The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Exercise physiology in patients with idiopathic pulmonary fibrosis
Shinichi Arizono Yasuhiro KondohTomoki KimuraKensuke KataokaTomoya OgawaFumiko WatanabeJun HirasawaYuichi Tawara
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 211-216

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要旨

本研究では,特発性肺線維症(IPF)患者の運動耐容能の諸因子を,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と比較し,最高酸素摂取量(peak O2)に影響する因子を明らかにすることである.対象は,IPF患者72例と,IPF患者のpeak O2をマッチングさせたCOPD患者72例であった.IPF患者とCOPD患者は心肺運動負荷試験,筋力測定,肺機能検査などを実施し,両患者間で比較した.peak O2と測定項目との相関関係を検討し,peak O2を従属変数とした多変量解析を検討した.IPF患者の換気性作業閾値と大腿四頭筋筋力はCOPD患者と同様に低値を示し,骨格筋機能低下を示した.IPF患者は運動耐容能が同じCOPD患者と比べて,運動終了時は非常に浅くて速い呼吸パターンで,骨格筋機能低下はCOPD患者と同様な低下を認めた.IPFのpeak O2には大腿四頭筋筋力の他に,FVCとDLcoの肺機能と運動中の換気血流不均等分布を表すE/CO2 slopeが影響していた.

はじめに

運動耐容能は様々な疾患の予後規定因子であり1,2,さらに呼吸器疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と間質性肺炎患者の強い予後規定因子とされている3,4.間質性肺炎患者では運動負荷試験中の低酸素血症の有無も予後を決定する因子とされ5,6,運動制限因子の把握とともに重要である7.特発性間質性肺炎患者の50%以上を占める特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)は最も予後不良であり,運動耐容能の低下は著しく8,病態を把握するための重要な評価項目である.しかしながら,IPF患者の運動耐容能の低下に,COPD患者と同様の換気障害や骨格筋機能障害,循環障害が関与するかは十分に検討されていない.我々は,IPF患者の運動耐容能に大腿四頭筋の筋力低下が影響していると報告し9,10,呼吸機能障害以外の問題が関与することを明らかにしている.これらの報告は,IPF患者,単独の検討であり,最高酸素摂取量(peak V ˙ O2)に対する運動制限因子の影響は,呼吸リハビリテーションで一般的対象とされているCOPD患者との相違は分かっていない.

本研究の目的は,IPF患者の運動耐容能の低下に関与する因子をCOPD患者と比較し,peak V ˙ O2に影響する因子を明らかにすることである.

対象と方法

対象は,臨床診断または外科的肺生検によって診断されたIPF患者72例であった.IPF患者は,初診時に肺機能検査,心肺運動負荷試験,骨格筋筋力,血液ガス分析などの評価を行った.比較するCOPD患者は,呼吸リハビリテーションの介入前にIPF患者と同様の評価を実施した100例を対象とした.そのCOPD患者100例に対して,IPF患者のpeak V ˙ O2をマッチングさせるために,層化無作為抽出法により抽出した72例とした(表1).IPFとCOPDの診断は各ガイドラインに基づいて診断された11,12.COPDとIPFは,少なくとも急性増悪から3ヶ月以上経過し,通常の薬物療法を受けている者とした.また,気胸の既往,IPFやCOPD以外の肺疾患を合併している者は除外した.対象の両群に肺気腫合併肺線維症(combined pulmonary fibrosis and emphysema)や長期酸素療法などは含まないとした.全対象に本研究の目的,方法,リスクなどを口頭で説明し,研究参加の同意を確認した.また本研究は公立陶生病院倫理委員会(承認番号213)と聖隷クリストファー大学の倫理委員会(承認番号17021)の承認を得た.

表1 IPF患者とCOPD患者の基礎データ
IPFCOPDP value
n7272
Age(years)66.9±7.868.6±8.80.226
Male/Female(n)51/2166/60.001
LTOT(n)00
BMI(kg/m223.5±3.320.7±3.50.000
PaO2(torr)78.9±12.377.3±12.30.433
PaCO2(torr)40.3±6.540.0±5.70.772
FVC(L)2.21±0.742.81±0.730.000
%FVC(%)75.1±21.888.6±20.10.014
IC(L)1.43±0.511.75±0.490.000
FEV1(L)1.74±0.561.02±0.380.000
%FEV1(%)84.2±23.646.3±18.40.000
FEV1/FVC(%)81.8±9.739.4±10.60.000
DLco(ml/min/mmHg)8.19±3.2610.60±4.160.000
%DLco(%)51.8±17.072.4±25.00.000

Data are presented as mean±SD. IPF: idiopathic pulmonary fibrosis. COPD: chronic obstructive pulmonary disease. LTOT: Long term oxygen therapy. BMI: body mass index.

心肺運動負荷試験は,自転車エルゴメータを使用し,0 Wattで3分間のウォーミングアップ後に,毎分10 Wattのランプ負荷法による症候限界性で行った11,12.呼気ガス分析装置は,エアロモニタ AE-310(ミナト医科学社)を使用し,各種呼気ガス指標をbreath by breath法で連続測定した.心肺運動負荷試験の測定項目は13,14,peak V ˙ O2と換気性作業閾値(Ventilation Threshold: VT),peak Watt, peak minute ventilation/maximal voluntary ventilation(peak V ˙ E/MVV),peak tidal volume/Inspiratory capacity(peak TV/IC),呼吸数,minute ventilation/carbon dioxide output slope( V ˙ E/ V ˙ CO2slope),oxygen uptake to work rate(∆ V ˙ O2/∆WR),O2pulse,peak heart rate(peak HR),運動終了時の呼吸困難と下肢疲労,経皮的酸素飽和度(SpO2)を算出した.心電図,血圧は連続測定を行った.中止基準は,アメリカスポーツ医学協会の運動負荷試験実施要項に準じた15.peak V ˙ O2は,運動終了直前の30秒間の平均値を採用した.VTは V ˙ O2 V ˙ CO2のV-slope法で解析した11,12 V ˙ E/ V ˙ CO2slopeは, V ˙ Eを縦軸に, V ˙ CO2を横軸にし,RCポイントまでを一次回帰して算出した13,14.∆ V ˙ O2/∆WRは, V ˙ O2を縦軸に,Wattを横軸にし,ランプ負荷開始後1分後からVT付近までを一次回帰して算出した13,14.分時換気量(MVV)は,一秒量×40の値を使用した13,14.骨格筋筋力の評価は,大腿四頭筋,握力,を測定した.大腿四頭筋筋力の測定は,Cybex II dynamometer(Lumex, Bay Shore, NY)を使用し,左右脚4回ずつ測定し,最高値を採用し,標準値はGosselink らの報告により算出した16.握力の測定は3回ずつ測定し,最大値を採用した.肺機能検査は,forced vital capacity(FVC),inspiratory capacity(IC),forced expiratory volume in 1 second(FEV1),%FEV1,FEV1/FVC,diffusing capacity for carbon monoxide(DLco),%DLcoを測定した.測定方法と標準値は日本呼吸器学会のガイドラインにより実施した17

各測定項目をIPF患者群とCOPD患者群で比較するため,χ2検定,Wilcoxonの符号付順位検定,対応のないt検定を用いて比較し,peak V ˙ O2と他の測定項目との相関関係をPearsonの相関分析で検討した.peak V ˙ O2を従属変数とした多変量解析を実施した.統計ソフトはIBM SPSS statistics ver 24(IBM社)を使用し,危険率5%未満を有意水準とした.

結果

peak V ˙ O2をマッチングさせたIPF患者72例とCOPD患者72例のpeak V ˙ O2は,IPF患者は737.6±242.2 ml/min,COPD患者は739.4±286.3 ml/minであり両群間で差を認めなかった.IPF患者の年齢と安静時のPaO2は,COPD患者と比較して,差を認めなかった(表1).IPF患者のFVCとDLcoは,COPD患者と比べて有意に低値を示し,IPF患者のFEV1は有意に低値を示した(p<0.05).

骨格筋の評価では,大腿四頭筋筋力と握力は,IPF患者とCOPD患者に差を認めなかった(表2).IPF患者とCOPD患者の大腿四頭筋筋力は健常者の約70%であった.

表2 心肺運動負荷試験と骨格筋の結果
IPFCOPDP value
Peak V ˙ O2(ml/min)737.6±242.2739.4±286.30.969
%Peak V ˙ O2(%)58.6±27.551.1±18.00.085
VT(ml/min)609.7±228.9549.7±178.10.093
%VT(%)51.3±16.644.0±12.70.005
Peak Work rate69.0±21.164.4±21.30.195
Peak TV/IC(%)85.8±19.171.9±16.20.000
RR(f)50.4±13.937.2±11.00.000
Peak V ˙ E/MVV(%)80.8±27.1102.4±25.80.000
V ˙ E/ V ˙ CO2 slope49.9±17.840.5±10.00.000
V ˙ O2/∆WR6.9±2.36.5±2.30.240
O2 pulse6.1±1.96.1±1.90.934
Peak HR(bpm)133.3±20.4124.5±21.50.013
SpO2 at end-CPET(%)86.0±7.289.1±5.00.004
呼吸困難6.4±2.87.2±1.90.064
下肢疲労5.5±3.06.2±2.50.115
大腿四頭筋筋力(Nm)76.9±29.482.4±27.80.558
%大腿四頭筋筋力(%)69.5±27.870.1±17.80.878
握力(kg)28.2±9.430.1±7.80.190

Data are presented as mean±SD. Peak V ˙ O2: maximum oxygen uptake. VT: Ventilation Threshold. V ˙ E: minute ventilation. TV: tidal volume. RR: respiratory rate. HR: heart rate. O2 pulse: V ˙ E/ V ˙ CO2 slope: ventilatory equivalent for carbon dioxide, ∆ V ˙ O2/∆WR: oxygen uptake to work rate. CPET: cardiopulmonary exercise testing.

心肺運動負荷試験の運動終了理由は,IPF患者では呼吸困難で終了した者が37例(51.4%),下肢疲労で終了した者が26例(36.1%)であり,呼吸困難と下肢疲労の両方の理由により終了した者が9例で(12.5%),COPD患者においては,呼吸困難により終了した者が36例(50.0%),下肢疲労により終了した者が16例(22.2%)で,呼吸困難と下肢疲労の両方の理由により終了した者が20例(27.8%)であった.両群間で運動終了理由の人数の割合に差を認めなかった.心肺運動負荷試験中の最低SpO2が,80%未満になる症例が,IPF患者で9例,COPD患者で3例であった.心筋虚血を疑う心電図変化,低酸素血症に伴う意識障害,最大心拍数などで運動終了する者はいなかった.

心肺運動負荷試験の結果では,%Peak V ˙ O2とpeak work rateは両群に差を認めなかった(Table 2).IPF患者はCOPD患者と比べて,Peak TV/ICは85.8%と高く,呼吸数も50.4回と高く認め,浅くて非常に速い呼吸パターンであった. V ˙ E/ V ˙ CO2 slopeもIPF患者の方が49.9と非常に高く,運動中の換気血流比不均等分布の悪化を示していた.IPF患者のPeak V ˙ E/MVVは,COPD患者より低値であったが,80%以上であった.終了時のSpO2はIPF患者が86.0%と有意に低値を認めており,終了時の呼吸困難と下肢疲労はIPFとCOPDで差を認めなかった.

peak V ˙ O2 と他の評価項目との相関関係を表3に示した.IPFとCOPDのそれぞれでpeak V ˙ O2 と相関関係を認めた評価項目を独立変数とし,peak V ˙ O2を従属変数として多変量解析を行った.表4abで示した多変量解析の結果は,IPFのpeak V ˙ O2に影響する独立した因子はFVCとDLco,大腿四頭筋筋力, V ˙ E/ V ˙ CO2 slopeであった(r2=0.68, p<0.05).COPDの独立した因子はICとFEV1,DLco,大腿四頭筋筋力,Peak V ˙ E/MVV,peak HRであった(r2=0.81, p<0.05).

表3 Peak V ˙ O2 と他の評価項目との相関関係
IPFCOPD
Peak V ˙ O2
r
P valuePeak V ˙ O2
r
P value
FVC0.720.0000.610.000
IC0.690.0000.700.000
FEV10.700.0000.560.000
DLco0.690.0000.600.000
PaO20.320.0070.100.415
大腿四頭筋筋力0.550.0000.690.000
Peak TV/IC-0.010.9600.220.161
RR-0.410.0000.070.603
Peak V ˙ E/MVV-0.320.0050.390.002
V ˙ E/ V ˙ CO2 slope-0.450.000-0.100.394
Peak HR0.300.0120.510.000
SpO2 at end-CPET0.330.0040.260.031

表4a IPFのpeak V ˙ O2を従属変数にした多変量解析の結果
変数偏回帰係数標準偏回帰係数有意確率(p)95%CI下限95%CI上限
DLco26.000.360.00013.3538.65
FVC128.680.390.00071.83185.53
大腿四頭筋筋力1.630.190.0190.282.98
V ˙ E/ V ˙ CO2 slope-2.46-0.180.019-4.49-0.42
定数240.800.01058.45423.16
R2=0.680

95%信頼区間:95%CI

表4b COPDのpeak V ˙ O2を従属変数にした多変量解析の結果
変数偏回帰係数標準偏回帰係数有意確率(p)95%CI下限95%CI上限
IC112.570.200.046-3.13228.27
peak HR2.930.220.0011.194.66
大腿四頭筋筋力2.200.210.150.443.96
FEV1290.950.380.000157.22424.68
Peak V ˙ E/MVV2.780.250.0040.914.65
DLco11.700.170.0231.6421.76
定数-703.990.000-933.03-474.95
R2=0.805

考察

今回,我々はIPF患者と運動耐容能が同じCOPD患者との運動制限因子を比較するため,運動耐容能のゴールデンスタンダード13,14のpeak V ˙ O2を同程度にした.そのため,IPF患者とCOPD患者のPeak Work Rateに,両群間で差を認めなかった.peak V ˙ O2とPeak Work Rateはそれぞれの身体資源や作業成績から見た運動耐容能を表しており,今回検討したIPF患者とCOPD患者の間で運動耐容能に差がないと考えられた.日本循環器学会より報告されている邦人60歳代のpeak V ˙ O2の平均値は26.2±5.6 ml/kg/minであり18,VTの平均値は18,16.5±2.6 ml/kg/minである.今回検討したIPF患者とCOPD患者のPeak V ˙ O2とVTは,その値よりかなり低い値であり,同年代の健常人と比べて運動耐容能は低下していた.VTは,有気的な代謝に嫌気的な代謝が加わる直前の V ˙ O2と定義され11,12,運動耐容能を表す他に,骨格筋機能を表している.VTが低値であるほど,筋疲労は起こりやすく,運動の継続が困難となる.

IPF患者のpeak V ˙ O2に影響する因子に,COPD患者と同様に大腿四頭筋筋力が強く影響していた.下肢筋力が運動耐容能に影響することは,我々が以前に報告しており9,10,同様の結果が得られた.今回検討したIPF患者の大腿四頭筋筋力は予測値に対して69.5%と低値であった.IPF患者はCOPD患者と同様な骨格筋の機能異常があり,さらに運動制限因子になっている.また,今回検討したIPF患者のほとんどの者がステロイドなどの薬物療法を行っていない時点の評価であり,今回の結果はステロイドなどの副作用ではないと考えられた.IPF患者の罹患期間がCOPD患者より短く,活動量低下の期間はCOPD患者より短いと考えられるが,IPF患者もCOPD患者と同様なDeconditioningにより骨格筋の機能低下が起こったと考えられた19.IPF患者の運動耐容能と大腿四頭筋筋力6,大腿中央周囲径からみた筋量20との間には相関関係があると報告されており,IPF患者の骨格筋機能異常は注目すべき点である.これらより,COPD患者と同様にIPF患者は,骨格筋機能異常が存在し,運動療法を行う場合に特に下肢に注目した筋力トレーニングや持久力トレーニングなどを行うべきであると考えられた21,22

V ˙ O2/∆WRは運動強度増加に対する V ˙ O2の応答を表しており,正常値は10~11 ml/min/Wであり23,運動耐容能が同じIPF患者とCOPD患者は,同様に V ˙ O2の応答が低下していると考えられた. V ˙ O2の応答は,換気の他に循環と筋の機能が一連に反応しなければ,応答は鈍くなる.IPF患者の一定負荷時の V ˙ O2の時定数は,COPD患者と同様に延長していると報告され20,運動強度増加に対する V ˙ O2の応答は遅延しており,酸素輸送能が障害されている.これは,Deconditioningの影響も強く受けるとされ23,COPD患者においては運動療法で改善すると報告され24,IPF患者においても改善する可能性がある.

IPF患者とCOPD患者ともに肺機能では,DLcoがpeak V ˙ O2に影響する独立した因子であった.肺胞レベルで酸素の取り込み機能が,全身の酸素運搬機能に強く影響すると考えられ,拘束性換気障害と閉塞性換気障害ともにpeak V ˙ O2に肺拡散能が影響していた.IPF患者の運動中の著しい低酸素血症を臨床上よく経験する.今回の結果でもIPF患者の方が心肺運動負荷試験中の終了時のSpO2は著しく低下した.しかし,多変量解析で終了時のSpO2ではなく,肺機能のDLcoが選択された.終了時のSpO2は運動中に起こる低酸素血症の程度であり,換気機能や心拍応答,骨格筋の酸素消費からも影響を受けるため,今回の検討では選択されなかったかもしれない.

IPF患者の V ˙ E/ V ˙ CO2 slopeは49.9と高い値を示し,IPFのpeak V ˙ O2に影響する強い因子であった.これは,運動中の換気血流比不均等分布が悪いことを示しており13,25,IPF患者は同じ運動耐容能のCOPD患者より,非常に浅くて速い呼吸パターンによる換気効率の悪さが影響していると考えられた.IPF患者のpeak V ˙ O2 V ˙ E/ V ˙ CO2 slopeは相関関係があると報告されており9,25,運動中の換気血流比不均等分布と肺高血圧がIPF患者の運動耐容能に影響している.心肺運動負荷試験の換気指標を検討すると,IPF患者のPeak TVはCOPD患者と差を認めなかったが,Peak TV/ICは85.7%と有意に高かった.運動中の1回換気量はICを越えないとされ26,IPF患者のICはCOPD患者より低値であり,IPF患者は1回換気量が制限される一呼吸が浅い呼吸であることが分かった.また,呼吸数も50.4回と高く,IPF患者の呼吸パターンがCOPD患者と比べて,非常に浅くて速い呼吸パターンであった.IPF患者の換気制限の要素は,1回換気量がICに制限されるが呼気制限がないためCOPDに比べて呼吸数を増やしやすく,拘束性障害の程度は換気制限を主体としていた.IPF患者はPeak TV/ICの余力がないため,呼吸法指導などで運動中にゆっくり深い呼吸パターンにしていく事は難しい症例が多いかもしれない.また,COPD患者のPeak TV/ICが71.9%と1回換気量に余力があると考えられた.COPD患者は呼吸法指導などによって,最大運動負荷の1回換気量を増やすことが可能かもしれない.しかし,COPD患者の運動中にはdynamic hyperinflationがおこり,運動中のICが安静時より低下する27.そのため,COPD患者のPeak TVが安静時のICに対する割合は71.9%であったが,運動中のICに対する割合はもっと高値であったかもしれない.また,COPD患者のPeak V ˙ E/MVVは,100%を超えており,換気制限が強いことを示していた.COPD患者はIPF患者と比べて,一秒量が著しく低下しておりMVVは少なくなる.そのため,COPD患者は運動中で最大に実施できるVEは減少し,換気制限は一秒量に規定される要素が大きく,閉塞性換気障害の程度がCOPD患者の換気制限の要素であった.

本研究のLimitationは,IPFのpeak V ˙ O2に影響する因子をCOPD患者と比較するために,IPFのpeak V ˙ O2を同程度に合わせたCOPD患者100例の母集団から層化無作為抽出法により抽出した.この抽出したCOPD患者72例が一般的な患者層であるかは不明である.2点目に,IPF患者とCOPD患者の運動耐容能の低下に右心機能と肺高血圧症の影響については検討していない.労作時の低酸素血症に伴う肺動脈攣縮や低酸素血症の長期暴露による右心負荷などは,IPF患者とCOPD患者の運動耐容能の低下の問題として考えられる.本研究では右心カテーテル検査などの侵襲的検査を実施していないため,上記の問題を明らかにすることは出来なかった.

IPF患者は運動耐容能が同じCOPD患者と比較して,骨格筋機能,運動強度増加に対するVO2の応答も同様に低下し,運動終了時は非常に浅くて速い呼吸パターンであり,運動中の換気効率も低下していた.IPF患者に対して,呼吸法指導などで運動中にゆっくり深い呼吸パターンにしていく事は難しいかもしれないが28,COPD患者と同様の骨格筋へのアプローチを含めた持久力トレーニングは運動耐容能の改善に有用かもしれない.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

有薗信一;研究費(特定非営利活動法人 中日本呼吸器臨床研究機構),近藤康博;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム,シオノギ製薬),木村智樹;講演料(アストラゼネカ),片岡健介;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム)

文献
 
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