The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
A case of interstitial pneumonia with platypnea-orthodeoxia syndrome and difficult in early mobilization
Jun Matsumiya Shinjiro MiyazakiJun AmenoAkiyoshi Yamamoto
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2022 Volume 30 Issue 2 Pages 243-246

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要旨

Platypnea orthodeoxia syndrome(POS)は,直立位によって強調され,臥位によって緩和する低酸素血症および呼吸困難を特徴とする.そのため,離床の妨げとなる可能性があるが,POSに対する理学療法の報告はされていない.今回,間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)に伴うPOSの理学療法を経験した.

症例は,84歳の女性.抗ARS抗体症候群に伴うIPにより,座位での低酸素血症や呼吸困難が持続したため,POSが疑われた.心内および肺内シャントを認めず,IPの改善に伴い直立位での呼吸状態が改善したため,IPに伴うPOSと診断した.

POSは直立位で症状を呈するため,臥位での運動療法にて身体機能の維持・改善を図り,病状に応じて離床を開始することで,ADLの再獲得に繋げられる可能性がある.

緒言

Platypnea orthodeoxia syndrome(POS)は,臥位で緩和され,直立位で悪化する低酸素血症や呼吸困難を特徴とする稀な症候群であり1,換気血流比不均等を原因とするPOSの報告は少ない.また,換気血流比不均等によるPOSに対しての理学療法の報告は,我々が検索した限りではなされていない.POSの診断には,高度な臨床的疑いを必要とし,直立位で低酸素血症や呼吸困難を招くため,離床の妨げとなる可能性がある2.今回,間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)に伴う換気血流比不均等によるPOSを合併した症例の理学療法を経験した.

症例

【症例】

84歳の女性,身長153.0 cm,体重53.0 kg.60歳時に高血圧症と2型糖尿病を診断され,内服加療中であった.ADLは自立していたが,1ヵ月前より呼吸困難を自覚し,他院でIPと診断された.入院3日目に気管挿管による人工呼吸器管理となったが,抜管困難となり入院14日目に当院へ転院し,当院入院日より理学療法を開始した.なお,本症例の報告にあたり,患者とその家族に書面での同意を得た.

【検査所見】

当院入院時,血圧105/58 mmHg,心拍数52回/分,人工呼吸器設定は,CPAPで酸素吸入濃度(FiO2)0.6,PEEP 7 cmH2O,PS 10 cmH2Oで管理されており,呼吸数12回/分,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)99%であった.手掌紅斑やヘリオトロープ疹などの皮膚症状はなく,両肺下背部でfine cracklesを認めた.入院時血液検査は,AST 17 U/L,ALT 18 U/L,γ-GTP 29 U/L,LDH 433 U/L,CK 32 U/L,KL-6 1562 U/mLであった.胸部CTでは,両上・中葉肺で末梢優位のすりガラス陰影を認め,両下葉肺底部にびまん性の浸潤影を認めた(図1).

図1

胸部CT画像(入院時)

【治療経過】

入院後,抗菌薬およびプレドニゾロン30 mg/日を開始した.入院3日目に抜管でき,ネブライザー付酸素吸入器(酸素流量 8 L/分,濃度 40%)を使用した.入院4日目に左肺野の陰影増悪を認め,ステロイドパルス療法を開始した.入院5日目には抗ARS抗体陽性が判明し,シクロスポリンを追加した.入院7日目には簡易酸素マスク6 L/分へ変更できたが,座位で高度かつ持続的なSpO2の低下を認めた.入院12日目の経胸壁心臓超音波検査では心内シャントを認めず,座位でのマイクロバブルテストも陰性であった.また,血液検査より皮膚筋炎や肝肺症候群の可能性は低く,IPに伴うPOSが疑われた.薬剤の継続にて入院20日目よりKL-6や胸部レントゲン上の陰影は改善し,それに伴い座位でのSpO2や呼吸困難も改善傾向を示した(図2).このため,IPに伴うPOSと診断し,当院入院61日目に退院した.

図2

入院経過

TTE: transthoracic echocardiography(経胸壁心臓超音波検査),IPPV: invasive positive pressure ventilation(侵襲的陽圧換気),PT: physical therapy(理学療法),G-up: Gudge up(ギャッジアップ座位),MRC: Medical Research Council,PSL: prednisolone(プレドニゾロン)

酸素療法の%とLはそれぞれ酸素濃度と分時流量を表している.

【理学療法介入】

入院時より40分の理学療法を1日1回から開始し,1日2回へ変更した.臥位では努力性呼吸を認めず,呼吸困難は修正Borgスケール0であった.四肢筋力はMedical Research Council score(MRCスコア)で56点,基本動作は介助が必要で,Barthel Index(BI)は0点であった.FiO2 0.6で臥位では動脈血酸素分圧(PaO2)86.3 Torr,SpO2 96%だが,座位ではPaO2 61.5 Torr,SpO2 80%,修正Borgスケール6となり,臥位へ戻るとSpO2 90%台へ速やかに改善した.座位にて腹式呼吸や呼吸介助法を試みたがSpO2 80%,修正Borgスケール6であった.入院7日目には座位で75%まで低下し,一時的にリザーバー付酸素マスクに変更し,酸素投与を10 L/分まで増量したが,SpO2 80%であった.このため,入院7日目より四肢の筋力維持・改善を目的に仰臥位での運動療法を中心に介入した.ボールやセラバンドを使用したレジスタンストレーニングや,自転車サイクル運動を施行した。仰臥位での運動療法では,簡易酸素マスク4 L/分投与にて呼吸困難を認めず,SpO2 92%を維持した.入院12日目にギャッジアップ座位を試みたが,一時的なSpO2の低下や呼吸困難感を招いた.入院20日目より直立位でのSpO2の低下幅が減少したため,座位を再度開始した.入院30日目より経鼻カニュラ5 L/分にて座位でのSpO2 90%を維持したため,離床を開始した(図2).立位ではSpO2 82%へ低下したが,徐々に経鼻カニュラ4 L/分でSpO2 90%まで改善し,平行棒内歩行も可能となった.

臥位での運動療法から病状の改善に伴い直立位へと進めたことで,退院前には経鼻カニュラ4 L/分で呼吸困難を認めず,MRCスコア 50点,起居動作は自立し,BI 60点で他院へ退院となった.

考察

POSは,臥位から直立位でのPaO2>4 mmHgまたは,SaO2>5%の低下と定義されているが1,肺実質疾患によるPOSの報告は,3.7%1と極めて少ない.IPなどに合併するPOSは,重力の影響による換気血流比不均等3や,低酸素血症に対する血管収縮の無反応がPOS発生に寄与すると考えられている4

本症例は,理学療法による姿勢変化時にPOSの特徴を認め,経胸壁心臓超音波検査や臨床経過よりIPに伴うPOSと診断された.直立位でのSaO2の低下と呼吸困難を経験する場合にPOSを疑う必要があり5,理学療法が診断の一助となる可能性がある.

入院時は座位を施行したが,低酸素血症や呼吸困難を誘発し,離床への抵抗感を増強させる結果となりえた.そのため,身体機能やADLの改善を目的に,臥位での運動療法を中心に介入した.

一般的な呼吸不全症例においては,運動中に酸素療法6,7や非侵襲的換気療法8,9を併用することの有用性は示されているが,本症例は直立位でFiO2を増加させてもSpO2や呼吸困難の改善はなかった.直立位では肺底部に血流が優先的に分布しシャントが増加するため10,運動中の高流量システムは使用せずに介入し,原疾患であるIPの改善に伴う肺底部のシャントの改善に応じて直立位を施行した.

安静による筋萎縮に最も効果的な方法は臥位での運動であり,身体機能低下の唯一の緩和策である11,12.軽負荷の運動でも十分な効果を発揮し13,臥位での自転車サイクル運動は筋断面積を維持する14.さらに,抵抗運動の併用は,筋肉量や筋力の低下を予防する15.また,臥位での運動は酸素消費量を軽減し,呼吸困難の軽減に寄与する16ため,本症例のように直立位がとれない場合は,臥位での運動が有効であると考える.

一般的に長期の安静臥床は垂直姿勢への脱適応をもたらし,社会生活への復帰を遅らせるが17,POSにおいては臥位での運動療法を積極的に行い,病状の改善に伴い離床を行うことで,身体機能低下の予防とPOS改善後の可及的速やかなADLの回復に繋げられる可能性がある.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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