2022 Volume 31 Issue 1 Pages 117-121
【背景と目的】COVID-19患者を対象に,隔離解除時および退院後の酸素療法必要性の有無を調査することを本研究の目的とした.
【対象と方法】2020年12月~2021年6月にCOVID-19陽性となり,当院専用病棟に入院した中等症IIおよび重症患者98名を調査対象とした.隔離解除時の酸素療法有無と,発症から酸素療法終了までの日数を重症度別に集計した.
【結果】平均年齢68.3歳,男性が66名(67.3%),隔離解除時に50名(51.0%)の患者が酸素療法を必要としていた.20日目の時点で酸素療法を必要としていたのは,中等症IIが20%であったのに対し重症は60%であった.しかし,100日目には差を認めず,それぞれ10%弱が在宅酸素療法を含め酸素療法を必要としていた.
【結語】COVID-19陽性患者のうち中等症IIは比較的早期から酸素療法を離脱できるが,重症は離脱までにより時間を要していた.しかし,発症から100日程度で重症度に関係なく多くの患者が酸素療法を離脱できることが分かった.
Coronavirus disease 2019(COVID-19)は2019年12月に中国の武漢市ではじめて確認され,世界中にパンデミックを引き起こした.日本国内においても2020年1月に陽性患者が確認され,その後急速に拡大した1).COVID-19患者は呼吸器症状を認めない軽症,肺炎所見を認めるものの酸素療法を必要としない中等症I,酸素療法を必要とする中等症II,集中治療室入室または人工呼吸器管理を必要とする重症に分類され,約80%が無症状~軽症で治療を必要としない.一方,発生時期によって変動はあるものの約20%が重症化し,このうち約3%は人工呼吸器管理が必要となる2)などの特徴がある.
COVID-19患者のうち中等症II以上の患者は,安静時または労作時のSpO2を維持するために酸素療法を必要とすることが定義されている.Carlucciら3)は安静時のSpO2が正常なCOVID-19患者に対して退院時に6分間歩行試験を実施したところ,43%の患者に4%以上のSpO2 低下が認められたと報告している.国内のCOVID-19患者においては隔離解除のタイミングが自宅退院や社会復帰の転機となることが多いと思われるが,この時点では安静時の低酸素血症は改善していても,労作時に低酸素血症が残存している可能性がある.この場合,一般病棟へ移ってリハビリテーション(リハ)を継続しながら酸素療法の離脱を待つか,退院するのであれば在宅酸素療法(HOT)導入もしくは低酸素血症を回避するような動作指導等を行う必要があると考える.特に重症者は酸素療法の離脱においても中等症IIと比較してより時間がかかるものと思われる.しかしながら,COVID-19患者における酸素療法の離脱が発症からどの程度の期間を要すかについては,現時点ではまだ十分なデータが蓄積されていないため不明である.これらを明らかにすることで,隔離解除時の酸素療法必要性についての注意点と,どの程度外来等でフォローが必要かを把握することができると考える.よって,隔離解除時における安静時および労作時の酸素療法の必要性,および酸素療法離脱までに要する期間をCOVID-19の重症度別に調査することを本研究の目的とした.
本研究は単施設前向き観察研究とした.2020年12月~2021年6月にSARS-CoV-2 PCR陽性となり当院専用病棟に中等症IIまたは重症として入院した116名のうち,隔離病棟での死亡18名を除外した98名を調査対象とした.診療録より性別,年齢,既往歴,身長,体重,COVID-19発症日および重症度,投薬情報,入院日,隔離解除日,隔離解除時および病院退院時の酸素療法,転帰,入院時の血液データC-Reactive Protein,Lactate Dehydrogenase,White Blood Cell,リンパ球数,Prothrombin Time,Dダイマー,酸素療法離脱日を後方視的に抽出した.隔離解除日については東京都の指針に従い,症状軽快から72時間経過し,発症日から中等症IIは10~14日,重症は21日経過した場合とした4).安静時,労作時ともに室内吸入気でSpO2 90%を維持できない場合に酸素療法を開始した.全患者の安静時とリハ介入のない患者の労作時SpO2は,看護師がセントラルモニタ(DS-8700,フクダ電子)を用いて評価し,リハ介入のある患者の労作時SpO2は理学療法士がパルスオキシメーター(PuLSox300,コニカミノルタ)を用いて評価した.6分間歩行試験を中心に労作時の評価を行い,身体機能や酸素化能の問題で遂行困難な患者に対しては廊下歩行など,その時点での最大の移動能力を考慮して評価した.退院後は定期的な医師の外来診察や外来リハで,安静時および労作時の酸素化能の評価を行った.
統計解析Shapiro-Wilk検定にて正規性の認められた連続変数に対しては平均±標準偏差,認められなかった変数に対しては中央値(第1四分位数-第3四分位数)にて記載した.「酸素療法離脱」をイベント発生として,カプランマイヤーの生存曲線を用い一般化Wilcoxon検定にて有意差検定を行った.発症から100日目までの経過を追い,酸素療法を継続したまま転院またはHOTを導入して他院へ紹介した,退院前に死亡など,その後の経過が把握できなかった患者は「打ち切り」として処理した.すべての統計はIBM SPSS Statistics for Windows,version 20(IBM株式会社,Armonk, New York, USA)を用い有意水準を5%未満とした.
倫理的配慮本研究は公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院倫理審査委員会の承認(承認番号:3683,2021年8月27日承認)を得た.
平均年齢は68.3歳で,性別は男性66名(67.3%),女性32名(32.7%),入院中の重症度は中等症II60名(61.2%),重症38名(38.8%)だった(表1).隔離解除時において酸素療法の継続が必要だった患者は50名(51.0%)であり,重症度別にみた酸素療法の継続割合は中等症IIで60名中25名(41.7%),重症で38名中25名(65.8%)だった.退院時に酸素療法の継続が必要だったのは全体の98名中28名(28.6%)であり,このうち10名がHOTを導入して自宅退院,18名が酸素療法を必要としたまま他院へ転院となった.当院退院後に酸素療法を必要としていたのはHOTを導入した4名で,6名は退院後の経過を追跡できなかった(図1).
年齢 year | 68.3±11.9 |
性別 n(%) | 男66(67.3)女32(32.7) |
BMI kg/m2 | 25.0±3.7 |
重症度 n(%) | 中等症II60(61.2)重症38(38.8) |
在院日数 day | 20.2±11.3 |
画像所見 n(%) | |
レントゲン | |
すりガラス影 | 46(46.9) |
浸潤影 | 11(11.2) |
データ欠損 | 12(12.2) |
CT | |
すりガラス影 | 91(92.9) |
浸潤影 | 29(29.6) |
データ欠損 | 1(1.0) |
既往歴 n(%) | |
高血圧症 | 52(53.1) |
脂質異常症 | 32(32.7) |
不整脈 | 4(4.1) |
糖尿病 | 31(31.6) |
慢性腎臓病 | 7(7.1) |
心疾患 | 16(16.3) |
心不全 | 5(5.1) |
脳血管疾患 | 10(10.2) |
COPD | 9(9.2) |
癌 | 16(16.3) |
血液データ | |
CRP(mg/dL) | 6.2[3.4-10.3] |
LD(U/L) | 372[270.5-502.3] |
WBC(/μL) | 6300[4800-9600] |
リンパ球数(/μL) | 748.1[560.6-944.8] |
PT(sec) | 12.9[12.3-13.7] |
Dダイマー(μg/mL) | 1.3[1.1-2.0] |
BMI: Body Mass Index CT: Computed Tomography COPD: Chronic Obstructive Pulmonary Disease CRP: C-Reactive Protein LD: Lactate Dehydrogenase WBC: White Blood Cell PT: Prothrombin Time
年齢,BMI,在院日数は平均±標準偏差,それ以外の連続変数は中央値[四分位]
フローチャート
隔離解除時の酸素療法の詳細について,表2および表3に示す.中等症IIは安静時1~2 LNC(Nasal Cannula)10名,3~5 LNC 11名であったのに対し,労作時は3~5 LNCが16名で最も多かった.重症は安静時1~2 LNCが11名で最も多かったのに対し,労作時は3~5 LNCが10名と最も多かった.安静時よりも労作時の方がより高い酸素流量を必要としていた患者は,重症度に関係なくそれぞれ40%認められた.
中等症II(n=25) | 重症(n=25) | |||
---|---|---|---|---|
安静時 | 労作時 | 安静時 | 労作時 | |
1~2 LNC | 10(40.0) | 5(20.0) | 11(44.0) | 5(20.0) |
3~5 LNC | 11(44.0) | 13(52.0) | 4(16.0) | 10(40.0) |
リザーバー付き鼻カニュラ | 2(8.0) | 2(8.0) | 1(4.0) | 2(8.0) |
HFNC | 1(4.0) | 1(4.0) | 2(8.0) | 2(8.0) |
人工呼吸器 | 0(0) | 0(0) | 6(24.0) | 6(24.0) |
n(%)
NC: Nasal Cannula
HFNC: High Flow Nasal Cannula
中等症II(n=25) | 重症(n=25) | |
---|---|---|
安静時と労作時の酸素流量が同等 | 15(60.0%) | 15(60.0%) |
安静時より労作時の方が酸素流量が多い | 10(40.0%) | 10(40.0%) |
n(%)
COVID-19発症日から酸素療法を要した日数を重症度別に図2に示す.発症から20日の時点で酸素療法を必要としていたのは,中等症IIが20%であったのに対し重症は60%であった.しかし,70日以降になると中等症II,重症ともに約90%の患者で酸素療法を離脱でき,100日頃には差を認めず,それぞれ10%弱がHOTを含め酸素療法必要としていた.
カプランマイヤー曲線 発症日から酸素療法離脱までの日数
本研究はCOVID-19のうち中等症IIおよび重症患者を対象に,隔離解除時における安静時および労作時の酸素療法有無,酸素療法離脱までに要する期間を重症度別に調査した.調査対象98名のうち51%が隔離解除時に,29%が退院時に,それぞれ酸素療法を必要とした.一方,発症から100日頃には重症度に関係なくほとんどの患者が酸素療法を離脱できており,退院後に追跡できなかった6名はいたものの,最終的にHOTを継続していたのはわずか4名だった.
COVID-19は2019年12月に初めて患者が報告されたばかりで長期的な予後は不明だが,2003年に流行したSARS-CoV-1と類似している可能性が指摘されている5).SARS-CoV-1を長期的に追跡した報告によると,1/3の患者が有意な肺拡散能低下を認めていた6,7,8)としている.また,Moら9)はCOVID-19患者に対して退院時に肺機能検査を実施したところ,1秒率<80%の患者は13.6%でCOVID-19の重症度の影響は無かったが,一酸化炭素肺拡散能(DLCO)<80%の患者は47.2%認められ,重症度が高くなるにつれて有意にDLCOが低下していた,と報告している.COVID-19患者を対象に,退院3か月後の肺機能を調査したLerumらの研究10)によると,一秒率77%,DLCO 83%だったと報告されている.本研究では拡散障害の有無は確認できていないが,拡散障害のために労作時に比較的高濃度の酸素投与を必要としていたのだと考えられる.安静時の低酸素血症は日頃のバイタルサイン測定などで発見しやすいが,COVID-19患者は息切れを認めない症例も多い11,12)とされ,労作時の低酸素血症を見過ごされる可能性がある.よって,安静時の酸素療法を離脱できたとしても,6分間歩行試験やシャトルウォーキングテストなどを用いて,労作時の酸素化能を評価することが重要であると考える.
発症日から酸素療法離脱までの期間を調査した結果,中等症IIは20日までに約80%が離脱できたのに対し,重症は離脱までにより時間を要していた.先行研究によると,平均14日間の隔離を経た退院時に13.2%の患者がHOTを必要とした13),隔離解除後に回復期リハビリテーション病棟へ入室した患者のうち87.5%が何らかの酸素療法を必要とした14),と複数の報告がある.隔離期間や各国の医療体制が異なるため一概には比較できないが,COVID-19罹患後は多くの患者が酸素療法を必要とすることが示されており,本研究の結果もこれらの報告を支持するものであると考える.COVID-19重症患者は大多数が発症から数か月で酸素療法を離脱できるものの,労作時の低酸素血症は残存している可能性がある.我々理学療法士は,これらの患者に対して酸素療法離脱後も低酸素血症を回避するような動作指導や生活指導を行う必要があるだろう.
本研究の限界として,単施設に入院した患者のみを対象としているため選択バイアスが生じていることが挙げられる.特に,調査期間がパンデミックを引き起こしている時期であり,中等症II以上が優先的に入院に至っていた背景がある.軽症および中等症Iの患者の中にも労作時に低酸素血症を呈する患者がいたかもしれないが,それについては確認ができていない.次に,調査時期の問題である.ウィルスは増殖や感染を繰り返す中で徐々に変異し,COVID-19においても変異株として周知されている.本研究の対象期間は国内の第3~4波に該当しており,この時期に発症したCOVID-19患者における酸素化能や酸素療法の必要性有無に関する調査であることに注意が必要である.最後に,酸素療法を終了したタイミングについてである.入院中は酸素化能評価を毎日実施したが,退院後は定期的な医師の診察や外来リハで評価した.このため,患者によってはもう少し早期に酸素療法を離脱できる酸素化能に達していた可能性がある.
本研究の結果,COVID-19患者の隔離解除時における酸素療法の必要性,および発症から酸素療法離脱までの期間が明らかとなったことで,入院中や退院後のリハ介入および患者指導の一助になるのではないかと考える.具体的には,中等症IIの患者は隔離解除までに多くの患者で酸素療法離脱が目指せる一方で,重症患者は酸素療法を必要とする期間が長くなることを把握しておく必要がある.そして,重症度に関係なく多くの患者が3~4か月程度で酸素療法を離脱できることから,それまで酸素化能を安静時と労作時それぞれ評価し,医師と相談しながら適切な酸素療法を併用することで日常生活動作や運動療法を行うことが重要であると考える.ただし,10%前後の患者においては酸素療法を継続する必要があること,さらに死亡例も一定数存在することを把握しておく必要がある.また,先行研究でも報告されているようにCOVID-19患者においては,発症から数か月経過しても精神面や身体機能面など多岐に渡る課題が指摘されており,長期的にフォローすべきは酸素療法や酸素化能だけではないことに留意する必要があると思われる.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.