2022 Volume 31 Issue 1 Pages 1-7
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の身体活動性維持・向上は,重要な管理目標のひとつである.我々は,日本人COPD患者の身体活動性に対する3軸加速度計を用いた評価体制の構築をおこなってきた.海外使用機種の日本人への適用是非の検証,国内販売機種の日本人COPD患者に対する妥当性検証を行い,本邦におけるCOPD活動性測定体制が確立できた.
日本人COPD患者では,歩数の低下,強度別活動時間の短縮がみられ,呼吸機能,呼吸困難感,運動耐容能,就業状態などが身体活動性に関連することが確認できた.気管支拡張薬の追加投与あるいは単剤に比べた配合剤投与は,身体活動時間を有意に延長させ,近年注目されているセデンタリー時間も有意に短縮することが確認できた.
今後とも引き続き,身体活動時間の延長とセデンタリー時間の短縮を目指し,臨床研究を継続してまいりたいと考えている.
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では,気流閉塞に伴う労作時呼吸困難のため,運動耐容能の低下,身体活動性の低下,骨格筋の廃用が順次生じ,さらなる労作時呼吸困難を来し,フレイル状態となり,健康寿命の短縮,ひいては生命予後の悪化をもたらしうる1).特に身体活動性は,COPD死亡の最大の危険因子であるとも報告されている2).身体活動性の評価には従来質問票が用いられてきたが,過大評価の傾向が指摘されていることもあり3),健康増進目的の研究などにおいても,歩数計や加速度計を用いたより客観的な測定方法が用いられるようになってきている.COPD患者の身体活動性に対して,2005年にPittaらは世界で初めて3軸加速度計(DynaPort Activity Monitor®: DAM; McRoberts BV, The Hague, the Netherlands)を用いて評価し,健常者に比べ明らかに身体活動性が低下していることを報告した4).しかし,この報告で用いられた加速度計は高価であり,使用するには個人輸入しか方法はなく,本邦で使用可能でCOPDに対する妥当性の検証された3軸加速度計は存在しなかったため,本邦でのCOPD身体活動性評価の研究は極めて実施し難い環境にあった.そこで,本邦で使用可能な3軸加速度計を抽出し,その妥当性検証をおこない,臨床研究の実施可能な環境を構築するともに,日本人COPD患者の身体活動性の特徴や,関連因子,薬物治療介入効果等を明らかにしてきた一連の我々の取り組みを報告する.
COPD患者において,身体活動性の低下した患者では維持されている患者に比べ生存率は有意に低く,COPD患者の死亡の最大の危険因子が身体活動レベルであるとされている2).また,40年間の追跡において,身体活動性が低下した患者では,中等度以上に維持できた患者に比べ有意に生存率は低下することより5),身体活動性の維持の重要性も示されている.その結果,本邦ならびに国際的なガイドラインにおいても,身体活動性の向上・維持が重要な管理目標として位置づけられている.
身体活動性は人種・生活習慣・社会状況などの影響を受け,国により身体活動性に差がみられるため6),欧米で使用された機種が日本人に適用できるかどうかは不明であった.そこで,Pittaらが用いたDAMが日本人COPD患者の身体活動性を評価するのに適しているかどうかについて検証をおこなった.まず,健常者4名に対し延べ8回DAM装着と同時に行動の自己記録を行い,活動記録を相関係数,Bland-Altman Plotにて再現性を検証したところ,移動,立位,座位時間はいずれも再現性が確認できた7).さらに,20名のCOPD患者に対し平日の異なる2日間の10:00から17:00の7時間のデータの反復性を検討したところ,Bland-Altman Plotにて系統誤差は認めず,級内相関係数(ICC)は,移動0.969,立位0.849,座位0.841と,いずれも反復性が確認できた7).これにより,DAMは日本人COPD患者の測定においても信頼性をもって使用できることが確認できた.
2. 日本製3軸加速度計の妥当性検証 (1) アクチマーカー®(AM;パナソニック電工,大阪)DAMの妥当性検証はできたものの,本邦でDAMの入手は容易ではなく,日常診療にフィードバックすることは困難であった.そこで,我々は,国内で使用可能な3軸加速度計であるAMのCOPD患者に対する妥当性の検証を行った.まず,AMの ≥1.5 metabolic equivalents(METs),≥2.0 METs,≥2.5 METs,≥3.0 METsの時間とDAMの移動時間との関係を比較したところ,≥2.0 METs,≥2.5 METs,≥3.0 METsの時間では有意な相関関係が確認された8).さらに,雨天の日と雨天でない日の活動時間を比較すると,雨天の日では有意に活動時間が短縮しており,雨天を除外して計測データを収集することが再現性を高めることにつながることが確認できた.また,解析日数について級内相関係数を用いて検討した結果,2日では ≥2.0 METsにおいてICC<0.8となるも,3日以上であれば ≥2.0 METs,≥2.5 METs,≥3.0 METsいずれもICC>0.8となり,反復性が確認できた8).したがって,雨天を除いて最低3日以上のデータを解析することで反復性のある身体活動性データが得られることが判明した.
(2) Active Style Pro HJA-750C®(HJA;オムロンヘルスケア,京都)当初AMを用いてデータ収取を行っていたが,その後,企業の方針でAMの販売が中止され,再び日本人COPD患者に対する妥当性が検証された使用可能な3軸加速度計がなくなる状況に陥った.そこで我々は,当時新たに発売されていたHJAを用い,再度機器の妥当性検証を行った.DAMの後継機で機器間の妥当性の検証がなされている3軸加速度計DynaPort Move Monitor®(DMM; McRoberts BV, The Hague, the Netherlands)とAM,HJAの3機種を同時に装着し(図1),機器間の再現性を検証した.その結果,≥2.0METs,≥3.0METsの強度では,HJAの再現性が確認でき(図2),雨天の日の活動時間低下,最低解析日数は3日以上が妥当であることが確認できた(図3)9).
HJAと妥当性検証済み加速度計との妥当性検証
HJA, Active Style Pro HJA 750C®(オムロンヘルスケア,京都); DMM, DynaPort Move Montor®(McRoberts BV,ハーグ,オランダ); AM, Actimaker®(パナソニック電工,大阪)
HJAと妥当性検証済み加速度計の計測値比較
A-C, HJAとDMMの比較;D-F, HJAとAMの比較;A, D, ≥2.0 METs; B, E, ≥3.0 METs; C, F, ≥4.0 METs. HJA, Active Style Pro HJA 750C®(オムロンヘルスケア,京都); DMM, DynaPort Move Montor®(McRoberts BV,ハーグ,オランダ); AM, Actimaker®(パナソニック電工,大阪); METs, metabolic equivalents
活動時間に対する天候の影響
A, ≥2.0 METs; B, ≥3.0 METs; C, ≥4.0 METs. METs, metabolic equivalents; n.s., not significant
加速度計を用いて,日本人COPD患者の身体活動性の特徴について検討を行なった.種類別活動時間を計測する加速度計を用いた検討では,COPD患者では健常者に比べ,1日の歩数,1日の総歩行距離は有意に低下していたが,平均歩行速度は有差がみられなかった10).一方,強度別活動時間を計測する加速度計を用いた検討では,COPD患者では健常者に比べいずれの強度の活動時間も有意に短縮しており,≥3.0 METsの活動時間は健常者の約50%に低下していた(図4)11).
健常者に対するCOPD患者の身体活動性低下率
健常者21名,COPD患者43名を対象.METs, metabolic equivalents
身体活動性に関連する因子に関し,42例の検討では,呼吸機能,呼吸困難感,運動耐容能,一部年齢が抽出され11),環境や生活状況を含めた417例の検討では,呼吸機能,呼吸困難感,年齢,就労状態が抽出され12),併存症,心理状態,栄養状態等を含めた227例での検討では,呼吸機能,呼吸困難感,運動耐容能,不安感,一部年齢や心機能も抽出された13).呼吸困難感と身体活動性の関連を詳細に検討すると,呼吸困難感は身体活動性に明確な影響を及ぼしており,身体非活動患者を検出するためのカットオフ値は,修正Medical Research Council(mMRC)呼吸困難スコア2点以上であることが確認できた(図5)14).総合すると,呼吸機能,呼吸困難感,運動耐容能はおおきな影響を及ぼし,その他,年齢,就業状態,心機能,不安感等も影響を及ぼしうると考えられた.
身体非活動患者を検出するためのカットオフ値
mMRC,修正Medical Research Council息切れスケール
我々はまず,COPD患者8名に対し4週間貼付型β2刺激薬投与し,前後での身体活動時間を比較した.その結果,≥2.0 METs,≥2.5 METs,≥3.0 METsの時間では有意差はみられなかったが,≥3.5 METsの時間が有意に延長し,比較的高強度の活動時間延長効果みられる可能性が示唆された15).次に,I期からIV期のCOPD患者21名に対し,国際ガイドラインの推奨に則った吸入気管支拡張薬の追加投与を4週間行い,投与前後での身体活動性の変化を検討した.その結果,≥2.0 METsの時間には改善はみられなかったが,≥2.5 METs,≥3.0 METs,≥3.5 METsの時間は有意に延長することが確認できた(図6)16).さらに,多施設共同の介入試験として,チオトロピウム(Tio)とチオトロピウム/オロダテロール(T/O)を用いた6週間投与のクロスオーバー研究(VESUTO試験)を実施した.主要評価項目は最大吸気量とし,副次評価項目に身体活動性を設定し計測2週間の平均値用いた.その結果,身体活動性は2群間では有意な差を認めなかったが,加速度計装着時間8時間未満の日を除外し,有効データ日数が2日以上得られなかった患者は除外してサブ解析を行うと,T/O群ではTio群に比べ ≥2.0 METsの時間が有意に延長することが確認できた17).これらの結果より,気管支拡張薬はCOPD患者の身体活動性を改善しうる可能性が示唆された.
気管支拡張薬追加投与による身体活動性の改善効果
A, ≥2.0 METs; B, ≥2.5 METs; C, ≥3.0 METs; D, ≥3.5 METs. METs, metabolic equivalents; n.s., not significant
覚醒時の1.5 METs以下の活動をセデンタリー行動と呼び,近年注目されている.具体的には座位やリクライニングに相当する行動であり,その行動時間がセデンタリー時間である.COPD患者において,1秒量,運動耐容能,年齢などに加え,身体活動性の主たる指標である≥3.0 METsの活動時間で補正した場合,セデンタリー時間の長い患者では短い患者に比べ累積生存率が有意に低いことが報告されている18).すなわち,セデンタリー時間は身体活動性とは独立したCOPD患者の予後規定因子であり,主として中等度以上の活動を意味する身体活動性と同時に,セデンタリー行動も重要な管理ターゲットとして意識する必要性が示唆されている.
そこで,VESUTO試験のデータから厳密にセデンタリー時間を抽出するため,睡眠時間のデータを除外し,装着時間10時間未満の日・雨天の日のデータを除外し,有効データが3日以上得られている患者のデータのみを抽出してサブ解析を行った.その結果,T/O群ではTio群に比べセデンタリー時間は有意に短縮し,同時に ≥2.0 METsおよび ≥3.0 METsの活動時間も有意に延長することが確認された(図7)19).さらに,T/Oの効果はベースラインの呼吸機能や呼吸困難感が軽い患者ほど有意に改善を示すことが確認できた19).また,未治療のCOPD患者に対しTioあるいはT/Oを6週間投与し場合,T/O群で有意にセデンタリー時間を短縮するとの報告もみられる20).
単剤と配合剤による身体活動性改善効果の比較
A, ≥1.0-1.5 METs; B, ≥2.0 METs; C, ≥3.0 METs. METs, metabolic equivalents; Tio, チオトロピウム;T/O, チオトロピウム/オロダテロール配合剤
我々は日本人COPD患者の身体活動性を測定し評価する方法を確立し,日本人COPD患者の身体活動性の特徴や薬剤による改善効果の可能性を提示してきた.ただし,身体活動性の向上には,気管支拡張薬に加えモチベーションを向上させ行動変容を誘導することや環境整備も重要であり,また,セデンタリー時間の短縮も新たな管理ターゲットとして注目されている.身体活動性向上のための様々な介入法の開発,ならびにセデンタリー時間の評価法の確立と短縮のための具体的方策など,今後も引き続き検討を続けてまいりたいと考えている.
この度は名誉ある賞を授与いただき,大変光栄に存じております.これもひとえに,研究開始時よりご指導いただきました一ノ瀬正和先生,ご推薦いただきました吉川雅則先生,一連の研究にご協力いただきました諸先生方,ならびに学会関係の方々のご尽力の賜物と,皆様方に心より感謝申し上げます.今回の一連の研究により,国際的に通用するCOPD身体活動性の評価法が提示でき,身体活動性に関する詳細な検討がおこなえる基礎が構築できたと考えます.今回,日本人COPD患者の身体活動性の特徴や気管支拡張薬の効果の可能性など示すことができましたが,まだまだごく一部が明らかになったにすぎません.身体活動性はCOPD死亡の最大の危険因子とされてはいるものの不明な点が山積しております.今回の受賞を励みとして,今後も引き続き身体活動性に関する検討を続け,COPD患者の予後改善を目指し尽力してまいりたいと考えております.
南方 良章;講演料(日本ベーリンガーインゲルハイム)