The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Measures for dyspnea at the end of life
Takayuki Yoshizawa
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2023 Volume 31 Issue 2 Pages 162-165

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要旨

呼吸困難は呼吸器疾患の終末期に最も多く出現しその対応に最も苦慮する症状である.非がん性呼吸器疾患終末期の難治性呼吸困難に対する緩和ケアは基礎疾患に対する標準的治療が最大限おこなわれることが必須条件である.標準的治療が最大限おこなわれてもなお呼吸困難が持続・悪化するようなら症状緩和のための非薬物療法を上乗せする.非薬物療法による緩和ケアをおこなっても症状緩和が困難な場合には,薬物療法としてオピオイドや抗不安薬の使用が考慮される.

緒言

非がん性呼吸器疾患の終末期に最も多く出現しその対応に最も苦慮する症状が呼吸困難である.SUPPORT研究のサブ解析ではCOPD終末期患者の死亡前に最も高頻度に出現する症状が呼吸困難で約2/3の症例に認められた1

慢性呼吸器疾患の終末期に関する我が国での多施設アンケート調査では,終末期の診療に苦慮する疾患としてはCOPDが最も多く(81%),次いで間質性肺炎(69%),肺がん(63%)の順であった.COPD終末期の対応に苦慮する症状で最も多いのが呼吸困難(84%)であり肺がんよりも出現頻度が高いことが示された2.本セミナーでは非がん性呼吸器疾患終末期の呼吸困難に対する非薬物療法と薬物療法について解説する.

呼吸困難の定義と評価法

呼吸困難は「呼吸時の不快な感覚」と定義される主観的症状で,低酸素血症(PaO2<60 Torr)で定義される客観的病態の呼吸不全とは異なる.呼吸困難は痛みなどの感覚と同様に感覚受容器に入力された刺激が求心性神経路を経て大脳皮質の特定領域に伝えられ,呼吸困難という特異な感覚が発生すると考えられる.

呼吸困難の評価は主観的評価が主体で可能な限り患者自身による評価が基本となるが,現在まで妥当性と信頼性が十分に検証された評価尺度はない3.呼吸困難の主観的な量(程度,強度)を測定する単領域性の代表的尺度としてnumerical rating scale(NRS),visual analogue scale(VAS),修正Borgスケール,修正MRC(modified British Medical Research Council)息切れスケールなどがある.これらの尺度は簡便で同一対象内における呼吸困難の相対的な経時的推移を測定するのに適しているが,測定値が対象者の主観性に大きく左右されるため異なる群間での比較には限界がある4,5,6図1).

図1

呼吸困難の主観的・量的評価尺度

非がん性呼吸器疾患終末期の難治性呼吸困難への対応

非がん性呼吸器疾患終末期の難治性呼吸困難の緩和ケアにおいては,先ず基礎疾患に対する標準的治療が最大限おこなわれることが必須条件である.COPDではガイドラインに基づいた長時間および短時間作用型気管支拡張薬,吸入ステロイド,去痰薬,包括的呼吸リハビリテーション,酸素療法,非侵襲的陽圧換気 noninvasive positive pressure ventilation(NPPV)療法などがそれに当たる.標準的治療が最大限おこなわれても呼吸困難が持続・悪化するようなら症状緩和のための非薬物療法を上乗せする.これには高濃度酸素療法としてのリザーバーシステム(オキシマイザー,リザーバー付酸素マスク)や高流量鼻カニュラHigh flow nasal cannula(HFNC),NPPV,症状緩和を目的とした呼吸リハビリテーション,看護ケア,送風,心理療法,多専門職種による包括的緩和ケアなどが含まれる6,7.非薬物療法による緩和ケアをおこなっても症状緩和が困難な場合には,薬物療法としてオピオイド(モルヒネ,コデイン)や抗不安薬(ベンゾジアゼピン)の使用が考慮される8図2).

図2

COPD終末期の呼吸困難緩和ラダー

非薬物療法

1. 酸素療法9

酸素吸入は酸素投与器具により低流量システム,高流量システム,リザーバーシステムに分類される.低流量システムは患者の1回換気量以下の酸素ガスを供給する方式で不足分は鼻腔周囲の室内気を吸入する事で補う.鼻カニュラや簡易酸素マスクがこの方式となるが,鼻カニュラは鼻粘膜の刺激を避けるため酸素流量 6 L/分以下で使用し,簡易酸素マスクはマスク内の呼気ガスを再呼吸しないよう通常 5 L/分以上で使用する.高流量システムは患者に1回換気量以上の酸素ガスを供給する方式で患者の呼吸パターンに関係なく設定した濃度の酸素を吸入させる事ができる.ベンチュリマスクがこの方式だが,マスク密着が不十分だと期待した酸素濃度が得られないので注意が必要である.リザーバーシステムは呼気相の酸素をリザーバーバッグ内に貯めて,次の吸気相でバッグ内の酸素を追加供給する方式で,高濃度の酸素投与が必要な場合や酸素節約を目的に使用される.鼻カニュラを用いるオキシマイザーとリザーバー付酸素マスクがある.

2. 高流量鼻カニュラ酸素療法(High flow nasal cannula(HFNC)

加温加湿された最大 60 L/分までの酸素を広径の鼻カニュラで直接鼻腔内に投与する酸素療法.高濃度酸素投与が必要な場合,従来の高流量システムやリザーバーシステムに比べ快適性に優れ会話や食事も可能なため,急性増悪時や緩和ケアの場面で使用頻度が増えてきている.生理学的効果として,①死腔洗い出し効果により肺胞換気量の増大と二酸化炭素排出効果が期待できる,②軽度のPEEP効果(2~3 cmH2O)により呼吸仕事量の軽減が期待できる,③優れた加湿効果により線毛機能改善と気道クリアランス促進が期待できる,④正確な吸入酸素濃度と高濃度酸素の供給ができる,等が挙げられる.

3. 非侵襲的陽圧換気(NPPV)

挿管回避患者における人工呼吸や増悪時治療の上限として使用される頻度が増えている.I型呼吸不全に対してはPEEPやCPAPなどの陽圧モードを使用し,無気肺や換気血流比の改善により酸素化の改善を図る.II型呼吸不全に対してはbilevel PAPによる呼吸仕事量減少,換気能力改善,呼吸中枢反応性の改善が期待できる.終末期の難治性呼吸困難に対してNPPVを使用する際には目標設定(治療のゴール)を明確にしておくことが重要で,NPPVを使用しても改善が認められない場合には緩和ケアに切替えるなど,治療の変更を考え漫然と使用するべきではない.

4. 呼吸リハビリテーション

慢性呼吸器疾患の患者は息切れによる活動制限から身体活動性が低下し,体力の低下,栄養不良,体重減少,抑うつといった悪循環を招く.呼吸リハビリテーションは薬物療法に上乗せをすることで息切れを軽減し,安心して自信を持って日常生活を送れるようにすることでADLの向上やQOLの改善を目指すものである.呼吸リハビリテーションは安定期には運動耐容能と身体活動性の向上・維持を目指すが,終末期になると症状緩和が主体となる.

終末期の症状緩和を目的とした介入として,①リラクセーション(安楽な体位,徒手的呼吸介助,呼吸補助筋マッサージ,ストレッチ),②呼吸法(口すぼめ呼吸,腹式呼吸,ペーシング),③排痰法(咳嗽法,強制呼出手技/ハフィング,アクティブサイクル呼吸法,体位ドレナージ,軽打法,振動法,スクィージング,振動呼気陽圧療法)④ADL訓練(息切れしない動作の工夫,生活用品・居住環境整備)などがある.

5. 看護ケア

看護ケアでは呼吸困難をがん患者における全人的苦痛(Total Pain)と同様にTotal Dyspneaとして捉え,身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな側面に対する全人的ケアが求められる.看護師が関わるケアの内容は,①症状緩和(リラクセーション,環境整備,送風など)②セルフケア要件の充実(生理的欲求の充足,セルフケアの介助),③意思決定支援(ACP介入),④心理・社会的サポート,スピリチュアルケア(個別的ケア,全人的苦痛への介入),⑤家族ケアなど広範囲にわたる.

薬物療法

終末期の難治性呼吸困難に対する薬物療法の主役はモルヒネである.モルヒネはオピオイド受容体に作用し強力な鎮痛作用とともに,鎮咳作用や呼吸困難の軽減が期待できる薬剤である.呼吸困難緩和のメカニズムは十分解明されていないが,①呼吸ドライブを抑制し呼吸回数を減少させる,②中枢での呼吸困難の閾値を変化させる,③低酸素血症,高二酸化炭素血症に対する換気応答の低下,④不安感の軽減などが想定されている.注意すべき副作用として便秘,悪心/嘔吐,眠気があるが,便秘はほぼ必発で悪心/嘔吐は約半数に出現する.

COPDでは我が国および欧米のガイドラインにおいて終末期の難治性呼吸困難に対する薬物療法の第一選択薬はモルヒネの全身投与となっているが,間質性肺炎やその他の呼吸器疾患においてはほとんど検証されていない.ベンゾジアゼピンは用量依存性にCOPD患者の死亡リスクを増大させるが,オピオイドはモルヒネ換算で 30 mgまでの低用量であれば死亡リスクに影響しないことが報告されている10.COPD終末期患者に対するモルヒネ使用時の留意点として,①開始時期と対象患者について慎重に検討する:モルヒネ投与を検討する前にCOPDに対する標準治療が最大限おこなわれていることが必須条件となる.全てのCOPD患者にモルヒネが有効なわけではないため,効果が確認できなければ漫然と継続しない.②速効性モルヒネを低用量(1回 2.5~5 mg)から開始し1日用量 30 mgを超えない範囲で調節する:1日用量 30 mgを超えると死亡リスクが増大することが報告されている.③治療効果は継続的に評価する:numerical rating scale(NRS)やvisual analogue scale(VAS)を用いて評価し効果がなければ漫然と投与しない.④有害事象の観察を慎重におこない対処する(特に便秘と悪心/嘔吐):有害事象はQOLを低下させ,治療継続を困難にする.⑤難治性呼吸困難に対してのみ投与を考える:欧米ではモルヒネの適用外処方や濫用が問題となっている.モルヒネはCOPD患者の骨格筋の疲労・疼痛や不眠に対してのエビデンスはない.終末期の鎮静を目的に使用する薬剤でもない.

非がん性呼吸器疾患のモルヒネ使用に関する今後の課題として,①COPD患者に対する安全性と有効性はほぼ確認されているが実際の臨床指針がない:どのような患者に有効なのか?いつから開始するのか?長期使用時の安全性と有効性の検証もない.②間質性肺炎については検証が極めて少なく,未だコンセンサスは得られていない.③保険適用上,我が国で使用できるのは速放製剤のモルヒネ塩酸塩水和物のみで,欧米で使用されている徐放製剤については適用がない.

Dyspnea Crisis(呼吸困難危機)

米国胸部疾患学会(ATS)はDyspnea Crisis(呼吸困難危機)の概念をワークショップレポートとして提唱した11.Dyspnea Crisisは急性の呼吸困難発作で「進行した,しばしば終末期の疾患に認められる,患者やその家族では症状緩和が難しい,遷延した重症の安静時呼吸困難発作」と定義される.Dyspnea Crisisは心理的・社会的・霊的な過剰反応をきたし混乱状態を来すことにより生じる.在宅で起こることが多いため,その対処法をあらかじめ家族や介護者に教育しておくことが必要であり,今後日本でも検討すべき課題である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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