The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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The usefulness of respiratory muscle assessment with ultrasonography in patients with COPD
Masashi Shiraishi
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2022 Volume 31 Issue 1 Pages 15-20

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要旨

近年,非侵襲的に横隔膜機能を評価する方法として,超音波診断装置(ultrasonography: US)を用いた評価の有用性が報告されている.しかし,USを用いてCOPD患者の横隔膜移動距離(maximum level of diaphragm excursion; DEmax)や胸鎖乳突筋(Sternocleidomastoid muscle: SCM)と運動耐容能の関係については明らかになっていない.そこで,COPD患者のDEmax,SCM評価の有用性の検討を行なった.結果,COPD群のDEmaxは,コントロール群よりも有意に低かった(p<0.01).COPD群のDEmaxは運動耐容能と相関があり(p<0.01),動的過膨張の指標とされているΔIC(最大吸気量の変化量)と相関(p<0.01)を認めた.SCM筋厚はコントロール群に比して,COPD群で低値であった(p<0.01).COPD群では運動耐容能と呼気時のSCM筋厚(p<0.01),呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率(p<0.01)と相関を認めた.動的肺過膨張は呼気時のSCM筋厚(p<0.01),呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率(p<0.01)とも相関を認めた.以上のように,我々はUSを使用した呼吸筋の評価が有用であることを明らかにした.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)の呼吸困難と運動耐容能の低下には,動的肺過膨張(Dynamic lung hyperinflation: DLH)が大きく影響している.DLHにより主な呼吸筋である横隔膜が平底化し,横隔膜の機能障害が生じる1.近年,非侵襲的に横隔膜機能を評価する方法として,超音波診断装置(ultrasonography: US)を用いた評価方法の有用性が報告されている2.先行研究ではUSで測定されたCOPD患者の横隔膜移動距離が,6分間歩行距離,呼吸困難と関連することが報告されている3

また,この横隔膜の機能低下は,胸鎖乳突筋(Sternocleidomastoid muscle: SCM)などの呼吸補助筋の活動の増加によって補われるとされる.SCM,斜角筋,僧帽筋,内肋間筋,腹直筋が含まれるが,SCMは通常,高い肺気量で,運動などにより換気量の増加が必要となる際により動員され4,COPDの患者ではSCMなどの呼吸補助筋が肥厚すると考えられてきた.しかし,USを用いてCOPD患者のSCM筋厚を測定している報告はなく,SCM筋厚と運動耐容能の関係についても明らかになっていない.

これらの背景から,COPD患者における呼吸筋機能異状を評価するため,USを用いた①COPD患者の横隔膜機能評価,②COPD患者の呼吸補助筋評価の有用性の検討を行なった.

横隔膜に関しては,横隔膜可動域を評価するため,最大横隔膜移動距離(maximum diaphragmatic excursion: DEmax)を測定し,SCMに関しては,呼気,安静吸気,最大吸気時の筋厚を測定した.運動耐容能(Peak V ˙ O2)とDLHは心肺運動試験にて評価し,DEmax及びSCM筋厚との関連を検証した.

健常者とCOPDにおける横隔膜移動距離の比較,運動耐容能との関連

DEmaxの測定は,コンベックス型プローブを接続した超音波画像診断装置(TOSHIBA,XarioTM200,東京)を用いた.肋骨弓下斜走査法を用いて右横隔膜の描出を行った(図1).B modeにて,肋骨弓下で肋骨縁に沿うようにコンベックスプローブを長軸方向に右胸壁側のドーム状の彎曲部を斜めに走査し,胸壁に近い横隔膜の後外側部分の動きを尾側から捉える5,6.さらにM-modeに切り替え,右横隔膜の後外側部分の最大呼気位から最大吸気位までの移動距離を測定した(図1).

図1

超音波診断装置による横隔膜の描出

右横隔膜の描出方法は,肋骨弓下斜走査法にて,肋骨弓下で肋骨縁に沿うようにコンベックスプローブを長軸方向に右胸壁側のドーム状の彎曲部を斜めに走査した.B-modeにてプローブ位置を設定し,M-modeにて横隔膜Domeの移動距離を測定した.最大呼気位から最大気位までの横隔膜移動距離を DE max(Maximum Diaphragm excursion 横隔膜移動距離)とした.

(a)安静呼吸時の横隔膜移動距離,(b)DE max(最大呼気位から最大気位までの横隔膜移動距離)

対象は安定期COPD患者20名(COPD群)と,肺疾患や心血管疾患などの慢性疾患がなく,年齢を一致させた,健常高齢者20名(コントロール群)とした.COPD群のDEmaxの平均は,コントロール群よりも有意に低かった(45.0±12.8 mm vs 64.6±6.3 mm; p<0.01,図2).COPD群とコントロール群におけるDEmaxと各評価指標との関連を表1に示す.COPD群のDEmaxは運動耐容能(Peak V ˙ O2)と有意な相関関係があり(r=0.82,p<0.01,図3表1),DLHを反映するとされるΔICと正の相関関係(r=0.77,p<0.01,図4表1)を認めた.また,重回帰分析において従属変数としてPeak V ˙ O2,独立変数としてDEmaxと%FEV1にて分析を行ったところ,DEmaxが%FEV1よりもPeak V ˙ O2と関連が強く,独立した説明変数であった(R2=0.79,F=29.4,95%信頼区間[CI]=0.18-0.37,p<0.001).

図2

COPD群とコントロール群における横隔膜移動距離の比較

安定期COPD患者20名(COPD群)と,肺疾患や心血管疾患などの慢性疾患がなく,年齢を一致させた,健常高齢者20名(コントロール群)との比較.COPD群の横隔膜移動距離(DEmax)の平均は,コントロール群よりも有意に低かった(45.0±12.8 mm vs 64.6±6.3 mm; p<0.01).

表1 COPD患者(n=20)と対照者(n=20)における横隔膜移動距離と各評価指標との関連
Independent VariableCOPD(n=20)Control(n=20)
Pearson Correlation
Coefficient(r)
p valuePearson Correlation
Coefficient(r)
p value
Age, yr0.190.430.190.43
BMI, kg/m20.030.91-0.140.53
QMS, kgf/kg0.390.090.150.11
Resting measurements
IC, L0.6<0.010.20.38
FVC, L0.4<0.05-0.060.79
%predicted0.320.16-0.351.29
FEV1, L0.52<0.05-0.090.71
%predicted0.370.12-0.330.19
MIP, cmH2O0.65<0.010.240.29
%predicted0.68<0.010.090.29
Peak exercise measurements
Peak V ˙ O2, ml/min/kg0.82<0.010.61<0.01
V ˙ E, L/min0.6<0.010.52<0.05
V ˙ E/ V ˙ O2 ml/ml-0.76<0.01-0.68<0.01
V ˙ E/ V ˙ CO2 ml/ml-0.81<0.01-0.74<0.01
∆IC from rest, L0.77<0.010.160.49
mBorg scale dyspnoea-0.75<0.01-0.150.5
mBorg scale leg fatigue0.220.150.280.18

COPD=chronic obstructive pulmonary disease, BMI=body mass index, QMS=quadriceps muscle strength, VC=vital capacity, IC=inspiratory capacity, FVC=forced vital capacity, FEV1=forced expiratory volume in one second, MIP=maximum inspiratory pressure, V ˙ O2=oxygen uptake, V ˙ E=minute ventilation, V ˙ CO2=carbon dioxide output, IC=inspiratory capacity

図3

COPD群における横隔膜移動距離と運動耐容能との関連

COPD群のDEmaxは運動耐容能(Peak V ˙ O2)と有意な相関関係(r=0.82,p<0.01)と認めた.

図4

COPD群における横隔膜移動距離と動的肺過膨張との関連

DLHを反映するとされるΔICと横隔膜移動距離とに正の相関関係(r=0.77,p<0.01)を認めた.

以上のように本研究の結果から横隔膜可動性の低下は,COPD患者のDLHによる運動耐容能の低下と呼吸困難に関連していることが明らかとなった.このことから,USを用いたDEmaxの評価はCOPD患者におけるDLHによる運動耐容能を予測するうえで有効であると考える.また,USによる呼吸筋の評価は呼吸リハビリテーションや吸気筋トレーニングなどの効果判定の指標としても有用であることを示唆している7.DEmaxは測定が容易であり,検者間および検者内の信頼性が高い2.Bhattらは,COPD患者のPRで口すぼめ呼吸の有効性を評価したところ,6MWDの改善と強制呼気時のDEmaxの改善が関連することを示した8.Corbelliniらは,PR後の吸気時のDEmaxの改善が大きく,これは吸気容量の増加と関連していることを示した9.また,DEmaxの正常値およびカットオフ値は,性別ごとに明かにされている2.したがって,DEmaxは呼吸リハの評価に有用で信頼できる指標であると考えられる.

健常者とCOPDにおける胸鎖乳突筋の比較,運動耐容能との関連

USによるSCMの測定は,LOGIQ e Premium(GEヘルスケア・ジャパン,東京,日本)を使用して片側(右側)で行った.SCM筋厚はArtsら10の方法に従い,リニア7.5 MHzプローブを用いて測定した.プローブは前頚部より外側でSCMの中央部に平行に設置し,乳様突起から鎖骨縁までの線上の半分を測定した.画面上では右側の頸動脈を目印とした(図5).

図5

超音波診断装置による胸鎖乳突筋の測定

プローブは前頚部より外側でSCM筋の中央部に平行に設置し,乳様突起から鎖骨縁までの線上の半分を測定した.画面上では右側の頸動脈を目印とした.

対照はCOPD群(n=44)と年齢を一致させたコントロール群(n=20)である.呼気,安静吸気,最大吸気時のSCM筋厚をUSにより測定し呼気時のSCM筋厚を筋量,呼気~安静吸気時,呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率を筋の収縮力と定義した.心肺運動負荷試験(Cardiopulmonary exercise test; CPET)により運動耐容能(Peak V ˙ O2)と,DLHの指標とされる最大吸気容量の変化(ΔIC)を測定した.その他の評価項目は基本的情報(年齢,BMI),肺機能(%FVC,%FEV1,IC)とした.SCM筋厚を両群で比較し,呼気時のSCM筋厚,呼気~安静吸気時,呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率における各パラメータとの相関を分析した.また運動耐容能を従属変数とし,説明変数を呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率,%FEV1,IC,BMIとして重回帰分析を行った.COPD患者では呼気終末期において対照群と比べてSCM筋が有意に低値であった(0.58±0.1 cm vs. 0.78±0.15 cm,P<0.01,図6).呼気終末から安静吸気までのSCM筋厚変化率は,COPD患者では対照群と比較して有意に高値であった(29.3%±18.4% vs 7.6%±8.4%,P<0.01,図6).呼気終末から吸気終末までのSCM 変化率は,対照群と比較し有意差はなかった(51.7%±19.6% vs. 51.3%±12.3%,p>0.99,図6). COPD群では運動耐容能と呼気時のSCM筋厚(r=0.58,p<0.01)および呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率(r=0.71,p<0.01)と正の相関を認めた(表2).DLHの指標とされているΔICと呼気時のSCM筋厚(r=0.52,p<0.01)および呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率(r=0.57,p<0.01)とに正の相関を認めた(表2).運動耐容能を従属変数とした,重回帰分析の結果,呼気~最大吸気時のSCM筋厚変化率が最も影響のある予測因子として抽出された(R2=0.67,β=0.54,95% CI=0.016 to 0.082,p<0.01).本研究では,COPD患者のSCM筋厚と運動耐容能の関係は報告されておらず,SCM筋厚の評価が,肺機能検査よりもCOPD患者の運動耐容能の低下を予測しうることを示した最初の研究であり,SCM筋厚の評価は,COPD患者の運動耐容能の評価にとって重要であることを示唆している.このように,臨床の場において,USを用いた客観的な測定は,非侵襲的であり患者に労力を必要としない.また,近年,小型の超音波診断装置も発売されており,そのようなデバイスを使用すれば,在宅における評価も可能となりさらに適用も拡大すると考えられる.

図6

COPD群とコントロール群における胸鎖乳突筋の筋厚と筋厚変化率の比較

COPD患者では呼気終末期(0.58±0.1 cm vs. 0.78±0.15 cm, P<0.01)において対照群と比べてSCM筋が有意に低値であった.呼気終末から安静吸気までのSCM筋厚変化率は,COPD患者では対照群と比較して有意に大きかった(29.3%±18.4% vs 7.6%±8.4%, P<0.01),呼気終末から吸気終末までのSCM変化率は,対照群と比較し有意差はなかった(51.7%±19.6% vs. 51.3%±12.3%,p>0.99).

表2 COPD患者(n=44)と対照者(n=20)における胸鎖乳突筋の筋厚,筋厚変化率と各評価指標との関連
Independent variableCOPD(n=44)Control(n=20)
End-expirationEnd-expiration-Resting inspirationEnd-expiration-End-inspirationEnd-expirationEnd-expiration-Resting inspirationEnd-expiration-End-inspiration
Resting measurements
IC, L0.51*-0.55*0.48†0.270.350.46†
FVC, L0.34-0.250.320.24-0.200.26
%predicted0.18-0.160.230.19-0.080.15
FEV1, L0.41†-0.59*0.57*0.18-0.290.12
%predicted0.46†-0.62*0.56*0.19-0.070.16
Peak exercise measurements
Peak V ˙ O2, ml/min/kg0.58*-0.68*0.71*0.45†-0.280.52†
V ˙ E, L/min0.55*-0.66*0.47*-0.170.280.60*
V ˙ E/ V ˙ O2 ml/ml-0.51*0.53†-0.57†0.120.15-0.43†
V ˙ E/ V ˙ CO2 ml/ml-0.54*0.51*-0.55†0.140.16-0.47†
∆IC from rest, L0.52*-0.52*0.57*0.200.020.38

Abbreviations: COPD=chronic obstructive pulmonary disease, VC=vital capacity, IC=inspiratory capacity, FVC=forced vital capacity, FEV1=forced expiratory volume in one second, V ˙ O2=oxygen uptake, V ˙ E=minute ventilation, V ˙ CO2=carbon dioxide output, IC=inspiratory capacity, SCM=sternocleidomastoid muscle, *: P<0.01, †: P<0.05 for correlation with maximum SCM thickening fraction at end-inspiration.

今後の展望

以上のように,我々はUSを使用した呼吸筋の評価が有用であることを明らかにした.これらを踏まえて,横隔膜機能低下が報告されているCOPD患者に対する吸気筋トレーニングや,運動療法の客観的で簡便な効果判定をすることができると考える.また,ILDとCOPD患者の横隔膜移動距離と換気パラメータの比較を行い,各疾患の特性を明らかにしたいと考えている.

受賞にあたっての感想とこれからの抱負

このたびは,名誉ある「第10回呼吸ケア・リハビリテーション学会奨励賞」を頂きまして,大変光栄に思っております.受賞にあたり,日頃より大変多くのご指導をいただいております近畿大学医学部 リハビリテーション医学 教授 東本有司先生,呼吸器・アレルギー内科学 主任教授 松本久子先生,特命准教授 西山理先生,近畿大学病院 病院長 東田有智先生に深く感謝申し上げます.森ノ宮医療大学 インクルーシブ医科学研究所 教授(所長)の工藤 慎太郎先生には超音波の測定方法などご丁寧に指導いただきました.深く感謝申し上げます.近畿大学病院リハビリテーション部の木村保先生をはじめとするスタッフの皆様,呼吸リハビリテーションチームのメンバーである杉谷竜司先生,水澤裕貴先生,武田優先生には改めて深く感謝を申し上げます.また,ご協力を頂きました患者様,地域在住の高齢者様に深く感謝を申し上げます.本研究の成果はたくさんの方々に支えられ達成できたものと考えております.今後も呼吸器疾患の患者様のために,本学会および呼吸リハビリテーションの更なる発展に少しでも寄与できるように研究を継続し,さらに追求していきたいと思っております.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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