2023 Volume 31 Issue 3 Pages 345-351
目的:高齢市中肺炎患者における身体活動量と入院関連能力低下(hospitalization-associated disability: HAD)の発生との関係,および身体活動量のカットオフ値を検討することである.
方法:市中肺炎の診断にて,入院後48時間以内に呼吸リハビリテーションが開始された高齢患者を対象に,入院後の7日間に身体活動量を計測,1日当たりの身体活動量とHAD発生との関連とカットオフ値を調査した.退院時のBarthel Index合計点数が入院前より5点以上低下した場合をHADと定義した.
結果:対象者95例(82[71-91]歳)のうち,33例(35%)にHADが発生した.単変量分析の結果,HAD発生には低活動と連続臥床時間の延長が説明因子であった.受信者操作特性分析の結果,1日当たりのカットオフ値は歩行時間12分,歩数1,112歩であった.
結論:高齢市中肺炎患者はHAD発生率が高く,その発生に影響する身体活動量のカットオフ値は臨床現場での目標設定の指標となる可能性が示唆された.
市中肺炎(community-acquired pneumonia: CAP)は本邦における発症率と死亡率の高い疾患である1).CAPは病院外で主に細菌感染により発症する肺の急性炎症性疾患であり,高齢者では入院加療中に日常生活活動(activities of daily living: ADL)2)をはじめ,筋力や運動耐容能および健康関連生活の質が低下しやすく3),さらに入院中のADL低下は,死亡の強い規定因子であることが示されている4).
入院関連能力低下(hospitalization-associated disability: HAD)は入院に伴うADLの低下と定義され,先行研究では成人CAP患者におけるHAD発生率は17~51%と報告されている5,6,7).高齢CAP患者におけるHAD発生は,入院期間の延長に加えて1),退院後の施設入所率の増加4),身体機能および生命予後にも悪影響をきたし,更なる医療費増加の要因となる1).
入院に伴う身体活動量の低下は,高齢内科患者の20%が経験するとされ,HAD発生の重要な規定因子である8).それに対し,先行研究9,10)では入院急性期からの歩行は安全であること9),入院期間短縮,再入院率や転倒率の軽減,生命予後の改善がもたらされると報告されている10).したがって,医療スタッフはHADを予防するために,入院早期から身体活動量を促進させるプログラムを適用する必要があると考えられる9,10).
最近,高齢CAP患者における入院中の身体活動量を3軸加速度計にて評価し,入院期間中の95%を座位と臥位で過ごしていることが報告された11).しかし,身体活動量とHAD発生との関連については検討されておらず,不明である.そこで,本研究の目的として,1)高齢CAP患者における入院中の身体活動量とHAD発生との関連を調査すること,加えて2)身体活動量のカットオフ値を検討した.
本研究は単施設の前方視観察研究のデザインで実施した.
2. 対象者および倫理的配慮2017年4月から2019年3月までの間に日本呼吸器学会のガイドラインに従いCAPと診断され,長崎記念病院の急性期内科病棟に入院となった患者を対象とした.そのうち,入院前に歩行が可能(歩行補助具は問わない)でかつ48時間以内に呼吸リハビリテーションが開始された65歳以上で生存退院した症例を検討対象とした.また,研究の同意が得られなかった例,入院中に気管挿管下の人工呼吸管理を実施した例,皮膚トラブルによる身体活動量計の装着が困難な例,重症の認知障害の例(mini mental state examination: MMSE<10)12),他院で肺炎の急性期治療中または後に当院に転院した例,院内肺炎を発症した例は除外した.
本研究は,長崎大学大学院医歯薬学総合研究科倫理委員会(許可番号17030952-2)と長崎記念病院倫理委員会(許可番号2017-1)の承認を受けて実施した.全ての対象者に本研究の目的と意義,倫理的配慮について口頭および文書にて説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た.なお,本研究の対象者は既報11)の研究報告と一部重複している.
3. 評価項目対象者の背景,治療に関する項目を診療記録から収集した.その他の評価項目は,呼吸リハビリテーション開始時および退院時に担当理学療法士が実施した.
(1) 対象者の背景因子と治療関連対象者の背景因子として,年齢,性別,併存疾患,在宅酸素療法使用の有無を調査した.併存疾患の評価には,併存疾患指数(Charlson comorbidity index: CCI)を用いた13).治療関連の項目は,肺炎重症度,入院時の血液生化学検査所見(白血球数,尿素窒素,C反応性蛋白)と栄養状態,酸素投与の期間,抗菌薬の静注投与期間,膀胱カテーテル留置の有無を調査した.肺炎重症度の評価は,年齢,脱水,低酸素血症,意識障害,血圧低下の5項目に構成されているA-DROPシステムを用いた14).栄養状態の評価は,入院時のgeriatric nutritional risk index(GNRI)を用い,14.89×血清アルブミン値(g/dL)+41.7×BMI/22によって算出された値を解析に用いた15).
その他,1日当たり呼吸リハビリテーションの平均実施時間と入院期間を調査した.
(2) フレイルフレイルの評価は基本チェックリストを用いた16).本研究では合計点数8点以上をフレイルと判断した16).
(3) 認知機能認知機能の評価はMMSEを使用した.これは,合計点数が高いほど認知機能が良好を意味する17).
(4) うつ状態うつ状態の評価はgeriatric depression scale 15(GDS-15)を使用した.これは,合計点数が高いほどうつ状態が強いことを意味する18).
(5) 下肢機能下肢機能の評価にはshort physical performance battery(SPPB)を使用した.SPPBはバランス,4 m歩行,立ち上がりの3項目によって構成され,合計点数が高いほど下肢機能が良好であることを意味する19).
以上のフレイル,認知機能,精神状態および下肢機能評価は,呼吸リハビリテーション開始後2日以内に担当理学療法士によって実施した.
(6) 日常生活活動ADL評価はBarthel index(BI)20)を用いて入院前は本人または家族からの聴取によって,呼吸リハビリテーション開始時と退院時は担当理学療法士が直接評価した.
(7)身体活動量身体活動量の評価は,3軸加速度身体活動量計activPAL(activPAL3μ, PAL Technologies社,英国)21)を用いて,対象者の利き脚の上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ直線状の中点に医療用テープで固定し,3病日目から24時間かつ最大7日間を連続で計測した.データの記録時間は15秒ごととした.身体活動量の指標は1日当たりの立位時間,歩行時間,歩数,1分間当たり100歩未満の低強度歩行時間,1分間当たり100歩以上の中等度歩行時間22)に加えて,臥床(座位と臥位)時間,60分以上の連続臥床時間の合計,起立回数を1日当たりの平均時間,歩数および回数で算出したものを解析に用いた.
4. 呼吸リハビリテーション呼吸リハビリテーションは,医師の指示のもとに担当理学療法士により入院後48時間以内に開始し,1セッション20分,1日1回かつ週5日以上の頻度で退院まで継続した.プログラムは,離床に加えてコンディショニング(排痰支援および指導,呼吸練習),四肢筋力強化運動と有酸素運動を主体とした運動療法を対象者の呼吸および全身状態に応じて実施した.実施および中止は既存の基準23)に従った.また対象者には,身体活動量向上のために呼吸リハビリテーションの実施時間以外にもできるだけ院内を歩行するように口頭にて促した.
5. 統計解析HAD発生の定義は退院時BI合計点数が,入院前と比較して5点以上低下した場合とし5),HAD発生の有無によって対象者をHAD群と非HAD群に分類した.各評価項目はShapiro-Wilk検定とヒストグラムにて正規性を確認した上,Student t検定もしくはWilcoxon順位和検定,χ2検定にて両群間の各評価項目を比較した.HAD発生の有無と身体活動量との関連性の解析には,HAD発生を目的変数,年齢と性別を調整変数,身体活動に関する各指標を説明変数とした単変量分析を行った.HAD発生における歩行指標のカットオフ値は受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic: ROC)分析を実施し,Youden Index24)を採用した.データは中央値[四分位範囲]あるいは件数(割合)にて表示した.統計学的有意水準は5%とし,解析には統計解析ソフトウェア JMP® Pro version 14.0(SAS社,米国)を用いた.
図1に対象者のフローダイアグラムを示す.2017年4月から2019年3月までの間にCAPと診断され,入院後48時間以内に呼吸リハビリテーションが実施された141例のうち,研究参加への非同意,入院後人工呼吸管理,ActivPALの固定に伴う皮膚トラブル,死亡退院ほか46例を除いた95例が解析対象となった.
対象者のフローダイアグラム
解析対象者95例のうち,33例(35%)にHADの発生を認めた.HAD群は非HAD群と比較し(HAD群 vs 非HAD群),男性が少なく(39% vs 61%),認知症の併存者が多く(27% vs 10%),酸素投与期間が長く(3[0-9]日 vs 0[0-3]日),膀胱カテーテル留置の者が有意に多かった(9% vs 0%).呼吸リハビリテーション開始時のMMSE(23[18-25]点 vs 25[22-27]点)とSPPB(7[3-9]点 vs 10[7-12]点)に関してHAD群が非HAD群より有意に低かった.また,BIはHAD群が非HAD群より,入院前(90[85-100]点 vs 100[90-100]点),呼吸リハビリテーション開始時(50[40-60]点 vs 78[60-85]点),退院時(80[60-85]点 vs 100[90-100]点)において有意に低値を示した.年齢,A-DROP,GNRI,抗菌薬静注投与期間,1日当たり呼吸リハビリテーション実施時間,入院期間,フレイル,呼吸リハビリテーション開始時GDS-15においては両群間に有意差を認めなかった(表1).
HAD群 n=33 | 非HAD群 n=62 | p値 | |
---|---|---|---|
年齢(歳) | 86[73-90] | 81[76-87] | 0.338 |
男性 | 13(39) | 38(61) | 0.042 |
併存疾患指数 | 3[2-6] | 3[2-5] | 0.840 |
脳血管障害歴 | 14(42) | 30(49) | 0.531 |
慢性心不全歴 | 12(36) | 32(52) | 0.136 |
慢性閉塞性肺障害歴 | 16(48) | 26(58) | 0.372 |
認知症歴 | 9(27) | 6(10) | 0.025 |
糖尿病歴 | 15(45) | 23(37) | 0.429 |
在宅酸素療法 | 6(18) | 5(8) | 0.142 |
A-DROP | 2[1-2] | 2[1-2] | 0.364 |
0 | 3(9) | 4(6) | |
1 | 10(30) | 30(48) | |
2 | 16(48) | 24(39) | |
3 | 4(12) | 4(6) | |
4-5 | 0(0) | 0(0) | |
白血球(/dl) | 8,600[6,550-11,115] | 9,010[6,800-12,110] | 0.459 |
尿素窒素(mg/dl) | 14.6[11.8-18.1] | 18.4[12.5-21.7] | 0.077 |
C反応性蛋白(mg/dl) | 4.4[2.8-9.3] | 4.8[1.2-11.4] | 0.824 |
GNRI | 93.8[84.4-101.9] | 92.4[86.1-99.0] | 0.768 |
リスクなし | 9(27) | 17(27) | |
軽度リスク | 9(27) | 16(26) | |
中等度リスク | 4(12) | 10(16) | |
重度リスク | 11(33) | 19(31) | |
酸素投与期間(日) | 3[0-9] | 0[0-3] | 0.016 |
抗菌薬静注投与期間(日) | 9[6-13] | 10[7-13] | 0.931 |
膀胱カテーテル留置 | 3(9) | 0(0) | 0.016 |
1日当たり呼吸リハビリテーション実施時間(分) | 31[30-38] | 35[28-39] | 0.898 |
入院期間(日) | 15[11-23] | 15[13-19] | 0.805 |
フレイル | 24(73) | 36(58) | 0.179 |
呼吸リハビリテーション開始時MMSE(点) | 23[18-25] | 25[22-27] | 0.003 |
呼吸リハビリテーション開始時GDS-15(点) | 6[2-8] | 5[3-8] | 0.749 |
呼吸リハビリテーション開始時SPPB(点) | 7[3-9] | 10[7-12] | <0.001 |
BI 入院前(点) | 90[85-100] | 100[90-100] | 0.043 |
呼吸リハビリテーション開始時(点) | 50[40-60] | 78[60-85] | <.0001 |
退院時(点) | 80[60-85] | 100[90-100] | <.0001 |
中央値[四分位]または件数(割合%)で表示.A-DROP: Age, Dehydration, Respiration, Orientation, Blood pressure; BI: Barthel Index; BMI: body mass index; CCI: Charlson Co-Morbidity Index; GDS: Geriatric Depression Scale; GNRI: Geriatric Nutritional Risk Index; HAD: hospitalization-associated disability; MMSE: mini mental state examination; SPPB: short physical performance battery.
身体活動量の測定期間の中央値は両群間で有意差はなかった.HAD群は非HAD群より(HAD群 vs 非HAD群),1日当たり立位時間(35[23-55]分 vs 63[43-89]分),歩行時間(5[2-14]分 vs 20[10-31]分)および歩数(370[126-1,026]歩 vs 1,648[768-2,483]歩)が有意に低く,両群とも低強度歩行であった.また,臥床時間(1,399[1,372-1,410]分 vs 1,352[1,325-1,380]分)に加えて60分以上の連続臥床時間の合計(1,134[972-1,229]分 vs 965[741-1,113]分)はHAD群が非HAD群に比べて有意に長く,1日当たり起立回数(36[25-50]回 vs 42[34-58]回)はHAD群が非HAD群と比べて有意に少なかった(表2).
HAD群 n=33 | 非HAD群 n=62 | p値 | |
---|---|---|---|
測定期間(日) | 7[6-7] | 7[6-7] | 0.523 |
立位時間(分) | 35[23-55] | 63[43-89] | <.0001 |
歩行時間(分) | 5[2-14] | 20[10-31] | <.0001 |
歩数 | 370[126-1,026] | 1,648[768-2,483] | <.0001 |
軽強度歩行時間(分) | 4[2-13] | 17[8-25] | <.0001 |
中強度歩行時間(分) | 0[0-0] | 2[0-5] | <.0001 |
臥床時間※(分) | 1,399[1,372-1,410] | 1,352[1,325-1,380] | <.0001 |
60分以上の連続臥床時間の合計(分) | 1,134[972-1,229] | 965[741-1,113] | 0.001 |
起立回数 | 36[25-50] | 42[34-58] | 0.037 |
HADの発生を目的変数とした単変量ロジスティック回帰分析の結果,年齢と性別による調整モデルでは,1日当たりの歩行時間(odds ratio(OR)0.918, 95% confidence interval(CI)0.876 to 0.963),歩数(OR 0.999, 95%CI 0.998 to 0.999),60分以上の連続臥床時間の合計(OR 1.004 95%CI 1.001 to 1.006),起立回数(OR 0.970 95%CI 0.944 to 0.997)が説明因子として抽出された(表3).
オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 | |
---|---|---|---|
歩行時間,1分 | 0.918 | 0.876 to 0.963 | <.0001 |
歩数,1歩 | 0.999 | 0.998 to 0.999 | <.0001 |
60分以上の連続臥床時間の合計,1分 | 1.004 | 1.001 to 1.006 | 0.002 |
起立回数,1回 | 0.970 | 0.944 to 0.997 | 0.03 |
説明変数:歩行時間,歩数,60分以上の連続臥床時間の合計,起立回数.調整変数:年齢,性別.HAD: hospitalization-associated disability.
ROC分析の結果,HAD発生の身体活動量のカットオフ値として,1日当たりの歩行時間が12分(感度72.7%,特異度74.2%),歩数は1,112歩(感度81.8%,特異度66.2%)が示された.曲線下面積はそれぞれ0.774,0.777であった(図2).
HAD発生に影響する身体活動量のROC曲線
本研究は高齢CAP患者における入院中の身体活動量とHAD発生との関連ならびに身体活動量のカットオフ値を検討した.その結果,1)HAD発生率は35%であり,院内における低活動と連続臥床時間の延長が影響する可能性が示されるとともに,2)HAD発生に影響する1日当たりの身体活動量のカットオフ値は,歩行時間12分,歩数1,112歩であった.
CAPによる入院患者におけるHAD発生率の報告は限られるが,最近の成人CAP患者におけるシステマティックレビューではHAD発生率が18~51%と報告されている5).本邦6,7)では,高齢CAP患者におけるHAD発生率は17~38%であり,本研究の結果とほぼ同様であった.Katoら6)は,同疾患患者に対するHAD発生率を17%と報告しているが,これは対象者の年齢が関与したものと考えられる.先行研究6)(72.7±17.1歳)では,本研究より平均年齢が10歳ほど若かった.Covinskyら25)は高齢内科患者のHADに関連する研究において,年齢はHAD発生の規定因子と報告し,70歳前半のHAD発生率が23%に対し,80歳前半は38%に上昇すると報告し,おおむね本研究の結果と一致している.さらに,宮城島ら7)は,同疾患患者(85.7±3.4歳)のHAD発生率を37.9%と報告し,本研究結果を支持するものであると言える.
本研究の単変量ロジスティック回帰分析の結果,高齢CAP患者におけるHAD発生には,入院中の歩行時間と歩数の低下,連続臥床時間の延長および起立回数の低下が影響していた(表3).Waldら26)は,高齢入院患者におけるベッド上安静は,筋力低下やデコンディショニングの要因となり,HADを惹起すると報告し,Zisbergら8)は高齢内科患者における入院中の低活動はHADの規定因子であったことを示し,本研究の結果を支持している.さらに,Diら27)は50歳から84歳までの3,400名を対象に全死亡要因を検討した大規模調査にて,長時間にわたる連続臥床時間は,総臥床時間に独立して死亡に影響すると報告した.Wilsonら28)は,地域在住高齢者における60分以上の連続臥床時間は運動機能の低下と関連すると報告している.また,本研究では,抗菌薬静注投与期間には両群間の有意差はなかったものの,HAD群では酸素投与期間が有意に長く,膀胱カテーテルを留置した対象者は有意に多かった(表1).先行研究11,26)では,酸素療法および膀胱カテーテル留置は身体活動制限因子とされており,本研究結果を支持するものである.酸素療法と膀胱カテーテル留置により行動範囲が限定され,身体活動時間が減少,連続臥床時間が長期化した可能性が示される.この結果から,高齢CAP患者におけるHAD発生を予防するためには,入院の早期から座位や臥位の臥床時間を減らして身体活動量を増やすことともに,連続臥床時間を減少させる働きかけるアプローチが必要と考えられる.
本研究では,HAD発生に対する1日当たり歩行時間のカットオフ値は12分,歩数のカットオフ値は1,112歩であった.Agmonら29)は,高齢内科患者における1日当たり900歩以下の歩行は,hospital-associated functional decline(HAFD)の発生を4.7倍に増加させると報告し,Cohenら30)は1日当たり900歩以上の歩行運動はHAFD発生を41%予防できると報告している.本研究の結果は高齢CAP患者の急性期病棟の管理やケアにおいて,患者の身体活動量の目標設定の有用な指標になりえると考える.
本研究は高齢CAP患者における入院中の身体活動量とHADとの関連性を客観的に調査した初めての研究であるが,いくつかの限界がある.まず,入院前のBIを家族あるいは本人から聴取して,入院中のBIは理学療法士がとることで,両者に差異が生じた恐れがある.先行研究では31),家族や本人からの聴取と実際のBIとは高い相関(0.953-0.965)を示したと報告している.また,単一施設における検討であるため,本研究の結果を一般化するにはさらなる検討が必要である.また,HAD発生には身体活動量のほか,入院前および入院時の身体機能も影響するとされるが26),本研究では対象数が少なく,交絡因子を調整した多変量解析が困難であり,HADと身体活動量との因果関係をより明らかにできていない.また,3軸加速度身体活動量計の装着が身体活動量に影響を与えた可能性がある.さらに,呼吸リハビリテーションの運動内容,運動時間や強度による影響の可能性もある.今後,上記の限界に加えて,本研究で提示した身体活動量のカットオフ値を検証するために更なる研究が必要である.
高齢CAP患者におけるHADの発生率は35%であった.HAD発生に影響する身体活動量については,1日当たり歩行時間は12分,歩数は1,112歩がカットオフ値として算出され,身体活動量の目標値やHAD発生の予測としての新たな指標となる可能性が示された.本研究の結果が,高齢CAP患者に対する離床現場でのリハビリテーションやケアにおける目標設定,および今後の臨床介入研究における基礎的な情報になり得ることが期待できる.
本研究に参加いただいた患者の皆様,ご協力をいただきました長崎記念病院リハビリテーション部のスタッフ,有益なご助言をいただきました長崎大学大学院医歯薬学総合研究科内部障害リハビリテーション学研究室の皆様に心より感謝申し上げます.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.