The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Special Workshop
Past and future prospects of the nurse certification system
Tomoko Hasegawa
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 168-171

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要旨

日本における看護師の資格認定制度は,1987年厚生省の「看護制度検討会報告書(21世紀に向けての看護制度のあり方)」において,専門看護師,看護管理者の育成が提言されたことを契機に始まった.そこでようやく誕生したのが1994年に専門看護師制度,1995年に認定看護師制度,1998年に認定看護管理者制度で,日本看護協会がその核となった.認定看護師(Certified Nurse: CN)の役割としては,実践・指導・相談があり,高度実践看護師と同等レベル,あるいはそれ以上の能力を有する者が多数存在している.

2020年度からは新たな認定看護師教育課程が開講され,呼吸器看護でも2021年「呼吸器看護認定看護師」としての教育が開講されるようになった.新カリキュラムでは特定の医療行為ができるようになる教育が組み込まれ,臨床推論力と病態判断力に基づいた高度な実践を展開できるようになることを期待されている.

緒言

高度実践看護師(Advanced Practice Nurse: APN)は,高い専門性と優れた看護実践能力をもつ看護職者のことで,日本では日本看護系大学協議会が定めている1.高度実践看護師としては専門看護師(Certified Nurse Specialist: CNS)とナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner: NP)がある.分野は専門看護師で14分野,ナース・プラクティショナーで1分野である.この2つの高度実践看護師になるためには,看護系大学院修士課程で必要な単位を習得していること,看護実務経験が5年以上ありそのうち3年以上は専門とする分野の経験であること,そして日本看護協会が実施する認定試験に合格することという3つの条件を満たしている必要がある1

日本看護系大学協議会において専門看護師制度の検討が始まったのは1989年に遡る2.その背景には,大学院の修士課程において研究者の育成だけでなく,高度な専門職業人の育成も目指すべきであること,諸外国では専門看護師の育成は1960年代から大学院修士課程で行われていること,大学を卒業した看護職のキャリア・ディベロップメントの道を開拓する必要があることであり,大学院での専門看護師教育課程の開講を目指し,日本看護系大学協議会が主導となり検討が開始された.その後10年近く経った1997年にようやく大学院にて専門看護師を育成することが決定し,1998年にがん看護など6分野,26単位の教育課程が始まった.2011年にはフィジカルアセスメント,病態生理学,臨床薬理学が追加され,38単位での教育が行われるようになった.

高度実践看護師の育成を先導しているのは米国であり,1950年代からその教育が開始されている3.実践分野や役割は州ごとで異なった法律・規制となっており,看護師になるための資格試験も州ごとの規定になっている.Advanced Practice Registered Nurse: APRN(上級実践看護師)にはClinical Nurse Specialist: CNSとNurse Practitioner: NPに加え,麻酔科専門看護師,産科専門看護師(助産師)がある.APRNになるには,アメリカ看護大学協会(American Association of Colleges of Nursing: AACN)による認可を受けている大学の大学院で,APRN 教育プログラムを修了し,国家試験合格を経て,州に免許の申請をする手続きをとる必要がある.それぞれの役割としてNPは1960 年代に過疎地域等の医者不足の対策として生まれ,日本の診療所に相当する小規模な医療施設でのプライマリケアを行うようになった.NPは開業し診療や処方することができるため,自分のクリニックを開業することが多いが,CNSは医療機関や病院に属していることが多い.

次に英国では,1990年代末,医療の質の向上に向けて,医師・研修医の負担軽減(労働時間の短縮),外来患者の待ち時間の短縮化を図るため医療改革が進められた4.2000年には医師の役割を担うスペシャリストの設置が進められ,医療機関のニーズに応じたCNSの養成が進められた.その後,ハイスピードで教育が広まり,短期間に多くのCNSが生まれた.CNSは基本的には大学院修士課程を修了することが条件となっている.英国でもCNSは独立処方者,あるいは補助的処方者になることができる.その条件として,3年以上の臨床経験と大学卒業相当の学歴のある者が,特定の領域の教育を受けそのコースの試験に合格した上で,看護助産審議会に登録することとなっている.

次に韓国では,1973年から1年課程のAPN教育課程が開始となったが,2004年の改革により大学院修士課程のAPNコース(33単位)に統一され,現在13分野がある2.APNになる条件は,3年以上の実務経験に加えAPNコースを修了していること,1次試験である筆記試験,2次試験である問題解決能力と看護過程の口頭試問,そして実技試験の全てに合格していることとなっている.

さて,日本の資格認定制度に戻る.専門看護師教育課程の教育は1998年に開始されたことは前述した通りであるが,日本看護協会が専門看護師制度を発足したのは1994年である.また日本看護協会は1995年に認定看護師制度,1998年に認定看護管理者制度も発足5させ,1997年より認定看護師(救急看護,皮膚・排泄ケア)の輩出を開始した.専門看護師教育制度とほぼ同時期に認定看護師制度が発足された理由として,この当時まだ日本には4年制大学があまりなく,加えて修士課程を有する大学が非常に少ない状況だったことが関係する.検討会を起ち上げ約10年かけて専門看護師制度を発足させたものの,教育を提供できる教育機関があまり多くなかった.そこで,専門性の高い看護師を効率よく養成し輩出するために,日本看護協会が6ヶ月程度の教育プログラムを考案し,修士課程の学位ではなく日本看護協会が独自に認定できる認定看護師制度を発足させたわけである.日本看護協会が定める認定看護師の目的は,熟練した看護技術および知識を用いて,あらゆる場で看護を必要とする対象に,水準の高い看護実践のできる看護師を社会に送り出すことによって,看護ケアの広がりと質の向上を図ることとなっている5.本来であれば世界レベルに合わせて,修士課程で教育を受けた専門看護師を増やすことを考えていたのであろうが,教育機関が少なく輩出できる専門看護師数には限界があったのであろう.

CNSは,個人,家族及び集団に対して卓越した看護の「実践」,看護者を含むケア提供者に対する「コンサルテーション(相談)」,必要なケアが円滑に行われるために,保健医療福祉に携わる人々の間の「コーディネーション(調整)」,個人,家族及び集団の権利を守るために,倫理的な問題や葛藤の解決を図る「倫理調整」,看護者に対しケアを向上させるため教育的役割を果たす「教育」,そして,専門知識及び技術の向上並びに開発を図るために実践の場における研究活動を行う「研究」といった6つの役割を担っている.CNSの場合は2年間(あるいはそれ以上)の修士課程で知識と技術を身につける教育が必要であるが,認定看護師の場合,6ヶ月から8ヶ月の教育を修了し試験に合格した後に得られる資格であるため,高度実践看護師と同じ6つの能力の修得は難しい.そこで,認定看護師には「実践」と「指導」,そして「コンサルテーション(相談)」の3つの役割を担ってもらうことになった6

さて,専門看護師や認定看護師の教育が始まって約20年が経過したが,全国で活躍している人数を見てみよう.2019年に看護協会が公表している専門看護師登録者数は2,519名,認定看護師登録者数は21,048名で,認定看護師は専門看護師の約10倍の人数となっている.やはり認定看護師が1年以内の教育課程で取得できる資格であるため,教育に送り出す医療機関だけでなく,受講する看護師にとってもハードルが低いということの表れであろう.分野別に見ると,1位が感染管理,2位が皮膚・排泄,3位は緩和ケアである.慢性呼吸器疾患看護認定看護師数は325名であり21分野中17位といまだ少ない.

では認定看護師はどのような活動をしているのか.日本看護協会による約6,000名の認定看護師を対象とした活動及び成果に関する調査報告書20127によると,1週間の仕事における認定看護師の「実践」,「指導」,「相談」の役割の割合について,3つの役割全体を10割として各役割の程度を聞いたところ,「実践」の割合は,「8割」と回答した者が1,420 名(20.8%)と最も多く,平均割合は6.0割であった.同じく「指導」の割合は「2割」と回答した者が2,063名(30.3%)と最も多く,平均割合は2.3割であった.また,認定看護師の「相談」の割合は,「1割」と回答した者が3,191名(46.8%)と最も多く,平均割合は1.6割であった.慢性呼吸器疾患看護認定看護師約150名対象の調査8によると,認定看護師としての活動時間が勤務時間の10%未満の者は約4割であり,時間の確保に苦慮していた.所属施設内および地域社会の活動状況への満足度は低く,満足群,非満足群で有意差が認められたのは[認定看護師としての活動時間][施設内ラウンド実施][薬剤師との連携][学会発表]の4項目であった.ただし,この調査は2014年に実施され,慢性呼吸器疾患看護認定看護師の教育課程の開始から2年ほどしか経過していない時期のデータである.そのため慢性呼吸器疾患看護認定看護師としての役割がまだ確立も認知もされていない時期であったと推察され,思い通りの活動ができていなかったと考えられる.現在はもう少し認知度が高まり,活動範囲も拡大していることと期待したい.

では,将来の看護師,専門看護師,認定看護師等にはどのような役割が期待されるのか考えてみる.我が国では団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に,要介護状態であっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が提供される地域包括ケアシステムの構築9を目指しているのは周知のことである.このシステムでは地域で生活する高齢者や介護が必要な人々を支えるために,看護師を中心とした医療者が地域に赴く必要がある.特に,専門性の高い看護師が地域の人々に医療を提供することで,対象者は地域での生活を送りながらも質の高い医療を受けることが可能となる.専門看護師や認定看護師が看護師全体あるいは医療チーム全体のリーダとなるべく期待されている.前述したように,専門看護師に比べて認定看護師は10倍の人数が存在する.そこで,高度な実践力や指導力を有する認定看護師に,ある程度の医療行為も行ってもらおうと白羽の矢が立った.

日本看護協会10は,時代とともに移り変わる社会や人々のニーズに沿い,求められる看護を提供できる認定看護師を育成するために,認定看護師教育に特定行為研修を組み込むこと(特定行為研修制度の活用),そして現在ある認定看護分野の再編を柱とした認定看護師制度の再構築が必要であるとの考えを示した.そのため,2017年度から本会の重点事業として検討を開始し,新たな認定看護師教育基準カリキュラムの作成を開始した.特定の医療行為研修が組み込まれることで,臨床推論力と病態判断力の教育が強化されるため,認定看護師としての役割も,高い臨床推論力と病態判断力に基づき,水準の高い看護実践を提供することと改められた.また,期待される能力も,地域包括ケアシステムを見据えて,多職種協働力,役割モデル,看護職等への指導・相談力,高い臨床推論力・病態判断力,そして倫理感と改められ,学習内容として加えられることとなった10.このような能力をもった看護師が,地域住民のもとで高度な看護ケアを行いつつ,必要に応じて医療行為を実践することで,異常の早期発見と早期対処が可能となり,タイムリーなケアの実践による症状緩和と重症化の予防ができるということになる.

特に呼吸器ケアにおいて,このような能力をもった看護師が必要となっている.その理由は,高齢化の影響を受け呼吸器疾患患者が増加しているからである.厚生白書によると2017年の男女別死因順位では,男女ともに肺炎・誤嚥性肺炎が上位11になっており,COPDも男性において死因の第8位となっている.喫煙率の推移を見ると,日本の喫煙率のピークは昭和40年(1960年)代であるが12,COPDや肺がん等の疾患が発症するのはおおよそ50~60年ぐらい経ってからとなる.喫煙率ピークの時代の若者喫煙者が,現在は高齢者となり疾患発症の時期を迎えていることから,まさにこれから呼吸器疾患患者のピークになることが予測される.これらの人々の生活を支えるために,認定看護師をはじめ呼吸器に携わる看護師が重要な存在となる.

認定看護師教育が再構築されていることは前述の通りで,慢性呼吸器疾患看護も,2021年度より新たに「呼吸器疾患看護認定看護師」と名称が改められ,新カリキュラムでの教育が開始された.名称変更の理由としては,呼吸器疾患は急性と慢性と分けずに連続性をもった病態であると捉え,専門的なケアの提供が必要であるということである.高齢者や慢性疾患患者の増加により,病院完結型から地域完結型に移行し,「治す医療」から「治し支える医療」が必要になったことからも,病期,年齢に特化せず呼吸器疾患をもつあらゆる対象者に看護ケアを提供する認定看護師の再出発を示していると考える.

目指すべき呼吸器疾患認定看護師像は,あらゆる療養の場で,呼吸障害のある人とその家族に対して,高い臨床推論力と病態判断力に基づいた急性増悪・重症化回避のための支援,症状緩和と QOLを高めるための療養生活支援を実践できる者となっている10.時間数は,共通科目380時間,特定行為研修区分別科目61時間,統合演習15時間,臨地実習150 時間,認定看護分野専門科目180時間の合計786時間となった.特定行為区分は全ての分野で組み込まれる「栄養 及び水分管理に係る薬剤投与関連」に加え,対象の多くが呼吸器管理を必要とすることから「呼吸器(人工呼吸療法に係る行為)関連」となった.実際に,慢性呼吸器疾患看護認定看護師で,特定行為研修を修了し,呼吸器関連の特定行為を行える看護師からは,人工呼吸器の調整や異常の早期発見などができ,タイムリーな医療処置による急変の回避ができ,複雑な病態を有する患者のニーズに対する高度な看護実践を行えるようになったという.

これから特定行為研修を修了した認定看護師の活動が発展するためには,どんな支援が必要か考えると,社会的認知度の拡大が重要であろう.まだまだ看護師が医療行為をどこまでできるのかということは,一般の人をはじめ,呼吸器疾患をもつ患者・家族ですらほとんど理解されていないと思われる.高い知識と技術をもった看護師が存在し,看護の視点をもって医療行為を行ってくれるという認知度を拡大することで,活動の場が広がっていく.そして,知識と技術に見合った報酬の設定も重要であろう.ただし特定行為研修が修了すると,その後は認定看護師や専門看護師のような更新制度は設けられていないことから,日々進歩する医療に後れを取らないための個人の努力が必要となる.教育課程修了でとどまるのではなく,絶え間ない技術力と研究力の向上のための教育支援やシステム作りが今後の課題であろう.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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