The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Skill-up Seminar
Nursing care for respiratory failure
Yoko Okata
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2023 Volume 31 Issue 2 Pages 176-178

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要旨

呼吸器疾患患者は呼吸機能が低下しており,急性増悪により重症化することがある.疾患の自己管理において重要なことは,疾患を患っているのは患者自身であり,患者自身が主体的に行動することにより,身体活動力を向上させ,急性増悪を予防することである.そのため,医療者は患者がセルフマネジメント能力を獲得するために,患者を全人的に捉え,個別性を重視した知識や技術を提供することが重要である.本セミナーでは,慢性呼吸不全患者のセルフマネジメントを引き出すための支援について概説した.

セルフマネジメント教育

教育とは,学習者の行動に価値ある変化をもたらすプロセスであり,学習者は学習によってより望ましい状態に変化する.そのより望ましい状態が学習目標となるはずである.セルフマネジメント教育の目的は,患者が疾患に対する理解を深め,維持期および増悪期におけるセルフマネジメント能力を獲得し,患者と医療者が共同で疾患に取り組む姿勢を向上させることである1

患者教育の基本

1. 教育の必要性とプロセス

医療者が患者とのパートナーシップを形成し,患者がセルフマネジメント能力を獲得するためには,患者にも一定程度の知識が必要である.しかし,慢性呼吸器疾患の治療や管理は図2に示すように多岐にわたり,さまざまな職種が連携し専門性やチーム医療の提供により,患者により良いケアを提供することができる.そのため,患者教育の対象者は,患者本人のみに留まらず,患者と関わりの多い患者家族や高齢者では,介護提供者,コミュニティーにも広める必要がある.また,呼吸器の専門職集団に限らず,非専門医,歯科医師,薬剤師,保健師,医療従事者,介護従事者など幅広く,今後の地域包括ケアシステムに根ざした環境に,正しい知識を普及させる必要がある.患者教育の過程は,アセスメント,行動目標の設定,計画,実施,評価というニーズ充足のためのプロセスがあり,単に教科書やパンフレットを説明したのみでは教育とは言えず,教育には必ず目的があり,達成できなければ無駄となる.教育することが目的ではなく,誰が・なにが,どう変わるのかが重要であることを肝に銘じておく必要がある.また,患者教育の目標設定に関する重要なアセスメントの視点として,1,生きがいや大切にしている思い 2,健康や疾患についての考え 3,家族もしくは社会の中での役割 4,日常生活における問題の自覚 5,疾患と上手く向き合いながら克服していこうとする前向きな姿勢や,今後どうありたいかといった患者の信条や価値観,が挙げられる.これらを中心に据え,セルフマネジメント支援のアプローチを決定する.

図1

患者教育のプロセス

図2

COPDにおける包括的患者教育(文献より一部改変)

2. 患者のアドヒアランスを高める支援

患者のセルフマネジメントを引き出すためにはアドヒアランスが重要である.アドヒアランスに影響する要因として,患者に関連する要因,治療に関連する要因,社会/環境に関する3つの要因がある.自己効力感(self-efficacy)は,患者の行動への理解において必要な認知的な概念である.Bandura3は人間の社会的行動について,外的刺激ではなく,それをどう受け止めるのかという認知が大きな役割を果たしていると考え,人間の行動を包括的に説明するための理論として社会的学習理論を提唱した.人間の行動を起こす(行動変容)には,「自分にはその行動をする力がある」という自己効力感を,成功体験,代理体験,言語的説得,生理的・感情的状態などの影響要因に働きかけて高めること,さらに「その行動をするとよい結果が生じる」という結果予期が必要になる.自己効力感の概念を用いた分析に適しているのは,「必要なのに行われない行動」である.医療者は患者の認知に目を向けて,患者が自分の行動を振り返り分析することを援助する.自己効力理論を活用して,慢性呼吸不全患者が希望する生活を継続するための療養支援について常に考え働きかけが重要である.特に呼吸器疾患患者は,自己効力感の中でも成功体験が重要とされている.例えば,慢性呼吸不全で呼吸困難が強い患者においては,息切れを軽減する呼吸法や労作方法を習得し,自ら息切れをコントロールすることが自己効力感を高め,病気や治療を自分自身でコントロールできるという自己コントロール感にもつながる.

3. 慢性呼吸器疾患患者のケアの焦点

慢性呼吸器疾患患者に対するケアでは,患者の価値観や信念など全人的に患者を捉えることが求められている.患者や家族がどのような支援を望んでいるのか,様々な切り口の療養指導を通して,信頼関係を築き,患者の人生に寄り添う努力をしていく必要がある.また,患者教育というと指導に注視しがちであるが,患者の自律を促進するために,わたしたちが存在することを忘れてはならない.患者にとって信頼関係が確立された医療者は,そこにいてくれる人がいるだけで,変われる存在であり,傾聴も重要なケアの一つである.全てのケアを通して(図3),健康回復やQOLの維持に貢献する責務が医療者には求められる.患者教育や傾聴など患者と関わる全ての場面で,自己決定を促す支援を継続していく必要性をあらためて認識しておく.また,生に寄り添うには,関わる医療者が人生観・死生観を自分自身に常に問いかけることが重要と考える.

図3

「呼吸器疾患をもつ患者への生」への支援

4. セルフマネジメント支援の実際

COPDでは病状の進行により,呼吸困難の症状が出現する.呼吸困難は不安やパニックを引き起こし,死を連想させ,活動性の低下やうつなど生きる意味や目的への問題をもたらすと考えられている4ほか,在宅酸素療法(HOT)や非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)など医療依存度も高くなる.そのため,医療者は病気の行路を予測し,常に患者や家族とコミュニケーションをとりながら生活に合った教育内容であること,また他職種とも連携しながら行っていくことが大切である.セルフマネジメント支援では,日々の体調を可視化し,患者に関わる職種で共有することが,増悪の早期発見し迅速な治療へ繋ぐことができる.可視化の代表的なものは,療養日誌や各評価スケール,アクションプラン等があるが,これらを活用することで,患者や家族が増悪の変化に早期に気づき対応できる力を高めていくことが出来る.

当院では,HOTやNPPV導入時に病棟看護師が個別に生活指導,教育支援を行っている.しかし,昨今,入院日数の短縮により限られた短い入院期間の中で,療養指導を完結するのは困難な状況にある.そこで,病院ではHOT,NPPV導入患者に対して,退院前訪問指導料,退院後訪問指導料を活用して,患者が生活を営む場で,療養支援をおこなっている.HOTやNPPV導入時は,患者は漠然とした不安が強く,患者自身で具体的な問題の明確化まで,整理し解決できないことも多いが,在宅等の生活の場で,問題に対してタイムリーに直接的介入が可能である.このことは,患者のセルフマネジメント支援のみならず,安全・安心の医療を提供する大切な機会である.また,病棟に退院前訪問,退院後訪問指導の結果をフィードバックすることで,病棟看護師が,在宅生活を意識した患者教育や外来や地域との連携の重要を理解する機会となっていると考えられる.

おわりに

慢性呼吸不全患者は,長い療養の中で生活の変化を余儀なくされることも多い.医療者はその変化,患者の希望する生活や病気の体験を理解し,患者がセルフマネジメントできるよう共に考えるパートナーシップが重要であると考える.また,セルフマネジメント支援においては,学習理論などを活用し,患者が希望する療養生活を継続できるよう支援していくことが必要である.支援において医療者は患者を中心に据え,点ではなく,面でとらえたより強固なセルフマネジメント支援の提供が求められる.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
  • 1)  日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会日本リハビリテーション医学会,日本理学療法士協会:呼吸リハビリテーションマニュアル—患者教育の考え方と実践—,照林社,東京,2007.
  • 2)  日本呼吸器学会編:COPD診断と治療のためのガイドライン第5版,メディカルビュー社,大阪,2015.
  • 3)   Bandura  A: Self-efficacy: toward a unifying theory of behavioral change. Psychol Rev 84: 191-215, 1977.
  • 4)  安酸史子:ナーシング・グラフィカ成人看護学 ③セルフマネジメント 第3版,メディカ出版,大阪,2021.
 
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