The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Pros and Cons
From the standpoint of promoting exercise therapy in pulmonary rehabilitation
Kazuyuki Tabira
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2022 Volume 31 Issue 1 Pages 79-85

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要旨

運動(療法)は,身体に適度な負荷を与えることで身体機能の維持・向上を図るもので,主に骨格筋や心循環機能を向上させ,運動耐容能を改善する.アスリートは運動パフォーマンスの向上,一般健常者は生活習慣病の予防や健康増進が主な目的となり,その効果と方法については確立されている.呼吸器疾患患者でも同様に運動耐容能の向上や息切れの軽減,ADL,QOL等の改善などが得られることは多くの文献で証明されている.呼吸器疾患では,低酸素血症や換気不全,低栄養状態など特有のリスクが存在するが,運動療法は身体に負荷をかけるため,健常者でもリスク管理は必須である.従って,疾患特有のリスクを管理した上での運動療法の実施は,十分にエビデンスのある有効な治療法であり,強く推奨すべきである.

緒言

運動療法とは,運動を治療手段として用いる方法の総称であり,身体の全体または一部を動かすことで症状の軽減や機能の回復を目指すものである.一般健常者では,健康増進,疾病予防が主な目的となり,アスリートであれば競技のパフォーマンスの向上や怪我の予防または治療として運動療法が用いられている.健常者やアスリートに対する運動療法は確立され,それは糖尿病や循環器疾患,更には今回のテーマでもある呼吸器疾患に対しても適応され,その有用性について数多く報告されている.

本稿では,まず健常者やアスリートに対する運動(療法)の効果とそのメカニズムについて概説し,その後COPDを中心とした呼吸器疾患患者に対する運動療法についてProの立場から論じたいと思う.

運動療法の概要

運動の効果については周知されていると思うが,「運動療法 pro」の立場であるため簡単に述べる.運動の必要性は,運動不足や安静臥床の影響を考えると分かりやすい.運動不足が続くと,1)筋骨格系:筋量が減少し,筋力低下が生じ,骨密度も低下し,転倒,骨折しやすくなる.2)循環系:起立や体動時の血圧や心拍出量の維持が困難となり,起立性低血圧や運動耐容能の低下を起こす.3)呼吸器系:換気機能やガス交換能が低下し,息切れを生じやすくなり運動耐容能を低下させる.4)その他:精神機能や消化器系など身体全体に悪影響を及ぼす1.このような運動不足状態が続くと,糖尿病や肥満,高脂血症,循環器疾患といった生活習慣病の誘発に繋がる2

従って運動療法は,これら運動不足に関わる身体への悪影響を改善し,運動耐容能や免疫力を向上させ,生活習慣病を予防・改善し,健康増進を図るものである.図1は体力が8METs以上あるものを基準とした死亡のリスク比である.高血圧やCOPD,糖尿病等(生活習慣病)は死亡のリスク要因であるが,リスク要因は同じでも体力が低いと死亡リスクが高くなることを示している.つまり,運動療法は生活習慣病の予防だけでなく,生活習慣病を持っていても体力の維持・向上を図ることで死亡リスクを軽減することを示している3

図1

体力が予後のリスク要因へ与える影響(文献3)より引用)

*肥満:BMI≧30 kg/m2,**総コレステロール値>220 mg/dl

運動療法の効果とメカニズム(図2)

運動療法には,筋力トレーニング,全身持久力トレーニング,呼吸筋トレーニング,ストレッチングなどが含まれるが,ここでは最も重要な全身持久力トレーニングの効果とメカニズムについて概説する.

図2

呼吸器疾患患者の病態と運動療法の効果(Fickの式を用いて)

CO:心拍出量,Hb:ヘモグロビン濃度,SaO2:動脈血酸素飽和度,SvO2:混合静脈血酸素飽和度

*Fickの式の酸素含有量は,ほとんどがHbで決定されるため,近似式を用いている.また最大運動時の酸素抽出は骨格筋が80%以上を占めるため,骨格筋因子とした.

実際に V ˙ O2を算出する場合は単位をそろえる必要がある.(通常CO(L/min),Hb(g/dL)なので,Hb(g/L)とするために10倍する.)

1) 運動耐容能の向上4

一般的に V ˙ O2maxの60~80%の負荷強度で20分以上運動することで運動耐容能の向上などが得られる.運動耐容能の最も良い指標とされる V ˙ O2maxは,Fickの式で表されるように,呼吸器,循環器,骨格筋,血液の要因で表され,トレーニングによってそれぞれが改善され,全体的な効果として運動耐容能が向上する.

a.循環器への効果

運動筋へ酸素供給する必要があるため,心臓への負荷が増加し,循環器系へのトレーニングになる.トレーニングにより,心収縮力が増加し,静脈還流量が増加するため,1回拍出量が増加する.これにより,安静時の心拍数は減少し,最大運動時の心拍出量が増加する.運動による血流増加は,血管内皮細胞から血管拡張物質(NO等)を増加させ,末梢血管抵抗を低下させるため,心負荷を軽減し,心拍出量増加につながる.

b.呼吸器への効果

肺活量の増加はあまり得られないとされている.以前は,運動終了時の最大換気量は,個人の最大換気能力の70%程度までしか達していないため,換気は運動制限因子ではないとされていたが,近年は,運動負荷が強くなると横隔膜が疲労し,呼吸補助筋への血流が増加するため,運動筋への血流増加の制限につながることから,換気も運動制限に関わることが明らかとなり,呼吸筋トレーニングを中心とした呼吸器へのアプローチも注目されている5

c.骨格筋への効果

持久力トレーニングは,筋線維のタイプを速筋型から遅筋型へ移行させ,ミトコンドリア(数,大きさ),毛細血管密度が増加し,骨格筋の有酸素能力が増加する.また,脂肪の利用を亢進することで血中グリコーゲンを節約する.これらによりエネルギー源が増加し,有酸素能力が向上することにより,全身持久力のパフォーマンス向上につながる.

2) 健康増進,疾病予防への効果

運動療法は,前述したような運動不足の影響を改善し,生活習慣病の予防および改善につながる4.また,近年骨格筋は大きな内分泌器官であり,脂肪代謝や肝臓への脂肪の取り込み,骨代謝,血管内非機能の改善,更には脳神経機能にも好影響を与えることが明らかになり,運動療法の有効性が再認識されている6

呼吸器疾患患者の病態生理(図2)

呼吸器疾患患者では,運動耐容能の低下,呼吸困難感,骨格筋機能障害,栄養障害など複合的な病態を呈している.

1) 運動耐容能について

呼吸器疾患患者の運動制限因子は,基本的に換気障害とガス交換障害とされる.実際に運動負荷試験終了時の換気量は患者の最大換気量に達していることが多い.運動中に低酸素血症をきたす場合は,ガス交換障害の影響が大きい.また肺血管床の減少や低酸素性肺血管攣縮のため肺性心をきたし,循環機能としても低下する症例も多い.すなわち,酸素供給系の問題により運動耐容能を低下させている7

一方,呼吸器疾患患者では骨格筋機能障害を生じていることが多い.主なものは,骨格筋量の減少,有酸素機能の高い遅筋線維の割合の減少,酸化酵素の減少,ミトコンドリアの機能異常,筋力低下などであり,骨格筋での有酸素機能の低下が生じている8.つまり,呼吸器疾患患者では,酸素供給系の問題だけでなく酸素利用系の障害も生じており,これらが合わさって運動耐容能の低下につながっている.

また,症状としては呼吸機能の障害により低酸素血症や高二酸化炭素血症自体が息切れを生じさせている.加えて循環機能の低下は,骨格筋への酸素供給を低下させるため乳酸が蓄積しやすく,この乳酸の分解のために換気亢進が起きる.また,骨格筋の有酸素能低下は,軽い運動強度から無酸素代謝が行われるため乳酸が蓄積しやすく,循環機能障害と同様に換気亢進が生じる.従って,呼吸機能障害だけでなく,循環器,骨格筋の障害も換気負荷を亢進させ息切れを生じさせている.この換気亢進に対して,肺過膨張による横隔膜の収縮効率の低下や呼吸筋力低下,胸郭のコンプライアンスの低下などは,効率よく換気を増やすことができず,呼吸筋負荷がより上昇し,これも息切れを悪化させ,運動耐容能低下につながっている9

2) 併存症,合併症,全身性炎症について

慢性呼吸器疾患の中でもCOPDは,中高年者に好発し,喫煙が疾患の主原因とされることから,加齢と喫煙に関する併存症が多く存在する.代表的な併存症は,心血管疾患,高血圧,骨格筋機能障害,栄養障害,骨粗鬆症,がん,抑うつなどであり,COPD患者の約半数が何らかの併存症を有しているとされている.肺合併症としては,気管支喘息,間質性肺炎,肺高血圧症,気胸などがある.また,COPDは全身性の炎症性疾患でもあり,これが体重減少や骨格筋障害に繋がり,サルコペニアやフレイルの併存に関わっている10

運動療法の効果とエビデンス(図2)

前述したような多様な病態を持つ呼吸器疾患患者に対して,健常者で確立された運動療法は有効なのであろうか?これに関してGlobal Strategy for Prevention, Diagnosis and Management of COPD(GOLD)2020のガイドラインでは,呼吸リハの有効性について表1のようにまとめている11.また,その他国内外のガイドライン,ステートメントでもその有用性について高いエビデンスがあることが示されている10,11,12,13,14.以下に関連する主な論文の概要を紹介する.

表1 呼吸リハビリテーションのエビデンス(文献11)より引用)
項 目エビデンス
レベル
呼吸リハビリテーション
・呼吸リハビリテーションは,症状を有する患者または(および)急性増悪のハイリスク患者,全てに対して推奨されるA
・安定期の患者において呼吸リハビリテーションは,呼吸困難,健康状態,運動耐容能を改善するA
・呼吸リハビリテーションは,急性増悪後の再入院を減少させるB
・呼吸リハビリテーションは,不安や抑うつ症状を減少させるA
・身体活動量は死亡率の強力な予測因子であるA
 ➢身体活動レベルの増加は奨励されるべきだが,達成のためのベストな方法はまだ明らかでない
患者教育とセルフマネジメント
・患者教育単独では効果的でないC
・医療従事者とのコミュニケーションを伴ったセルフマネジメントへの介入は,健康状態を改善し,入院や救急受診回数を減少させる.B
統合ケアプログラム
・統合ケアと遠隔医療の現時点での有用性は実証されていないB

1) 運動耐容能の改善

13論文(819症例)を解析したレビュー15では,リハビリテーション群で6分間歩行距離は平均62.4 m(95%信頼区間:38.5~86.3 m)の有意な改善を認めた(図3).COPDのminimal clinically important difference(MCID)が 25~33 m16であることを考えると,95%以上の患者が臨床的に意味のある改善を認めていることになり,大変効果的であることを示している.

図3

呼吸リハビリテーションの6分間歩行距離に対する効果(文献15)より引用)

2) 息切れの改善

42論文(2,150症例)を対象にしたレビュー17では,下肢の持久力訓練を含んだ呼吸リハの効果を息切れの指標毎に検証している.Medical Research Council(MRC)スコア(5論文,176症例),transitional dyspnea index(TDI)(5論文,187症例),運動中のBorgCR10(12論文,468症例),Chronic Respiratory Questionnaire(CRQ)の息切れスコア(13論文,836症例)のいずれも呼吸リハで有意な効果を認めている(図4).

図4

呼吸リハビリテーションの息切れ(MRC,TDI)に対する効果(文献17)より引用)

MRC: Medical Research Council

3) 健康関連QOLの改善

19論文を解析したレビュー18では,リハビリテーション群でCRQ(1,291症例),St. George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)(1,146症例)のいずれの項目も有意な改善を示している.また,サブ解析の中で運動療法のみの効果についても検討しており,運動療法を含む通常の治療と同等またはそれ以上の効果を認めている.つまり,リハビリテーションの効果の大部分は運動療法に寄与していることを示唆している(表2).

表2 呼吸リハビリテーションの健康関連QOL(SGRQ*)に対する効果(文献18)より改変引用)
指標グループ文献数症例数平均差
平均[95%信頼区間]
Total(総スコア)全体191,146-6.89[-9.26, -4.52]
運動療法のみ5230-7.87[-16.72, 0.98]
運動療法+その他14916-6.76[-9.19, -4.34]
症状(Symptom)全体191,153-5.09[-7.69, -2.49]
運動療法のみ5230-7.38[-12.33, -2.44]
運動療法+その他14923-4.38[-7.62, -1.15]
衝撃(Impact)全体191,149-7.23[-9.91, -4.55]
運動療法のみ5230-6.11[-12.60, 0.38]
運動療法+その他14919-7.61[-10.64, -4.57]
活動(Activity)全体191,148-6.08[-9.28, -2.88]
運動療法のみ5230-9.33[-21.66, 2.99]
運動療法+その他14918-5.79[-8.95, -2.64]

*SGRQ: St. George’s Respiratory Questionnaire

SGRQはマイナスの方がQOLが高いことを示している

4) 入院回数および期間の減少,生存率の改善

8論文を解析したレビュー15では,リハビリテーション群で,再入院の有意な低下を認めている.また,COPD患者1,515人を対象とした報告19では,リハビリテーションプログラムを完遂した823人と脱落した692人を比較し,完遂群の方が予後良好であったことを示している.更に,完遂した群の中で運動耐容能が改善(漸増シャトルウォーキングテストで 50 m以上)した者の方が予後が良かったことを示している.つまり,運動療法を中心としたリハビリは予後を改善し,運動耐容能の改善を認める場合はその恩恵を大きく受けることを示している.

5) その他

呼吸リハビリテーションが健康関連QOLを改善することには強い証拠があるとして,コクランレビューは今後アップデートしないとされている20.これは,呼吸リハビリテーションの有効性に十分な証拠があるにもかかわらず,実施する群としない群に分けること自体が困難になっていることも背景に存在している.呼吸リハビリテーションは,運動療法を中心としたプログラムで構成されていることから,運動療法の有効性について強い根拠があることを示している.

運動療法を行う上でリスクについて

運動療法は,身体に負荷をかけるため当然リスクを伴う.健常者でも高強度の運動では,心血管系を中心としたイベントを起こす可能性はあるため,事前のメディカルチェックを行った上で,安全に実施できるように運動強度や内容を決定し,運動中も強い息切れ,めまい,胸痛などの自覚症状やチアノーゼ,冷汗などの他覚症状に注意し,ケースによっては血圧や心電図等モニターすべきである2.呼吸器疾患患者では,これらのリスクは踏まえた上で,疾患特有のリスクである低酸素血症や強い息切れ,喘息発作や気胸などのリスクが高いことを意識する必要がある.更に,急性期では循環動態が不安定であることも多く,異化亢進,栄養状態が不良な場合などは運動によるエネルギー消費は痩せを助長し,積極的な運動療法が有効でない場合もある.

すなわち,呼吸器疾患患者では健常者よりも多くの点でリスク管理が必要であるが,リスク管理をする点では健常者と同じであり,疾患や患者特有のリスクを十分に把握したうえで運動療法を行えば,安全で効果的な治療となるものと考えられる.

結論

呼吸器疾患では,その病態から低酸素血症や換気不全,喘息発作など特有のリスクは存在する.そのリスクを適切にマネージメントした上で,各症例にあった運動療法を行うことで,息切れ,健康関連QOLや運動耐容能等の改善が得られることは多くの論文で証明されている.従って,呼吸器疾患患者に対する運動療法は,十分なエビデンスのある有効な治療法であり,強く推奨すべきである.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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