronchiectatic type

FC; fibrocavitary type

ISWD は 401±123 m,対標準値は81.4±21.0%であった(表2).また,下肢筋力の対標準値は103.7±31%,握力の対標準値は74.7±19.5%であった(表2).

表2 運動耐容能および筋力
ISWD(m)401±123
ISWD % pred(%)81.4±21
下肢筋力 % pred(%)103.7±31.3
握力% pred(%)74.7±19.5
平均±標準偏差

ISWTD; incremental shuttle walk test distance

ISWDとの有意な相関関係を示したのは,mMRC,年齢,%VC,下肢筋力,%FEV1,握力であった(表3).また,mMRCは%VC(r=-0.35,p=0.006)と%FEV1(r=-0.32,p=0.015)と有意な相関関係を示した.

表3 ISWDと身体機能・症状との関連
variablerp
mMRC-0.490.000
年齢-0.400.001
%VC0.390.002
下肢筋力0.360.003
%FEV10.360.006
握力0.320.008

mMRC; modified Medical Research Council

VC; vital capacity

FEV1; forced expiratory volume in one second

ISWDを従属変数,ISWDと有意な相関を示した項目を独立変数とした重回帰分析では,mMRCおよび下肢筋力が抽出された(表4).

表4 ISWDを従属変数とした重回帰分析
モデル非標準化係数(B)標準化係数(βp調整済みR2
mMRC-13.8-0.4880.0000.312
下肢筋力0.210.3190.005

mMRC; modified Medical Research Council

考察

本研究が対象とした肺NTM症患者のISWDの対標準値は平均81.4%であり,標準値を上回ったのはわずか16.1%(11/68人)と,多くの患者で運動耐容能の低下を認めた.また,運動耐容能と関連を認めたのは,mMRC,年齢,%VC,下肢筋力,%FEV1,握力であった.さらに下肢筋力とmMRCは,他の呼吸器疾患17,18と同様に運動耐容能の予測因子であることが明らかとなった.

日本ではNB型の肺NTM症が多く19,本研究においても55名(80.9%)の対象者で気管支拡張を呈していた.気管支拡張症では,慢性炎症と気管支壁の破壊により気流制限が生じることで労作時の息切れを引き起こしているとされている.先行研究では,呼吸機能と息切れの間に有意な関連を示しており20,本研究が対象とした肺NTM症においてもFEV1とVCともに低下しており,mMRCと有意な相関関係を示した.これより呼吸機能の低下が息切れの原因の一つであったと推測される.

先行研究20,21において,気管支拡張症では握力や下肢筋力などの末梢筋力や筋持久力の低下が報告されており,本研究では握力の低下が認められた.しかし,NTM感染を含む気管支拡張症において筋力低下のメカニズムは未だ不明である.ただし,COPDと同様に酸素化能の低下,筋肉構造の変化,廃用,加齢,低酸素血症などが原因と推測されている20.また,日常生活における息切れは活動性の低い座位行動中心の生活様式を惹起させ,身体機能の漸減につながる20.本研究では身体活動性の評価は行っていないが,活動性の低下も筋力低下の一因である可能性が考えられる.

気管支拡張症における運動耐容能の低下には,加齢に伴う身体不活動による作業負荷の低下,呼吸機能低下,末梢筋力や筋持久力の低下,息切れ,栄養障害などが関与している20,22,23,24.本研究の対象者である肺NTM症においても,気管支拡張を伴うNB型とNB+FC型が80.9%占めていることから,呼吸機能や握力の低下,低体重を呈する者を多く認めており,これらが運動耐容能の低下を引き起こしたと考える.しかし,他の先行研究8では,瞬発的な最大筋力を示す下肢筋力や握力より,一定の限られた時間内で筋力を持続的に保持しうる能力を表す筋持久力が,運動耐容能の低下により強く関連していたと報告している.また,運動耐容能は,呼吸機能や心血管系の能力,有酸素能力,筋持久力などが含まれている.本研究では運動耐容能の予測因子は息切れと下肢筋力であったが,他の要因が影響している可能性も考えられるため,今後の検討課題である.

本研究は,肺NTM症患者においてISWTを用いて運動耐容能を評価し,その特徴を示した初めての報告である.COPDなどの慢性呼吸器疾患における運動耐容能は,生命予後や増悪頻度,健康関連QOLなどと関連している6.肺NTM症においては運動耐容能が生命予後などに影響を与えているかは不明だが,今後調査していく上で本研究の結果は有益な情報である.また,気管支拡張症やCOPD,間質性肺炎患者では呼吸リハビリテーションにより息切れや筋力,運動耐容能が改善することが多くの臨床研究25,26,27で明らかとなっている.Yagi9らは,肺MAC症において運動耐容能と健康関連QOLに有意な相関関係があったと報告しており,運動耐容能の改善により健康関連QOLの改善を見込める可能性がある.本研究の結果をもとに,肺NTM症に対する呼吸リハビリテーションのプログラムを考案し,その効果を検証していく必要がある.

本研究の限界として,当施設のみによる単一施設での検討であったことが挙げられる.当施設は肺NTM症治療の専門施設であり,治療に難渋する症例が多く集まる特性がある.また,本研究では入院患者を対象としており,一般病院の外来で管理されているような肺NTM症患者と比較すると,身体機能の低下や自覚症状の存在が顕著だった可能性がある.本研究の結果を肺NTM症の代表値として捉えるかは慎重な解釈が必要である.

謝辞

本研究にご協力頂きました患者さん,医療従事者の皆様に深謝致します.また,データ収集にご協力頂きました当院の呼吸器内科の先生方に感謝申し上げます.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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