The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Coffee Break Seminar
Possibility of telemedicine in respiratory rehabilitation
Takashi Hasegawa
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 185-189

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要旨

1990年代半ばから遠隔医療の実用化が進み,専門医が他の医師を支援する遠隔画像診断,遠隔から患者を診察するオンライン診療や遠隔モニタリングなどが発展した.Doctor to Doctor(DtoD)形態の遠隔画像診断では診療画像等の共有により専門医の指導を行い,医師偏在地域でも高度な診療が可能になる.オンライン診療などのDoctor to Patient(DtoP)形態で,テレビ電話による診察や心臓ペースメーカー等のデバイスの遠隔モニタリングで慢性疾患患者の診療を行う.継続すべき診療からの脱落の抑制,予後改善等の効果がある.医師法や医療法下での適正な診療の実施,診療報酬制度による安定した運営などは整備途上である.ICTならではの新形態の診療手法の出現も考えられ,制度整備の課題は広がっている.呼吸ケアのリハビリテーションには,オンライン診療など遠隔医療のみ可能な「持続のための診療手法」が有効であり,推進には医療技術の定量的な評価の確立が重要である.

緒言

我が国では1990年代半ばから遠隔医療の実用化が始まった.専門医が他科などの医師を支援する放射線や病理画像の遠隔画像診断から普及が始まり,院外や在宅の患者への遠隔診療の研究,在宅時の血圧測定から心臓ペースメーカーや在宅酸素療法のデバイスに至る遠隔モニタリングの実用化も進んだ.移動通信の広帯域化やスマートフォンの急速な発展など環境が整い,規制緩和も進み,2010年代後半に遠隔診療はオンライン診療として普及が始まった.

オンライン診療は法や制度の規制により発展が妨害されていると考えがちだが,COVID-19に伴う時限的制度で規制が大幅に緩和されても実施件数や施設数の増加ペースは頭打ちである.オンライン診療を必須とする治療手法,簡便な機器の開発が進んでいない,医療制度も未整備など,本格的発展の準備が整っていないと考えられる.

日常診療にオンライン診療の浸透が進まない中,新たな対象として,回復期治療後のリハビリテーションへのトライアルが始まり,関係者の期待が集まっている1.呼吸器疾患の回復期でもリハビリテーションは有効であり,オンライン診療による推進は社会的に重要である.

オンライン診療や遠隔医療の推進には,臨床効果のエビデンスの収集が重要と言われ続けている.しかしながら,エビデンス収集のための研究戦略不在が要因となり,法的に適切な実施条件,診療報酬の対象選択など政策的推進に資する情報が集まらない.呼吸器疾患のリハビリテーションを題材として,政策立案に資する研究戦略立案のために,医学,技術,社会の様々な課題の整理と分析を試みる.

遠隔医療の形態,手法,効果

遠隔医療の形態は,提供者・対象者の関係性,適用対象(疾患,地域状況等),手法(診療情報共有,遠隔モニタリング,動画像コミュニケーションなど)で表現する.それを元にして診療手法や効果の評価が可能になる2

関係性は二つに大別され,一つは専門的医師から非専門の医師への支援を行うDoctor to Doctor(DtoD)形態である.他の一つは医師が患者を診察するDoctor to Patient(DtoP)形態である.派生形態として,医師や看護師が患者に立ち会うDoctor to Patient with Doctor(DtoPwithD)やDoctor to Patient with Nurse(DtoPwithN)などがある.

適用対象の一つは医療供給不足地域に関する医療アクセスの改善である.へき地離島など医師不足地域のオンライン診療,専門医偏在地域での画像診断等の専門医による支援(DtoD),難病等の患者への専門医と地域の主治医の連携診療(DtoPwithD),脳卒中や大血管疾患の救急患者への遠隔医療などがある.広義のアクセス改善として,チームケアや医療連携の効率化もあり,地域ケアの中で診療を訪問看護師が支援するオンライン在宅診療(DtoPwithN)などもある.

もう一つの対象が,慢性的な疾患への継続的診療である.高血圧や糖尿病などの慢性疾患,アレルギーやホルモン治療などの継続的診療,コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの急性症状の経過観察,更にリハビリテーションなど回復期から維持期診療などへの活用が期待されている.

手法として,DtoDでは診療情報や画像情報の共有により,専門医による指導や管理が可能になり,診断から治療戦略立案まで支援できる.専門医が勤務しない施設での高度な診療を受ける患者数の増加,治療計画立案に関する質の向上,診断から治療までの時間短縮や負担の軽減が期待できる.地域ケア等の情報流通や共有の促進も,診療の質と効率を向上に大きく寄与する.

DtoPの手法としては,患者や医師の所在地に制約されない診療を可能にする画像コミュニケーション,診察時間に限定されずに生活中の身体状況を継続的に観察できる遠隔モニタリングや遠隔介入がある.心臓ペースメーカーや睡眠時無呼吸症候群の経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP)装置など,適切な装置を用いたデバイス治療などもある.それらにより治療や服薬の継続(脱落抑制)や生活習慣の改善をもたらす行動変容,それに伴う予後やQOLの改善が期待される.

図1に示すように遠隔医療のみが可能にする診療手法もある.複数の医療者によるN対1(Doctors to Patient)もしくは指導等で複数患者に同時対応する1対M(Doctor to Patients)などである.負担が大きすぎて実現不可能だった診療形態として,リハビリテーションなど回復期・維持期の遠隔集団指導,あるいは包括的ケアを提供する複数医療者が診療パネルとして一人の患者を診療するなど,潜在的な可能性がある.

図1

オンライン診療が導く新しい診療形態

形態1ではリハビリテーション室での運動療法のようなグループ診療を遠隔医療で可能とする.医師の指示の下で関連職種の指導者が患者への観察や指導を行う.

形態2では,ICTで情報や通信を共有する複数の医療者が,集合体(パネル)となり,協議の上で診療を実施する.

遠隔医療に関わる諸制度と推進状況

遠隔医療も他の医療行為と同様に,医師法・医療法の下で実施され,診療報酬制度の下で報酬が支払われる.ただし新しい診療手法なので,制度の整備が不十分であり,諸ルールが早いペースで変化し続ける.臨床分野にいる医療者にも,診療行為以外への諸事へ注意を維持する負担が求められる.

医師法に関わる重要課題は,オンライン診療で対象とする疾患の診断や治療が可能か否かである.これまで議論が最も集中した問題として,初診の扱いがある.オンライン診療は問診と制約された視診のみを用いる場合が多く,不特定の疾病対象を探索する初診への適用は避けるべきである.事前の情報により対象疾病が絞り込まれる場合のみ,初診が可能な場合もある.また無理な適用(変化が激しい,急ぎの対応が必要,遠方すぎて十分な対応ができない,脱法的診療行為等)への不安が払拭できず,診療の質保全のために各種制限を設けざるを得ない.この課題は1997年に遠隔診療(現オンライン診療)の医師法適用に関する解釈を示す厚生省通知が発行されて以来,20年を過ぎても議論が収束していない.適用対象を安易に各医師の独断で広げるべきではなく,「オンライン診療の適切な実施に関する指針」3の毎年の更新の中で,適用可能な状況を確認する必要がある.診断能力が低いオンライン診療により初診を行うことに拘るのは,規制緩和上の意義よりも遠隔医療への警戒心を掻き立てるだけで有効な推進策と考えにくい.むしろ疾病が絞り込まれ,治療戦略が定まった後の密な経過観察や指導による治療からの脱落防止を主な狙いとすれば,医師法上の懸念が大きく緩和される.その先にはパネル診療やグループ診療など,診療形態や医師の責任のあり方を革新する対象が浮上することが期待される.

医師法の議論が目立ったため,医療法とオンライン診療の関連に関心が及ぶことは少なかった.しかし僻地離島へのオンライン診療の課題を調査する厚生労働行政調査推進事業の研究4などから,これまで意識されなかった課題がわかってきた.天候や人的都合による医療機関の機能低下を,ICT活用により他施設から支援可能になった.これは医療機関と医師の関係性にも変化をもたらすので,医療法がオンライン診療の制約となる可能性が存在する.患者の受診が施設に結び付く以上,その施設で不足する機能を遠隔医療により他施設から支援することは地域として重要である.そこで施設責任の分担や移行などの法的検討が重要となる.本稿の検討対象である遠隔リハビリテーションは,処方箋発行施設(元の疾病の治療)と処方実施施設(リハビリテーションの責任)が異なり,各施設の機能の異なる医師の責任の分担を明らかにする必要が顕在化する.グループ診療など開業できる職種,処方と実施の責任分担等の議論など,新形態の医療行為に於ける検討の必要性が浮上する.

オンライン診療に関する法や制度上のルールは,医師法,医療法,医療情報システムの安全管理に関するガイドラインなど,複数の法規や公的指針にまたがり,医師が個々に自力で全て把握することが困難である.オンライン診療の適切な実施に関する指針が作られたので,安全,有効かつ適法にオンライン診療を実施するための情報を網羅的に把握可能になった.オンライン診療に取り組む医師は本指針の内容を理解して,厚生労働省の医師研修を受講することが必須である.将来に向けては,医療法関連の事柄,パネル診療やグループ診療などの新形態などが取り上げられ,指針で方向性が示されることを期待する.

新しい診療手法の社会への定着には診療報酬の新設が重要となる.遠隔医療ではオンライン診療料,遠隔モニタリング加算などが整備されてきた.しかし新しい診療手法でエビデンスが不足し,診断性能や治療能力の低さもあり,医療技術上の評価は低く,報酬対象や点数は不十分である.また前述の通り,質や安全上の不安もあり,施設基準等での制約も厳しい.例えば対面診療を3ヶ月以上実施した患者でなければオンライン診療料を請求できない,対象の疾病が少ないなどがあり,NDBオープンデータによる診療報酬の実績情報5でオンライン診療料の請求実績が日本全国で年間2000件を越えない等などの現状が彰かになった.一方で新たな報酬項目として,難病患者のDtoPwithDに対応した遠隔連携診療料などが令和2年度診療報酬改定で新設され,多くの学会の関心を集めている6

2020年はじめより,世界的にCOVID-19のパンデミックが広がり,社会が激動した.オンライン診療についても,様々な時限的な規制緩和が行われた.重要なものとして,電話等再診とFAX処方箋の連携により再診の慢性疾患患者が通院せずとも処方と投薬を継続できること,電話等再診での医学管理の容認(オンライン診療の対象疾病制限の事実上の撤廃)や200床以上の施設での外来診療料を電話等再診で請求すること,オンライン診療での初診の容認(オンライン診療料,電話等初診)とオンライン服薬指導の解禁がある7.この機会に多くのプライマリケア医によりオンライン診療の再診や初診が試みられ,実施可能な症例が多いことを実感した.一方で,遠距離過ぎる診療や高リスク薬の処方など,危険な実施事例は恐れていたほど多くなかった.また実施件数も極端に増えなかった.推測では,実施施設数は全診療所の1割程度,実施件数は初診も再診も全体の1%を越えていない.電話等再診の中でもオンライン診療は10%を越えないと推測される.オンライン診療(オンライン診療料の対象,電話等再診の対象を併せて)が,ある疾患に必須の治療法とならない限り,この状況が大きく変化するとは考えにくい.“コロナ後”の時限ルール終了後も,他施設からの紹介や以前の診療歴などを参考にできる初診の場合に限り,制限は緩和が続くことを期待する.

維持期治療に於ける有用性

現状のオンライン診療は幅広く期待される有利な診療手法とは考えにくい.前述の通り,オンライン診療を第一選択とする疾病や診療手法の不在に依ると考えられる.これまでの様々な試行によれば,アレルギー,ホルモン治療,慢性頭痛など服薬や生活指導の脱落を抑制して,丁寧に診療を継続する場合に有効と考えられる.診療報酬では,特定疾患治療管理料や在宅療養指導管理料の対象疾患の一部をオンライン診療の対象としている.しかし他の疾病でも治療継続が,患者に有益な場合が多い.脱落しやすい患者の継続的治療を少ない負担で実施する技術として評価が確立すれば,オンライン診療が第一選択の手法となりうる.

考えるべきは,治療の長期継続の重要性の評価尺度の確立である.患者数が増加している睡眠時無呼吸症候群の治療の保険収載の経緯が,推進方策立案の参考と考える.経鼻的持続陽圧呼吸療法を継続すれば,患者のQOLや予後改善の効果がある.頻繁な診察は必要ないし負担が大きいが,診療間隔が延びれば治療継続の意欲低下につながりやすい.そこで遠隔モニタリング加算として,脱落防止の効果が診療報酬上で評価された.CPAPの遠隔モニタリングでは,脱落防止をエンドポイントとして,予後改善をエンドポイントとする臨床研究のデザインではなかった.脱落の少なさが予後改善につながる研究成果は既に存在していた.全ての持続的治療にCPAP療法のような単一デバイスや直接効果がある薬などシンプルな手段が存在するわけでは無い.呼吸器疾患の回復期・維持期に於ける重症化・再入院の抑制には,薬や治療デバイスなどのシンプルな手法だけでなく,タイムリーな観察・指導・管理による運動の継続や食生活改善など,行動変容の長期持続が必要である.しかし患者単独では持続することは辛く,グループ指導,教育コンテンツなど多様な手段を複合的に組み合わせて,脱落を抑制することが必要である.必要なタイミングと場所に応じて診療行為を提供・介入するのはICTを基本として手法のみ可能である.その効果の実証が維持期治療への遠隔医療適用の有効性を示す第一歩である.禁煙指導などで注目を集めているデジタル療法(治療アプリ),心大血管,呼吸器,脳血管疾患等の多くのリハビリテーションの対象があり,オンライン診療や遠隔医療を用いた長期の治療により,QOLや身体状況,予後の改善が期待される.

制度等での推進方策

各種リハビリテーションは90日,180日など,急性期治療後の回復期の短期間の適用を狙うもので,長期の持続的治療への診療報酬上の評価がない.重症化や再入院の予防は,患者のQOLの改善だけでなく,医療費の効率化につながる.一方で診療報酬制度は薬等による直接的治療や診断技術の評価に重点を置き,長期の維持期治療への評価尺度(治療を持続される技術の評価)が存在しない.いきなり臨床研究で効果測定する以前に,長期間にリハビリテーションを持続する技術と効果に関する尺度を研究する必要がある.

一方で,社会保障の対象から外れるとの考え方も存在する.疾病の治療の段階を過ぎ,健康維持として個人の生活のあり方の選択の域に入る部分がある.社会保障で支えるべき範囲,自己負担(自費診療や健康維持活動)とすべき範囲などの考え方の整理が必要である.遠隔医療は医療者の費用の他に,ICT基盤の設備費や運用費が必須であり,財源とコストのスキーム整備と資金投入が無い限り,スタートさえできない.また個人の意識として,自費診療や健康維持の自己負担を評価する意識の醸成も重要である.

そもそも診療報酬には多様な手法を組み合わせた継続的治療への評価が存在せず,オンライン診療と遠隔モニタリングの複合的活用などへの制度的後押しの見通しが立っていない.維持期治療の推進へ向けた医療技術の評価や社会保障と自己責任の整理が,臨床的エビデンスの探求と並行して求められる.

結言

呼吸器リハビリテーションに於けるオンライン診療を含む遠隔医療の意義や価値,制度上の推進策などを展望した.まだ問題を展望したのみで,具体的な方向性まで見出せていないが,臨床技術の開発と社会的推進策の両輪の研究の重要性を明らかにした.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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