The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Effects of postoperative early exercise intolerance in gastric resection patients
Tomokazu Kashiwagi
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 201-206

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要旨

【目的】胃癌術後早期の運動耐容能の回復に及ぼす因子について検討した.

【方法】胃癌患者で胃切除が施行された胃癌患者24例を対象とした.評価項目は術前を100とした術後7日目の6分間歩行距離(6MWD)の回復率,創部痛(NRS),血液データとしてアルブミン値,BMI,喫煙指数,肺機能,手術時間と出血量,術後の歩行開始日数,歩行自立日数,理学療法日数,入院日数,合併症の有無とした.統計解析は6MWD回復率に関連する因子をSpearmanの相関係数を用い,6MWDの回復率を中央値85%で良好群と不良群の2群に分け比較した.

【結果】良好群と不良群の比較では,不良群の手術時間が有意に延長していた.また,6MWD回復率と手術時間において有意な相関が認められた.

【結論】胃癌術後早期の運動耐容能の回復には手術時間が有意に関連するが,術後合併症の増加や入院期間の延長までには影響を及ぼさない可能性が示唆された.

はじめに

運動耐容能は患者の生命予後に大きく影響することが報告されている.心疾患患者においては,運動耐容能は重要な予後規定因子であるとされている1.また,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease,以下COPD)患者においても運動耐容能は生命予後と関連することが報告されている2.本邦における周術期においても運動耐容能の報告がいくつか散見される.

また本邦における日本人の死亡率は癌が第1位であり,癌患者の中で胃癌の罹患患者数は第2位で死亡率は第3位である3.近年,がん患者数は増加傾向を示し,高齢化に伴い手術患者数も増大し,手術手技・術後管理の向上により以前よりもハイリスクな患者の手術件数も増加してきている.消化器外科に関する周術期の報告はいくつか散見される4,5,6,7,8,9,10,11.胃癌患者の術後合併症にもっとも影響する因子は,運動耐容能だったと報告されている6.また,消化器外科における運動耐容能の影響についてもいくつか報告され4,5,6,7,8,9,運動耐容能の重要性は示唆されている.しかし,周術期における臓器毎の違いや術式の違いによる影響が予測されるが,胃癌患者の運動耐容能の回復に影響する因子の報告は少なく,特に術後早期の運動耐容能の回復に何が影響するかについてはほとんど報告されていない.よって今回,胃癌患者の術後早期の運動耐容能の回復に影響を及ぼす因子について調査し,検討することを目的とした.

対象と方法

1) 対象

対象は2018年3月~2019年2月の期間に,当院において初発性の胃癌で手術目的に入院し,リハビリテーション科に術前から理学療法の依頼があり胃切除が施行された31例から選択基準を満たした24例(男性14例,女性10例,平均年齢70.0±9.2歳)とした.術式は胃全摘術,幽門側胃切除術,噴門側胃切除だった.術前に歩行が自立していなかった症例,重篤な合併症を持つ症例,評価項目に不備がみられた症例は除外した.また,術前6分間歩行距離(6 min walk distance,以下6MWD)を100%とした術後7日目の回復率を6MWD回復率とし,中央値85%で良好群と不良群の2群に分け,基本属性や各調査項目を評価した.なお本研究はヘルシンキ宣言に基づき,全ての症例に研究に対する目的や内容を十分に説明し,同意が得られてから実施した.また,本研究は前向き観察研究であり,当院倫理委員会の承認を得ている(倫理承認番号:30-18号).

2) 調査・評価項目

評価項目は,6MWDおよび,その回復率,血清アルブミン(ALB)値,body mass index(以下,BMI),喫煙指数(Brincman Index),術前の活動状態(performance status,以下PS),肺機能,手術時間と出血量,術後の歩行開始日数,歩行自立日数,理学療法(以下PT)日数,入院日数,ドレーン留置期間,合併症の有無,創部痛とした.運動耐容能の評価として術前と術後7日目の6MWDを測定した2,3.6MWDは米国胸部疾患学会のガイドラインに準じて実施し12,6分間歩行試験から総歩行距離を測定した.6MWDの測定は当院リハビリ室の片道 15 m歩行路を最大努力下で繰り返し歩行した.術前の背景因子としてALB値,BMI,肺機能を評価した.肺機能は一秒量(forced expiratory volume in 1 second:以下,FEV1)および一秒率(以下,FEV1/FVC),肺活量(Vital Capacity:以下,VC)および%肺活量(以下,%VC)を評価した.肺機能は呼吸機能検査装置装置(チェスト株式会社,CHESTAC-8800)を使用し,おおむね手術2週間前に当院の臨床検査技士が測定した.また手術侵襲と術後経過の評価として,手術時間と出血量,術後の歩行開始日数,歩行自立日数,理学療法日数,入院日数,合併症の有無を評価した.また,創部痛は術後7日目の創部痛(安静時及び運動時)をNumerical Rating Scale(以下,NRS)で調査した.歩行自立の定義は,自助具の有無を問わず,ベッドから介助や監視なく 45 m以上歩行可能であることとした15.理学療法日数,入院日数は術後のみとした.入院日数は手術日から退院日までの日数である.合併症は術後の合併症を,入院期間中に画像所見,血液生化学検査,臨床症状などから医師が診断したものとした.本研究における合併症の定義として,Clavien Dindo分類13GradeII以上の合併症とした.術前評価は手術の1週間前に実施した.

3) 理学療法内容

当院の消化器外科周術期のプロトコルに沿って実施された.手術のおおむね1週間前に外来受診し,理学療法開始.手術の2日前に入院し,入院当日から理学療法を開始.手術前日まで実施された.術前理学療法の内容は,当院で作成した理学療法パンフレットを用いながら,オリエンテーション,呼吸練習(コーチII,腹式呼吸,口すぼめ呼吸)や咳嗽方法などの術後の排痰指導,起居動作指導を実施した.術後の理学療法は手術翌日から再開した.術後理学療法は,ベッドサイドからリスク管理の下にドレーンや酸素の有無に関わらず,全身状態に応じながら可及的に早期離床を実施した.また,呼吸練習,排痰,筋力トレーニング,歩行練習,階段昇降,エルゴメーター,日常生活活動(以下ADL)指導などをおおむね術後7日目まで実施した.終了時にはパンフレットを用いて退院後の生活のポイント,運動などについて退院時指導を実施した.なお,当院の消化器外科周術期呼吸理学療法プロトコルの詳細を図1に示す.

図1

当院の外科周術期の理学療法プロトコル

4) 統計解析

統計解析は術前6MWDに対する術後7日目の回復率を央値85%で良好群と不良群の2群に分け,基本属性や各調査項目をMann-WhitneyのU検定およびχ2検定を用いて比較した.また,術前6MWDに関連する因子をSpearmanの相関係数を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.

結果

1) 全例の術前後の結果(表1

6MWD回復率は96±0.1%,術前6MWDは 401±106 m,術後6MWDは 382±95 m,年齢は69.8±8.2歳,BMIは28.3±5.4,手術時間163±41分,出血量 159±170 g,喫煙指数は524±693,1秒量は 2.2±0.9 L,1秒率は 82.2±5.9%,VCは 2.7±0.6 L,%VCは105.9±20.0%,術前握力は 25.9±13.6 kg,術後握力は 27.3±13.0 kg,歩行開始日数は1.5±0.5日,歩行自立日数は2.4±1.3日,入院日数は15.1±6.0日,PT日数は6.9±0.9日,術前ADLは99.2±1.9点,術後ADLは95.0±8.6点,創部痛は1.3±1.3,術後合併症数は1例だった.

表1 2群間の術前・術中比較
6MWD回復率(%)96±0.1
術前6MWD(m)401±101
術後6MWD(m)382±95
年齢(歳)69.8±8.2
BMI(㎏/m228.3±5.4
手術時間(分)163±41
出血量(g)159±170
喫煙指数524±693
FEV1(L)2.2±0.9
FEV1/FVC(%)82.2±5.9
VC(L)2.7±0.6
%VC(%)105.9±20.0
術前握力(㎏)25.9±13.6
術後握力(㎏)27.3±13.0
歩行開始(日)1.5±0.5
歩行自立(日)2.4±1.3
入院日数(日)15.1±6.0
PT日数(日)6.9±0.9
術前ADL (点)99.2±1.9
術後ADL (点)95.0±8.6
創部痛1.3±1.3
合併症数(人)1

2) 2群間の術前・術中因子の比較(表2

良好群(12例,中央値68.0±8.2歳,開腹術10例,腹腔鏡下2例,PS:0 12例)の6MWD回復率の中央値94%,不良群(12例,中央値73.5歳±10.6,開腹術9例,腹腔鏡下3例,PS:0 11例,PS:1 12例)は中央値77%だった.また,術前・術中因子の比較においては,手術時間においてのみ有意な差が認められた.その他の項目では有意な差が認められなかった.

表2 2群間の術後経過比較
良好群(N=12)
(中央値)
不良群(N=12)
(中央値)
P値
術前6MWD(m)423450n.s
術前握力(kg)28.527.0n.s
年齢(歳)68.073.5n.s
FEV1(L)2.22.0n.s
FEV1/FVC(%)81.277.6n.s
VC(L)3.12.5n.s
%VC(%)108.598.4n.s
ALB(g/dL)4.14.2n.s
BMI(Kg/m228.325.1n.s
手術時間(分)157185P<0.05
出血量(g)105170n.s
喫煙指数2300n.s

n.s: not significant.

3) 2群間の術後経過の比較(表3

術後経過においては,2群間で有意な差が認められなかった.

表3 6MWD回復率との相関
良好群
(中央値)
不良群
(中央値)
P値
術後6MWD(m)395344n.s
6MWD回復率(%)9477P<0.05
術後握力(kg)28.524.5n.s
歩行開始日数(日)1.51.0n.s
歩行自立日数(日)2.02.5n.s
理学療法日数(日)7.07.0n.s
入院日数(日)14.012.5n.s
創部痛(NRS)4.01.0n.s
合併症(人)10n.s

n.s: not significant.

4) 6MWD回復率への関連因子(表4

6MWD回復率は,手術時間とのみ有意な相関が認められた.その他の項目では有意な相関が認められなかった.

表4 6MWD回復率との相関
r
術前握力-.158
年齢-.177
FEV1.201
FEV1/FVC.271
VC.033
%VC.025
ALB.131
BMI.213
手術時間-.391*
出血量-.291
喫煙指数-.186
歩行開始日数-.085
歩行自立日数-.224
PT日数-.282
入院日数.056
合併症数-.284
創部痛-.037
*  P<0.05

5) 6MWD回復率と手術時間の散布図(図2

6MWD回復率と手術時間において負の相関が認められていた.

図2

6MWD回復率と手術時間の散布図

考察

消化器外科術後において,身体機能が術後有意に低下し,その中でも術前運動耐容能の重要性は報告されている4,5,6,7,8,9.藏合らは胃癌開腹術後の合併症予測には術前の6分間歩行距離が最も有用であると報告8している.また,Moranらは,消化器外科手術後の合併症予測因子として運動耐容能の重要性を報告している9.中田らは,術後の離床遅延の要因の一つに術前下肢筋力の低下や術前6MWDが低下していたことを挙げ,術後入院期間の長期化につながったと報告している4.しかし,消化器外科術後早期の運動耐容能の報告は少ない.綾部らは腹部大動脈瘤切除・再建術後患者に術後早期から積極的な理学療法を行うことにより術後1週の6MWD回復率は80%,退院時は92%であったと報告している14.原らは消化器外科患者の術後10日の術前を基準とした運動耐容能低下は93%であったと報告している6.しかし,これまでに本邦において胃癌患者の術後早期の運動耐容能の回復に着目し,報告した研究は散見されない.

本研究の運動耐容能回復率の中央値は,良好群で術後7日目で94%,不良群では77%であった.今回の結果から,77%程度の回復率であっても術後の合併症増加や入院日数にまでは影響を及ぼさない可能性が示唆された.また,術前運動耐容能との関連に関しては,不良群の術前6MWDが中央値450m,良好群が423mであり,術前運動耐容能が良好であれば必ずしも術後の回復が早いとは限らないことが考えられる.我々の肺切除患者の研究においても,術後7日目での回復率に関しては術前の運動耐容能の影響は少ないことが確認されている15

また,今回,術後運動耐容能回復率の不良群において手術時間が有意に延長していた.運動耐容能回復率と有意に関連していた評価項目も手術時間であった.今回の研究では有意差は認められなかったが,年齢は良好群が68歳,不良群が73.5歳であり,出血量は不良群170gに対して良好群105gであり,年齢と出血量において不良群が高い傾向であった.よって,今回の結果から手術の侵襲の大きさが術後早期の運動耐容能へ影響を与える可能性が示唆された.手術侵襲が大きくなることで,術後の離床への影響が予測されるが,本研究においては,運動耐容能回復率良好群,不良群ともに歩行開始日数,歩行自立日数に有意な差はみられなかった.平澤らは,消化器外科患者の離床が遅延した要因として,高齢であること,緊急手術の割合が高いこと,手術中の出血量が多く,創部痛と手術後の低心拍出症候群,歩行のバランス不良によると報告している16.先行研究にもあるように手術侵襲が大きくなることで術後の痛みの影響が考えられるが,本研究では術後7日目時点で痛みに有意な差は認められなかった.

離床に大きな違いが出なかった要因としては,術前の身体機能の影響が考えられる.渡邉らは,胸腹部外科患者において術前の身体機能は術後移動能力の回復と関係し,術後経過に影響を及ぼすとしている7.術後早期の運動耐容能低下における手術侵襲の影響としては,原らは手術後に骨格筋からアミノ酸放出が起こることと食事制限による一時期的な事象であるとしている6.手術の侵襲が大きければアミノ酸の放出が多くなり蛋白異化の亢進が生じ,術後の筋力低下や体力低下に影響を及ぼす可能性が考えられる.よって,術前の運動耐容能を高めておくことは重要である.

本研究の術後の合併症は呼吸器合併症だけでなく,せん妄や腸閉塞なども含めた合併症を対象としたが,術後合併症は良好群の1例,せん妄のみであった.要因として本研究は,良好群,不良群ともに歩行開始が2日以内,歩行自立も3日以内となっており,早期離床・運動により術後の合併症が少なかったと考えられる.これまでも術後早期の離床の有効性はいくつか報告されている16,17,18.結腸切除後のランダム化比較試験においては,術後早期の離床・運動によって,介入群は対象群と比較して術後の回復期間が有意に短かったとされている19.山内らは理学療法実施群で術後せん妄発症率は7.9%,非実施群で25.7%で術後1日目より離床し,多くの人が術後2日目より歩行・運動が開始され,せん妄など合併症の予防につながったとしている17

本研究の結果から合併症の増加や長期入院といった観点からは,術後早期の運動耐容能の回復率よりもこれまでの報告にあるように術前の運動耐容能が重要であると考えられる.ただし,本研究の限界として症例数が少なく,術前に歩行が自立していた症例を対象としていること,対象群の術前6MWDが400m以上の対象群であったこと,術前6MWDがさらに低い症例や歩行が自立していない症例は結果が異なる可能性も否定できない.また,対象群を中央値で群分けしており,回復率の違いにより結果が違ったものになる可能性や術後の痛みを経時的に評価できていない点も本研究の限界である.今後はこれらを考慮した前向きな研究が望まれる.胃癌患者の術後において運動耐容能の重要性は確かであるが,術後早期の運動耐容能の回復に関しては合併症や入院日数に影響を及ぼしづらい可能性が示唆されたと考える.

結論

胃癌患者の術後早期の運動耐容能の回復には手術時間が関係するが,術後合併症の増加,入院日数の延長までには影響を及ぼさない可能性が示唆された.よって,術後の合併症予防,入院日数の短縮という観点からは,術前運動耐容能がより重要である.

備考

本論文の要旨は,第29回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2019年11月,愛知)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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