The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
Intrapulmonary percussive ventilator combined with PEEP valve for children with severe motor and intellectual disability with chronic atelectasis
Yoshitomo Ide Youichi HondaChie HasegawaChiaki Kawase
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 239-242

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要旨

重症心身障害児では無気肺を合併することが多く,慢性化した無気肺は呼吸器感染症を繰り返す要因となり重症児の生活の質に大きな影響を及ぼす.今回慢性無気肺を有する重症児に対し肺内パーカッションベンチレーターや徒手介助併用の機械による咳介助を実施したが,無気肺の改善は認めず呼吸器感染症を繰り返していた.IPV中のPEEP管理を見直し,PEEPバルブを併用したIPVや呼吸ケアの変更等により無気肺の改善など呼吸状態に変化を認めた.今回経験した重症児の経過を報告する.

緒言

重症心身障害児(以下重症児)では呼吸器合併症の発症がみられ,特に若齢重症児では呼吸障害や呼吸器感染症による死因の割合が高くなる1.重症児の呼吸器合併症では無気肺を合併することがみられ2,急性および慢性呼吸不全を引き起こす原因ともなり,その予防と治療は生活の質(以下QOL)の向上や生命予後の改善に密接に関係する3.特に慢性化した無気肺は呼吸器感染症を繰り返す要因となり生活やQOLに大きく影響を与える.

今回,呼吸器感染症を契機に無気肺が慢性化し,呼吸器感染症を繰り返す重症児に対し,肺内パーカッションベンチレーター(以下Intrapulmonary Percussive Ventilator: IPV)実施時にPEEPバルブを装着しての排痰,呼吸ケア変更を行なった.PEEPバルブを装着してのIPVおよび呼吸ケアの変更後より本児の症状に変化が現れたのでその経過を報告する.

症例

【症例】

症例は当院に入所している9歳の男児.低酸素性虚血性脳症による重症児(大島の分類1)で呼吸器感染症を契機に右上葉に無気肺が生じPEEPバルブ導入開始日(以下X病日)-232病日に呼吸理学療法を開始した.

呼吸状態は喉頭気管分離術による気管孔より人工呼吸器(設定は従圧式補助/調節換気モード)にて管理され,人工呼吸器に示される吸気1回換気量(以下VTi)は 210 ml程度を示し,PEEPは呼吸状態に合わせ 5~8 cmH2Oに設定されていた.身体所見は視診では胸郭は扁平化と下部胸郭の前後径,横径は縮小し,触診では胸郭柔軟性低下,特に右上葉領域は著明に吸気時の胸郭拡張性低下を示した.聴診では両側の肺胞呼吸音減弱し,特に右上葉部の肺胞呼吸音は著しく減弱し打診では右上葉領域,両下肺野での濁音を認めた.痰は高粘稠度の黄色痰を認めた.呼吸理学療法の内容は体位排痰法,徒手介助併用の機械による咳介助(Mechanically Assisted Coughing:以下MAC)を実施した.MACにおける機器はカフアシストE70(フィリップス・レスピロニクス)を使用し,設定は吸気圧・呼気圧ともに 30 cmH2O,吸気時間・呼気時間および休止時間は1.5秒に設定した.頻度は連続した5回の吸気と呼気のサイクルを5セット行い,週7回午前と午後に実施した.X-191病日よりIPVを開始し,機器はIPV®1C(パーカッショネアジャパン),ネブライザーは生理食塩水,ムコフィリンを使用し,駆動設定圧を 30 psi,駆動頻度はFULL EASY POSITION 2分,12:00 POSITION 11分,HARD POSITION 2分の計15分間を仰臥位にて行いIPV後はMACを実施した.介入頻度に関してIPVは週5回の頻度で午前と午後に行い,IPVおよびMAC実施直後は喀痰を認めるが,X-160病日経過しても右上葉の無気肺は残存し,呼吸状態の改善は乏しい状態が続いていた.

尚,本報告は対象者の保護者に目的・内容を用紙にて説明し書面にて同意を得て,くまもと江津湖療育医療センター倫理審査委員会の承認を得た(承認番号11).

【臨床経過】(図1

X日にIPV関連アクセサリーであるPEEPバルブ(パーカッショネアジャパン)を導入し圧調整に関しては人工呼吸器のPEEP設定と同圧の 6 cmH2Oに設定し開始した.X+23日に精査目的で胸部CT検査実施し,右肺はS7領域の一部に含気を認めるのみであり,上葉,下葉では広範に無気肺を認めた.左肺は上葉にすりガラス状の班状影が散見し,下葉は中枢側が浸潤影を認めた(図2a・b).X+32病日に人工呼吸器のPEEP設定を 8 cmH2Oに変更し,PEEPバルブに関しても同圧となるよう設定を変更した.X+33病日にアスペルギルス肺炎を診断されアムビゾーム点滴投与開始された.X+44病日にIPV後に右上葉部に痰貯留音と呼吸音の上昇を認め,高粘稠度の黄色痰が多量に喀痰された.X+51病日に閉鎖式気管吸引セットへ呼吸ケア内容変更した.X+89病日に呼吸状態改善に伴いブイフェンドへ内服治療開始した.X+103病日よりIPV実施時の体位を仰臥位,両側側臥位の3種類の姿勢へ変更し,各肢位にてIPVの駆出頻度をFULL EASY POSITIONおよびHARD POSITIONに設定し,各3~5分で実施した.X+193日に胸部CT検査再診し,右肺上葉および両下葉背側の無気肺部分に含気を認め,左肺上葉の班状すりガラス状影と左下葉の浸潤影の消失を認めた(図2c・d).Vtiは 300 ml程度を示し上昇認め,理学所見では触診にて右上葉領域にて吸気時の胸郭拡張と柔軟性向上を認め,聴診では右肺野での肺胞呼吸音上昇を認め右上葉部では捻髪音を認めた.X+202病日でのβ-Dグルカンは 62.5 pg/mlと高値を認めアスペルギルス肺炎に対する内服治療は継続しており気道から認めた発酵臭や淡黄色痰は持続していたが,呼吸器感染症の罹患頻度は減少し,病棟内での活動,訪問授業への出席日数の増加など居室外で過ごす場面も見られるようになった.IPV,MACは呼吸器感染症の再発予防を目的に再診日以降も日常的に継続する事となった.

図1

臨床経過

図2

胸部CT画像(a・b:X+23病日,c・d:X+193病日)

考察

本児は無気肺発症後よりIPVおよびMACを実施したが,無気肺は慢性化し治療に難渋していた.しかし,PEEPバルブを併用したIPVや呼吸ケアの変更後より徐々にではあるが無気肺の改善や呼吸状態に変化を認めた.

IPVは加湿された空気を高頻度かつ断続的に気道内に送ることにより換気改善と喀痰排出の補助を行う治療用人工呼吸器であり4,小児の嚢胞性線維症患者の無気肺の治療または予防に対する効果や5,側弯,胸郭変形が高度な症例および重症心身障害児(者)の急性肺炎や持続性肺病変に有効だった報告もされている6,7,8.しかし,濃性痰の貯留や気管支狭窄が2週間以内に改善しない場合,器質化し不可逆性の気道狭窄をきたし瘢痕性無気肺となる報告もあり9,本児に関しても高粘稠度の膿性痰を認め,IPVを開始するまでの期間に無気肺部分の瘢痕化や肺コンプライアンスのさらなる低下をきたしたことがIPV導入後も末梢気道部のPEEPを保つことが困難となり排痰に繋がらなかった可能性が考えられる.今回IPV実施時に使用したPEEPバルブはIPV呼吸回路の呼気排気口に装着し,救急蘇生バッグなどに使用されるPEEPバルブと同じく内蔵されたスプリングの力によって,内部のバルブに圧が加わり呼気の流出を一部制限しPEEPを発生させることが期待される10.今回,体位排痰法やMACなどの呼吸理学療法に加え,PEEPバルブを併用したIPVや閉鎖式吸引セットへの変更など呼吸ケアの見直しを行ったことで,常時適切なPEEPを保てた状態でIPVや吸引を行うことが可能となり長期間持続した無気肺を改善した可能性が考えられる.

今回の様に呼吸器感染症により長期間無気肺を有する重症児に日常的なPEEP管理に加え,IPV実施時にもPEEP管理をすることは気道クリアランス法をより効果的に行える可能性がある.しかし,IPV実施時にPEEPバルブを使用した報告は少なく今後もリスクや対象となる疾患,呼吸状態を検討し導入時期を考慮した使用が必要である.

備考

本論文の要旨は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2018年11月,千葉)で発表し,座長推薦を受けた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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