The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Study Reports
Effects of neuromuscular electrical stimulation on patients with acute exacerbation of interstitial pneumonia
Kazuki YamashitaToshihiko HiroseYukihiro NishigamiToshie NikiSatoshi TetsumotoMayumi SuzukiToshiyuki Ikeda
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2021 Volume 30 Issue 1 Pages 128-133

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要旨

【目的】間質性肺炎(Interstitial pneumonia: IP)の急性増悪患者への神経筋電気刺激(Neuromuscular electrical stimulation: NMES)の効果を明らかにすること.

【方法】当院に入院したIP急性増悪患者のうち理学療法開始時より14日間NMESを施行した7例をNMES群,NMES未施行の8例を非施行群とした.両群の理学療法開始時,7日後,14日後の等尺性膝伸展筋力,握力,NRADL等をカルテ情報より後方視的に抽出し比較した.

【結果】7日後,14日後の等尺性膝伸展筋力の開始時比は非実施群と比較してNMES群で有意差を認めた.その他の項目で両群間に有意差を認めなかった.

【考察】IP急性増悪患者に早期に行うNMESは等尺性膝伸展筋力を向上させる可能性があり,より効果的な理学療法介入が行える可能性が示唆された.

緒言

間質性肺炎(Interstitial pneumonia: IP)は肺胞隔壁の病変を主体として炎症をきたす疾患の総称である.IPに対するリハビリテーションの有用性について2014年のコクラン共同計画によるシステマティックレビューでは,運動耐容能の改善は中程度の推奨,呼吸困難及びQuality of Life(QOL)の改善は弱い推奨とされている1.また,呼吸困難や下肢筋力低下による活動制限は呼吸リハビリテーションのよい適応であり,慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease: COPD)に準じた運動療法を中心としたプログラムが推奨,適応され,これらは国際的なコンセンサスを得ている2.しかしながら,IPの急性増悪患者に対する運動療法では,高度な低酸素血症を伴う呼吸困難や乾性咳嗽により早期離床や運動療法の施行が難しい症例を多く経験する.ベッドサイドにおける急性期の理学療法介入は,早期離床を含め多様な介入方法が検討されており,近年では神経筋電気刺激(Neuromuscular electrical stimulation: NMES)の介入効果について多く報告されている3.リハビリテーションにおいてNMESは疾患,時期を問わず,一般的に脱神経筋の促通や骨格筋刺激を目的として広く使用されており,近年ではCOPD患者に対してNMESを施行した結果,下肢筋力の向上や離床までの期間短縮,運動耐容能の向上といった効果が認められている4,5,6.また,慢性呼吸器疾患,慢性心不全および胸部癌患者においても,重大な有害事象はなく下肢筋力や運動耐容能を改善させることが報告されている7.しかし,IPの急性増悪患者に対するNMESの介入効果についての報告は見当たらず,一定の見解が得られていない.本研究はIPの急性増悪患者に対するNMESの効果を後方視的に検討することとした.

対象と方法

1. 対象

対象者選定のフローチャートを図1に示す.対象は2017年10月から2020年11月に当院に入院し,IPの急性増悪と診断された患者33名とした.除外基準は,複数回入院による重複患者,各種評価が施行できない認知症・意識障害を有する患者,整形疾患による著明な下肢筋力低下を有する患者とした.解析対象者はNMES群10名,非施行群13名であったが,評価項目のデータ欠損患者をNMES群で3名,非施行群で5名認めたため,これらの対象者を除外した.最終的な解析対象者15名は特発性肺線維症5名,非特異性間質性肺炎3名,気腫合併特発性肺線維症1名,ARS抗体陽性間質性肺炎1名の急性増悪患者であり,その他5名は臨床的に間質性肺炎の急性増悪と診断されていた.

図1

対象者選定のフローチャート

呼吸リハビリテーションに加えNMESを施行した患者7名をNMES群,呼吸リハビリテーションのみを行った患者8名を非施行群とし,後方視的にカルテ情報より必要な情報を収集した.当院では,理学療法開始時に安静度や元々の活動性が低く長期臥床に陥るリスクが高いと判断した場合,全例にNMESの導入を提示している.その中で同意が得られなかった場合や導入で拒否された場合NMESの介入は行っておらず,本研究ではこれらの症例を非施行群とした.

NMESの除外基準はカナダ物理療法ガイドライン8におけるNMESの禁忌(悪性腫瘍や皮膚損傷のある部位,妊婦等)に当てはまる者とした.NMESの中止基準はKhoら9が示したNMESの施行を控える基準を参考に,筋弛緩薬の投与,pH<7.25のアシドーシス,高用量の昇圧薬投与,新たに診断された肺塞栓症又は下肢の深部静脈血栓症で36時間以上の抗凝固治療が行われていない場合,医師により状態不安定であると判断された場合とした.

2. 方法

研究デザインは後方視的研究とした.NMESはESPURGE(伊藤超短波社製)のEMSモードを使用し,周波数 50 Hz,パルス幅 300 μs,on 3秒,off 3秒,60分間の設定で,刺激強度は耐えうる最大刺激とした.電極は内側広筋と外側広筋の遠位長軸上に貼付した(図2).NMESは理学療法開始から2日以内に開始し,1回/日,7回/週の頻度で2週間の計14日間電気刺激を行なった.

図2

NMES施行場面

調査項目として,両群の理学療法開始時,7日後,14日後の等尺性膝伸展筋力,握力,長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール(Nagasaki university respiratory ADL questionnaire: NRADL),修正MRC息切れスケールをカルテ情報より後方視的に抽出した.その他対象の基本情報として,性別,年齢,身長,体重,体格指数(Body mass index: BMI),理学療法開始時のPerformance status(PS)・等尺性膝伸展筋力・NRADL・握力,発症から理学療法開始までの日数,離床に要した日数(移乗や歩行練習開始までの日数),入院日数,治療開始時のステロイド投与の有無,酸素療法の種類,入院時の血液データよりCRP,KL-6,TP,Alb値を収集した.等尺性膝伸展筋力はCOMBIT CB-2(ミナト社製)を用いて計測した値を収集した.測定肢位は両手で検査台両端のグリップを把持し,膝関節は90°屈曲位とした.その位置から膝伸展運動を最大努力で約5秒間行った.等尺性膝伸展筋力,握力は利き手側の上下肢の値を収集し,計3回施行した計測値のうち最大値を収集した.

調査方法として,等尺性膝伸展筋力は,最大値を体重で除した値を採用した.等尺性膝伸展筋力比は,理学療法開始時を1とした時の7日後,14日後の比率を算出した.その他のNRADL,握力,修正MRC息切れスケールも同様に計算した.

3. 当院における呼吸リハビリテーションプログラム

当院の呼吸リハビリテーションは運動療法に加え薬物療法,酸素療法,栄養療法,患者教育等から構成されている.運動療法に関しては「呼吸リハビリテーションマニュアル―運動療法―第2版」10を参考に,初期評価,目標設定を行った後にコンディショニング,筋力トレーニング,全身持久力トレーニング,ADLトレーニング等によって構成されている.重症度が高い場合はコンディショニングと離床を中心に,重症度が低い場合は筋力トレーニング,全身持久力,ADLトレーニングを中心に行われており,患者の状態に合わせて実施している.栄養療法においては,医師が患者毎に必要カロリーを算出,処方している.BMI,体重減少,食事摂取量,入院時の栄養補給法,褥瘡の有無,PSのいずれかで高リスクと判断された場合,医師,管理栄養士,看護師等により栄養管理計画を作成し,必要に応じて個別に一般的な栄養補助食品の追加や必要カロリー量の変更等の介入を行っている.

4. 統計解析

NMES群,非施行群の2群間で基本情報,測定項目を比較した.2群間の比較には,カテゴリー変数である性別はχ2乗検定を,その他のノンパラメトリックな変数にはMann-WhitneyのU検定を行った.統計解析はR version 3.3.2を用い,有意水準は5%未満(P<0.05)とした.

5. 倫理的配慮

本研究はヘルシンキ宣言に定めた倫理的指針の原則に従い実施し,西宮市立中央病院倫理委員会の承認を得た(承認番号:第474号).

結果

1. 患者背景因子

NMES群は男性6名,女性1名の計7名であった.ステロイド使用の有無はステロイドパルス療法5名,経口ステロイド療法2名であった.治療開始時の酸素療法の種類は高流量鼻カニューレ(HFNC)1名,開放型酸素マスク2名,鼻カニューレ4名であった.非施行群は男性3名,女性5名の計8名であった.ステロイド使用の有無はステロイドパルス療法5名,経口ステロイド療法3名であった.治療開始時の酸素療法の種類はHFNC 2名,鼻カニューレ5名,酸素投与なしが1名であった.年齢,身長,体重,BMI,理学療法開始時のPS・等尺性膝伸展筋力・NRADL・握力,発症から理学療法開始までの日数,離床に要した日数,入院日数,入院時CRP・KL-6・TP・Albは両群間で有意な差を認めなかった(表1).NMESは有害事象なく完遂し,経皮的酸素飽和度が90%を下回るような低酸素を認めなかった.

表1 対象者の基本情報
項目NMES群
n=7
非施行群
n=8
P値
性別(男性/女性)6/13/50.17
年齢(歳)73[71-76]79[76-86]0.06
身長(cm)161.3[155.0-171.5]149.5[140.1-164.3]0.19
体重(kg)57.2[52.0-60.5]50.3[42.7-58.1]0.94
BMI(kg/m221.9[19.7-24.5]22.6[18.3-25.1]0.96
理学療法開始時
 PS(人)
221
345
412
 等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)0.49[0.32-0.51]0.39[0.34-0.47]0.78
 NRADL16[11-22]19.5[8.5-29.5]0.87
 握力(kgf)24.6[21.7-26.6]15.3[12.2-21.0]0.07
発症から理学療法開始までの日数(日)3[1.0-5.0]2[1.0-3.8]0.61
離床に要した日数(日)1[0-7.0]2[0-4.8]0.96
入院日数(日)44.0[33.0-57.0]47.5[23.0-59.8]0.96
ステロイドの有無(人)
 ステロイドパルス療法55
 経口ステロイド23
入院時酸素療法(人)
 HFNC12
 開放型酸素マスク20
 鼻カニューレ45
 酸素投与なし01
入院時血液データ
 CRP(mg/dl)7.1[1.4-12.9]1.4[0.2-5.7]0.19
 KL-6(U/ml)1248.0[518.0-1714.0]834.5[538.0-1181.0]0.61
 TP(g/dl)6.7[6.0-7.1]6.8[6.2-7.3]0.54
 Alb(g/dl)3.4[2.9-3.9]3.8[3.1-3.9]0.54

PS: Performance status, NRADL: Nagasaki university respiratory ADL questionnaire, HFNC: High flow nasal cannula.

2群間の比較には Mann-Whitney の U 検定を使用,中央値[四分位範囲].性差は χ2乗検定を使用,Yatesの補正後.

2. 筋力,ADL及び修正MRC息切れスケール

理学療法開始時と比較し7日後の等尺性膝伸展筋力比は非施行群と比べNMES群において有意差を認めた(P<0.001).また,理学療法開始時と比較し14日後の等尺性膝伸展筋力比は非施行群と比べNMES群において有意差を認めた(P<0.01).NRADL,握力,修正MRC息切れスケールの比は7日後,14日後ともに両群間において有意差を認めなかった(表2).

表2 筋力,ADL及び修正MRC息切れスケールの推移(比率)
項目NMES群
n=7
非施行群
n=8
P値
7日後等尺性膝伸展筋力1.16[1.07-1.25]0.92[0.79-0.97]<0.001
NRADL1.27[1.03-2.00]1.02[0.81-1.20]0.07
握力1.12[0.92-1.14]1.01[0.82-1.07]0.28
修正MRC息切れスケール1.00[1.00-1.00]1.00[1.00-1.00]0.40
14日後等尺性膝伸展筋力1.13[1.07-1.25]0.93[0.81-1.08]<0.01
NRADL1.95[1.10-2.06]1.30[0.93-2.20]0.40
握力1.07[0.93-1.15]0.97[0.87-1.14]0.46
修正MRC息切れスケール1.00[1.00-1.00]1.00[1.00-1.00]0.19

NRADL: Nagasaki university respiratory ADL questionnaire, MRC: Medical research council.

2群間の比較には Mann-Whitney の U 検定を使用,中央値[四分位範囲].

考察

NMES群は非施行群と比べ7日後,14日後の握力の有意な変化は認めず,等尺性膝伸展筋力比は有意差を認め,下肢筋力の向上が示唆された.下肢へのNMESと直接関与しない上肢筋力である握力が両群において有意な変化を示さなかったことは,通常の呼吸リハビリテーション介入が両群間で差がないことを示しており,NMESによる介入が筋力低下を抑制もしくは筋力を向上させることを支持する所見である.老化や廃用症候群による筋萎縮はII型線維の減少が主体であることが知られているが,これに加え,IP患者ではステロイド投与によるII型線維の減少11も一定数存在している可能性が高い.NMESは太い神経線維で支配される速筋線維から動員が始まる特性があり12,大腿四頭筋は一般的にII型線維の割合が高いとされている13.また,大腿四頭筋の電気刺激は,低い運動強度で解糖系エネルギー利用の高い速筋線維の動員を可能にし,筋エネルギー消費と糖代謝を活性化できることが示されている14.これらのことからIP患者において効率よくII型線維が刺激されたことで,下肢筋力の向上が示された可能性がある.

IP患者の運動制限因子として,拡散障害に伴う酸素摂取障害や拘束性障害による換気の弾性仕事量増大が挙げられる15.これらの原因から,IP患者における呼吸リハビリテーションでは運動により低酸素血症や呼吸困難を惹起し,積極的な運動療法の施行が難しい場合が多い.このようなIP患者に対し,NMESは運動時の低酸素血症を最小限に留め,呼吸困難の発生を抑制できるため,下肢筋力の向上につながった可能性がある.また,IPの重症例や急性増悪患者では,低酸素血症を生じさせない工夫もしくは酸素消費を抑えるための動作要領や環境の整備が必要である15.NMESは低酸素血症を最小限に留める理学療法の手段のひとつであり,また時間を選ばず理学療法介入以外の病棟生活内でも実施可能であるため,より実用的な介入手段である可能性がある.

NMES群は非施行群と比べ7日後,14日後のNRADL,入院日数において有意な改善は認められなかった.一般的に,ADL自立に必要な筋力水準は等尺性膝伸展筋力が0.5以上と報告されている16.NMES群,非施行群の理学療法開始時の等尺性膝伸展筋力の中央値は0.39~0.49の範囲であり(表1),ADL自立に必要な筋力水準以下である.本研究においてNMES群における等尺性膝伸展筋力比の向上は認めたものの,向上した筋力比は小さいものであったため,NMES介入はNRADLの有意な改善を示さず,入院日数も同様に有意な改善を示さなかった可能性がある.また,両群間においてTP,Albは有意な差を認めなかった.等尺性膝伸展筋力の両群間の有意差は栄養状態による差ではないと考えるが,両群のTP,Albは基準値の下限~低値を示しており,ADL自立を目的とした等尺性膝伸展筋力の向上には,より積極的な栄養療法が重要であると考える.

本研究で行った2週間のNMES介入は期間が不十分であった可能性も考えられるため,呼吸リハビリテーションに加えさらに長期間NMES介入を行い,長期介入におけるNRADL,入院日数に対する効果を検討する必要がある.

本研究の限界は後方視的研究であるために詳細な条件設定が難しかったことが第一に挙げられる.表1の対象者の特性において,年齢と理学療法開始時の握力は有意差を認めなかったものの非施行群と比較しNMES群は年齢が若く握力も高い傾向を認めた.これは,NMES群において筋力強化の効果が得られやすい状況下であった可能性がある.また,サンプル数が少なく対象者も単一施設から選定したため,結果を一般化するためにはサンプル数を増やし,多施設共同研究等の実施が必要である.その他,入院時P/F ratio等での重症度比較やステロイド投与量を考慮した群分けが行えなかったことが本研究の限界として挙げられる.また,NMESの設定や適応時期,重症度の違いによるNMESの効果においては統一した見解が得られておらず,急性期におけるNMESの導入には重要な懸念事項がある.急性期の重症患者では手術や病態による侵襲,急性炎症,安静臥床などによりタンパク異化が亢進し,低栄養や身体非活動により同化が抑制されている.このような異化亢進期におけるNMESの有効性はその適用を考える必要がある17.本研究では,除外基準や中止基準に当てはまらないIPの急性増悪患者においてNMES施行により有意な等尺性膝伸展筋力の向上が示唆された.しかし,異化亢進が発生している重症患者に対して,重症度の違いによるNMESの効果・適応は,引き続き検討する必要がある.

本研究において,NMES群は非施行群と比べNRADLでは有意な改善は認められなかったが,等尺性膝伸展筋力比は有意差を認め,筋力の向上が示唆された.NMESは下肢筋力の向上を目的とする際に,運動療法の代替手段もしくは安静期から離床期までの橋渡し的な役割としての有効な手段であり,より効果的な呼吸リハビリテーションの施行が可能であることが示唆された.今後一般化の可能性を高めるために,運動耐容能等の評価,ADL,QOLへの効果の検討のために前方視的研究による多施設共同研究を行い,多くの症例を集積する必要がある.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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