2022 Volume 30 Issue 2 Pages 247-250
理学療法士・作業療法士法が1965年に公布,施行されてから56年が経過し,施行当時における理学療法の通念と現在とでは,法の解釈を考慮する場面を多く経験する.理学療法士の活動範囲も拡大してきており,各々の業務には多職種で互いの知識技術を補完,共有しなければならない.地域においても“顔が見える連携”を目指す研究会などが多く活動し自己研鑽の場が散見される.理学療法士も時代のニーズに合う対応を迅速に実践することで,適宜適切な患者教育を実施できると考える.
本稿では理学療法士の“取扱説明書(トリセツ)”として著者が行っている業務を通して呼吸に携わる理学療法士が行う業務や他職種との協働方法について論じていく.
2021年より一般社団法人日本理学療法士連合が発足し,12の分科学会と8分野の研究会が設置され,専門性の高い学術活動を行っている.筆者が理学療法士になった1994年では各々得意分野があったものの系統だった専門分化はされていなかった.2009年に認定・専門理学療法士が誕生した.これを機に,より専門性の高い理学療法士が活動することになっていった.しかしながら,理学療法士・作業療法士法では「治療体操・運動」の文字が並び,現在の理学療法士の職域とそぐわない面が見られる.今日では肢体不自由に対する理学療法だけではなく,呼吸器,循環器,代謝障害,腎機能障害など単なる併存症としてではなく,これらが理学療法の直接的な対象疾患として対応する理学療法も展開されるようになっている.さらに従前の理学療法士の業務範囲を超えた活動やそれに対する患者/他職種からのニーズもますます高くなっている.
本稿では,「理学療法士取扱説明書」として呼吸器領域で活動する筆者の活動を基に紹介し,他職種に対し理学療法士の業務内容を理解して頂ければと思う.
理学療法とは「(1)対象:身体に障害のあるもの(2)目的:基本的動作能力の回復を図ること(3)用いられる手段:治療体操その他の運動を行わせることおよび対象となるものに電気刺激,マッサージ,温熱その他の物理的手段を加えること」と理学療法士・作業療法士法で定めている.
法的には,この対象,目的および手段の三点においてこの定義にあてはまらない行為は理学療法とは解釈することができない.しかし,この法律文のままでは呼吸理学療法に携わるのは困難であり,いわゆる解釈を用いて法の中で活動をしていかなければならない.しかしながら今日においては,内部障害を有する患者においても肢体不自由と同様に四肢の筋機能の低下や加齢に伴う機能低下を有していることが多く廃用症候群と同様にリハビテーション必要度は高いことや,平成18年度から疾患別リハビリテーション料の一つとして呼吸器疾患リハビテーション料が評価されたことから,今日では呼吸理学療法は積極的に展開すべきであると解されている.理学療法士ガイドライン1)では,「対象は,おおむね基本的動作能力に障害のあるものだけに限定され,能力障害は,運動をつかさどる神経筋系統などに障害がある場合に多くみられるが,呼吸器,心臓,消化器等の内臓の障害に伴って生ずる場合もある(抜粋)」としている.この解釈により,理学療法士が呼吸リハビリテーションに参画できると考える.
当院理学療法士が実際に行っている具体的な例として,吸入薬の吸入手技指導,呼吸・栄養理学療法の実施,呼吸・循環管理を伴う理学療法などがある.
当院の呼吸に携わる理学療法士は,1.呼吸器症例への呼吸理学療法,2.集中治療室での全身的評価と呼吸リハビリテーション及び救急外来での緊急気道管理,3.吸入薬の吸入手技評価・指導,4.呼吸管理を伴う栄養理学療法,5.外来呼吸器症例への相談事業など様々な他職種と業務領域が重なる業務を行っている.
呼吸リハビリテーションとは,「呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して,自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である」とされる2).当院理学療法士は理学療法士資格の中,この解釈に則って業務に従事している.
コンディショニング,運動療法(全身持久力トレーニング,筋力増強運動など),日常生活活動練習などと共に,吸入器具の操作や吸入方法の指導,喀痰等の吸引などより専門的な業務も行っている.介入の時期は便宜上,図1のように分けている.また各介入期に応じて図2に示す内容を患者に提供している.
介入時期
臨床介入内容
例としては,吸入療法支援において,病棟専任薬剤師でも吸入手技の習得が困難な症例の場合,運動機能を評価し,吸入に要する吸気流速の評価,デバイスの操作方法,物理的に操作困難なデバイスの対処法を薬剤師と評価,検討するなど,理学療法士が得意とする分野で協働することがしばしばある.
また維持期の症例において,6か月間,定量的負荷で膝伸展筋力増強運動を行ったところ,普段使う階段での息切れが軽減された.このことより膝伸展筋力増加と息切れの軽減に関係を認めたため,継続的な筋力増強練習を行っている(図3)3).
COPD患者13例に対し6か月間,週一回,15分間の膝伸展筋力増強運動を実施した前後の膝伸展力と呼吸困難感の変化を示す.左:膝伸展筋力,右:呼吸困難感
*P<0.05 **P<0.01 VAS; visual analog scale
これらの経験や研究で得られた情報を外部発信し,地域で共有する事で同じ問題に直面した人たちが多くの解決策を共有できる必要性を感じ,共有できる場として地域の勉強会を立ち上げた4).
具体的には,湘南東部医療圏で呼吸器症例に携わるすべての職種に参加を呼びかけ,最新の呼吸器ケアの情報や参加者から日々の疑問点を聴取し,運営側で意見を集約し有識者に回答していただいた.またホームページでその回答を公開し共有した.
理学療法士が行っている業務は他職種の業務と重なる部分が多くある.近年,内部疾患に対する理学療法研究も盛んに行われており,従事する理学療法士も増加している.
我々は医師の指示の下で活動しているため,必要と思われる症例に関しては,積極的に理学療法処方を出して頂きたい.介入適応の相談も積極的に行っていただきたい.
当院理学療法士が診療チームで活動している内容をもとに理学療法士の“トリセツ”として表1に示す.
1)理学療法士が得意なことや好みは? ・運動の視点,認知の視点を持って「うごき」を見ること. ・「うごき」から「活動」へつなげること. ・「活動」の質や量を評価し,チームへ情報を還元すること. ・新規開拓や突き詰めるのが好みであり,勉強会主催者や起業家が多い. 2)理学療法士が苦手なこと,困難なことは? ・緊急性を要する事態への臨機応変な対応(一部を除く)は経験している理学療法士が少ない. ・侵襲的処置やその対応(法的に不可能な場合が多い). 3)他職種に望むことは? ・1日に診ることができる症例数が決まっている為,理学療法実施時間を考慮した1日のプログラムを共同してご検討いただきたい. 4)理学療法士をチームに加えるコツは? ・リハビリテーション処方が無い症例の場所に行く事は少ないため,まずは理学療法士を呼んで頂きたい. ・理学療法の適応についての問い合わせを頂けると,介入の可否の助言ができる. ・まずは医師,看護師,コメディカルスタッフからの声掛けをして頂けると幸いである. |
各々の業務には多職種で互いの知識技術を補完,共有しなければならない.例えば,呼吸管理と並行した栄養理学療法では医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床工学技士など多くの職種と密に連携しなければならない.地域においても“顔が見える連携”を目指す研究会などが多く活動しているが,我々も「医療と在宅呼吸管理勉強会」を開催し,シームレスな関係を構築する為活動してきた4).理学療法士も時代のニーズに合う対応を迅速に実践することで,適宜適切な患者教育を実施できると考える.
本稿は,第28回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会ワークショップ5「職種連携による患者教育の意義」において発表した「多職種連携における理学療法士のトリセツ」を要約したものである.
執筆の機会を与えてくださった関係諸氏に深謝申し上げる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.