The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
The effect of trampoline exercise on atelectasis and difficulty in expectoration of sputum
Yohei OshimaHiroki MoriTatsuya SatoRyota HamadaYuji YoshiokaSusumu SatoShuichi Matsuda
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2021 Volume 29 Issue 3 Pages 480-483

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要旨

無気肺・排痰困難に対して標準的な呼吸リハビリテーションの効果が乏しく,トランポリンを用いた運動療法が有効であった2例を経験した.1例は原発性肺癌に対して右下葉切除術を施行し,無気肺が遷延した症例,1例は重症肺炎発症後に排痰困難となり,呼吸不全及び呼吸困難が残存した症例である.この2例に排痰手技を含む標準的な呼吸リハビリテーションを施行するも,改善は乏しかった.そこで,トランポリン運動を試みたところ,著明な喀痰の自己喀出を得て,画像所見及び低酸素血症の改善を認めた.トランポリン運動が腹部臓器を介して横隔膜の受動運動を誘発し,換気を促進させたことで痰の喀出が得られたものと推察された.

緒言

無気肺・排痰困難に対し体位ドレナージや呼吸練習,排痰介助手技等の呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)が一般的に行われている1.一方,小児や若年の安定期嚢胞性線維症患者では,トランポリンを用いた運動療法(Trampoline exercise; TE)が呼吸機能の改善2や排痰3に有効であったとする報告が散見される.

TEはバネ反力を利用した垂直方向への大きな反復運動である.歩行や走行など体幹長軸方向の加速度成分を含む反復運動では腹部臓器のピストン運動を介し,横隔膜の受動運動を連鎖的に引き起こす4,5,6.実際に健常者がTEを行うと,身体の上昇時に吸気が,下降時に呼気が誘導されるため,TEは呼吸機能低下症例の換気を促進できる可能性がある.

今回,無気肺・排痰困難に対し標準的な呼吸リハの効果が乏しかった2症例にTEを行い,若干の知見を得たので報告する.

症例

【症例1】

69歳,男性.重喫煙歴,軽度COPD,肥満(1度)あり.原発性肺癌に対し胸腔鏡下右下葉切除術を施行,翌日に呼吸リハを開始したが,両側下肺野無気肺と排痰困難を認め,低酸素血症が遷延した(鼻カニュラ酸素 2 L/分でSpO2 94%).術後4日目には病棟内自立歩行練習及び手技併用下で少量ずつ排痰が可能となるも,無気肺が残存(図1a).気管支鏡にて喀痰を吸引除去したが,同日痰による気道閉塞で低酸素血症を来たし(酸素マスク 5 L/分でSpO2 89%),再度,気管支鏡による喀痰吸引を要した.翌朝,低酸素血症及び無気肺は残存(図1b),主治医及び患者同意のもと修正Borg Scale 4以下,SpO2 90%以上の範囲でTEを実施した(図2).TEを1分間×2セット実施した直後に咳嗽反射あり,暗褐色粘稠痰に続き淡黄色膿性痰を自己喀出し,酸素状態は速やかに改善(鼻カニュラ酸素 4 L/分でSpO2 91%→96%),翌日に右中葉無気肺は著明に改善していた(図1c).以後の経過は良好にて15日目に自宅退院となった.

図1

症例1の胸部X線画像

a)右下肺野に透過性低下(点線内)を認め,右中葉の無気肺が疑われる.b)気管支鏡施行後も透過性低下は残存.c)中葉(矢印部分)の再膨張および透過性の改善を認める.

図2

トランポリン運動の実施場面

日本トランポビクス協会認定ミニトランポリン(直径86 cm×高さ20 cm)を使用.a)開始時:膝折れ防止と上下運動の誘導のために介助者は後方から腰部を支持する.b)上昇時:ジャンプと同時に介助者は上方に誘導し,患者には吸気が自然と誘導される.c)下降時:介助者はバネの反力を十分に利用できるよう患者をトランポリンに沈み込ませるように引き下げる.この際,患者には自然と呼気が誘導される.b)とc)を繰り返す.

【症例2】

39歳,女性,標準体重.重症肺炎にて当院に転院.胸部CTにて両側広範囲にすりガラス状陰影を認め,急性呼吸窮迫症候群(P/F比 88)としてステロイドと抗菌剤投与,高流量鼻カニュラによる酸素投与(40 L/分,FiO2 1.0)にて加療開始.CPK 8243 U/L,MRIにて筋炎の所見を認め,多発性筋炎に随伴する間質性肺炎又は器質化肺炎と診断.呼吸リハは入院6日目に開始し離床を進めたが,呼吸筋を含む筋力低下(徒手筋力テスト3~4レベル,最大吸気量低下:Coach 2® 750 ml)を認め,排痰に難渋,主治医及び患者同意のもと入院19日目に平行棒内腰部介助下にてTEを実施した(中断基準は症例1と同様).TEを1分間×2セット実施した直後に黄色膿性成分が混入した粘稠痰を多量に自己喀出,速やかに低酸素血症は改善(鼻カニュラ酸素 1 L/分でSpO2 90%→96%),「息を吸うのが楽になった」と症状も軽減した.酸素投与を翌日中止し,胸部X線で下肺野浸潤影の改善を認めた(図3a→b).その後はステロイドを減量し,入院44日目に自宅退院となった.

図3

症例2の胸部X線画像

a)側面像にて下肺野背側(点線内)に浸潤影を認める.b)下肺野背側(点線内)の浸潤影および透過性の改善を認める.

【倫理的配慮】

患者に公表の意義と個人情報への配慮に関する十分な説明を行い,承諾を得た.また,個人情報保護に留意しデータを厳重に管理した.

考察

今回,標準的な呼吸リハの効果が乏しく,TEにより多量の排痰を得て,画像所見及び低酸素血症が改善した2症例を経験した.

呼吸器疾患を対象としたTEの効果には小児や若年嚢胞性線維症患者での報告が散見される.Stanghelleら2は8週間のTEにて努力性肺活量と最大酸素摂取量の有意な改善を,Kriemlerら3は排痰の有効性を報告している.しかし,幅広い疾患や年齢におけるTEの効果は検討されていない.

TEの排痰効果に関する機序は以下のように考える.TEは走行と比較して体幹部の加速度が大きい割に酸素消費量が少ない7.これは,呼吸予備能が低下した患者でもダイナミックな運動ができる可能性を示唆している.また,ヒト4,6やウマ4,5の走行時など,体幹長軸方向のベクトル成分を含む加速度は腹部臓器のピストン運動を誘発し,横隔膜を介して呼吸運動を受動的に惹起する.TEの着地時は上部体幹の重みによる衝撃を腹腔が吸収・緩和し,その際に生じた腹腔内圧の急激な上昇が横隔膜を押し上げ,呼気を受動的に誘導した可能性がある.受動的な呼吸運動には呼吸仕事量軽減作用があるため8,呼吸機能が低下した患者でも呼吸困難を抑えつつ換気の促進効果が得られたと考える.

今回,我々は健常成人のTE時フロー波形を追加検討した結果,吸気相ではTE開始後も明らかな波形変化は認めなかったが,呼気相ではTE開始に合わせて最大呼気流速が上昇,ピーク時に咳嗽時フロー波形様のスパイク波形が出現した(図4).TEが排痰に有効であったのは,TE時の換気が咳嗽の反復に類似していたためであると推察され,今後,症例での定量的検証が望まれる.

図4

トランポリン運動時のフロー波形(健常成人)

今回,2症例のTEでは有害事象もなく効果を得た.TEは簡便であり,幅広い疾患や病態への適応が期待できる.一方で,転倒による骨折事例の報告もあり9,安全性には十分な配慮が必要である.今後はTEの適応病態や疾患,リスク,実施時間や頻度,換気力学的な排痰機序の検証を進めていきたい.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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