2023 Volume 31 Issue 3 Pages 364-367
症例は42歳男性,重症間質性肺炎にて肺移植待機中.%VC 12.8%,気管切開にて日中は酸素 2 L/分,夜間は人工呼吸器使用.まず,ADL動作獲得を達成するため,持続的な運動負荷を可能とするデバイスを検討した(検討①).定常運動負荷試験にて,酸素 2 L/分,6 L/分および吸入酸素濃度44%での人工呼吸器によるCPAP,PSVおよび気管切開下高流量酸素療法を比較した.次に,最も運動持続時間が長いデバイスを用いて,有効性が得られにくいとされている重症患者に4週間,計20回の運動療法を実施して効果を検討した(検討②).検討①では,運動持続時間は 2 L/分が負荷前に終了,6 L/分 4分15秒,CPAP 1分40秒,PSV 2分15秒であったが,気管切開下高流量酸素療法では30分以上であった.検討②では,気管切開下高流量酸素療法を用いた運動療法により運動持続時間・筋力・QOLの改善が得られた.
間質性肺炎(interstitial pneumonia: IP)患者に対する呼吸リハビリテーション(pulmonary rehabilitation: PR)は生活の質(quality of life: QOL)や運動耐容能の改善に有効である1).重症のIP患者では労作時の呼吸困難や運動誘発性低酸素血症のため,運動の持続が難しい場合があり,酸素療法や人工呼吸器を用いる方法が検討される.
IP患者に対して非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation: NPPV)の比例補助換気モードを用いた報告2)では,換気補助がない場合と比較して運動持続時間の延長が報告されている.また,COPD患者において,continuous positive airway pressure(CPAP)やpressure support ventilation(PSV)による非侵襲的な換気補助は,運動持続時間や歩行距離,労作時の呼吸困難を改善することが示されている3,4).
High flow nasal cannula oxygen therapy(HFNCOT)を用いた運動持続時間の延長はCOPDで効果が示され5),近年IP患者においても効果が示された6,7).SuzukiらはIP患者を対象にHFNCOTを用いる事で,多くの患者においてベンチュリマスクと同様に運動持続時間が延長することを報告した6).また,HaradaらはHFNCOTの方がベンチュリマスクより運動持続時間が延長することを報告した7).一方,これらの報告は鼻カニュラを用いた報告であり,気管切開患者における気管切開下高流量酸素療法の運動時の検討はされていない.
今回,気管切開下で肺移植待機中にADL動作獲得を達成するため,換気補助デバイス使用下での運動療法を行うこととなったIP症例を報告する.本症例は夜間人工呼吸器を装着していたが,覚醒時に同調が悪く頻呼吸になることがあり,持続的な運動負荷を可能とする換気補助デバイスを検討した.
まず運動持続時間をアウトカムとして,酸素投与,人工呼吸器および気管切開下高流量酸素療法を比較した(検討①).次に,検討①で最も運動持続時間が長い換気補助デバイスを用いた持久力トレーニングを含む運動療法を4週間,計20回実施して効果を検討した(検討②).
患者:42歳,男性.
診断名:分類不能型IP.
病歴:X-3年より咳嗽や労作時呼吸困難が出現し,X-2年に当院へ紹介受診.X-1年に肺活量 0.72 L(19.2%),性別,年齢,呼吸機能から算出した予後関連指標のGAPスコア6点であり,長期酸素療法の導入および脳死肺移植希望者として登録された.
現病歴および経過:X年Y月高二酸化炭素血症(PH 7.340,PCO2 78.8 mmHg,PO2 67.9 mmHg(鼻カニュラ 2 L/min))が悪化しNPPV導入目的にて入院.NPPVは忍容性が得られず,入院16日目気管挿管人工呼吸器管理へ移行し24日目に気管切開が行われた.離床やコンディショニング,四肢筋力トレーニング,動作指導などの理学療法によりベッド周囲の移動は可能となった.
入院7週目,呼吸管理は日中は気管切開チューブを介して酸素 2 L/分が投与され,夜間は人工呼吸器装着(SIMV+PS,呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure: PEEP)5 cmH2O,PCV 20 cmH2O,PS 20 cmH2O,酸素吸入濃度(fraction of inspiratory oxygen: FIO2)30%)であった.人工呼吸器装着下では覚醒時に非同調による頻呼吸が時々あったが,全身状態は安定していた.肺活量は 0.48 L(12.8%),画像所見では著明な肺容量の減少と気管支分布に沿うすりガラス様陰影,索状影,牽引性気管支拡張がみられた.血液ガス分析では,酸素投与 1.5 L/min投与でPaO2 70.4 mmHg,PaCO2 60.2 mmHg.栄養指標は,体重 44.0 kg,BMI 16.9 kg/m2,筋肉量 33.5 kg,アルブミン 3.5 g/dL,総タンパク 7.1 g/dl.右心カテーテルでは,平均肺動脈圧が 22 mmHgと上昇を認めた.安静時から呼吸数は20回/分台後半で呼吸様式は腹式優位,呼吸補助筋を使用し,吸気時胸骨上窩陥凹を有していた.ADLは長崎大学呼吸日常生活活動息切れスケール8点.病棟トイレまで自身で歩きたいという希望があり,さらなるADL動作獲得,運動耐容能の向上を目的にPRの導入となった.
【倫理的配慮】本報告に際して,公立陶生病院医の倫理委員会の承認を得て,患者本人に説明を行い,書面にて同意を得た.
【検討① 方法】気管切開下高流量酸素療法の運動持続時間に対する影響を酸素投与および人工呼吸器と比較した.運動負荷試験は定常運動負荷試験を用い,負荷強度は予め実施した漸増運動負荷試験で得られた80%最大負荷量である 10 Wattで,回転数を60回/分とした.負荷プロトコールは2分間 0 Wでwarming up後,10 Watt負荷を症候限界まで実施し,運動持続時間を測定した.運動持続時間は最大30分とした.
比較条件は,酸素 2 L/分,6 L/分,人工呼吸器下でのCPAP(PEEP 5 cmH2O),PSV(PEEP 5 cmH2O,PS 20 cmH2O),気管切開下高流量酸素療法(Flow 60 L/分)とした.なお,FIO2は酸素流量が鼻カニュラ 6 L/分の吸入酸素濃度の目安の44%で統一した8).酸素2 L/分,6 L/分の酸素投与はトラキベント+(Gibeck)の酸素ポートを介した.人工呼吸器はLTV1200(Philips)を用いた.気管切開下高流量酸素療法はAirvoTM 2(Fisher & Paykel Healthcare)を用い,気管切開チューブにOptiflow Tracheostomy Direct Connection(OPT870気切用コネクター)を介して接続した(図1).各条件での運動負荷試験は別日に実施した.
気管切開下高流量酸素療法を用いた運動負荷試験の様子
気管切開チューブにOptiflow Tracheostomy Direct Connectionを介して高流量酸素療法を接続している.
運動持続時間は,酸素 2 L/分がwarming upにて終了,酸素 6 L/分が4分15秒,CPAPが1分40秒,PSVが2分15秒であった.気管切開下高流量酸素療法は30分以上可能であった.最低SpO2は酸素 2 L/分が86%,酸素 6 L/分が90%であり,CPAPが98%,PSVが98%,気管切開下高流量酸素療法が99%であった(図2A).運動負荷1分の時点でのBorg scaleは,酸素 6 L/分が4,CPAPが7,PSVが4,気管切開下高流量酸素療法が1であり,気管切開下高流量酸素療法は各種条件の同一時間での呼吸困難が最も軽度であった(図2B).気管切開下高流量酸素療法以外は呼吸困難にて運動終了となり,下肢疲労はBorg scaleで1~3,脈拍数は予測最大心拍数の76%以下であった.いずれも呼吸数は60回/分を超えていた.
定常運動負荷試験における各条件のSpO2(A)および呼吸困難(B)の経時的変化
PSV: pressure support ventilation, CPAP: continuous positive airway pressure
持久力トレーニング時に気管切開下高流量酸素療法(60 L/分 FIO2 44%)を用いて5回/週で4週間,計20回の運動療法を実施した.PR前後評価には運動耐容能として定常運動負荷試験と6分間歩行試験,筋力としてCybex norm(Medica)を用いた膝伸展筋力,健康関連QOLとしてSt. George’s respiratory questionnaire(SGRQ)を測定した.持久力トレーニングは自転車エルゴメータにて実施し,運動時間は20分,運動負荷量は最大運動負荷量の80%負荷強度である 10 Wより開始し耐えられる範囲で漸増した.筋力トレーニングは重錘およびレッグプレス(ホリゾンタルレッグプレス COP-1201S,酒井医療株式会社)を用い,負荷量は 1 RMの50%より開始し漸増した.また,安楽体位でのリラクセーションなどのコンディショニングやADLトレーニングも継続し,栄養サポートチーム介入による栄養強化と病棟看護師により酸素 6 L/分での病棟歩行練習も並行して実施した.
【検討② 成績】PR期間中は感染症や右心不全など発症することなく経過した.持久力トレーニングの運動負荷量は最終 20 Wまで上がった.PR前後において,定常運動負荷試験は酸素 6 L/分で4分15秒から16分20秒へと改善した.6分間歩行距離は 酸素 2 L/分で 40 mから 63 mとなった.SGRQ totalは73から65へ改善し,膝伸展筋力(右/左)は 61/69 Nmから 80/77 Nm増大した.また,目標としていた病棟トイレ歩行が可能となった.
今回,気管切開を要する本症例において気管切開下高流量酸素療法で運動持続時間が延長した所見は,重症患者への運動時の換気補助デバイスの検討として重要と考える.
本症例の運動制限因子は,主に呼吸困難によるものであった.その要因としては低酸素血症に伴う呼吸困難や肺血管攣縮および肺血管抵抗増大による心拍出量の制約,浅速呼吸による換気制限を考える.気管切開下高流量酸素療法や人工呼吸器ではSpO2を保持した事から動誘発性低酸素血症による心負荷や呼吸困難などをある程度軽減したものと推測する.通常の酸素投与では,換気量の増大に伴って外気の吸入によりFIO2が低下しうるため,酸素 6 L/minではFIO2が44%を下回っている事が考えられる.また,オープンシステムの気管切開下高流量酸素療法では鼻カニュラを用いたHFNCOTと異なり,PEEPや呼吸筋仕事量軽減は僅かかもしれない9)が,死腔換気率の高い拘束性換気障害患者に対しては二酸化炭素排出などの効果も期待される10).しかし,本症例ではこれらの要因がどの程度関連するか不明である.
一方,CPAPやPSVでは気管切開下高流量酸素療法と比較して呼吸困難の軽減は僅かであった.Modernoらは,運動時にNPPVでの比例補助換気モードの使用で運動耐容能が向上するが,CPAPでは向上しなかった事を報告しており2),IP患者ではPEEP単独での効果は乏しい可能性がある.また,CPAPやPSVでは,PEEPや強い吸気努力による経肺圧上昇による肺血管抵抗上昇11),横隔膜の収縮と人工呼吸器駆動との僅かな時間差12),患者-人工呼吸器の非同期13)などによる呼吸筋仕事量増大も影響を受けた可能性がある.本症例では,しばしば人工呼吸器と非同調となる事があったことから,人工呼吸器のタイミングのずれも影響を受けたのではないかと推測する.
IP患者のPRは重症患者ほど有効性が得られにくいことが報告されている14).本症例では気管切開下高流量酸素療法下の持久力トレーニングにより6分間歩行距離はIPのminimal clinically important differenceの 24-45 m15)を超えることが出来なかったが,定常運動負荷試験や下肢筋力,QOLは著明に改善した.重症IPにおいても,持久力トレーニング時の呼吸補助デバイスを検討し気管切開下高流量酸素療法を使用することで,高強度での運動療法が実施でき,改善効果が得られた症例と考える.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.