The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Pros and Cons
Pulmonary rehabilitation: exercise therapy from a Cons standpoint
Akira TamakiMio MotoyamaSusumu Sato
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2022 Volume 31 Issue 1 Pages 86-88

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要旨

呼吸リハビリテーションの中心は運動療法であり,その効果は多くの研究によって明らかにされており,COPD診断と治療のためのガイドラインにおいても非薬物療法の1つとして確立されている.しかし運動療法の実施にあたっては,適切な運動強度の設定,介入の時期と方法の吟味,適切な対象者の選定などが重要であり,実施前にこれらについて十分に検討しなければ,運動療法の効果が認められないばかりか,かえって逆効果(有害)となる可能性も否定はできない.したがって運動療法は有効な治療法であるが,慎重に実施すべきである.

緒言

1997年,American college of Chest Physician(ACCP)およびAmerican Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation(AACVPR)が合同で,慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, 以下,COPD)に対するPulmonary Rehabilitation Evidenced-Based Guidelines1を発表した.このSpecial reportでは,「下肢筋力トレーニングは運動耐容能を向上させるので,呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の一環として推奨される(Evidence A),呼吸リハは呼吸困難を改善させる(Evidence A)」などが示され1,運動療法の重要性が強調された.この報告をきっかけに世界中のCOPDに対する呼吸リハの中心は運動療法となり,本邦においても呼吸法指導や胸郭へのアプローチなどが中心であった呼吸リハから運動療法へとParadigm shiftしたことは言うまでもない.そしてその後の数多くの研究によって運動療法の有効性に関するエビデンスが明らかにされ,呼吸リハにおける運動療法の位置づけが確立されていることに疑いの余地はない.

しかしここではCOPD患者に対する運動療法に対し,あえてCon(慎重派)の立場からいくつかの疑問を提示し,運動療法のpitfallついて考えてみたい.

疑問点1.運動強度は高いほど生理学的効果が高いのは本当か?

一般的に運動療法の実施にあたっては,運動の頻度(Frequency),強度(Intensity),持続時間(Time),種類(Type)の,いわゆるFITTを明確にする必要がある.この中で特に強度については,呼吸リハビリテーションに関するステートメント2では高強度負荷の利点として,「同一運動刺激に対して高い運動能力の改善がみられ,生理学的効果は高い」とされている.また最近報告された多施設共同の20週間の入院による監視型呼吸リハの関するランダム化比較試験においても,最大酸素摂取量の70%以上による高強度の呼吸リハは中等症から重症のCOPD患者に対して効果的で,特に中等症患者ではより効果が高いと報告3している.しかしその一方で,高強度負荷による運動療法に対して否定的な結果を示す報告も散見される4,5,6.例えば重度COPD患者に対する高強度運動療法の効果に関する研究4では,運動療法として高強度群に対しては歩行練習における強度を予測最大酸素摂取量の95%に設定して可能な限り長時間実施し,他にも筋力および筋持久力トレーニング,自転車エルゴメーターやローイングエルゴメーター,そしてステップマシンを使った運動などを8週間のコースとして介入し,その後の経過を観察している.結果として,通常の運動強度での呼吸リハを行った群に比べ,高強度負荷による呼吸リハを行った群では,呼吸リハ終了後における増悪の頻度や死亡率が有意に高かった4.さらに最近報告されたCOPD患者に対する高強度運動が吸気および呼気筋への血液灌流に対する影響を検討した研究5では,COPD患者に対する高強度負荷の運動では心拍出量が2倍に増加したにも関わらず,横隔膜以外の呼吸筋灌流量が障害されていた.これは酸素利用率に大きな影響を与えるため運動中の呼吸困難の増強を引き起こす可能性を示唆する結果と言える.さらに最大仕事率の60%と80%の強度で週3回8週間の外来呼吸リハを実施したランダム化比較試験6において,両群とも運動耐容能,健康関連QoL,ADL能力の有意な改善が得られたが,両群間に差が認められなかった.したがって少なくとも最大仕事率の60%強度で有意なアウトカムの改善が認められ,これ以上の高強度にすることによる付加効果が認められないとしている6

以上のことから,生理学的に効果の高い高強度の運動療法は特に重症COPD患者に対しては深刻なリスクを高めることにつながるため,注意が必要であり,「高強度であればより効果が高くなる」とは言及できない.そのため運動強度の設定は各対象者に応じて個別に注意深く設定することが大切であり,そうしなければ運動療法の実施が逆効果となる.

疑問点2.COPD増悪後の運動療法は早期から開始すべきか?

COPDの増悪とは,息切れの増加,咳や痰の増加,胸部不快感・違和感の出現あるいは増強などを認め,安定期の治療の変更が必要となる状態であり,増悪は患者のQoLや呼吸機能を低下させ,生命予後を悪化させる7,8.さらに1回の増悪を経験することによって6分間歩行距離は 72 m(20%)低下し,これは呼吸機能や症状の回復に関わらず回復しにくい9とされる.また増悪による入院中に大腿四頭筋のピークトルクは1日の1%ずつ低下する10.このため,増悪による運動耐容能の低下を予防する観点で可及的早期から介入を開始することが重要であると認識されている.COPD増悪時の呼吸リハに関する効果については,健康関連QoLや運動耐容能を改善することや11,入院日数や再入院回数に関して,中等度のエビデンスレベルの減少効果があるとされるが,長期的な死亡率への効果は認められない12とされている.一方,COPD患者に対する増悪時の早期介入効果を検討した前向きコホート研究13では,COPD増悪で入院した389名をランダムに早期介入群(入院後48時間以内に介入)と通常ケア群に分け,入院中および退院後もそれぞれリハビリプログラムを実施し,12か月後までのアウトカムを比較している.その結果,フォロー期間中に60%が再入院をし,そのうち75%が呼吸器関連であったが,両群間に有意差は認められなかった.また再入院しなかった患者においては,早期介入群の方が身体機能や健康関連QoLは良好であった.しかし全体でフォロー期間中に21%が死亡し,12か月後の死亡率は,通常ケア群16%,早期介入群25%と有意に早期介入群の死亡率が高かったという結果13が示されている.したがってCOPD増悪後の早期運動介入は,身体機能の改善にはある程度の効果を認めるが,急性疾患に関しての漸増的運動療法は早期から開始すべきではないと考えられる.そのため今後は,増悪後の介入はいつからどのような介入が効果的であるかについて検討する必要がある.

疑問点3.呼吸困難が軽度のCOPD患者に対する運動療法の効果は認められるのか?

COPD診断と治療のためのガイドライン(第6版)7では,安定期COPD患者の重症度の応じた管理における非薬物療法として,呼吸リハは軽症から最重症までの全ての患者に推奨されている.一方,診療報酬における呼吸器リハビリテーション料を算定できる対象としては,「Medical Research Council(MRC)Scaleで2以上の呼吸困難を有する状態」(著者注)とされている.そのため「強い労作で息切れを感じる」COPD患者に対して呼吸リハの効果が認められるのかの疑問点が挙げられる.これらに関し,症状が軽度なCOPD患者に対する呼吸リハの効果(健康関連QoL,運動耐容能,死亡率,など)に関するシステマティックレビューおよびメタ解析の結果が報告14されている.これによると呼吸リハ前後において健康関連QoLの改善は認められるが18~24か月後には有意な改善がない,6分間歩行距離については改善が認められるものの臨床的に意味のある最小差(Minimally Clinically Important Difference: MCID)までの変化は認められない,死亡率に対する効果は認められない,大腿四頭筋力の有意な改善は認められないが,握力の改善は認められる,などと報告14されている.これらのことから,症状が軽度のCOPD患者に対する呼吸リハは,健康関連QoLを改善するものの効果は短期的であり,運動耐容能についても改善はするもののMCIDまでには至らない.そのため早期診断により軽症からCOPD患者に対する呼吸リハを実施する場合,より効果的なリハビリメニュー(運動強度や方法など)の工夫が必要であると考えられる.

著者注:このMRC息切れスケールは0から5までの6段階スケールで,2003年の呼吸リハビリテーションマニュアル(第1版)とCOPD診断と治療のガイドライン(第2版)の記述に準じているが,現在のmMRC(0から4までの5段階スケール)の1に該当する.

おわりに

COPD患者に対する運動療法が有効であることに疑いの余地はないが,対象者による効果の差異,運動強度によるリスクの有無,さらには増悪後の早期介入を始めるタイミングなど,今後更なる研究によって明らかにしていかなければならない課題は多い.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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