The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Consideration of support based on characteristic of dyspnea management and physical activity in COPD patient
Chiho Kobayashi Utako ShimizuTaku OsawaChikako YukiYoko OkataKunihiko SakaiTikayo KoyamaMieko UchiyamaYu Koyama
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2022 Volume 30 Issue 3 Pages 328-334

Details
要旨

【目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸困難マネジメント及び身体活動量の特徴を踏まえ療養支援を検討する.

【方法】COPD患者を対象とし,身体活動量の測定は3軸加速度計を用いた.また,呼吸困難マネジメントに基づく類型化を行い,その特徴を分析した.

【結果】呼吸困難マネジメントは,マイペース型(類型1),呼吸困難回避型(類型2),動作調整型(類型3),動作・呼吸調整型(類型4)の4類型が示され,動作・呼吸調整型(類型4)は動作調整型(類型3)と比較し,呼吸調整のマネジメントを実行し,FEV1/FVC,%FEV1は低いが,身体活動量は高い結果となった.

【考察】FEV1/FVC,%FEV1は低いが,多様な呼吸困難マネジメントを実行し,より高い身体活動量が維持されている患者の存在から,COPD患者の生活活動や呼吸困難の程度に応じたマネジメントの獲得に向けた支援が求められる.

緒言

COPD患者は,動作時の息切れのため,身体不活動に陥りやすく,身体活動量(physical activity: PA)の低下はCOPDの増悪,生存率及びQOLに影響を及ぼす1.呼吸困難とは,呼吸の際に感じる不快な主観的経験2で,個々のCOPD患者がおかれている状況によって症状の認識や捉え方は異なることから,症状や活動の程度に応じた呼吸困難マネジメントが求められる.先行研究では,COPD患者は医療者からの支援の有無にかかわらず,日常生活のなかで息切れを体験したときから,試行錯誤し何らかの呼吸困難マネジメントを行っており3,4,5,軽症時から患者教育を行うことが求められている6,7.そして,患者自身が呼吸困難の程度に合わせた呼吸困難マネジメントを実行し,PAを低下させることなく療養生活を送ることができるよう支援しなければならない.しかし,実際の患者教育では,患者が在宅酸素療法などの医療器具を使用する段階で実施されることが多く8,軽症のCOPD患者に対する患者教育は十分とは言えない.そのため,軽症のCOPD患者が,どのような呼吸困難マネジメントを用い,どの程度のPAを維持しているのかを知ることは療養支援を検討する上で有益な情報と言える.

そこで本研究では,在宅酸素療法を導入していない高齢COPD患者が行う呼吸困難マネジメントに基づく対象者の類型化を行い,各類型が示す呼吸困難マネジメント及びPAの特徴を踏まえ療養支援を検討することを目的とした.

用語の定義

本研究における呼吸困難マネジメントとは,今戸の呼吸困難のセルフマネジメントの定義9を参考に,「動作時に生じる呼吸困難を調整するために必要な行動や技能とし,身体活動を維持するためのプロセス」と定義する.

対象と方法

本研究は診療録,3軸加速度計によるPA(歩数),及び質問紙調査の組み合わせによる横断調査である.研究実施施設は,呼吸リハビリテーションが提供されており,日本呼吸器学会専門医の診療,または慢性呼吸器疾患看護認定看護師による看護外来で療養支援が行われている医療機関5施設とした.研究対象者の選定では,次の条件を満たす者とした.呼吸器内科外来に通院する65歳以上80歳以下の男性COPD患者,在宅酸素療法を導入していない,過去6ヶ月以内に増悪の病歴がなく病状が安定している,呼吸器疾患以外の要因によるADL制限がない,明らかな認知症や精神疾患,不安,抑うつ症状による治療がない,自記式質問紙に記入ができる者とし,呼吸器科医師及び慢性呼吸器疾患看護認定看護師が呼びかけ,今回の調査に関して書面及び口頭で説明し同意が得られた者とした.

1. 調査内容

1) 対象者の特性と呼吸困難の程度(診療録調査)

対象者の特性を診療録から,年齢,体重,肥満度指数(Body mass index: BMI),同居者の有無,仕事の有無,併存症の有無と病名,修正息切れスケール(modified British Medical Research Council: mMRC),COPD罹患期間,増悪入院回数,呼吸リハビリテーションの経験の有無,短時間作用性β2刺激薬の吸入の有無,安定期吸入薬(気管支拡張薬,ステロイド等,合剤を含む)の有無,GOLD(Global initiative for chronic obstructive lung disease: GOLD)重症度分類による病期,呼吸機能検査[1秒率(forced expiratory volume % in one second: FEV1/FVC),対標準1秒量(percent predicted forced expiratory volume in one second: %FEV1),対標準肺活量(percent vital capacity: %VC)],安静時の経皮的酸素飽和度(SpO2)を収集し,呼吸機能検査及びSpO2は,調査開始時点で直近のデータとした.

2) PA(3軸加速度計調査)

3軸加速度計は歩数や姿勢・動作時間・運動強度を測定することが可能で,3軸加速度計(Active style Pro HJA-750C, OMRON)を用いた.分析対象となるデータは,座位の目安となる 1.0 METs以上の記録が5時間/日以上かつ5日間以上測定できたデータを抽出し,得られた歩数データの上側5日間の平均値を算出し,1.0 METs以上の記録が5時間/日未満かつ5日間未満の場合は除外した.

3) 呼吸困難マネジメントの実行状況

呼吸困難マネジメントの実行状況は,「息切れ・呼吸困難の対処に関する質問紙」を用い回答してもらった.質問紙は,まず今戸らの慢性呼吸器疾患患者が行う息切れに対するマネジメント法の実態10より参考に抽出した呼吸困難マネジメントから質問項目を検討し,日本呼吸器学会専門医,慢性呼吸器疾患看護認定看護師,内部障害系専門理学療法士による内容確認,プレテストを経て作成した.質問項目は動作に関する9項目と,その他8項目の17項目で構成した(表2参照).回答は,「いつも行っている(4点)」「だいたい行っている(3点)」「あまり行っていない(2点)」「行っていない(1点)」の4段階のリッカート尺度とした.

2. 調査方法

研究者は,対象者より研究参加の同意が得られた後,対象者の特性と呼吸困難の程度に関する調査用紙を記入するとともに,対象者へ3軸加速度計及び息切れ・呼吸困難の対処に関する質問紙を配布した.研究対象者は,翌日の起床から就寝までの間,3軸加速度計を腰に装着し,連続した8日間の測定を行った.質問紙はPA測定終了後に,測定期間中に実行した呼吸困難マネジメントについて回答してもらい,質問紙及び3軸加速度計を郵送し研究責任者が回収した.

3. 調査期間

調査期間は,外気温の低下により活動性が低下する11という理由で冬季を除き,2019年9月1~2019年10月31日,2020年4月1日~8月7日とした.

4. 分析方法

記述統計として連続変数は中央値(四分位範囲Q1-Q3),名義変数及び順序変数は度数または割合で示した.統計処理は,IBM SPSS Statistics ver 27.0を用いた.呼吸困難マネジメントの実行状況の差によるPAを比較検討するために,動作に関する呼吸困難マネジメントの実行状況によるデータをもとに,クラスター分析(Ward法)を行い,動作時に生じる呼吸困難を調整するためのマネジメントとして動作に関する9項目を分析対象とし,「いつも行っている」「だいたい行っている」を実行あり「1」,「あまり行っていない」「行っていない」が実行なし「0」とし,呼吸困難マネジメントの実行状況が類似する対象者の類型化を行った.類型間の検定ではBonferroniの補正を用い,0.8%未満を有意水準とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,新潟大学倫理審査委員会の承認(受付番号:2018-0389)と,研究協力施設の倫理委員会の承認を受け実行した.研究対象者には研究の目的と方法,協力への自由意志と辞退による不利益がないこと,匿名性の保持について説明し同意を得た.

結果

研究対象者は,調査期間中に対象者の選定基準の条件を満たしたCOPD患者62名中,54名(受諾率87.0%)がエントリーし,PA測定における除外基準に該当した5名を除く49名を対象とした.対象者の背景では,年齢74.0(70.0-77.0)歳,GOLD重症度分類ではI期9名(18.4%),II期23名(46.9%),III期17名(34.7%),歩数は5,896(3,500-9,167)歩であった(表1).呼吸困難マネジメントの実行状況では,「吸入薬を指示通りに使用する」,「自分のペースで動く」,「定期的に散歩などの運動を行う」の順に,実行の頻度が高い結果となった(表2).呼吸困難マネジメントに基づく対象者の類型化では,クラスター分析を行い,デンドログラムにて4類型を得たため(図1),対象者の特徴と実行した呼吸マネジメントについて整理した(表3).各呼吸困難マネジメントの実行頻度の多さを明らかにするために,実行の割合が70%以上の項目に注目し,類型1「マイペース型」,類型2「呼吸困難回避型」,類型3「動作調整型」,類型4「動作・呼吸調整型」とネーミングした.実行された呼吸困難マネジメントの合計点を中央値で示し,類型1から類型4に向かうに従い,実行している呼吸困難マネジメントが多く,%FEV1は低値となった.類型間の比較では,呼吸困難マネジメント実行の合計点では類型3,4は類型1と比較し有意(p<0.008)に高く,類型4は類型2と比較し有意(p<0.008)に高い結果となり,類型4は呼吸困難マネジメントの種類と頻度が最も多かった.類型2は年齢[70.0(66.3-75.8)歳]が若く,BMI[23.8(21.5-24.6)],FEV1/FVC[61.45(50.69-63.86)%],仕事あり(50.0%),歩数[9,514(7,684-11,792)歩]が他の類型と比較し高く,歩数は類型3と比較し有意(p<0.008)に高かったが,その他の類型間では有意差を認めなかった.複数の呼吸困難マネジメントを実行する類型3と類型4を比較すると,類型4は類型3の動作調整に加え,呼吸調整の呼吸困難マネジメントを実行し,FEV1/FVC[43.64(37.86-58.12)%],%FEV1[47.15(39.23-68.95)%]は低いが,歩数[4,553(2,467-8,959)歩]は高い結果となった.また,類型3は4類型の中で,年齢[77.0(71.0-79.0)歳]が高く,BMI [20.5(19.8-25.1)]及び歩数[3,661(2,613-6,101)歩]が最も低い結果となった.

表1 対象者の背景(n=49)
年齢(歳)74.0(70.0-77.0)
体重(kg)62.8(56.0-67.0)
BMI(%)22.5(20.4-24.5)
同居者(あり/なし)46名(93.9%)/3名(6.1%)
仕事(あり/なし)10名(20.4%)/39名(79.6%)
罹患期間(年)5.0(1.0~9.0)
併存症(あり/なし)43名(87.8%)/6名(12.2%)
主な併存症気管支喘息19名(38.8%)
高血圧症17名(34.7%)
糖尿病9名(18.4%)
脂質異常症7名(14.3%)
前立腺肥大5名(10.2%)
GOLD重症度分類(I/II/III)9名(18.4%)/23名(46.9%)/17名(34.7%)
呼吸機能FEV1/FVC(%)57.39(45.30-63.56)
%FEV1(%)62.20(47.00-76.00)
%VC(%)100.20(85.70-114.00)
呼吸困難の程度(mMRC)Grade 07名(14.3%)
Grade 120名(40.8%)
Grade 216名(32.7%)
Grade 36名(12.2%)
安静時経皮的酸素飽和度(%)97.0(96.0-98.0)
短時間作用性β2刺激薬使用者あり/なし14名(28.6%)/35名(71.4%)
安定期吸入薬使用あり/なし44名(89.8%)/5名(10.2%)
呼吸リハビリテーション経験者あり/なし16名(32.7%)/33名(67.3%)
PA(歩)5,896(3,500-9,167)
呼吸器疾患の増悪による入院回数0回35名(71.4%)
1回8名(16.3%)
2回3名(6.1%)
3回以上3名(6.1%)
  中央値(四分位範囲Q1-Q3)

表2 呼吸困難マネジメントの実行状況(n=49)
呼吸困難マネジメント 実行状況中央値
(Q1-Q3)
人数(%)
行っていないあまり
行っていない
だいたい
行っている
いつも
行っている
動作に関する項目自分のペースで動く3.0(3.0-4.0)2(4.1)4(8.2)23(46.9)20(40.8)
動作をゆっくり行う3.0(2.0-3.0)7(14.3)16(32.7)18(36.7)8(16.3)
早めに休憩をとる2.0(2.0-3.0)9(18.4)16(32.7)13(26.5)11(22.4)
続けて動作を行わない2.0(2.0-3.0)12(24.5)15(30.6)16(32.7)6(12.2)
呼吸法を取り入れる2.0(1.0-3.0)16(32.7)14(28.6)10(20.4)9(18.4)
呼吸と動作を合わせる2.0(1.0-3.0)15(30.6)14(28.6)16(32.7)4(8.2)
息を吐きながら動く2.0(1.0-3.0)15(30.6)16(32.7)12(24.5)6(12.2)
息苦しくなりやすい動作を避ける2.0(2.0-3.0)12(24.5)15(30.6)18(36.7)4(8.2)
気持ちを落ち着かせて動く3.0(2.0-3.0)11(22.4)10(20.4)20(40.8)8(16.3)
その他の項目身体を動かすときの息切れの程度に目安を持つ3.0(2.0-3.0)12(24.5)10(20.4)20(40.8)7(14.3)
息切れと付き合う心構えを持つ(n=47)3.0(1.5-4.0)12(25.5)5(10.6)14(29.8)16(34.0)
気分転換をする3.0(2.0-3.0)11(22.4)11(22.4)19(38.8)8(16.3)
身体の調子がよいときの息切れの目安を持つ2.0(2.0-3.0)11(22.4)16(32.7)15(30.6)7(14.3)
調子がよい時間帯を選んで動く2.0(1.0-3.0)13(26.5)17(34.7)14(28.6)5(10.2)
定期的に散歩などの運動を行う3.0(2.0-4.0)9(18.4)10(20.4)13(26.5)17(34.7)
吸入薬を指示通り使用する4.0(3.0-4.0)6(12.2)1(2.0)6(12.2)36(73.5)
呼吸筋ストレッチ体操を行う2.0(1.0-2.0)23(46.9)19(38.8)3(6.1)4(8.2)

呼吸困難マネジメント得点:いつも行っている(4点),だいたい行っている(3点),あまり行っていない(2点),行っていない(1点)

図1

クラスター分析(n=49)

呼吸困難マネジメントに基づく対象者の類型化

表3 呼吸困難マネジメントに基づく対象者の類型化と特徴(n=49)
項目類型1(n=14)
マイペース型
類型2(n=10)
呼吸困難回避型
類型3(n=15)
動作調整型
類型4(n=10)
動作・呼吸調整型
対象者特性年齢73.0
(71.3-76.0)
70.0
(66.3-75.8)
77.0
(71.0-79.0)
74.0
(72.3-74.8)
BMI22.8
(20.9-23.7)
23.8
(21.5-24.6)
20.5
(19.8-25.1)
22.2
(18.8-24.0)
仕事 あり/なし$
仕事ありの割合(%)
2/12
(14.3%)
5/5
(50.0%)
3/12
(20.0%)
0/10
(0%)
mMRC Grade 0/1/2/3$5/6/1/20/6/4/01/6/6/21/2/5/2
罹患期間(年)2(1.0-6.5)5.0(1.3-9.3)5(1.0-9.5)6.5(4.0-10.5)
FEV1/FVC(%)60.72
(56.53-64.08)
61.45
(50.69-63.86)
53.85
(40.60-62.78)
43.64
(37.86-58.12)
%FEV1(%)73.62
(55.63-81.95)
64.27
(50.60-77.23)
56.90
(44.90-69.40)
47.15
(39.23-68.95)
GOLD重症度分類I/II/III$5/6/32/5/30/11/42/1/7
増悪入院回数0(0-0)0(0-0)0(0-1.0)1(0-2.0)
呼吸リハビリテーションの経験 あり/なし
経験ありの割合(%)
2/12
(14.3%)
2/8
(20.0%)
6/9
(40.0%)
6/4
(60.0%)
PA(歩)4,925
(3,527-7,811)
9,514
(7,684-11,792)
3,661
(2,613-6,101)
4,553
(2,467-8,959)
呼吸困難マネジメント実行状況合計点14.5
(12.0-15.0)
21.0
(20.3-22.8)
24.0
(22.5-26.5)
30.0
(27.3-32.8)
自分のペースで動く4.0(2.3-4.0)
10(71.4%)
3.0(3.0-3.0)
9(90.0%)
3.0(3.0-4.0)
14(93.3%)
3.5(3.0-4.0)
10(100%)
動作をゆっくり行う1.5(1.0-2.0)
1(7.1%)
2.0(2.0-2.0)
2(20.0%)
3.0(3.0-4.0)
13(86.7%)
3.0(3.0-3.8)
10(100%)
早めに休憩をとる1.0(1.0-2.0)
0(0%)
2.0(2.0-2.0)
2(20.0%)
3.0(3.0-4.0)
12(80.0%)
3.5(3.0-4.0)
10(100%)
続けて動作を行わない1.0(1.0-2.0)
1(7.1%)
2.0(2.0-2.0)
1(10.0%)
3.0(2.5-3.0)
11(73.3%)
3.0(3.0-3.8)
9(90.0%)
呼吸法を取り入れる1.0(1.0-1.8)
2(14.3%)
2.0(1.0-3.0)
4(40.0%)
2.0(2.0-2.0)
3(20.0%)
3.0(3.0-4.0)
10(100%)
呼吸と動作を合わせる1.0(1.0-1.8)
0(0%)
2.5(2.0-3.0)
5(50.0%)
2.0(2.0-3.0)
6(40.0%)
3.0(3.0-3.0)
9(90.0%)
息を吐きながら動く1.0(1.0-1.0)
0(0%)
2.0(2.0-2.0)
2(20.0%)
2.0(2.0-3.0)
6(40.0%)
3.0(3.0-4.0)
10(100%)
息苦しくなりやすい動作を避ける1.0(1.0-2.0)
0(0%)
3.0(3.0-3.0)
8(80.0%)
2.0(2.0-2.5)
4(26.7%)
3.0(3.0-4.0)
10(100%)
気持ちを落ち着かせて動く1.0(1.0-1.8)
1(7.1%)
3.0(2.0-3.0)
6(60.0%)
3.0(3.0-3.0)
12(80.0%)
3.5(3.0-4.0)
9(90.0%)

人数 中央値(四分位範囲) 呼吸困難マネジメント[上段/中央値(Q1-Q3),下段/人数(%)]

呼吸困難マネジメント実行状況の網掛け部分は,実行による割合が70%以上の項目

考察

呼吸困難マネジメントでは,動作・呼吸調整,呼吸困難回避に関するマネジメントが実施され,呼吸困難マネジメントの類型により歩数の違いがみられた.最も実行頻度高い呼吸困難マネジメントは「吸入薬を指示通りに使用する」であることから,薬物療法に関するアドヒアランスが高いほか,「定期的に散歩などの運動を行う」,「息切れと付き合う心構えを持つ」から,呼吸困難を体験し心構えを持ちながら活動をしていると推察できる.

呼吸困難マネジメントの類型の特徴として,類型1「マイペース型」は,「自分のペースで動く」以外の実行が少なく,他の類型と比較しFEV1/FVC,%FEV1は高く,呼吸リハビリテーションの経験は少なく,罹患期間が最も短かった.そのため,類型1は呼吸困難に伴う影響が少ない早期COPD患者であると推察できる.類型2「呼吸困難回避型」は,「息苦しくなりやすい動作を避ける」を実行していることから,呼吸困難を回避するための慎重さを兼ね備えたマネジメントを実行する割合が多く,歩数及び仕事を有する者の割合が4類型の中で最も高かった.したがって,類型2は体を動かす機会が多く,これまでの呼吸困難の体験をもとに,慎重かつ呼吸困難を回避するためのマネジメントを実行しながら,PAを維持していると推察する.類型3「動作調整型」は,「動作をゆっくり行う」「早めに休憩をとる」「続けて動作をさける」を実行しており,動作の重複と連続を避け,換気需要を低減するためのマネジメントで,動作時に計画的に休みを取り,個人の呼吸機能の許容範囲でADLを行うための方法である12.類型3は類型1,2と比較し,呼吸困難のマネジメント数が多く,歩数及びBMIは4類型の中で最も低く高齢であった.以上から,歩数の低下は呼吸困難及び加齢に伴う身体機能の低下が影響している可能性が考えられる.類型4「動作・呼吸調整型」は,4類型の中でマネジメントの実行の種類と頻度が最も多く,動作調整に加え,「呼吸法を取り入れる」「呼吸と動作を合わせる」「息を吐きながら動く」「息苦しくなりやすい動作を避ける」等,呼吸調整を実行していた.これは,呼吸仕事量を軽減するために肺胞換気量が大きく効率的な呼吸法や口すぼめ呼吸などにより動的肺過膨張を軽減し,換気効率を改善12するためのマネジメントで,呼吸困難の影響を受けながら生活していることが推察できる.今戸の報告では,呼吸法や動作を調整する呼吸困難マネジメントを実行する者の特徴として,ADLを自分で遂行できるが,呼吸困難の程度が強く動作の速度や頻度も低下し日常生活への影響を受けていたと報告されており10,マネジメントの種類と頻度が多いCOPD患者は,呼吸困難が日常生活への影響を及ぼす重症度が高く,生活活動や呼吸困難の程度に応じたマネジメントが求められることが示唆された.

複数の呼吸困難マネジメントを実行する類型3,4の歩数は,類型1,2と比較し低く,動作調整のマネジメントの実行が多かった.「動作をゆっくり行う」は,気流閉塞の影響を受けながらも,呼吸困難の体験に伴う不安13や脅威14を最小限に留めるマネジメントであると報告されている.しかし,類型3,4のなかには,GOLD重症度分類IからII期の比較的に早期のCOPD患者を確認できた.先行研究では「動作をゆっくり行う」を実行している者は,呼吸困難を起こさないために,意識して活動を抑制する方向に調整し,ADLを自ら制限していく可能性がある15と指摘されていることから,マネジメントの実行状況とPAの実際を知ることは,病期が早期の段階にあるCOPD患者がPAを抑制することなく,呼吸困難の程度やPAに応じた個別的な療養支援に繋げるために有用であると考える.

次に,呼吸調整に関するマネジメントについて,類型4は動作調整と呼吸調整を実行しているが,類型3は動作調整のみで呼吸調整の実行頻度が少なく,歩数も類型4より低かった.今戸は,呼吸調整のマネジメントを実行するには,医療者による支援や一定のトレーニングが必要である10と述べており,類型3は類型4と比較し増悪入院や呼吸リハビリの経験が少ないことから,呼吸調整に関して情報を得る機会が少なかったことも要因の一つであると考えられる.したがって,病期が早期の段階から呼吸調整のマネジメントについて情報提供を行う必要性があると考える.

以上を踏まえ,在宅酸素療法導入前のCOPD患者の療養支援においては,PAや呼吸困難の程度を把握し,患者の状態や生活背景をふまえた適正な活動量の判断と,活動を維持するために必要となる呼吸困難マネジメントを早期の段階から取り入れることができるよう支援しなければならない.そのためには,COPD患者が呼吸困難を経験した時点から,看護師とともに呼吸困難の自覚の認識と,マネジメントの実行を振り返り,その効果の確認と意味付けを行いながら,PAの向上と維持に対して有益にはたらくよう支援が求められる.

本研究の限界と今後の課題として,本研究では気候の影響を受けやすい夏,冬のPAについては調査されていないことと,各類型の症例数は少ない点である.次に,呼吸困難マネジメントの質問紙を用い調査したが,それは多様な呼吸困難マネジメントの一部であり,すべてのCOPD患者に適応できるかは不明である.また,本研究では呼吸困難マネジメントの特徴に基づいた分析であるため,今後は呼吸困難や重症度による分類を基に,PA及び呼吸困難マネジメントの特徴を調査していく必要がある.

本研究は令和2年度新潟大学大学院保健学研究科博士前期課程の学位論文に加筆・修正したものである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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