The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Effects of delirium on ventilator-equipped patients undergoing early rehabilitation on the clinical course
Tomohiro Uchikawa Kyohei TakahashiAtsunori YuasaKoji YamashitaYoshihito Ujike
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2022 Volume 30 Issue 3 Pages 341-346

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要旨

【目的】集中治療室(ICU)において48時間以上人工呼吸器を装着し,早期リハビリテーション(早期リハ)を施行した患者のせん妄発生状況および,せん妄が臨床経過に及ぼす影響について後方視的に調査することである.【対象および方法】対象は当院ICUに入室し,48時間以上挿管下人工呼吸管理および早期リハを施行し生存退室した74例の患者とした.調査項目は,重症度,人工呼吸器非装着日数(VFD),鎮痛・鎮静期間,離床開始日,日常生活動作(ADL),ICU在室・在院日数,退院時転帰を調査した.【結果】せん妄発生率は87%であった.せん妄を発症した患者では離床開始時期の遅延,ADL低下,在院日数の長期化,転帰に影響することが示唆された.また,せん妄期間はVFDおよびICU在室日数に相関を認めた.【結語】48時間を超える人工呼吸器装着患者では,早期リハ介入が実施されてもせん妄発症率は高く,せん妄は離床開始時期,ADL,在院日数,転帰に影響を与えた.

緒言

せん妄とは,軽度から中等度の意識混濁に失見当識・興奮・錯覚・不安・幻覚(特に幻視)・妄想などの認知障害を伴うことがある意識障害の一型であり,「精神状態の変動と急性変化」,「精神状態の動揺」,「注意力障害」,「意識レベルの変化」,「幻覚・妄想・錯覚」,「無知序思考」を満たす状態である1.集中治療室(Intensive Care Unit:以下,ICU )における人工呼吸器を装着した患者のせん妄発症は,人工呼吸器装着期間やICU在室日数および入院期間の延長,医療費の増大,死亡率の上昇だけでなく,ICU退室後も続く認知機能障害にも関連し,さらに,せん妄期間の延長は退院後の認知機能低下にも関連するとされており,短期のみならず長期的な予後不良の独立した危険因子とされている2.そのため,せん妄はICUにおける極めて重要な合併症の一つとされている3,4

本邦におけるICU患者のせん妄対策は,薬物的治療が29.6%,非薬物的治療が90.5%と報告されており,多くの施設で非薬物療法が実施されている.最も多く取り組まれているのが早期離床と運動療法などの早期リハビリテーション(以下,早期リハ)であり実施率は85.8%であった3.昨今,ICUで積極的に導入されている早期リハであるが,その安全性は一定の開始基準や中止基準,実施プロトコルを各施設の実施状況に応じて設定することにより,有害事象は0-3%以下と低く5,安全に実施する事が可能である4.早期リハの有効性は,せん妄期間の短縮,日常生活動作(Activities of Daily Living:以下,ADL)の改善や人工呼吸器装着期間の短縮,ICU在室および入院期間の短縮などの多くの効果が報告されている6,7ものの人工呼吸器装着期間を明確に示した報告は少ない.

本研究の目的は,ICUにおいて48時間以上人工呼吸器を装着し,早期離床を含めたリハビリテーション(以下,リハ)を施行した患者のせん妄発生状況およびせん妄が臨床経過に及ぼす影響を後方視的に調査することである.なお,対象の人工呼吸器装着患者は,48時間未満の人工呼吸離脱例を除外し全例48時間以上の挿管下人工呼吸管理を要した患者とした.

対象と方法

1. 対象

2018年6月から2020年1月までの期間に当院ICUに入室し,早期リハを施行し48時間以上の挿管下人工呼吸管理を要した161例とした.除外基準は18歳未満,入院前歩行不可,神経学的予後不良,死亡退院とし,研究対象は74例である.

2. 方法

1) せん妄の評価

せん妄は,鎮静スケール(Richmond Agitation-Sedation Scale:以下,RASS)にて鎮静深度を評価ののち,Confusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(以下,CAM-ICU)にて評価を行った.評価は,看護師により8時間毎に実施し,1日に1度でもCAM-ICUが陽性の場合をせん妄ありとした.

2) 当院ICUにおける早期リハビリテーション

当院ICUでのリハ対象は,待機手術症例,一般病棟での院内急変やECMO装着例などの濃厚治療を目的とした症例,さらに救急外来からの救急搬送や緊急手術症例である.リハ頻度は休日・祝日を含めて1日1-2回実施し,リハ内容は,待機的手術症例および緊急手術症例ではICU入室後に医師の指示のもとにリハを開始している.また,待機的手術症例では可能な限り術前よりリハ介入し,咳嗽方法などの呼吸練習や,離床方法の指導を行っている.離床は,Morrisらの離床プロトコル8をもとに多職種で検討し,意識レベルに応じてベッド上での他動的関節可動域運動から開始し,呼吸循環動態や疼痛などを評価し離床を実施している.さらに離床を行う際には,日本集中治療医学会作成の運動開始基準・中止基準5を参考にし,主にマンパワーを確保し計画外抜去や転倒・転落などがないように実施している.

3) 調査項目

調査項目は,せん妄発症の有無,年齢,性別,重症度,人工呼吸器非装着日数(Ventilator Free Days:以下,VFD),鎮痛・鎮静期間,せん妄日数,ICU在室・在院日数,離床状況,ADL,退院時転帰とした.重症度はSequential Organ Failure Assessmentスコア(以下,SOFAスコア)を使用し,離床状況は端座位・立位・歩行の開始日とした.ADLは入院前・ICU退室時・退院時にBarthel Index(以下,BI)を用いて評価した.なお,救急搬送および緊急手術症例では入院前BIは家族などからの聞き取りにより評価した.

4) 統計解析

せん妄群と非せん妄群の2群で比較し,Shapro-Wilk検定の後,正規性が認められた場合には対応のないt検定を行い,正規性が認められなかった場合にはMann-Whitney U検定を行った.退院時転帰はχ2検定またはFisherの正確確率検定を用いて比較した.また,せん妄日数と年齢,重症度,VFD,鎮痛・鎮静期間,離床開始時期,ICU在室・在院日数との相関関係をPearsonの積率相関係数,Spearmanの順位相関係数を用いて算出した.統計解析には,EZR Ver 3.6.19を使用し,統計学的有意水準は危険率5%とした.

5) 倫理的配慮

本研究の実施にあたり,市立函館病院倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:迅2020-39).

結果

1) 対象とせん妄発症率

対象者フローダイアグラムを図1に示す.研究期間中に48時間以上挿管下人工呼吸管理を要した患者は161名であった.除外症例は18歳未満3例,入院前歩行不可能25例,神経学的予後不良15例,死亡退院44例,研究対象者は74例となった.せん妄発症は64例(せん妄群),せん妄非発症10例(非せん妄群)で,本研究におけるせん妄発生率は87%であった.

図1

対象者フローダイアグラム

2) 患者背景

患者背景を表1に示す.両群の年齢,性別,SOFAスコア,入室前BI,入室経路において,全ての項目でせん妄群と非せん妄群で有意差を認めなかった.

表1 患者背景
せん妄群(n=64)非せん妄群(n=10)p value
年齢(歳)71.5[64-82]65[57.3-73.3]0.197
女性(人,%)32(50)5(50)1
SOFAスコア(点)10[8-12]9[6.25-10]0.171
入院前BI(点)100[95-100]100[85-100]0.620
ICU入室経路
 手術室*1(人,%)14(22)1(10)0.735
 病室*2(人,%)5(8)1(10)0.735
 救急外来*3(人,%)45(70)8(80)0.735

※データは中央値[四分位範囲]で記載.

*1手術室:待機手術後,*2病室:院内急変対応およびECMOなど濃厚治療目的

*3救急外来:救急搬送および緊急手術など

3) せん妄群と非せん妄群の比較

せん妄群と非せん妄群の比較を表2に示す.VFD,鎮痛期間,ICU在室日数では有意差を認めなかった.せん妄群は鎮静期間や在院日数が長く(p<0.05),離床開始日は端座位(p<0.05),立位(p<0.01),歩行(p<0.05)の全ての項目においても遅延した.また,ADLはICU退室時・退院時BIにおいて,有意に低値を示した(p<0.05).転帰では非せん妄群は自宅退院の割合が有意に高値を示した(p<0.01).

表2 せん妄群.非せん妄群の比較
せん妄群(n=64)非せん妄群(n=10)p value
VFD(日)22[18-24]24[22-24]0.189
鎮痛期間(日)5[3-8]4[4-4.8]0.135
鎮静期間(日)5[3-7]3[1-4]<0.05
せん妄(日)4[2-7]0<0.01
ICU入室から離床までの日数
 端座位(日)5.5[4-8.3]4.5[1.5-5]<0.05
 立位(日)8[4-12]5[2.8-5]<0.01
 歩行(日)9[6-19]6.5[5.3-7.8]<0.05
ICU退室時BI(点)5[0-15]25[2.5-35]<0.05
退院時BI(点)75[40-100]100[88.75-100]<0.05
ICU在室日数(日)9.5[7-14]6[5-11.3]0.071
在院日数(日)49[38.5-68.5]23[17.25-40.5]<0.05
転帰
 自宅,(人,%)18(28.1)8(80)<0.01
 転院,(人,%)46(71.9)2(20)<0.01

※データは中央値[四分位範囲]で記載.

4) せん妄期間に関わる因子との相関

せん妄期間に関わる因子との相関を表3に示す.せん妄期間とSOFAスコアに相関を認めなかった.せん妄期間とVFDに負の相関(r=-0.449)を認めた.一方で立位(r=0.417),歩行(r=0.530),ICU在室日数(r=0.442)において正の相関を認め,年齢(r=0.292),鎮痛期間(r=0.382),鎮静期間(r=0.338),端座位(r=0.320)および在院日数(r=0.364)において弱い正の相関を認めた.

表3 せん妄期間に関わる因子との相関
rp value
年齢0.292<0.05
SOFAスコア0.1590.176
VFD-0.449<0.01
鎮痛期間0.338<0.01
鎮静期間0.382<0.01
端座位0.320<0.01
立位0.417<0.01
歩行0.530<0.01
ICU在室日数0.442<0.01
在院日数0.364<0.01

考察

[対象について]

本研究では,対象を48時間以上の挿管下人工呼吸を要した単に術後回復室的な管理ではない重症ICU患者とし,さらに離床を含めリハが実施可能であった患者を対象とすることを意図とした.その理由として,従来のICUにおける人工呼吸器装着患者のせん妄を検討した報告では,人工呼吸装着期間は明確ではなく,長短によりせん妄発症頻度や臨床経過が異なると考え,さらに近年は本邦のICUにおける早期リハの介入が注目されており,そのような最近の臨床現場の実際的な状況を考慮した後方視的な臨床研究を実施した.

[せん妄の発生率について]

本研究のせん妄発生率は,74例中せん妄発症は64例であり,せん妄発生率は87%であった.挿管,非挿管に関わらず,ICUで48時間以上人工呼吸管理された患者のせん妄発生率は89.9%との報告10や人工呼吸を必要とする重症患者においては80%との報告11があり,本研究結果は先行研究を支持する結果となった.

[ICUせん妄の特徴]

せん妄は多彩な症状を呈する特徴があり,過活動性せん妄,低活動性せん妄,混合型せん妄に分類される.なかでも,過活動性せん妄は,一般医療者に認識されやすく治療介入の対象となることが多いものの,低活動性せん妄は安静が保持されているような状態にみえるため,治療介入の対象となることが少なく,見過ごされていたことが指摘されている12.SalluhらによるとICU患者のせん妄の特徴は,低活動性せん妄であることが明らかとなっている13.Pandharipandeらは,外科系および外傷系ICUに入室した患者の70%にせん妄が発症し,とくに24時間以上人工呼吸器を装着した患者では,低活動性せん妄が多く発症していたと報告している14.さらにElyらは,内科系ICUに入室した患者では83.3%にせん妄の発症が認められ,65歳以上ならびに重症患者は低活動性せん妄を多く発症していたと報告している2.以上より,ICU患者のせん妄は,特に低活動性せん妄を早期に発見し,活動性の向上を目的とした対応を検討することが重要であると考える.

[せん妄と早期リハについて]

本研究結果では,せん妄群および非せん妄群のICU在室日数に有意差は認められていないにもかかわらず,せん妄群では,ICU在室中の離床が遷延しICU退室時BIが低値を示し,さらには退院時BIも低値を示し,ADL低下していることが示唆された.さらに数日のICU入室期間にもかかわらず急激なADL低下が発生していることから,せん妄を発症した患者に対して何らかの対策が必要である.その対策の一つとして,浅い鎮静管理のもと,人工呼吸中の患者であっても早期リハを実施することが挙げられる.近年,人工呼吸器装着患者の鎮静管理の中心は,浅い鎮静で管理することが主流となっており,その理由として,従来行われてきた深い鎮静管理と比較した場合に,浅い鎮静で管理した場合ではせん妄の発生率低下15,人工呼吸期間およびICU在室日数の短縮16,17などの効果が報告されている.また,離床を中心とした早期リハを行う場合は,深い鎮静下での実施は困難であり,不必要な深い鎮静を避けることが必要となるからである.このような鎮静管理のもと,人工呼吸中の患者においても早期リハを行うことで,身体機能の改善,人工呼吸期間の短縮,ICU在室日数の短縮に効果があり,さらにICUで発症するせん妄の有効性も確認され,非薬物的治療として実施することが推奨されている.一方で,早期リハとせん妄に関する先行研究18において,早期リハ単独ではICU患者のせん妄発生を予防しないということが報告されている.実際には,ABCDEFGHバンドルのように複合的介入の一手段としてリハを介入することが,せん妄の予防や改善のためには重要であり,ABCDEFGHバンドルを遵守することにより,せん妄の減少,VFDの延長,ICU在室・在院日数の短縮,院内生存率は改善することが明らかとなっている11,19,20.また,ICU患者の長期臥床や長期人工呼吸後に続発する後遺症として知られている四肢筋や呼吸筋などの筋力低下をICU獲得性筋力低下(Intensive Care Unit Acquired Weakness:以下,ICU-AW)と呼ばれており,現在では医原性リスクとして考えられるのが一般的となっている21

[せん妄期間の延長について]

せん妄期間が臨床経過に及ぼす影響について,せん妄期間とVFDには負の相関関係にあり,人工呼吸管理が長期化することでせん妄期間が延長することが明らかとなった.また,鎮静期間やICU在室日数の長期化,離床開始時期が遅延すると,せん妄期間においても長期化することが明らかとなった.先行研究22では,入院中のせん妄期間の長期化が退院後の認知機能障害発症の独立危険因子として挙げられており,せん妄の発症のみならず,せん妄期間についても注意することが重要である.また,ICUを退室した患者が,認知機能障害のみならず,身体機能および精神機能障害などの後遺症に悩まされていることが明らかにされており,これらは総じて集中治療後症候群(Post Intensive Care Syndrome:以下,PICS)と呼ばれている.PICSの対策には,早期リハの介入が効果的であり,ICU入室中から退院後の生活をも視野に入れた早期リハの介入が重要であると考える23

[総括]

せん妄は,ICU生存退室者の予後を左右する独立危険因子と指摘されており,早期発見や症状改善に取り組むことが重要である.本研究の結果,48時間以上の挿管下人工呼吸を要した患者は重症度が比較的高く,このような患者においては,早期リハを実施していても非常に高い割合でせん妄を発症していたことが判明した.一方で,早期リハが介入することによりせん妄期間がどのように変化するかは検討できなかった.今後の課題として,本研究は人工呼吸器装着患者の入院中における短期間の追跡調査であり,退院後を含めた長期的な追跡調査が必要であると考える.さらに症例を集積し病態(待機的手術や緊急入院や緊急手術後など)に応じた詳細な調査を行う必要があると考える.本研究の限界は,早期リハの介入頻度や時間の影響,人工呼吸器設定の違い,せん妄の危険因子である全身状態の悪化や認知機能の低下,使用薬剤の投与量や投与期間などが検討されておらず,またADL低下の要因が特定できていない.単施設であり症例数が少なく多変量解析を行えていないことが挙げられる.したがって,本研究結果は慎重な解釈を要すると考える.

謝辞

本稿の内容に関して御指導・ご協力頂いた皆様に心よりお礼申し上げます.

備考

本論文の要旨は,第30回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会(2021年3月,京都)で発表し,学会長より優秀演題として表彰された.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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