The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
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Case Reports
Experience with HFNC in patients with severe COPD presenting with impaired airway clearance
Arata Tada Tomoko OkujoShinjiro MiyazakiHiroyuki Nakamura
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2023 Volume 31 Issue 2 Pages 264-267

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要旨

下気道感染症により喀痰喀出不良を生じ,頻回に慢性閉塞性肺疾患(COPD)増悪を繰り返していた重症COPD患者に対し気道クリアランスの改善を目的に呼吸リハビリテーションを実施したが,脱水や混合性換気障害等から排痰に難渋した.入院中,肺炎の再発を認めたため気道クリアランス改善が必要と考え高流量鼻カニュラ(HFNC)を導入した.導入3日目には良好な排痰が得られ,最終評価では喀痰の性状が膿性痰から漿液性痰へ変化し,排痰回数の減少も認め,COPD assessment testの喀痰項目は5点から2点へ,総得点は20点から17点へと改善した.加温・加湿効果に加え,死腔換気ガスのウォッシュアウトや軽度のPEEP効果による換気補助効果も作用し気道クリアランスの改善が得られたと考える.一方でHFNC使用中の問題点である活動範囲の制限により運動機能の低下を認めた.HFNCを使用する場合は,運動機能やADL低下の予防にも着目し介入することが重要であると考えられた.

緒言

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は喫煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じる肺の炎症性疾患である1.このうち気道病変が有意な慢性気管支炎型では慢性的な喀痰増加が特徴であり,喀痰喀出困難を呈する症例が多く,また喀痰の多いタイプでは増悪が起こりやすいとされている2.COPDにおいては気流閉塞の改善とともに,気道分泌の管理が予後の改善につながると考えられており2,気道分泌物の排除には粘液線毛運動の働きが重要とされている3.粘液線毛運動は,吸入ガスを37度かつ相対湿度100%に保つことでその機能が維持する4とされており,分泌物の排除において加温・加湿は極めて重要な要素である.

高流量鼻カニュラ(high flow nasal cannula; HFNC)は,死腔換気ガスのウォッシュアウトや上気道抵抗の軽減,軽度のPEEP効果,粘液線毛機能の維持など様々な生理学的効果がある5が,中でも加温・加湿効果は特に優れているとされている6

今回,下気道感染症による喀痰喀出不良により繰り返すCOPDの増悪に対し,HFNCを導入したことで喀痰喀出が容易となった症例を経験したので報告する.

症例

年齢:84歳,性別:男性.

身長:163 cm,体重:46.8 kg,BMI: 17.6 kg/m2

基礎疾患:COPD,慢性下気道感染症,気管支喘息.

重症度:GOLD StageIV(%1秒量30.3%,%肺活量48.9%),Group D.

在宅酸素療法(home oxygen therapy; HOT):安静時0.5 L/分,労作時2.5 L/分.

入院前ADL:Barthel Index 90点.

診断名:肺炎によるCOPD増悪.

現病歴:初回入院は3年前,肺炎を契機としたCOPD増悪にて入院となり,退院時にHOTが導入された.その後は,1回/年の頻度でCOPD増悪による入院を繰り返していた.今回も4日前から労作時呼吸困難が悪化し,診察時に採取した喀痰からは,肺炎桿菌,インフルエンザ桿菌,セラチアなど多種類の菌が検出され,同日肺炎によるCOPD増悪と診断され入院となった.入院時の動脈血ガス分析は,nasal cannula(NC)0.5 L/分にてpH 7.43,PaCO2 49.0 Torr,PaO2 59 Torr,HCO3 27.3 mEq/Lであった.本症例は,2ヵ月前にも同様の原因で入院していた.

本報告は,個人情報保護に十分留意し患者本人及び家族に書面と口頭にて十分に説明を行い,同意を得た.

【臨床経過】

本症例の経過を図1に示す.1病日より抗菌薬,ステロイド剤,プロカテロール塩酸塩水和剤によるネブライザー療法が開始され,2病日より呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)が開始された.初期評価時の安静時の身体所見は,NC 2.5 L/分にてSpO295%,呼吸回数24回/分,修正Borg Scale 3,喀痰の性状は緑色膿性痰,上部胸郭にラトリングを認め,肺音ではWheezesが聴取された.さらに口腔内乾燥やツルゴール低下などの脱水所見も認められた.理学療法評価では,握力22.4 kg,short physical performance buttery 7点,6分間歩行距離(6 minute walk distance; 6MWD)192 mと運動機能の低下を認め,COPD assessment test(CAT)20点,喀痰項目5点と生活の質(quality of life; QOL)も低値を示した.喀痰喀出と呼吸困難が主な症状であったため,呼吸リハは,気道クリアランスの改善を目的とした体位排痰法とアクティブサイクル呼吸法(active cycle breathing technique; ACBT)による排痰練習(図2)を中心に進め,呼吸状態に合わせてADLトレーニングや運動療法を実施した.また,低栄養を認めていたため栄養療法として,運動後に栄養補助食品の追加摂取を行った.ACBTの手技に問題はなかったが,良好な排痰が得られず難渋したため,9病日より呼吸リハの時間帯をネブライザー療法後に調整した.プロカテロール塩酸塩水和剤によるネブライザー療法後にACBTを行うことで比較的良好な排痰が得られたが,呼吸リハ中の一時的なものであった.13病日に肺炎が再発し,抗菌薬とステロイド剤が再開された.入院中一貫して粘性度の高い喀痰の喀出に難渋していたため,多職種カンファレンスにてHFNCの使用について検討し,20病日よりHFNCが開始となった.使用機器はAIRVO 2(Fiser & Paykel社),設定は温度:37度,Flow: 50 L/min,FiO2: 0.3とした.HFNC開始後の呼吸リハは,HFNC装着下にて排痰練習とベッドサイドでの起立運動やエルゴメーターを実施した.23病日(HFNC導入3日目)には,中等量以上の緑色膿性痰が1日3回程度から10回程度へ増加し,良好な排痰が得られた.29病日には喀痰の性状が黄色漿液性痰へ変化し,排痰回数が1日4回程度へ減少したため,30病日より装着時間を夜間のみへ変更した.また,この時期より歩行練習も再開となった.50病日の最終評価では,CAT 17点,喀痰項目2点,PaCO2 46.7 Torrへと改善したが,必要酸素量は安静時 3 L/分,労作時 4 L/分へ増量し,6MWDは 100 mへ減少した.56病日に自宅退院となった.

図1

臨床経過

NC: nasal cannula, HFNC: High flow nasal cannula, CTRX: Ceftriaxone, ABPC: Ampicillin, SBT: Sulbactam, PSL: Prednisolone

図2

気道クリアランス改善を目的とした排痰練習

考察

本症例の問題点として挙げた喀痰喀出不良は,①脱水や長期間の酸素投与による気道乾燥により粘液線毛機能が低下していたこと,②換気障害により喀痰の移動が困難となっていたことの2つを主な要因として考えた.

①の考察として,気道の粘液線毛輸送系は呼吸器系の防御機構において重要な役割を果たしており,その機能不全は細菌の定着や繰り返す気道感染を引き起こすと報告されている7.また,乾燥ガスの吸入が気道上皮機能の低下と炎症細胞の増加をもたらすこと8や冷気が気管支収縮を誘発する9ことなどからNishimura10は,加温・加湿はCOPDなどの分泌障害のある患者にとって特に重要であると報告している.実際に,体温に近い温度に加温され,相対湿度100%に加湿された空気の長期間の吸入は,気道の粘液線毛機能の改善11やCOPDおよび気管支拡張症患者の増悪頻度の減少,QOL,肺機能改善12などの効果が示されている.これらの先行研究からHFNCによる長期間の加温・加湿は,本症例の気道クリアランス改善の一助となった可能性が示唆された.

次に②の考察として,宮川ら3は,傷害された気道クリアランスの改善には末梢気道と中枢気道の痰の移動が重要であり,これには換気が大きく関与するとしている.COPD患者に対するHFNCの使用は,死腔換気ガスのウォッシュアウト効果による一回換気量の増大,呼吸数,分時換気量の減少,PaCO2の低下を認める13.またCortegianiら14は,HFNCは6時間後のPaCO2低下がNPPVと比較して非劣性であったと報告するなどCOPD患者においてはNPPVに近い換気補助効果が認められている.本症例においてもPaCO2の改善を認めていることから,これらの換気補助効果についても気道クリアランス改善の一助となった可能性が示唆された.

HFNC使用により気道クリアランスは改善され,QOL向上に寄与したと考えられた.一方でHFNC使用中は医療ガス配管等の問題で活動範囲が制限される欠点があり,運動機能低下を助長する要因となった可能性も考えられる.HFNCを使用する際は,上記のような問題も考慮してリハビリテーションを検討することが重要である.

著者のCOI(conflicts of interest)開示

本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.

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