The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Multidisciplinary and multi-professional case conference
Multidisciplinary support of patients with COPD through the life
Yukako ArakawaTetsuya Oguma
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2023 Volume 31 Issue 2 Pages 191-196

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要旨

慢性疾患である慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者は,人生の歩みとともに,疾患の進行や加齢により徐々に呼吸機能や身体機能が低下し,呼吸困難が悪化していく.その長い経過において,できるだけ早期から終末期まで生涯にわたり最適な呼吸ケアを,多職種によるチーム医療で,また地域医療連携で支援することが望まれる.第31回日本呼吸ケア・リハビリテーション学会学術集会における「多職種による症例検討会2」では,5年,10年単位の各病期におけるCOPD患者と医療チームの向き合い方を,多職種で討議した.職種や関わる時期,療養場所(病院やクリニック,在宅)により考え方や見方,必要な情報の違いを知る良き機会となった.

緒言

日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の特徴は,病院,診療所,訪問看護ステーションや施設等様々な場で呼吸ケアに取り組んでいる多職種が集うことである.そこで,第31回の学術集会において,初の試みとなる「多職種による症例検討会」を企画した.本学術集会のテーマ「地域とチームで支える呼吸ケア」に沿い,症例検討会のテーマを「多職種で取り組むCOPDの人生」とし,一人のCOPD患者の人生を縦軸とし,病状の進行や療養環境の変化で発生する諸問題を横軸として討議した.当日の2時間の検討内容を,紙面の都合で概要になるが紹介する.

対象と方法

【目的】慢性疾患であるCOPDの患者は,人生の歩みとともに,疾患の進行や加齢により徐々に全身機能(身体的・精神的機能,QOL)が低下し,終末期に向かっていく.その長い経過のさまざまな時点でそれぞれの職種が可能な支援を明らかにし,検討することでどのようにチーム医療,さらに地域医療に発展させ継続することが出来るかを模索する.

【進行方法】まずCOPDの模擬症例を提示し,その経過を経過1:急性期・在宅酸素療法(HOT)導入期(図1),経過2:不安定期(図2),経過3:下降期(~終末期に向けて)(図3)の3期に分けて検討し,最後に全経過を通じて検討を行った.

図1

経過1 急性期,HOT導入の経過と検討項目

図2

経過2 不安定期の経過と検討項目

図3

経過3 下降期(~終末期に向けて)の経過と検討項目

【模擬症例の概要】70歳男性,無職(元警備員),独居(妻と死別),body mass index(BMI)17(60歳時より 10 Kgの体重減少),60歳まで20本/日×30年の喫煙歴あり,その後禁煙と再喫煙を繰り返したが,64歳で完全に禁煙した.検診で肺気腫を指摘され,階段で息切れを自覚していたが放置していた.60歳時にCOPDIII期の診断で長時間作用性β2刺激薬(LABA)/長時間作用性抗コリン薬(LAMA)配合薬の吸入を開始し,HOTも導入となった.64歳時に呼吸困難が増強し,HOTの酸素流量が増加した.70歳時にはCOPDの進行と加齢により要介護状態となった.

結果

【経過1の検討】初めてCOPDと言われ,労作時HOT導入となり,「COPDなんて聞いたことない,治らないの?タバコは止められない,吸入薬や酸素は苦しい時だけでいい,酸素なんかして仕事できない,費用もかかるし」という思いの患者に対して,「COPDの病気と治療の理解」「HOTの理解と受容」に対する支援を検討した(図1).

病気の説明,禁煙支援,吸入支援,HOT導入支援等において,まず主治医,看護師,薬剤師,理学療法士,臨床工学技士,ソーシャルワーカー,HOT業者より,各職種が関われることを発表した.重複する内容であっても,各職種のそれぞれの視点から繰り返し支援すること,それぞれが得られた情報(患者の思いや生活環境も含む)を共有してつなぐことの重要性が浮き彫りになった.

病院ではHOT導入パスを用いた多職種による支援が可能である.しかし,多職種が揃わないクリニックでHOT導入する場合は,基本的には病院へ紹介しているが,終末期や緊急時にはクリニックで導入している.これらの実態と課題についても検討した.患者にとって医療費負担の問題は大きく,病院ではソーシャルワーカーが身体障害者手帳,健康保険限度額適用認定,就労等の支援を行えるが,ソーシャルワーカーのいないクリニックでは相談窓口がないという問題が挙がった.病診連携により病院のソーシャルワーカーに相談できる点にも病診連携のメリットが確認された.

退院後のかかりつけ医との連携については,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院の地域連携パスを用いた医療連携の紹介があった1.安定期はかかりつけ医に定期通院しながら,年1回専門病院で諸検査,専門医の診察,リハビリ,栄養相談を受ける.さらに病状や合併症の評価,治療の見直し,患者教育がされ,また増悪時には専門病院に救急受診が可能なシステムとなっていた.

また,退院時の情報提供で,かかりつけ医が本当に必要としているのは,入院中の治療内容より,患者の自宅での生活状況(動作,食事,排泄等)であり,退院前カンファレンスの重要性についても言及された.

【経過2の検討】呼吸困難の増強過程において,「息苦しい時が増えて,仕事ができなくなるのが不安」「肺の病気でリハビリが必要なの?」という思いの患者の「呼吸困難に対するセルフマネジメント支援」を検討した(図2).

まず呼吸困難を増強させている原因をアセスメントして介入していくために,「非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021」2の「呼吸困難を持続・悪化させる3つの悪循環」を引用して,そのアプローチを検討した(図4).特に今回は,身体活動性低下や体重減少により筋肉低下をきたす「機能の悪循環」を断ち切るため,リハビリテーションや栄養面へ,早期より継続して介入することの重要性とそれが難しい現状が討議された.

図4

呼吸困難を持続・悪化させる3つの悪循環とその対処法

本邦における呼吸リハビリテーションは,「呼吸リハビリテーションに関するステートメント」3より「呼吸器リハビリテーションとは呼吸器に関連した病気をもつ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するための,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である.」と定義されており,運動療法,コンディショニング,ADLトレーニング,セルフマネジメント教育,栄養療法,心理社会学的サポート,導入前後および維持期(生活期)の定期的な評価から構成される.理学療法士だけでなく,多職種で協働して早期より開始し,生涯にわたり継続して実施されるべきである.しかし,外来呼吸リハビリテーションが可能な施設は非常に少ない.その理由として,呼吸器リハビリテーションの診療報酬の低さや,施設基準を満たす場所と人員の確保が難しいことが挙げられた.

また,訪問リハビリテーションや訪問看護を利用する場合,医療保険と介護保険の違いも話題となった.医療保険と介護保険の併用はできず,介護保険の利用が優先されること,介護保険を利用する場合,要支援・要介護度により支給限度額が異なり,その範囲内での自己負担額は1-3割だが,限度額を超えた分は全額自己負担となること等を初めて知った参加者も多かった.慢性呼吸器疾患患者の介護認定度は低いため,その範囲内では希望したサービスが受けられないこともあり,介護保険を申請せず,あるいはいったん返納して,医療保険でのサービスを検討する方が良い場合もある.しかし,介護保険を利用する場合はケアマネージャーが司令塔になるが,医療保険を利用する場合は司令塔がいない.なぜなら,病院であればソーシャルワーカーが司令塔になれるが,退院後ではかかりつけ医にはソーシャルワーカーがいない.またケアマネージャーの慢性呼吸器疾患に対する理解度により,差が出る現状も明らかにされた.

【経過3の検討】終末期へ向けてさらに呼吸困難が増強し,「動くと苦しいから動かない,食欲ないし,食事の用意も食べるのも苦しい.でも人の世話にはなりたくない.」という思いの患者に対する支援を検討した(図3).

今後,通院困難のため介護が必要となり,在宅への移行も検討されるであろう患者に対して,地域医療との連携のあり方(図5)が課題となる.訪問診療医,訪問看護師,訪問理学療法士,訪問薬剤師,訪問介護士,ケアマネージャー等地域での多職種医療連携を可能にするためには,誰がキーパーソンとなり,どのように情報共有するのかを討議した.それぞれがキーパーソンとして関わるつもりでやっていると自然につながってチームができるのが理想であろう.実際はケアマネージャーや訪問看護師がキーパーソンとなり,各職種に声をかけてチームが作られることが多く,ここでもケアマネージャーの慢性呼吸器疾患に対する理解度により差が出ることが問題とされた.

図5

チーム医療,地域連携

ソーシャルワーカーや栄養士等,地域にいない職種は,病院との連携が重要であり,必要な時に相談できる関係性を築いておくことが望まれた.栄養士は,栄養士会から派遣契約や,電話相談が可能な場合もある.

訪問看護師より訪問看護の開始時期について,終末期になってからというイメージが主治医にも患者にもあるようだが,早期の介入を検討してほしいという要望も出された.地域によっては退院時に病院が訪問看護を導入するのが当たり前の所もあり,早期から地域医療との橋渡しになっていた.

【全体を通じての検討結果】COPDの長い経過において望ましい「地域とチームで支える呼吸ケア」のあり方について,患者を最も苦しめる呼吸困難に向き合うこと,早期から呼吸リハビリテーションを導入し,生涯にわたり継続すること,それが包括的な緩和ケアにもつながることが共有できた.今回は時間の関係でadvance care planningについては議論できなかったが,ACPをさまざまな時期に多職種で繰り返し行い,患者の思いを共有することも望まれた.

最後に「地域包括ケアシステム」について,ソーシャルワーカーより「植木鉢図」4図6)の解説をしていただいた.厚生労働省は,重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう,住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を,市町村の中学校区単位で推進している.「本人の選択と本人・家族の心構え」が最も重要で,「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・福祉」は資源だということを学んだ.

図6

地域包括ケアシステム

考察

多職種によるチーム医療を終末期まで継続するための地域医療連携体制は,必要とされながらも,実際には現状では不十分である.まず各施設や各地域で,どうすれば可能になるのか模索するところから始めなければならない.今回の多職種による症例検討会は,各職種での立場や医療・介護の制度など新しい知見が豊富にあり,問題点の抽出と解決のヒントを得る良い機会になった.

最後に,本企画にご支援いただいたKKR高松病院呼吸ケアサポートチーム,NPO法人吸入療法のステップアップをめざす会の皆様,原田さをり様(大正通りクリニック),井本久紀様(霧が丘つだ病院),吉成哲也様(フクダライフテック四国株式会社),そしてご参加いただいた皆様に深謝する.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

文献
 
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