The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Symposium
Problems of medicines in patients with COPD
Tomotaka KawayamaMamoru NishiyamaTakashi Kinoshita
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2022 Volume 31 Issue 1 Pages 50-53

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要旨

COPDの治療薬は吸入薬が中心的な役割を演じる.吸入薬は,内服薬あるいは貼付薬と異なり,吸入ディバイスを必要とする.したがって服薬にはアドヒアランスと吸入手技の2点において指導あるいは教育が必要になる.COPDは加齢が疾患進行の因子であるため,自ずと高齢者の方がより重篤になり,積極的な治療介入の機会が増加する.さらに高齢化によって認知機能低下に伴うリテラシー不足や操作ミスの増大あるいは回数増加は避けられない.高齢者は若年者に比較して吸入アドヒアランスは高いとされる一方で吸入手技の誤操作率も高いとされる.吸入指導や教育が困難な高齢患者に遭遇することも少なくない中で,超高齢化が深刻化する日本で吸入薬を中心としたCOPD治療をいつまで継続できるかは今後の残された課題と言えよう.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)患者の薬物治療は吸入薬が中心的な役割を演じている1.吸入薬のコンパウンドにはCOPDの治療の根幹を為す気管支拡張薬である長時間作用性抗コリン薬(LAMA),長時間作用性β2刺激薬(LABA)およびその併用薬(LAMA/LABA),さらに喘息様病態合併例あるいは増悪や好酸球増多症例で追加される吸入ステロイド(ICS)がある1,2.患者はそれぞれの薬剤を使用するにあたり,それぞれの臨床的意義,有用性や副作用について理解する必要があるばかりでなく,その併用あるいはトリプル療法(ICS/LABA/LAMA)についても理解しなければならなくなる.さらに吸入薬には,内服薬や貼付薬と異なり,吸入デバイスの使用を強いられ,それぞれの薬剤で異なるデバイスが必要になる.つまり吸入薬が必要とされるCOPDや気管支喘息(以下,喘息)患者に対しては,医療従事者は,薬物介入のみならず,吸入指導や教育介入をしなければならないデメリットが生じる3

日本のCOPD患者は高齢者が多く,諸外国と比較して平均年齢が高いとされる4.加齢はCOPDの疾患進行の因子のひとつであり,高齢患者の方がより重篤な病態に陥る危険性が高いと推察される5.つまり高齢者の方がより積極的な薬物介入を要し,より複雑な治療である併用あるいはトリプル療法の使用機会が増加する可能性がある.さらに高齢化によって認知機能低下に伴うリテラシー不足や操作ミスの増大あるいは回数増加は避けられなくなり,より詳細かつ頻回な吸入指導や教育が必要なる.超高齢社会では,おそらく高齢者の中には吸入療法や吸入指導や教育介入が全く無効であると想定されるリテラシー欠如や操作不可能例が存在し,今後は増加してくるであろうと懸念される6,7

本稿では,COPDのみならず喘息患者も含めて,高齢者の薬物療法,特に吸入療法における問題点について言及したいと思う.

対象と方法

COPD患者を対象とし,吸入アドヒアランスあるいは吸入手技に関する研究報告(論文)を中心に選択し,高齢者の特徴が言及されている論文を参考にした.ただしCOPD患者の多くは高齢者が多く,高齢者と若年者の比較ができない事が多い.したがってCOPD同様に吸入療法を必要とする喘息患者を対象に,高齢者と若年者とを比較することで,高齢者の薬物療法の問題点を明らかにする.高齢者の定義はWHOに従い65歳以上としている8.また本稿では日本人の論文をできる限り採用した.薬剤や医療機器の保険適用外使用に関する記述は倫理的側面から言及しなかった.

結果

九州を中心とした吸入薬アドヒアランスの研究では,吸入薬低アドヒアランス患者率は,喘息で23.8%,COPDで21.8%と,それぞれ内服薬の10.5と9.7%の低アドヒアランス患者率と比較して,有意に低い結果が示されている(喘息のp=0.001とCOPDのp=0.0146)9.吸入薬アドヒアランスが内服薬に比較して低くなる要因をAdherence Starts with Knowledge-20(ASK-20)質問票10,11で調査した研究において,COPD患者では,内服薬に比較して吸入薬を使用しても「自身が目標としている健康状態に近づいているのが実感できない」が独立した因子(オッズ比2.49[95%CI 1.39~4.47], p=0.0022)であった.一方,喘息では,「再処方をしてもらうための受診が遅れ,服薬が中断してしまうことがある」が低アドヒアランスの独立した因子(オッズ比 2.69[1.26, 5.75], p=0.0127)として挙げられた12.ただし本研究では高齢者の割合はCOPDと喘息でそれぞれ92%と55%で,COPDの結果はほぼ高齢者のことを指す12

日本人のCOPDは高齢者が多いことは先に述べた4.したがって吸入療法の問題点を高齢者と若年者で比較するにはCOPDより喘息患者を対象にした方が検討しやすい.Sasakiら13は喘息患者を対象に高齢者と若年者で吸入薬アドヒアランスを比較している.高齢者は若年者に比較してむしろ吸入薬アドヒアランスが良好で,75歳から84歳の年齢層が最もアドヒアランスが良好であった13.たしかに高齢者の方が吸入薬アドヒアランス良好であるが,85歳以上になるとアドヒアランスは低下する13.いわゆる逆J曲線を描くことが示された.同研究13の中で,吸入薬アドヒアランス良好とされる高齢者が若年者と比較して低アドヒアランスになるASK-20質問票10,11の項目として「医師,看護師あるいは薬剤師と話し合って,服薬について決めていない」が独立した要因として挙げられた(オッズ比2.94[95%CI 1.31~6.61], p=0.009)13.本項目は若年者では認められなかった.さらに高齢者の中でアドヒアランス良好の患者と比較して低アドヒアランスの患者が吸入薬に対して障壁に考えているASK-20質問票10,11の項目として,「患者自身は自身が目標としている健康状態に近づいているのが自分で分からない」が要因として挙げられた(オッズ比4.43[95%CI 1.77~11.1], p=0.0014)13

吸入薬アドヒアランスがCOPDや喘息の疾患コントロールあるいは将来リスクに関与することは知られている.しかし吸入薬の有用性は吸入手技あるいは操作に依存する.的確な吸入手技が得られなければ疾患コントロールの悪化あるいは将来リスクの増大を来す14,15.若年者に比較して,高齢者の喘息やCOPD患者の方が吸入手技の誤操作回数が有意に増加する16

考察

高齢者COPD患者の薬物療法の問題点は吸入薬を使用するために,吸入薬アドヒアランスの低迷と吸入手技の不適格性が挙げられる.日本のCOPD患者は高齢者が多く,今後はさらに高齢化率は高くなると推察される17

高齢患者は吸入薬アドヒアランスが良好とされるが,内服薬アドヒアランスに比較して低い.吸入薬アドヒアランスが悪い高齢患者は,「服薬しても自身の目標としている健康状態に到達しない」や「服薬に関する相談相手がいない」がアドヒアランスの障壁になっていた.吸入薬アドヒアランスの向上には,患者に自身の病状について理解をしてもらい,行動変容を促すように教育や指導をする必要があると思われる18,19.また高齢者はわれわれが思っている以上に孤独なのかもしれない.そのためには,家族を含めて患者周囲の環境を見直す必要があるかもしれない.

一見吸入薬アドヒアランス良好とされる高齢患者には吸入手技に問題がありそうである.吸入手技の不適格性は疾患コントロールの不良あるいは将来リスクの悪化に繋がることが懸念される.疾患コントロール不良例は再度吸入手技の適格性を再評価することが推奨される20,21.反復する吸入教育や指導は吸入手技適格性の向上に寄与するであろう22,23.これらの教育や指導に関しては,医師のみならず処方箋を受け取る薬剤師による協力が必要不可欠である.近年,各自治体において吸入指導に関する講習会の実施や吸入アプリなどの開発が進んでおり,期待したい.

一方で再三にわたる教育あるいは指導を行っても吸入薬アドヒアランスや吸入手技適格性の改善が得られない教育・指導困難例を経験する.おそらく教育や指導にあたっては,患者個々の性格や死生観に依存するところもあるが,COPDの疾患特異性も考慮する必要があると思われる.COPDの疾患特異性のひとつにリテラシー低下がある.リテラシー低下はCOPD患者の予後不良の因子である6,7,24.またCOPD多くの併存症を有することがある1.認知機能障害あるいは中枢神経障害の併存25,26はさらにリテラシー低下を助長する恐れがある.リテラシー低下は患者教育や指導困難に関与する.日本人の高齢化およびCOPD患者の高齢化に伴って,教育や指導困難例は増加するであろう.おそらく吸入薬使用が困難になっている患者はいずれ内服困難になると推察される.

内服や吸入薬が困難であれば,貼付薬に可能性を見出せないであろうか.現在,COPDに適応を有する貼付薬はLABAのみである27.今後はLABAのみならずLAMA貼付薬の開発が進められることを望む.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

川山智隆;講演料(アストラゼネカ,グラクソスミスクライン,サノフィ,杏林製薬,MeijiSeika ファルマ,ベーリンガーインゲルハイム,ノバルティス),木下 隆;研究費・助成金(第一三共)

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