The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Educational Lecture
The process from registration to presentation at an international conference
Tomoko HasegawaRika Tonami
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 159-162

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要旨

医学領域では以前より国際化が進んでいるが,看護の領域でも国際化がますますすすんでいる.例えば,国際看護師協会(International Council of Nurses: ICN)には日本看護協会(Japanese Nursing Association: JNA)も加盟しているため,日本看護協会の会員であれば自動的にICNのメンバーということになり,もちろん国際学会で発表することもできる.過去には横浜でICN国際学会が開催され,世界各国の看護師が日本に集まったが,日本の看護師も多く参加し,皆で浴衣を着て意見交換を行い大いに盛り上がった.

2020年はCOVID-19の関係で国際学会も延期かWEB開催に切り替わり,残念ながら海外旅行を兼ねての学会参加が難しい状況となってしまったが,今後,COVID-19の感染状況が沈静化した際には,世界中で様々な国際学会が開催され,国際学会での発表に対するモチベーションの上昇に繋がるのではないかと考える.

はじめに

日本の看護職がもっとも多く所属する団体としてJNAがある.JNAには施設単位で加盟していることも多いため,就職後に施設から入会を勧められ加入している看護職は多い.このJNAは国際的な看護職団体であるICNに加盟しており,JNAに所属することでICNの会員にもなっている.JNAは1933年にICNに加盟していたが,戦中には一次脱会し,1949年には再加盟している.このICNへの再加盟1からも,日本の看護職が世界中の看護職と交流を持ち,看護の発展を見据えていることがうかがえる.またICNの中でも2005年から2009年までは日本人が会長として,世界中の看護職の代表としての役割を務めている.ICNは看護,看護師および健康の向上を推進し,質の高い看護,堅実な世界的保健政策および看護の知識の発展を目指している1ことからも,看護職にとって世界中の看護職間での交流・情報の共有の場として,ICN学術集会が開催されている.以上より看護職が国際的な場で,日本における看護を世界に発信していく必要があると考える.しかし,国際学会での発表は,言語的な問題もあり,研究を発表する場として選択肢に入れることは難しいのが現状ではないだろうか.本稿では,国際学会での発表を選択肢とできるよう,発表の準備の段階から述べていく.

情報収集

最初の準備として,自分の研究を発表する学会では,どのような目的で設立された団体であるか,学会のHPから情報を得ることが重要である.学会の目的とする研究ではない場合,抄録を作成し演題登録を行っても,査読の段階で残念ながら不採択になる可能性もある.不採択の通知は,自分の行った研究を否定されたようにも感じることがあるため,発表を考えている学会の情報収集を行うことは重要である.次の段階として,学会の開催する学術集会のHPを開いてみよう.最初に目にするのは大会長からの学会参加者へのメッセージではないだろうか.大会長のメッセージには,開催される期間(日程)と参加者が最も注目している開催国および開催都市も記載されている.もちろん,このメッセージも英語で記載されているが,開催期間や開催地はおのずと目に入ってくる.この開催地を確認することで,学会での発表のモチベーションが上がるのではないだろうか.この学術集会のHP上には,国内の学会と同様に,抄録の提出先 “submission here” や “submit an abstract” も明示されている.抄録の他にも,学会に関する日程として,演題募集期間 “Abstract submission opening(演題募集開始)/closes(終了)” “Early Bird Registration opens(事前参加登録開始)/Rate end(登録終了)”を見つけることができる.これらの情報を得たうえで,研究の成果が発表できる段階までに準備ができているようであれば,国際学会での発表が現実的となってくる.また可能であれば,発表を検討している国際学会で過去に発表している研究者から,発表に関する情報を得ておくことも重要であろう.発表時の雰囲気や発表のスタイルなど,実際に演題が採択となった際に,どのような準備が必要か確認しておくと発表の当日に慌てることはないだろう.学会への参加費だが,国際学会という性質上か参加費のみで10万円前後を必要とする.ただし,現在,COVID-19の世界規模での蔓延によりバーチャルで開催する学会では,そこまで高額ではないようである.現地で開催の学会への参加には,この参加費の他に渡航費,滞在費等の費用も必要となるため,その学会への参加に要する費用をどこから捻出するかも問題になってくるのではないだろうか.学会での研究成果の発表や専門分野の新たな知見を得ることに対し理解のある施設では,施設が学会への参加にかかる費用を一部負担してくれる施設もある.これは所属する施設によって異なった対応のため,学会での発表が決まった時点で所属施設に相談するのが一番良いのではないだろうか.また,費用の面の他にも,学会参加期間の休暇に関しても確認が必要となってくる.日本から比較的近いアジア圏で学会が開催される場合は,日本の空港からの直行便が就航していれば,学会開催の前日に到着し,翌日に発表ということも可能である.しかし,北米や南米,欧州となると直行便があっても長いフライトもしくは飛行機の乗り継ぎが必要となり,学会の開催期間はもとより自分の発表の日程に十分に間に合うように日本から出発をしなければならない.これらのことを踏まえた上での休暇(所属施設によっては出張)の申請も必要となってくる.特に呼吸器系の国際学会ではAmerican Thoracic Society: ATS,European Respiratory Society: ERSがメジャーであり,研究の成果を発表する場としても,誇らしい場であろう.しかしATSは北米での開催,ERSは欧州での開催となっているため,必然的に長期の休暇が必要となってくる.以上のことを踏まえ,国際学会での発表や参加に関しての情報収集は重要である.

抄録の作成

研究成果を発表する国際学会に関する情報収集がある程度できた後は,実際に発表する演題の抄録を進めていく.抄録作成の過程は,国内学会での抄録作成と同様に進めていくが,気を付けなければならないのは,英語への翻訳ではないだろうか.翻訳に関しては,英語力(特に英文法)に自信のない人は,フリーの翻訳サイトを活用する場合もあるだろう.その際に注意が必要なことは,「正しい日本語で文章が構成されているか」である.日本語の便利な所として,主語と述語が正しく使われていなくても伝わることである.例えば「A病院はスタッフの教育が行き届いており,近隣のクリニックは高く評価している」では,主語は「A病院」,述語は「高く評価している」となるが,この文章は正しい日本語の文章であろうか.この文章では,「A病院が高く評価している」ことになる.本来であれば,「高く評価している」のは「近隣のクリニック」である.正しい文章では「A病院はスタッフの教育が行き届いており,近隣のクリニックに高く評価されている」となるはずである.日頃から正しい日本語とは何かを考えながら文章を構成していくことが重要である2.また,1つの文章には1つの意味(一文一義)にすること,修飾語と被修飾語はなるべく近づけた方が翻訳する際に,自分が何を指示しているのか理解しやすくなる2.正しい文章の構成について自信がない時は,文章の書き方に関する書籍に目を通してみるのも良いかもしれない.フリーの翻訳サイトでは十分に翻訳がされていないと感じた時には,翻訳を行っている業者に依頼することも一つの方法である.この翻訳を行う業者にも専門分野があるため,その会社のHP上で公開されている,翻訳を行ってきた分野や論文の投稿に携わったことのある学会誌を調べたうえで依頼をするのが妥当であろう.この依頼の際にも,無料の見積もりサイトがあれば,見積書を提示してもらった上で依頼を行うことをお勧めする.見積書には,いつまでに発注を完了させれば,どれくらいの期間で納品されるかを明記してくる業者もある.また翻訳業者によっては,サービスの内容(文章の再校正の回数,規定内での文字数や単語数での翻訳等)も異なってくるため,どの業者を選ぶかは慎重に行うべきである.その際に注意してもらいたいのが,日本語から英語への翻訳後の文字数もしくは単語数である.多くの学会では,学会のサイトに抄録を提出することになるが,その際にサイト上での文字数や単語数の制限を設けていることが多い.この文字数もしくは単語数に注意をしなければ,抄録をアップした際に,文字や単語を入力できない,もしくは,そのサイトから次のページに移動することができない状態になる.それを防ぐためにも,事前に文字数や単語数の制限を確認し,それを踏まえた上で,翻訳業者に依頼を行うのが最善の方法になるだろう.抄録の入力を行う際には,翻訳され戻ってきた原稿を,サイトに貼りつけると単語の入力間違えを防ぐ方法にも繋がる.

発表形態の選択と発表の準備

抄録の登録の際には,発表形態の選択も必要となってくる.学会によっては口演のみとしている学会もあるため,やはり発表を検討している学会がこれまでにどのような発表形態を用いているかの情報収集は重要となってくる.発表形態には“Concurrent session”(セッションつまり口演),“Poster”(示説)などと表記されているが,国内学会と同様に希望通りの発表形態になるとは限らない.またERSではPosterと表記されていても,“Poster discussion”と“Thematic poster”と2種類表記されており,前者のPoster discussionでの発表では,口演発表と同様なスタイルで参加者の前で壁に掲示したポスターもしくはE-posterのようにプロジェクターで投影したポスターの発表を行った後,さらに登壇し,座長や参加者からの質問に回答するという形態で進められる.この質問も,発表者全員からの回答を求める場合もあるが,特定の発表者に対してのみ質問をされる場合がある.自分の発表するカテゴリーや同じ時間帯に発表を行う他の研究者の発表内容を抄録集が届いた時点で確認をし,質疑応答の対策を取っておくのもよいかもしれない.一方,後者のThematic posterであっても,国際学会では発表時間になると座長がポスターの前に来て,座長の進行の元,口頭で研究の発表を行わなければならない.ただし,質疑応答は発表の直後もしくは,ポスターの掲示時間で自由に行われるため,前者に比べると気持ち的には気軽に臨める.しかし,英会話や英語での自身の研究に対しての発表に自信がない方にとって,このポスター発表であっても苦痛に感じるかもしれない.苦痛を少しでも軽減させるためには,事前の準備を十分に行っておくことである.いずれにしてもどのような発表になるかを考慮した上で,発表形態の選択を行うことが必要である.ここまで登録が終われば,ほぼ抄録の登録は終了である.ただし,最後に必要なこととして,正しく抄録の登録がされているかである.抄録の登録の際には,自分の所属機関名や住所の他に連絡先を登録することになっている.連絡先の登録では,所属機関のPCアドレスもしくは個人のPCアドレスを登録する.抄録の登録終了後には,学会のサイトから登録が完了の通知が登録したメールに届くように設定されている学会が多い.もし,登録完了のメールが届かない場合には,学会開催のHPに必ず表記されている“contact us”(連絡先)に登録完了メールが届いていないことを連絡する必要がある.そこで主催者側から,再度,登録をし直すか,もしくは先方の方で登録が出来ていることの確認がとれたことの返信があるので指示に従う.この登録終了後から,数か月した頃に国内学会と同様に,主催者から抄録の採択もしくは不採択の通知が届く.採択となった場合には,どのような発表形態となるのかも通知される.この通知が届いてから,発表に向けての準備を進めていく.口演により発表では,利益相反などスライドの一部として提示しなければならないものに関しては,学会のHP上に様式がダウンロードできるようになっているので,その様式を活用するとよい.ポスター発表では,実際のポスターの大きさが分かるようにテンプレート化されたものがあるので,それを使用して作成をしても良い.実際の準備段階で重要になってくることは,自分の行った研究の目的や方法,結果を簡潔にまとめ,相手に伝わるように説明をすることである.前述したように国際学会ではポスター発表であっても,座長の進行の元,口頭での発表が必要になる.そのためにも,研究に関する説明ができるように準備を行うことは重要である.また,国際学会で一番の不安が質疑応答ではないだろうか.この質疑応答への対策としては,発表の準備をすすめる中で,自分の研究を発表する上で繰り返し使用する単語や熟語(特に発表内容に関する言葉)を頭にインプットすることである.そして,質問の中にその言葉が出てくると何に対しての質問なのか読み取ることができるようになっておくと,質問に対しての不安は少し軽くなるだろう.もし質問者が早口で質問をしてきた場合には,相手に対してもう少しゆっくり話してもらうように依頼することも大切である.学会の参加者全員が英語を母国語としているとは限らないため,そのことを伝えることは決して恥ずかしいことではない.日本人は相手に気を遣うあまりに,自分の意見を相手に伝えることをしない傾向があるが,海外では自分の意思を伝えることは当たり前のように行われている.相手の質問に対し,質問内容に応じた回答をするためにも質問を聞き直すことは重要となる.この他に同行する他の研究者もしくは同僚で英会話ができる人に,質問の内容を通訳してもらうのも一つの手段ではある.その場合には共同研究者が一番適している人材ではないだろうか.共同研究者は発表している研究に関わり,研究の成果に対しても研究者同様に理解しているため,何について相手が質問をしているのか読み取ることができる.可能であれば共同研究者に学会の参加を依頼することも大切である.また最近では,音声に対応できる高性能な翻訳ソフトもあるので,そのソフトも活用することも英語での質疑応答への対策となるのではないだろうか.医療英語に精通した翻訳ソフトが一番活用できるのかもしれないが,一般的な翻訳ソフトであっても質問の意図は翻訳されるので,その翻訳された内容と自分の研究の内容を照らし合わせ,返答するのも一つの手段ではある.

これまで説明したように,国際学会に参加そして発表するには入念な情報収集と準備が必要である.しかし,一度,この手順を踏むことで自分の自信に繋がり,最初は参加だけでも次の機会では発表に挑戦する意欲にもなり,研究に対しても前向きに取り組む機会になる.国際学会に参加し,世界の研究の動向を自身の目で確かめる機会になることを期待する.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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