The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Pros and Cons
Current problems and future challenges in pulmonary rehabilitation for patients with interstitial lung disease
Masatoshi HanadaMasato OikawaHiroki NaguraRina TakeuchiYuji IshimatsuTakashi KidoHiroshi IshimotoNoriho SakamotoHiroshi MukaeRyo Kozu
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2022 Volume 31 Issue 1 Pages 93-98

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要旨

近年,間質性肺疾患に対する呼吸リハビリテーションに関する報告が集積され,診療ガイドラインにおいても弱いながら推奨されるレベルに位置付けられている.しかし,不均質な病態かつ,難治性疾患という本疾患の基本的特徴は呼吸リハビリテーションに様々な影響を及ぼし,COPDを対象として確立されたエビデンスの高いプログラムを適用できないことも少なくない.そのため今後,従来の呼吸リハビリテーションとは異なる疾患特異的な方法論の確立,さらには維持プログラムのあり方が重要な課題となる.

緒言

間質性肺疾患(interstitial lung disease;以下ILD)は,病理学的に肺胞隔壁を中心とする支持組織の炎症や線維化による病変を主座とする疾患の総称であり,画像所見にて両肺にびまん性の異常陰影を特徴とする1.また,ILDの病因は職業や環境因子,膠原病といった全身性疾患の併存,薬剤による弊害など原因が明らかなものと,不明のものがあり,多岐にわたる.鑑別が困難であり,総じて治療抵抗性で進行性の予後不良の疾患群である.ILDの中でも特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis;以下IPF)などの線維化を主体とした治療抵抗性,慢性進行性,予後不良な病態は,進行性線維化性間質性肺疾患(Progressive Fibrosing Interstitial Lung Disease;以下,PF-ILD)とも呼ばれ,特に対策が必要であり2,ILD患者の多くを占める.

ILD患者に対する呼吸リハビリテーション(以下;呼吸リハ)は,非薬物療法に位置づけられ,有効性を認める報告が集積されてきた.呼吸リハの主体は運動療法であり,呼吸困難,運動耐容能,不安や抑うつの改善および健康関連QOLの向上を目的とする.従来,呼吸リハはCOPDを主たる対象疾患として有効性が認められ,標準治療として位置づけが確立されている3.ILDにおいては,その効果が期待されているものの,2011年に公表された診療ガイドライン4において,呼吸リハの推奨レベルは「弱い」に留まっている.しかしながら,2014年に発表されたCochraneのシステマティックレビュー5では,呼吸リハプログラムによる運動耐容能,呼吸困難および健康関連QOLの短期的な改善が示され,概ね国際的なコンセンサスも得られている.

2018年には,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会より公表された「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」6において,ILDの主要な症状である呼吸困難や下肢筋力低下による活動制限に対して,呼吸リハはよい適応であることが明記された.しかし,呼吸リハの改善効果を示す報告の多くが軽症例であり,臨床現場では呼吸リハの実施や効果を制限する要因も少なくなく,こうした報告との「乖離」を実感することが少なくない.この「乖離」はILDの疾患特性,すなわちその多くが進行性疾患であること,また疾患の不均質(heterogeneity)が強く,患者選択基準や導入のタイミングが困難であるとともに,病期における呼吸リハの位置づけ,方針,目的が明確にされていないことにも起因する.また,呼吸困難といった自覚症状や運動時低酸素血症(exercise induced desaturation;以下EID)の強い重症例,および進行例に対する運動処方が困難であり,生理学的な効果が得られ難いことと,長期効果に関する成績が一定していない,運動療法に対するレスポンダーの特定が困難であることなども挙げられる.

以上の臨床的特徴を踏まえて本稿では,ILD患者における呼吸リハの,1)効果は十分であると言えるか,2)プログラム内容はCOPDと同様でよいか,3)長期効果は得られるのか,という臨床疑問について自験例に文献的考察を加えて論じる.これによって,ILD患者に対する呼吸リハの課題を明らかにし,今後の臨床や研究の展開への提言も試みたい.

ILD患者における呼吸リハの効果は十分か?

IPF患者に対する治療指針4において,呼吸リハは弱いながらも推奨され,呼吸困難や活動制限に対してよい適応であるとされている.Dowmanら5はシステマティックレビューにおいて,運動耐容能,呼吸困難および健康関連QOLの短期的な改善を示した(図1).しかし,これらの報告における推奨レベルは低く,背景に様々な問題を含んでいる.具体的には,根底にある問題として基礎疾患の不均質性および進行速度が異なることが考えられる7図2).特に短期間で急速に進行する症例においては,病勢に呼吸リハの生理学的な効果が追いつかないことも多々経験する.

図1

間質性肺疾患における呼吸リハビリテーションの効果(文献5より引用)

図2

特発性肺線維症における離床経過の違い(文献7より引用)

また,呼吸リハの有効性を示すレスポンダーの特定が困難であることも要因としてあげられる.Ryersonら8は,ILD患者に呼吸リハを施行し6分間歩行距離(six-minute walking distance;以下6MWD)が短い程,歩行距離の改善度が良好であったと報告している.しかし,Kozuら9やHollandら10は,歩行距離が短ければ改善度は少ないと相反する報告がなされている(図3).前者においては疾患の重症度と比較して,よりdeconditioningによる廃用性の要素が大きく関与していること,後者ではその逆,つまり重症例ほど疾患が進行しており呼吸リハの改善効果が乏しかったことが推察される.すなわち,EIDの強い重症例および進行例に対しては,適切な運動負荷による運動処方が困難であることを示唆する.また,基礎疾患が進行する本疾患群に置いては,診断後早期の介入が望ましいが,開始時期や重症度に応じた運動処方の頻度(frequency),強度(intensity),時間(time),種類(type)のいわゆるFITTについての疾患特異的方法論は不明確であることも関与している可能性が推測される.

図3

IPFにおける運動療法の改善度の違い(左:文献9より引用作図,右:文献8より引用)

さらに,COPDとILDでは呼吸困難を生じる機序が異なる.前者では労作時の気流制限に起因する動的肺過膨張が主な要因で,後者においては肺コンプライアンスの低下に伴う換気能力の低下,換気血流不均衡や拡散障害によるガス交換障害に起因する.このように異なる疾患に対して同様の呼吸リハプログラムを適応することで,運動療法の実施や継続が困難となることは想像に難くない.従来より疾患特異的なプログラムの必要性が提唱されているが11,この問題に関してはILD患者の呼吸リハの課題であるといえる.

以上より,ILD患者において,不均質性および進行速度が異なる基礎疾患の分類が困難であることに加え,呼吸リハの改善効果を示す報告の多くが軽症例であり,進行例においては十分な改善効果を示せていない.また,疾患特異的方法論が未だ不明確であることも踏まえると,ILD患者における呼吸リハの有効性を十分に示すまでには至っていないと考えられる.

呼吸リハの内容はCOPDと同様でよいか?

ILD患者における呼吸リハのプログラムは,COPDを対象とした方法論に準じている12.呼吸リハの中でも運動療法は,最もエビデンスが確立されているが,ILD患者においては,EIDを呈しやすく,肺高血圧症や続発性気胸の合併など,COPDとは異なり過剰な運動負荷による弊害も危惧しなければならない.これらを考慮すると,効果が期待できる十分な運動負荷量での運動療法施行が困難であることも少なくない.

また,呼吸機能および運動機能障害に加えて,ILD患者では薬物療法の効果や副作用によって呼吸リハの効果が左右されやすい.IPF患者に対しては抗線維化薬による治療が行われ,疾患進行抑制効果を示す多くのエビデンスがすでに積み上げられている.2019年に発表されたPF-ILDを対象に,抗線維化薬(ニンテダニブ)の有効性を検討したINBUILD試験12においても,呼吸機能低下を抑制する効果が認められた.また,慢性進行型の膠原病関連間質性肺炎に対しても,免疫抑制剤などによる炎症抑制を目的とした治療がなされていたが,強皮症に関連する膠原病関連間質性肺疾患においてはニンテダニブの有効性が示された13.今後も薬物治療の進歩により,疾患進行の抑制につながれば呼吸リハの効果が得られやすくなる可能性も期待できる.

IPFを除く他のILDに対しては,現在でも経口ステロイド剤の少量長期投与がなされている.その場合,同薬剤の副作用であるステロイドミオパチーや筋力低下をきたしている可能性も高く,活動制限や運動機能障害の要因として無視できない14.著者ら15は,ILD患者98例に対して,ステロイド剤が末梢骨格筋筋力に及ぼす影響について検討し,本剤の総投与量の増加および投与期間の長期化は有意な筋力低下をもたらすことを明らかにした.また,Kozuら16は,IPF患者における呼吸リハの改善効果を検討した結果,ステロイド剤が投与された患者群では非投与群と比較して下肢筋力の改善が得られなかったことを報告している(図4).末梢骨格筋機能障害は,軽度の労作で嫌気性代謝閾値が亢進,乳酸の過剰産生からアシドーシスをきたしてその緩衝の結果,過剰な換気亢進が生じることで容易に呼吸困難を助長する.これらの悪循環を断ち切るためにも筋機能を維持する必要があり,運動療法は重要である.しかし,ILD患者は前述の薬剤の副作用による影響に加え,EIDや乾性咳嗽,肺高血圧症などの問題を有しており,十分なトレーニング効果を得ることが困難な症例も少なくない.むしろ,これらの問題を抱えるILD患者は割合的に多い印象もある.ILD患者に対する運動療法,特に筋力トレーニングに際して,COPDと同様のトレーニング効果を得るためには,前述の疾患特有の弊害を考慮しながら,FITTにおいて強度よりも頻度や時間,種類などを考慮し,全体としての運動量確保に努めることが重要かもしれない.また,十分な酸素投与によるEIDの回避などの工夫も必要となる.肺高血圧を合併するような重症例においては,運動療法によるリスクが大きければ,ADLトレーニングや緩和ケアを意識したコンディショニングなどのプログラムの必要性が示唆される.

図4

ステロイド治療による骨格筋機能障害への影響(文献16より引用作図)

また,ILD患者においては,コンディショニングに含まれる呼吸筋トレーニング,呼吸練習に関するエビデンスも限られている.これまでの報告においても,本疾患群に対する呼吸リハのプログラムは,筋力トレーニングや有酸素運動を組み合わせた運動療法を主体とした検討内容であり,コンディショニング単独の有効性を検討することは困難である.これらを踏まえ,著者ら17はIPF患者において有酸素運動を中心とした運動療法単独プログラムと呼吸練習や吸気筋トレーニングを含むコンディショニング併用プログラムの効果について,メタアナリシスによって比較検討した.その結果,後者がより効果的であることを示した(図5).本解析の対象となった先行研究では,呼吸練習は腹式呼吸,口すぼめ呼吸など異なる方法が組まれていた.疾患特性により乾性咳嗽の誘発など呼吸練習や吸気筋トレーニングの導入が困難な場合もあるが,改善が見込める症例においては,積極的な導入を検討する必要があり,適応の見極めが重要となる.

図5

運動療法と呼吸筋トレーニングの併用効果(文献17より引用)

以上の事から,ILDの症状特性を踏まえ,病態の異なるCOPDと同様の負荷量によるプログラム適応は,重症度に関係なく困難なことがあるため,コンディショニングも含め病態や病勢に応じた最適なプログラムを組み合わせる必要がある.

呼吸リハの長期効果は得られるか?

現在までのILD患者に対する呼吸リハの長期効果を検討した報告はいくつかあるが,代表的なものとして,2012年にHollandら10は25例のIPFを含むILD患者44例において,8週間の呼吸リハプログラムを施行し6か月後までフォローした.その結果,8週後には改善を認めたが,6か月後までの持続効果は確認されなかった.また,45例のIPF患者を対象としたKozu16らの検討においても,呼吸リハの効果は6か月後には消失していた.しかしながらHollandら10は,IPFの軽症例においては運動耐容能の改善を認めており,診断後早期からのリハ開始が望ましいことを強調している.Dowmanら18も同様に,ILD患者142例(IPF患者61例,アスベスト肺疾患患者22例,膠原病関連間質性肺炎患者23例,その他の疾患36例)に対して,8週間の監視型トレーニング群とコントロール群によるランダム化比較試験を行い,6か月後の維持効果を検討している.その結果,軽症例にのみ効果の維持を認めた(図6).これらの報告は,呼吸リハ施行後に得られた短期効果を長期間にわたって維持することは困難であったが,軽症例であれば維持できる可能性もあるため積極的な呼吸リハの導入を考慮すべきとしている.

図6

間質性肺疾患における呼吸リハの長期効果(左図は文献10,右図は18より引用)

一方,長期にわたる維持効果を示す報告として,Perez-Bogerd19らは,ILD患者60例を6か月間の監視型での呼吸リハ施行群と通常ケアの対象群において無作為化比較試験を行い,運動耐容能および健康関連QOLの改善を認め,さらに1年後のフォローアップにて維持効果も認めていた.また,Vainshelboim20らは,34例のIPF患者を対象に,12週の介入効果を検討し,11か月後に下肢筋力および健康関連QOLの維持効果を認めている.これらの報告が前述の報告と異なる点は,従来の介入期間よりも長期間に渡って介入していることであり,介入期間の相違によって長期効果を左右する可能性も示唆される.

このように呼吸リハの長期効果に関しては,方法論の違いにより見解が異なっており,今後も検討の余地がある.また,これらの報告の多くは,維持プログラムの必要性について言及しており,呼吸リハを継続しなければ改善効果は減少に転じることが推測される.長期的な維持プログラムについても明確な根拠となるものは示されておらず,維持プログラムの方法論の確立が,今後の検討課題である.

まとめ

今回,ILDにおける呼吸リハの効果について,批判的に吟味し論じてみた.COPDと比較すると,依然ILDにおける呼吸リハの報告は少ない.現状では,同患者の臨床的特徴がCOPDと異なるため,短期効果については認められるものの,改善の程度としては大きくなく,長期効果に関してもまだまだ不明である.しかしながら,今後の抗線維化薬を含めた新しい治療戦略に合わせて,呼吸リハの継続した効果の検証は必要である.ILD患者の機能障害の改善,身体機能向上,症状軽減を目指し,病態や病勢に応じた呼吸リハの確立が望まれる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

神津 玲;講演料(帝人ヘルスケア)

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